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※2020年9月8日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※文字起こし
「出来レース」というよりも、「消化試合」と言った方がいい。8日告示された自民党総裁選(14日投開票)のことだ。新型コロナ禍の中で行われる抑制的な選挙戦のため、やむを得ない面はあるものの、ちっとも盛り上がっていないどころか、しらけムードさえ漂っている。
そりゃあ、そうだろう。選挙とは名ばかりで、誰が見ても党内5派閥の支援を受ける菅官房長官の圧倒的優位は揺るぎようがないからだ。7日、選対本部を発足させた岸田政調会長や、議員会館であいさつ回りを始めた石破元幹事長はテレビや新聞で「巻き返しに懸命」などと報じられていたが、党員・党友の投票を省く「簡易型選挙」で、菅が国会議員票の約7割を押さえてしまったのだから「巻き返し」もヘッタクレもない。
一方、本命視される菅は台風10号への対応に万全を期す、として7日夜のテレビ出演を取りやめたが、これも余裕の裏返しとみられている。岸田や石破と激しく競り合う状況であれば、どんなに忙しくてもメディアの露出は欠かせないからだ。
さらに菅は定例会見で「新型コロナウイルス感染を機にテレワークが広がり、行政や民間のデジタル化の必要性が明らかになった」と強調。行政のデジタル化推進に意欲を見せていたが、この発言だって自身が検討しているという「デジタル庁創設」に向けた布石と見るべきだろう。要するに菅の頭の中はすでに「総理」ということだ。
安倍政権の裏の「汚れ役」が表舞台に立つ意味
だが、本当にこれでいいのか。大メディアは「秋田県のイチゴ農家に生まれた苦労人」「高校卒業後に上京し、働きながら法政大を卒業」などと持ち上げているが、今度の総裁選は飲み会やゴルフコンペの幹事を決めるのとはワケが違う。この国の針路を握る総理大臣に直結するのだ。国民が聞きたいことは「携帯電話料金の値下げ」なんてチマチマした話ではなく、一人の国会議員として、また政治家として重視している大局的な理念や理想は何か。総理大臣を目指すのであれば、どういう国家観を持っているのか、だ。
今であれば、秋以降、第3、第4波が予想される新型コロナの感染拡大をどう抑え、停滞している経済をどう立て直すのか。トランプ政権下で隷属化が進んだ米国との関係をどう軌道修正するのか。亀裂が深まるばかりの中国や韓国、北朝鮮に加え、ロシアとの外交をどう考えるのか。いずれも、この国を率いるトップとして必要不可欠な視点だろう。
ところが総裁選の出馬会見でも菅の口からは、国家論が語られることはなかった。それどころか、すべての質問をはぐらかし、具体的な政策表明もなし。強調したのは「安倍政権の継承」だけだ。これでは「アベノママデス」などと揶揄されるのも当たり前だ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「安倍政権の汚れ役としてすべての不祥事を握りつぶし、裏で隠してきた人物が表舞台に立つ。菅政権の誕生とは、そういう意味です。その政権がこれまでの政治手法、政策などを引き継ぐ。自民党にとっては最適の人選なのでしょうが、国民にとってはまさに最悪の展開です」
菅政権は安倍政権以上に独断専行の運営になる |
「派閥に属さない叩き上げの政治家」――。テレビのコメンテーターはそろって菅をこう評し、国民に対して「いい人」の刷り込みに躍起になっているが、安倍内閣を支えてきた官房長官としての言動を振り返れば、とてもそうは思えない。とりわけ強く懸念されているのが、安倍政権以上に官僚の好き嫌い人事が進む恐れだ。
菅は今も総務相時代に提唱した肝いりの「ふるさと納税制度」を得意げに語るが、この制度に対して「高所得者が優遇される」と問題点を指摘した当時の総務省の幹部は次官候補だったにもかかわらず、自治大学校長へ左遷されてしまった。
現在、立教大学の特任教授を務める本人は「週刊朝日」(9月18日号)の取材に対し、<私は、役人の責任として間違った制度について『間違っている』と説明しただけ。しかし、菅氏は役人の言うことを無視するのがリーダーシップと考えているのでしょう>と淡々と答えていたが、逆らう官僚は問答無用で左遷とは恐怖政治そのものではないか。
元文科次官の前川喜平氏も「サンデー毎日」(9月20日号)で「菅政権」について、<私は安倍氏以上に危険だと思う。安倍政権の権力を支え、内政を仕切ってきたのは、実質彼だからだ。霞が関に対する締め付けはさらにきつくなり、安倍時代以上の官僚の官邸下僕化、私兵化は進むであろう>と言い、こう続けていた。
<小泉政権では百家争鳴、言いたいことが言えたが、第2次安倍政権ではピタッと止まった。安倍氏と言うより菅氏の体質だろう。これまでも『安倍・菅』政権だったが、そこから『安倍』がなくなっただけだ。本質は変わらない。むしろ統制色は強まるのではないか>
官僚の左遷だけじゃなく、東京新聞の女性記者とのやりとりでも注目されたように、気に入らない記者を徹底無視するのも特徴。陰湿な「安倍亜流」政治が菅政権の正体なのだ。
早くから次期総裁のイスを狙っていた
「熟慮に熟慮を重ねて判断」。菅は総裁選の出馬会見でこう言い、安倍政権を支えてきた閣僚の一人として「やむを得ず出馬に至った」みたいな口調だったが、前出の「週刊朝日」の<菅義偉“首相”のギラつく野心>と題した記事や、「週刊ポスト」(9月25日号)の<菅義偉「姑息な新宰相」“安倍官邸乗っ取り”の全内幕>と題した記事を読むと、菅発言は額面通りに受け取れない。
両誌ともに菅が自民党の二階幹事長と水面下で手を握り、早い段階から次期総裁のイスを虎視眈々と狙っていた思惑が垣間見えるからだ。
そういえば菅は7日の会見でも、通算在職日数が田中角栄氏と並び歴代最長となった二階について、「党内をしっかりと取りまとめていただけるので非常に頼りになる存在だ」とヨイショしていた。両誌の記事通りであれば、ワイドショーがタレ流している「志半ばで辞任する安倍首相の意志を菅が引き継ぐ」みたいな報道はやはり大ウソ。むしろ、安倍との確執は周知なのに、イケシャーシャーと辞任を利用した人間性に背筋が凍る思いだ。
危機管理という名のもとに菅が重用した「官邸ポリス」と呼ばれる警察官僚、警察権力との関係にも底知れぬ闇を感じざるを得ない。ジャーナリストの伊藤博敏氏も日刊ゲンダイのコラムで<政権の闇>と題し、<「菅」を支えるのが公安警備畑の警察官僚だとすれば、ただでさえ華のない菅政権が、地味で暗いものになるのは避けられまい>と書いていたが、ワイドショーがどんなに持ち上げても、「菅義偉」という男には隠しきれない「暗さ」や「不気味さ」が常に付きまとうのだ。
政治アナリストの伊藤惇夫氏がこう言う。
「菅さんはかつて、閣僚の中で、すべての情報が集まる官邸が一番面白いと発言していたと聞きました。安倍政権ではその情報を活用し、長期政権を支えてきたわけですが今度はそれ以上の立場になるということ。すでに官僚組織を完全に押さえ込み、操っている様子から、今度の菅政権は安倍政権以上に独断専行の政権運営になる可能性もあると言えるでしょう」
「恐怖の居抜き政権」なんて絶対にあってはならない。
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