クローン人間:
妊娠に成功 イタリア人医師が不妊治療
【モスクワ田中洋之】アブダビ(アラブ首長国連邦)発のタス通信によると、イタリア人医師のセベリノ・アンティノリ氏は5日、不妊対策としてクローン技術を使った女性の妊娠に成功したことを明らかにした。女性は現在、妊娠8週目に入っているという。クローン人間の妊娠が明らかになるのは初めて。クローン技術の人間への適用を禁止する国が相次ぐなか、世界的に議論を呼びそうだ。
アンティノリ氏は妊娠にいたる経過や女性の国籍など具体的なことは明らかにしていないが、約5000組の不妊カップルが今回の計画に参加したという。
アンティノリ氏はこれまで「クローン人間はクローン羊ではない。人類にとって有益だ」と指摘。さらにクローン人間は不妊に悩む多くのカップルに子供を授けるだけでなく、遺伝病対策にも役立つと意義を強調していた。
不妊治療を手掛けている諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長は「不妊治療に限れば、クローン人間づくりも許容されるのではないか。技術的にはいつ誕生してもおかしくないと思っていた。ただし、クローン人間の出産が定着するまで、生まれた子供が奇異な目で見られることも考えられる」と話している。
【ことば】クローン人間 特定の人間とまったく同じ遺伝情報を持った人間。受精卵を細胞分裂の初期段階でバラバラにして母親の子宮に戻す受精卵クローンと、皮膚や臓器など体を形作る特定の細胞を利用する体細胞クローンとがある。通常は精子が卵子に受精して個体が生じるため、2人の遺伝情報が受け継がれるが、クローン人間の場合は1人だけの情報を受け継ぐのが特徴。日本では01年に、クローン人間を禁止する法律が施行された。
▽セベリノ・アンティノリ医師はイタリアの不妊治療の権威。昨年1月、米ケンタッキー大のパノス・ザボス元教授らとともにクローン人間を作る計画を発表した。男性の無精子症などを原因とする不妊夫婦を対象に、体細胞クローン技術を用いて赤ちゃんを誕生させるというもの。昨年8月には米科学アカデミーでのクローン人間をテーマにしたパネルディスカッションに参加、クローン人間作りの正当性を訴えたほか、同年11月にはヒトクローンを禁じている英国の規制の抜け穴を利用してクローン人間を作る意向を表明、論議をかもした。 【奥野敦史】
[毎日新聞4月6日] ( 2002-04-06-03:00 )