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※文字起こし
国内の新型コロナウイルス感染者が10日、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客乗員を含めて累計5万人を超えた。4万人を超えたのが8月3日だから、わずか1週間で1万人も増えたことになる。
このところ、1日あたりの感染者数が1000人を超える日が続き、感染拡大は大都市圏だけでなく、全国に広がっている。それでも政府は「重症者数が少ない」ことを理由に、4月の緊急事態宣言時とは状況が違うと言い、感染者の増加ペース加速を傍観しているだけだ。
そういう政府の対応を擁護するためか、あるいは別の意図があってのことか知らないが、最近は「致死率が低いから問題ない」「PCR検査拡充は無意味」という乱暴な言説も散見される。
元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏も、10日に出演したTBSの番組で「感染者数は少ないほうがいいけど、医療崩壊が生じない限りは、感染者数はある程度あるもんだと国民が認識しないと、恐怖を覚えて社会経済活動が止まる」、そのうえで「感染者数に一喜一憂するのは違う」などと主張していた
「これだけ感染者が増えているのに、政府は旅行を推奨する『Go To トラベル』キャンペーンを前倒しで強行した。『感染防止に気をつけろ』という精神論で対策を国民の自己責任に押し付けて、経済を回せというのです。国民の命より経済が大事だと考えているのでしょう。しかし、『Go To』キャンペーンに業界が期待したところで、感染の不安におびえる国民は動けない。若い人は軽症で済んでも、彼らが活発に動けば、高齢者など重症化しやすい人に感染させ、それで重症者も増えていけば、いつ医療崩壊が起きてもおかしくない。そういう不安がある限り、経済活動が活発になるわけがないことは、誰が考えても分かります。コロナ対応で無為無策の政府が目先のカネを優先した結果、感染症の抑え込みと経済活動のどちらもうまくいかないということになりかねません」(経済評論家・斎藤満氏)
コロナ対策でも弱者切り捨て
政権寄りといわれる読売新聞が7〜9日に実施した世論調査でも、新型コロナウイルスを巡る政府の対応を「評価しない」という回答は66%に上った。前回7月調査の48%から大幅に上昇している。「評価する」は前回の45%から27%にまで落ち込んだ。安倍首相が新型コロナへの対応で指導力を発揮しているかについては、「思わない」という人が78%だった。
「コロナ封じ込めより、観光業界を救うための『Go To』キャンペーンを優先する政府の姿勢に多くの国民が疑問を抱くのは当然です。観光業界が窮地に陥っているのは確かですが、税金をバラまいて解決するものではない。需要回復の最善策はコロナ収束に注力することのはずです。実際に、感染者ゼロが100日間続いているニュージーランドなど、政治がリーダーシップを発揮して、ある程度コロナ封じ込めに成功した国ほど経済的なパフォーマンスも高くなっている。安倍政権はこれまでも弱者を切り捨て、格差を拡大させてきましたが、この感染拡大を目の当たりにしても“健康よりカネ”で、大企業を救うことに躍起な姿勢を見れば、誰のための政治をしているかがよく分かる。企業優先を正当化するために、感染者数の増加に一喜一憂しないなどと言い出して、これまでと違う基準を持ち出してくるご都合主義です。コロナ感染の恐怖におびえる国民のことなど、まったく考えていないのです」(斎藤満氏=前出)
個々の命の重みを政治が数値で判断する危険な論法 |
政府の有識者会議「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は7日、感染状況を4段階で評価するための新たな指標を取りまとめたが、その内容は病床の逼迫度合い、人口10万人あたりの療養者数など6項目で、1日あたりの新規感染者数は指標から消えた。
加藤厚労相も7日の会見で、軽症者や無症状者が「1人暮らしで自立生活ができる」「同居者に喫煙者がいない」などの条件に当てはまる場合、自宅療養が可能と発表したが、こんなの政治の責任放棄に等しい。独身者が自宅で容体が急変したら、誰がどう対応するのか。それも自己責任にされるのか。病床不足は政治の怠慢でしかない。4月の緊急事態宣言には、病床や療養施設の不足を解消するための時間稼ぎという意味もあったはずだ。
「病床が逼迫しなければいい」と、感染者急増には目をつぶって、療養者や重症者の数を重視する方針にしれっと転換したのは、失政を棚に上げた居直りでしかない。だいたい、医療の逼迫を防げれば問題ないというのは、誰の視点なのか。患者か、医者か、ほかの疾患を抱える金持ちか。
「分科会は政府の方針にお墨付きを与える御用機関でしかありません。政府は都合のいい時だけ分科会が出した数字を持ち出すし、意に沿わない提言は無視して“総合的判断”などと言う。コロナ感染拡大を無視して経済を回すというのも、安倍首相が来年の五輪開催に固執しているから、特定の企業に税金をジャブジャブ流して、五輪スポンサーの再契約をしてもらうためでしょう。それで国民の命と健康は犠牲にされる。御用学者が政権と一体になって、新自由主義的な命の軽視を推進しているのです」(政治評論家・本澤二郎氏)
日本世論調査会による全国郵送調査によると、新型コロナウイルス対応で健康と経済のどちらを優先すべきかという設問に対し、「どちらかといえば」を含めると84%の人が健康を優先すべきだと考えていることが8日に明らかになった。経済優先は、14%に過ぎない。政府の方針によって、自分たちの健康が脅かされていることに多くの人が潜在的な危機感を抱いていることの表れだろう。
75年前の過ちを繰り返すのか
新型コロナは、軽症ならいいというものではない。「重症患者」の定義は「ECMOや人工呼吸器による管理、ICUなどにおける管理が必要な患者」である。かなり深刻で、ほぼ危篤に近い状態といっていい。軽症といっても、すぐさま命に別条はないという意味で、39度の熱が数日間続いても軽症扱いだ。酸素吸入をしないと危ない状態になって初めて「中等症」と判断される。
「軽症であっても、中等症、重症に急変するケースは少なくないし、後遺症が長く残るという報告もある。現時点で致死率が低いからといって、感染拡大を放置していいはずがないのです。この政権は、コロナ感染者や死者の何万人、何千人という国民一人一人に生活があり、家族がいて、懸命に生きているという命の重みを分かっていない。自分たち権力者はコロナに感染しても優先的に検査も治療も受けられると安心して、庶民は虫けら扱いなのでしょうか。本来、政治は社会の最も弱いところに光を当て、弱者を救うためにあるのに、カネと利権しか頭にない政治屋ばかりです。一般国民のことは、税金と選挙の票を献上するマシンくらいにしか思ってなくて、弱者のための政治という視点が完全に欠落している。コロナ対策で経産省が旗を振っていることでも、“カネが全て”というこの政権の体質が分かります。安倍首相が敬愛する祖父の岸信介が牛耳っていた戦前の商工省が、利権のために庶民の命を軽視して戦争を主導した構図とそっくりです」(本澤二郎氏=前出)
国民の命を数字の塊でしか見ていない政治は危うい。コロナ感染拡大防止に無為無策という以前の問題だ。今後、権力者も次々と罹患して重症が蔓延すれば、初めて慌てふためくのかもしれないが、それまでは、どれだけ国民の命が失われても、連中には他人事でしかなく、倒錯したヒロイズムをかき立てるだけなのだ。政治を勘違いしている政権がいま、75年前と同じ過ちを繰り返そうとしているように見える。
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