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菅首相はトークも危機管理もキャラもダメ。宰相が絶望的な日本の不幸
https://www.mag2.com/p/news/484535
2021.01.27 冷泉彰彦『冷泉彰彦のプリンストン通信』 まぐまぐニュース
主要新聞社の世論調査でも軒並み40%を下回るなど、菅首相の支持率低下が止まりません。自民党内では圧倒的な強さで総裁選を制した菅氏ですが、国民の心を繋ぎ止められなかった理由はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、菅首相が抱える3つの問題点を指摘。さらに「前任者」の方がまだキャラが立っていたという感覚が広がっている現状を「危険なこと」と断言しています。
問題は総理大臣の作り方にあるのでは?
菅総理の人気が低下しています。まあ「仮定の質問には答えない」とか「お答えは差し控えます」「見守って行きたい」では、どんどん燃料を投下しているようなもので、炎上上等という覚悟というよりも、もっと投げやりな感じもあります。
問題は、ご本人は別に投げやりでもなく、「答えを差し控えて見守って」行くのが正しいと思っているのですから、これは絶望的です。とにかく問題は総理大臣というのが選ばれるだけでなく、その候補も含めて「どうやって総理大臣を作って行くのか」ということまで考えないとダメだと思うのです。
今回は3つ問題提起をしたいと思います。
1つは、まずパブリックスピーチ力の底上げという問題です。現代の日本語というのは、非常に特殊な言語になっていて、プライベートな空間、つまり自分と相手との間に「密」な共通理解があって、その暗黙の共通情報については既知のものとして言語化しないわけです。
その上で、コンテキストに依存した、つまり「高コンテキスト」な状態を維持しながら、非常に省略を利かせた会話をするわけです。そうすることによって、初めて極めて高度なコミュニケーションが成立します。
政治家というのは、そのような「あうんの呼吸」による密室言語のプロであるわけです。だからこそ総理総裁にまで上り詰めたわけですが、坂の上には「雲」ではなく、上り詰めた坂の上に立った瞬間に、全国民の注目を浴びて、全国民に向けて語りかけないといけないわけです。
この落差というのは猛烈です。それこそ人形劇の人形使いが、一瞬のうちにヒナ壇に座らされて、アドリブでお笑いマシンガントークをさせられる、そのぐらいの落差があるわけです。いや、落差はもっと大きいかもしれません。
総理になる直前までは
「例の件は、その線で」
「いや、和歌山の御仁がうるさいのでその線は」
「いや、そっちは何とかする」
「結構です。ではそういうことで」
的なコミュニケーションをやっていて、それが上手なので総理になったわけですが、総理になった途端に「さあ全国民に向けて喋ってください」と言われても困るわけです。
ちなみに、官房長官の会見というのは、あれは台本のある話芸ですし、望月ナントカ記者との掛け合い漫才もネタですから、本当のガチンコではなかったわけで、総理に要求されるスキルというのは、全く次元が違うわけです。
これは政治家の問題だけではありません。日本の結婚式の式辞とか、社長の訓示というのは、だいたい平凡で退屈と相場が決まっています。これも、パブリックスピーチ力の文化がないので、台本に則って適当に喋っているからです。恐ろしいのは教育者でもそうだということで、無理して管理職になった校長教頭のために朝礼でのスピーチのネタ本なども出回っているぐらいです。とにかく、政治家だけでなく、社会全体におけるパブリックスピーチ力の底上げをしなくてはなりません。
2点目は、現状、つまり危機における鉄則という問題です。コロナ禍というのは、特殊な危機で、何をやっても矛盾に陥ってしまう構造があります。具体的には、
「人命優先でやらないといけない」
「経済を殺してはいけない」
という矛盾があります。そしてどちらを優先するかは、個々人によって立場も思いも異なり、しかも見事にどちらかに分かれています。更に言えば、中間の「命もほどほど、倒産もほどほど」という妥協点には支持者はありません。でも、政治家はそれをやらねばならない、その困難な構造を理解しなくてはなりません。
更に、
「感染対策については強制力を伴う必要がある」
「強制力を伴う自由の制限には必ず反発が出る」
という矛盾もあります。これもその中間的な政策を取るしかないですが、妥協案を大声で胸を張って言ってもサンドバッグになるだけです。
もう一つ、
「副反応への拒否感を抑えてワクチンの接種率確保を」
「ワクチンの拙速な接種を抑制するために危険性への理解を」
という2つの立場があります。これは前者に重心で良いのですが、後者を怒らすと全体をぶっ壊すような行動に走るリスクがあり、単純ではありません。後者の懸念があるので、正しい治験プロセスがあるというぐらいの度量を見せないとダメです。
というわけで、人間の恐怖の心理がからむ危機管理というのは、これまた専門スキルが必要ですが、現時点では全く上手くいっていません。
3点目は、立ち位置です。全国民に支持されたいので、無色透明ということではダメです。少なくとも、都市型の発想法なのか、泥臭い発想法なのか、大らかな大地風の発想法なのか、グローバル志向なのか、特殊日本的なカルチャーへのこだわりがあるのか、スポーツはどんな趣味なのか、家族はどんな感じで核家族主義なのか大家族主義なのか、どの程度守旧派で、どの程度国家衰退への危機感があるのか、菅さんの場合はサッパリ分かりません。
私はその無色透明なキャラが、統治スキルという抽象的な手法として、通用すると思っていたのですが、甘かったようです。ここへ来て、あの勉強嫌いで、親や祖父母にコンプレックスを抱き、小心者の特徴として敵味方を峻別してかかり、そのくせ日本会議に支えられ、そのくせ巧妙にリベラル政策を混ぜてきた前任者の方が、まだキャラが立っていたという感覚が広がっています。これは危険なことです。
やはり、菅義偉という人間の立ち位置を示して、自分はこういう視点から語るんだというところを見せないと、伝わるものも伝わらないという感じがします。
というような評価は甘過ぎるのかもしれませんが、とにかくこんな意味不明な「ふわっとした民意」で総理を「取っ換え引っ換えする」のには抵抗があるのです。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋・文中一部敬称略)
image by: 首相官邸
冷泉彰彦 この著者の記事一覧
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1〜第4火曜日配信。
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