「差別投稿でサイバーポリス的な機関必要」
03/21 15:01 ネット上にあふれる差別 規制なく垂れ流し状態 社会451
共同
被差別部落と一般地区の生活環境の格差を改善することで、差別
の解消を図る法律上の財政措置が、地域改善対策特定事業財政特別
措置法(地対財特法)を最後に三月末、三十三年間の幕を閉じる。
住宅など一定の環境整備は進んだが、根強い差別は形を変えて残
っている。
× × ×
「部落の替え歌をつくろう」「替え歌作る暇はないけどオリジナ
ルは作れるぞ―」
日本最大級と言われるインターネット上の掲示板。「人権問題」
のページを開くと露骨な差別の言葉が飛び出してくる。中にはもっ
と低俗で残虐な文言も。
人権問題を考えるホームページの主宰者で、ネット上の差別事件
に詳しい渕本稔(48)さんは「書き込みは垂れ流し状態。こちら
の感覚がまひしてしまうほどだ」と嘆く。
渕本さんによるとネット上の部落差別は数年前までは蔑称(べっ
しょう)などをタイトルにしたホームページ型だったが、運動団体
などからプロバイダーへの働きかけで消滅。二○○○年ごろからは
ほとんどが掲示板への書き込みになった。
タイプは大まかに(1)部落解放運動団体を中傷(2)芸能人、
著名人などの暴露や地域名の羅列(3)凶悪な事件が起こると、被
疑者や被害者を被差別部落出身者であるかのように結びつける―の
三パターン。
掲示板の管理者に連絡しても「表現の自由」を盾に、ほとんど取
り合ってもらえないケースが多い。
渕本さんは「反論の書き込みはしているが個人では対応しきれな
い。ネット上をサーチするサイバーポリス的な機関が必要になる」
と危機感を募らせる。
一方、旧来型の結婚差別事件も後を絶たない。
大阪府北部に住む女性のAさん(28)は被差別部落出身という
理由で夫の母親から結婚に猛反対された。悔しさと将来への不安で
食べた物を吐く毎日。「これ以上親の涙を見たくない。離婚しよう
」。妊娠していたが三年前、夫から告げられた。
二人は大学時代からのつき合い。ある日、夫は中国地方の町に住
む母親に結婚を告げた。「それだけはやめてくれ」と泣く母親。夫
の一族は地元の「名士」。Aさんは何度も夫の実家を訪れたが、一
歩も中には入れてもらえなかった。
女児の出産から約一年後、正式に離婚。今は二歳半の女児と二人
暮らしだ。
「同和地区に住んでいると、差別されていることを忘れている人
がいる。でも一歩外に出ると、厳しい現実が待っている。怖くなる
ほどの現実が」
(了) 020321 1500
[2002-03-21-15:01]
03/21 15:02 人権擁護法案に不安 解放同盟「実効性に疑問」 社会453
共同
「従来の枠組みは終わる。残りの心理的差別は、法務省中心の連
絡体制で教育・啓発を目指す」
ことし二月半ば、東京・霞が関の総務省会議室。部落解放同盟の
約三十人に、地域改善対策室の担当者は繰り返した。
「課題は解決したのか。部落問題が今どういうふうに現れている
か、調査するのが先じゃないか」と解放同盟側。議論は終始かみ合
わなかった。
地対財特法が三月末で期限切れを迎え、長らく同和行政の調整役
だった地対室も廃止される。国は「物理的な格差はほぼなくなった
」として、二○○○年に制定された人権教育・啓発推進法と、被害
救済を目的とした「人権擁護法案」により差別解消、人権行政の実
現を目指している。
だが国会に提出された同法案には、「過剰取材」を「特別人権侵
害」とすることも盛り込まれており、「表現の自由を制限する」と
新聞協会などから強い批判を浴びている。
法務省は「就職差別などの禁止を明記し、過料などもある特別救
済の対象になった。(差別をめぐる)裁判の基準にもなる」と実効
性を強調する。しかし、人権侵害か否かを決める「人権委員会」は
法務省の外局として設置されるため「刑務所や入国管理局など法務
省の『身内』での人権侵害が深刻なのに、効果的な取り組みができ
るのか」との疑問の声も上がる。
組坂繁之解放同盟委員長は「委員会事務局も法務省職員で構成さ
れる可能性が強く、実効性ある救済機関になるか疑問」と言う。
人権擁護法制定の動きは、もともと解放同盟が「部落解放基本法
」制定を求めたことから始まった。地対財特法がハード面を担った
のに対し、ソフト面を含む部落問題の根本的な解決に向けた基本法
を想定。行政の責務を明記し、差別規制や被害者救済のための人権
委設置―などを含む法案を自らつくり、政界に働きかけた。
与党三党の「人権問題等に関する懇話会」のメンバー、東順治衆
院議員(公明)は「人権委員会は内閣府に置くべきだと主張してき
たが、独立性は担保されるとの説明で最終的に賛同した」と話す。
社民党の中西績介元総務庁長官は「政府は『同和』の名を外すこ
とで問題が終わったと言いたいのだろうが、今後は人権啓発・教育
などで本格的な行政対応が必要だ」とくぎを刺した。
(了) 020321 1500
[2002-03-21-15:02]
03/21 15:01 指定の有無で明暗分ける 生まれ変わった町も 社会452
共同
地対財特法は、事業の実施地区を全国で約四千六百地区に限定し
たため、指定地区と非指定地区に大きな「差」が生まれた。次々と
新しい団地が建つ指定地区に対し、全国で約千地区あると言われる
非指定地区では、今も環境改善が手付かずのままだ。
× × ×
三角屋根のモダンな高層団地が都市モノレールに隣接し、街路樹
が広い道路に沿ってずらりと並ぶ。面積約三十一ヘクタール。北九
州市小倉南区の北方地区は、一九八○年代前半から約十年かけて市
の改善事業で生まれ変わった。
かつてこの地区は、不良住宅率が60%に近く、人口密度は市平
均の六倍もあった。幅七十センチほどの「三尺道」と呼ばれる細い
路地がクモの巣のようにめぐり、傘をさして歩けないくらいだった
。
事業では、町全体の半分に当たる約八百戸を取り壊し、約六十本
の道路を新設または改良。住民が話し合って決めたという屋上庭園
や広いバルコニーなどを持つ個性的な団地が次々と建った。
北方地区では、路地や空き地で住民同士が話したり炊き出しをす
る「路地の文化」がある。北九州市同和対策部の坂本敏彦管理課長
は「『北方の良いところを残してほしい』と住民から声が上がり、
路地を一部残したり、空き地のような空間を多く取り入れた」と話
す。
一方、山形県に近い新潟県北部。小池健志さん(58)の住む集
落は、地対財特法の指定を受けていない被差別部落だ。
川と山にはさまれた狭い地域に軒を重ねるようにひしめき合う。
田畑を持つ家は少なく、男たちは年間のほとんどを県外で土木作業
などをして過ごす。
小池さんは一九八四年、県単独事業である「同和地区中小企業振
興資金」の融資あっせんを行政が行わないのは違法だとして提訴、
八八年一月に勝訴した。
しかし「寝た子を起こすようなことをするな」と大部分の住民が
反対。窓ガラスを割られるなどの嫌がらせも受けた。「生活はちょ
っとはましになったが、差別の構造は変わっていない」と話す。
集落の風景はここ二、三十年、ほとんど変わらないという。「新
潟の対策は全国に比べて十五年から二十年は遅れている」。変わら
ぬふるさとの風景を眺めながら、小池さんは静かにつぶやいた。
(了) 020321 1500
[2002-03-21-15:01]