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菅首相VS西村大臣の暗闘でGo To停止「後手後手」に
https://dot.asahi.com/wa/2020121500052.html
2020.12.15 15:47 西岡千史,上田耕司 週刊朝日12月25日号の記事に一部加筆
菅義偉首相(C)朝日新聞社
西村康稔コロナ対策担当相(C)朝日新聞社
新型コロナウイルスの第3波が日本を襲うなか、政府は12月14日、「Go To トラベル」を12月28日から1月11日にかけて、全国で一斉に停止することを表明した。Go Toについては以前から専門家や医療関係者などからも停止すべきだという声が上がっていた中で、なぜ、ここまで対応が遅くなったのか。本誌の取材で、コロナ対策を担う二人の政治家の“対立”が元凶となっていた構図が浮かび上がってきた。
「みなさん、こんにちは。ガースーです」
日本国内で2800人の新規コロナ感染者が確認され、6県で1日当たりの感染者数が過去最多を記録した12月11日、菅義偉首相はインターネット放送の「ニコニコ生放送」に出演し、冒頭で照れ笑いしながら自らニックネームを名乗って挨拶した。
一方、菅首相と違って緊迫した表情で同日に記者会見したのが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長だ。会見では、感染が急拡大する「ステージ3」相当の地域について、観光事業を支援する「Go To トラベル」の適用を一時的に停止するよう求めた。尾身氏は「さらに(対策を)加えないとだめだ」とも強調。国民に向けて年末年始の移動や会食を控え、静かに過ごすよう強く訴えた。
だが、この時点で菅首相の態度に危機感は感じられなかった。前述の番組内でGo Toの停止について聞かれると、「まだ、そこは考えていない」と断言。両者の“温度差”を印象づけた。
札幌市など一部地域で一時停止にしたが、菅首相はGo To継続にこだわり続けてきた。その理由を菅首相周辺はこう解説する。
「Go Toは菅さんと二階(俊博・自民党幹事長)さんが安倍晋三政権時代に作り上げた政策で、これが菅首相誕生につながった。二階さんは全国旅行業協会の会長でもある。二人は感染状況を見極めながら、ギリギリのところで観光支援を続けるつもりです」
それにしても、政府が招聘した専門家の代表である尾身氏の提言を首相が無視し続け、Go Toの停止を先延ばしし続けた状況は異常と言うほかない。政府内でコロナ対応に関わる官僚の一人が嘆く。
「感染対策優先か経済優先か、政府内で本質的な議論ができていない。この迷走には、コロナ対策を担う西村康稔経済再生担当相が菅首相とひそかに対立していることが影響しています」
西村氏は安倍政権時代にコロナ対策担当相として全権を任され、テレビ出演など露出が激増した。妻の父が岸信介元首相の側近だった吹田ナ元自治大臣で、安倍氏とは「身内」のような関係。こうしたアドバンテージもあり、一時は「将来の首相候補」とまで言われた。だが、菅政権が誕生してからは存在感がまたたく間に低下。前出の官僚はこう話す。
「安倍政権時代、西村大臣はコロナ発生初期の感染防止対策で専門家会議と官邸の根回しや調整役を担った。尾身会長と携帯電話で緊密にやりとりする関係を築くなど、専門家が政権のシナリオ通りに動くようコントロールしてきた。それが、今では尾身会長がGo Toを批判するなど、菅政権の方針と真っ向から対立することを言っている。政府内では、西村大臣が調整をせずにあえて尾身会長に自由に発言させているのではないかと疑念を呼んでいる」
この間、もともと良好な関係だった菅首相と西村氏の間の溝が、徐々に広がっているという。
安倍政権時代に西村氏が重用されたのには、同じ経済産業省出身の今井尚哉首相秘書官(当時)がコロナ対策の中心だったことも影響したと言われる。一方、当時、官房長官だった菅氏は一時期、今井氏らと対立し、重要な意思決定のプロセスから外されていた。
それが、Go To政策などで巻き返した菅氏の政権奪取を機に力関係が逆転。今井氏は政権中枢を去り、当初、官房長官など重要ポストへの起用がささやかれた西村氏も結局は留任。菅政権ではコロナ対策担当相の役割は以前ほど重視されなくなった。さらに、西村氏の威信を低下させる事件があった。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。
「10月下旬に西村氏が突然、経団連などの経済団体に年末年始休暇の分散を要請して、自民党内から激しい反発を受けました。年末年始の日程は年明けの国会や解散総選挙のスケジュールに影響するからで、二階氏は『聞いていない』と不快感を示した。その結果、西村氏は自民党本部に呼ばれて釈明に追われることになりました」
12月1日には、小池百合子東京都知事が首相官邸を訪れ、菅首相と感染防止対策について協議。「犬猿の仲」だった二人が直接会い、小池氏のカウンターパートである西村氏がスルーされたことに、永田町がざわついた。
西村氏としては、こうした状況に心中穏やかではないはずだ。西村氏はコロナ対策で知名度を上げた後、メディアのインタビューに「これまでの政治経験を国民のために生かしたい」と、将来の首相就任を視野に入れた発言をしていた。前出の官僚がこう語る。
「次期総裁への野心がある西村大臣としては、尾身会長を前面に押し出して菅首相の経済優先とは逆方向のことを言わせることで、菅首相に後ろから鉄砲を撃つことができる。『菅首相ではコロナ対策はできない』『国民を守ることができるのは西村だ』と、世間に印象づけたいのではないか」
ただ、その“野心”がコロナ対策を混乱させているという声もある。内閣府関係者は言う。
「西村大臣は11月まで毎日のように記者会見を開いていた。大臣室の官僚は毎回違う資料を作らされるうえ、注文も細かい。それで官僚の残業時間が月300時間を超えるようになってしまった。コロナ対策より西村大臣の個人的アピールとしか思えない仕事も多く、官僚たちが疲弊している」
西村大臣室のスタッフは約10人。官僚たちの間では「西村大臣室にだけは異動したくない」との声が広がっているという。
前出の角谷氏は言う。
「西村氏の指導力不足も問題ですが、そもそも経済再生担当とコロナ対策担当を一人に兼任させていること自体がおかしい。アクセルとブレーキの両方を一人が持ってしまっている。官邸には今、司令塔が不在なのです」
前出の内閣府関係者は、こう話す。
「コロナという国難の時に残業が多くなるのは当然のこと。ただ、現状は政治家の思惑でたくさんのスタッフが振り回されている。これでは、国民の利益にもならない」
官邸内に巣くう“エゴ”の一掃こそが、コロナ対策の第一歩ではないか。
(本誌・西岡千史、上田耕司)
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