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※2020年10月29日 日刊ゲンダイ17面 紙面クリック拡大
天才哲学者が危惧する パニックの政治とデジタル全体主義 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/280678
2020/11/02 日刊ゲンダイ
哲学者で独ボン大学教授のマルクス・ガブリエル氏(C)日刊ゲンダイ
「新しい生活様式」が当たり前になり、菅政権は「デジタル庁」創設に躍起になっている。新型コロナウイルス禍がこの国にもたらした変化の一端である。各国で同時進行中のこうした社会の変貌について、「哲学界のロックスター」とも呼ばれ、世界中で注目される若き天才哲学者は、「デジタル全体主義を加速させる脅威」だとして警鐘を鳴らす。じっくり話を聞いた。
◇ ◇ ◇
――コロナ禍のパンデミックで「社会は大きく変わる」という見方がありました。現状をどう見ていますか。
残念ながら、社会は悪い方向に大きく変わりましたね。この春、私が予測していた「衛生至上主義」と呼ぶ傾向が、現実に顕著になってきています。衛生への配慮の範囲を超えて、行動や文化や政治などあらゆる分野で、ウイルスの「潜在的な脅威」ばかりを気にしている。レストランや大学など、どこでもそうでしょう。
――日本でも同じような現象はあります。
実質的な脅威ではないのに過剰に反応しているという意味では、人種差別にも似た側面があると思います。このような衛生至上主義は世界各国ではびこり、「パニックの政治」が台頭しています。もちろんウイルスは脅威ですが、多くの国で行われているような警戒は過剰です。この過剰な警戒こそが真の脅威です。
――どういうことでしょう?
現在、ロックダウンまでではないものの、欧州では再び、強い規制が始まっていて、これに対し疑問を呈すると、組織化されたソーシャルメディアの大衆に攻撃されます。理性的な議論すらできないのです。「おまえはオワコンだ」とネットで一方的に有名人をたたく文化がアメリカから伝播してきていますからね。コロナを理由にした非常事態が継続することによって「自由な政治」がなくなることのほうに、私は脅威を覚えます。
「自由」は、民主主義において保障されなければならない最高の価値のひとつですが、衛生至上主義が、自由な民主主義にとって極めて深刻な脅威になってきた。これは新しい現象です。
米中サイバー戦争は中国が勝利する |
――衛生至上主義で社会が理性を失っているということですが、その状態が続くとどんな問題がありますか。
「デジタル全体主義」が各国で台頭するでしょう。インターネットの影響で、史上初めて、地球上の全人類の行動が同期化していて、全人類が同時に同じものに恐れを抱いています。ここで忘れてならないのは、今回のコロナウイルスによる「パニックの政治」の起源は中国だということです。そしてその中国が、コロナ対策もデジタルを駆使してつくり上げましたよね。
その背後にあるのは、中国と米国のサイバー戦争です。中国のサイバー攻撃はご存じでしょう。米国のほうは、コロナ禍をチャンスに、デジタルサービスがビジネスを拡大させました。このインタビューで使っている「Zoom」やソーシャルメディアにとってはパンデミックは好機です。サイバー戦争の覇権を争う米中両国とも、コロナ禍を利用しているのです。
――人類がデジタルに支配され、その覇権を米中で争っていると。
私は、このサイバー戦争で中国が勝利するとみています。米国は民主主義国であり、自由を重んじる。しかし、中国共産党にとって個人の自由など無価値で、国の統治において自由は重要ではありません。中国はデジタル化という極めて巧妙な手段で、米国から覇権を奪取したのです。2020年は中国が主導権を握った年になるでしょう。
オンライン取材は白熱した(C)日刊ゲンダイ
ジョージ・オーウェルのシナリオが「Zoom」上に |
――著書「全体主義の克服」で、<科学と技術によって現代社会のあらゆる問題を解決できるという誤った信念>と断じています。確かにコロナ禍でAIやSNSなどへのやみくもな服従が進んでいるように思います。デジタル化が無制限に進み、監視が強化される不安もあります。
パンデミック前に書いた本ですが、その通りになっています。いまや科学や技術は新たな宗教になりつつある。そして、監視社会は将来のことではなく、現在進行形です。ジョージ・オーウェルが「1984」で書いたシナリオが、この「Zoom」上でまさに起きていると言っていい。米国、中国、日本、ドイツなどあらゆる国の諜報機関は、その気になれば、いま私たちが「Zoom」を使って話していることにアクセスできてしまいます。
――「デジタル全体主義」では、20世紀の全体主義のように独裁者がいるわけではないともおっしゃっています。これは市民の側が求める「下からの全体主義」とも言えるのでしょうか。
中国に関して言えば、デジタルを使った手段を用いているとはいえ、20世紀型の古い独裁主義国家です。ですが、日本やドイツは民主主義的な法の支配で選挙も行われており、その意味では独裁主義ではありません。現在直面しているのは、下からのサブリミナル(潜在意識)な大衆操作です。大衆が自ら「脱自由」を求めている。そうした傾向の背後には、人々が抱えている「不安」を刺激する構造があります。
――サブリミナルな大衆操作とは、どういうことでしょう?
