Julia Scheeres
2002年2月20日 2:00am PST
『名誉毀損防止組合』(ADL)は19日(米国時間)に調査結果を発表し、差別的な各種団体が若者たちを勧誘するために、人種差別や反ユダヤ主義に彩られたコンピューター・ゲームを利用するケースが増えつつあると非難した。
ADLの調査によると、ゲームタイトルの中には『エスニック・クレンジング』(Ethnic Cleansing:民族浄化)、『黒人どもを撃て』(Shoot the Blacks)、『強制収容所のネズミ狩り』(Concentration Camp Rat Hunt)といったものがあるという。いずれも一人称視点のシューティング・ゲームで、目的はだいたい似たようなものだ。有色人種やユダヤ人など、要するに憎む対象となるあらゆる他人をできるだけ大勢殺すというものだ。
ADLの全米責任者を務めるエイブラハム・フォックスマン氏によると、これらのゲームはオンラインで購入したりダウンロードしたりでき、俗に『ホワイトパワー・ゲーム』と呼ばれているという。こういったゲームが急増しているのは、過激な差別主義者団体が若者たちを勧誘しようとする戦略の一環だというのだ。
フォックスマン氏は次のように話している。「こういったゲームは、最新技術を使うことにより、ゲーム好きが高じてゲームなしではいられない若者たちを惑わせて、凝り固まった考え方や偏見、ユダヤ人差別などに向かわせようとするものだ。ゲームの人気に便乗して、健全な娯楽手段を悪用するものだ」
これら最近のゲームの中でも最も高度なものがエスニック・クレンジング(画像)だ。これは『ナショナル・アライアンス』http://www.natvan.com/
という集団が作成したもので、CD-ROMの形で1本14ドル88セントで売られている。ナショナル・アライアンスの宣伝文句は、「今までで最も政治的に正しくないビデオゲーム」だ。
このゲームは、オープンソースのソフトウェアである『ジェネシス3D』(Genesis 3D)によって作成されていて、舞台設定は都会だ。主人公は市街で黒人やラテンアメリカ人を殺し、次に地下鉄に降りていってユダヤ人を殺し、最後にはイスラエルのアリエル・シャロン首相を殺す。黒人が死ぬとサルのような悲鳴をあげ、ユダヤ人は撃たれるとイディッシュ訛りで「やられた」(oy vey)と叫ぶ。
ゲームのバックには、憎悪に満ちた歌詞を歌う人種差別的なロック音楽が鳴り響き、画面の中の壁には、ナショナル・アライアンスのURL記載のポスターが貼ってある。ゲームが売り出されたのは1月の第3月曜日のキング師記念日だった。
「これほど高度な技術を使って、憎悪のメッセージを広げるという特定の目的にかなうように作られたゲームは初めて見た」と、ADLでインターネットの調査を担当するブライアン・マーカス氏は述べた。
ナショナル・アライアンスのウィリアム・ピアス氏によると、コンピューター・ゲームは新たな宣伝手段の1つに過ぎないという。ナショナル・アライアンスは、1974年にワシントンDCで人種差別を主張するタブロイド紙を発行することから活動を開始した。
「われわれは最初からマルチメディア組織であり、社会に効果的にメッセージを届けるために、通信などあらゆるメディアを使うことに関心を持ってきた」とピアス氏は述べた。同氏はゲームの中でビデオ出演し、「来たるべき白人革命」について語っている。
ナショナル・アライアンスにはいくつかの下部組織がある。「ホワイトパワー」を標榜するバンドを扱うレコード会社、『レジスタンス・レコード』。人種差別主義の『レジスタンス・マガジン』誌。そしてインターネットで人種差別主義のロック音楽と哲学を流す『レジスタンス・ラジオ』だ。
ピアス氏によると、1月にゲームが発売されて以来「2000本前後の」ゲームが売れており、購入者の90%が10代の男子だという。
「若ければ若い方がいい」と語るのは、『創造主の世界教会』http://www.wcotc.com/を率いるマット・ヘイル氏だ。この団体のウェブサイトでは、人種差別的なゲームを数種無料で提供している。「目標を達成し、教会に新しい顔ぶれを増やすため、利用できる手段はすべて利用するつもりだ」
このサイトで提供されているゲームの1つはナチの残党から主人公が逃れるという『ウルフェンシュタイン城からの脱出』(Escape from Castle Wolfenstein)の改作だ。プレイヤーが黒人のキャラクターを撃つと、死体の上には「黒……死亡」の文字が現れる。また、『Doom』用のパッチとして、ナチス親衛隊制服、爆発するスイカ、ギャング・ファッションに身を包んだ黒人キャラクターなども提供されている。
有色人種を「かす」と呼ぶヘイル氏によると、ゲームは『創造主の世界教会』を社会の主流の勢力であるように見せてくれるのでよい宣伝になると言う。
「われわれがごく普通の人間であることを人々にわかってもらいたい。ビデオゲームやエンターテインメントを動かすことができれば、人々にわれわれが友人であり、隣人なのだと理解させることができる。白人を中傷するものや、ポルノ以外なら、どんなゲームでも利用できる」
有名なネオナチのゲアハルト・ラウク氏(日本語版記事)http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20020118204.htmlは、自分のサイトで5本の無料ゲームを提供している。『パックマン』のもじりの『SAマン』[ナチス突撃隊員という意味]や、アウシュビッツの死の収容所でユダヤ人の「ネズミ」をプレイヤーが撃つ『強制収容所のネズミ狩り』などだ。
ラウク氏によると、これらのゲームは今年の1月だけで1万2000回以上ダウンロードされたという。
「基本的に、無料で提供する広告だと考えている。若者たちがこうしたゲームを手に入れるのは楽しいからだし、持っていてはいけないとされているゲームだからだ。若者はゲームを手に入れて、あちこちに広めてくれる」とラウク氏は語った。
[日本語版:平井眞弓/小林理子]
http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20020118204.html