「不安」はソーシャルメディアと検索エンジンによってつくり出されます。例えば、背中にちょっとしたかゆみがあったとします。「背中のかゆみ」をグーグルで検索すると、「がんかもしれない」と出てくる。さらに検索すると極めてまれなタイプのがんを知るようになる。そうやって4時間も検索していれば、「明日には死んでしまうかも」とだんだん思うようになる。
実際には背中がちょっとかゆいだけなんですよ。インターネットにはこういう構造が組み込まれているのです。病は気からと言います。それは、行動経済学や神経科学の分野で研究し尽くされていること。「不安」で人を操ることができるのです。米国や中国のハイテク企業はそうやって大衆操作をしているのです。
「自発的隷従」を避けるにはソーシャルメディアをやめる |
――サブリミナルですから、あらがうのはなかなか難しい。
いまドイツで起こりつつあるのはサブリミナルな服従、16世紀の表現を使えば「自発的隷従」です。この奴隷には主人はいません。自ら奴隷化しているのです。その先にあるのは民主主義の終焉。自由な個人がいないと民主主義は機能しないからで、これこそが脅威です。
デジタル全体主義は、ソーシャルメディアと検索エンジンによってもたらされる。そして、この手の独裁主義は、いずれ古典的な独裁主義に移行するでしょう。なぜなら、人々は「次の毛沢東」に投票し始めるからです。米国はある程度、そうなっていますよね。ソーシャルメディアが存在しなければ、トランプは大統領になれなかったでしょう。
――コロナ禍がデジタル全体主義をさらに加速させる引き金になったということですね。このままでは「自由」はなくなってしまう。
まさに、そういうことです。ただ、選択肢はまだ残されている。例えば、私は3月にすべてのソーシャルメディアのアカウントを解約しました。こういう事態が来るだろうと予想したからです。いまは、ソーシャルメディアを一切使っていません。グーグルの検索も最小限にしています。デジタル全体主義は、私たちが自ら止めないと止まらないのです。実際、シリコンバレーで働いていた多くの専門家が著作などで警告を発しています。
ショシャナ・ズボフは「監視資本主義の時代」(原題「The Age of Surveillance Capitalism」)という素晴らしい本で、いかにグーグルが危険かを説いています。グーグルのような企業こそが、民主主義において最大の脅威であるとはっきり申し上げたい。
――人類にとっての脅威は、コロナウイルスではない。
20世紀の独裁主義は「目に見える悪」でした。強制収容所があり、何十万人という単位で大量虐殺も行われた。しかし、グーグルは違う。便利で見た目も美しく、サービスを無料で提供している。一見、悪には見えません。でも、だからこそ、この新しい敵は危険なのです。これは自由のための闘争です。まだ負けるとは決まっていない。でも、いまは時期が悪い。まるで「スター・ウォーズ」の悪の帝国であり、私はルーク・スカイウォーカーの役を演じている。こんなふうに説明しなければならないほど、事態は酷い状況です。
(聞き手=小塚かおる/日刊ゲンダイ)
▽1980年、ドイツ生まれ。2005年ハイデルベルク大学から博士号取得。09年に権威あるボン大学哲学正教授に史上最年少の29歳で抜擢。「新実在論」を打ち立て、「なぜ世界は存在しないのか」が哲学書としては異例のベストセラーに。NHK番組「欲望の時代の哲学」への出演も話題となった。新著は「全体主義の克服」(中島隆博東大教授との対談=集英社新書)。
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