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和歌山県 仁坂吉伸知事に聞く「和歌山モデル」の全貌
注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/276674
2020/08/03 日刊ゲンダイ
仁坂吉伸和歌山県知事(C)日刊ゲンダイ
仁坂吉伸氏(和歌山県知事) |
国内で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは、今年1月15日。それから約1カ月後に、和歌山県で病院クラスターが起きた。県は国の方針とは異なる独自の策を次々と打つ。短期間でウイルスを封じ込めたことから、米紙ワシントン・ポストに「和歌山モデル」と称えられた。日本列島に“第2波”が押し寄せる中、和歌山の経験から学ぶことはたくさんある。知事にじっくり話を聞いた。
◇ ◇ ◇
――クルーズ船のコロナ感染で騒いでいた頃の2月中旬、済生会有田病院で国内初の院内感染が発生しました。当時、国内の累計感染者は2ケタ程度。未知のウイルスにどう対応したのですか。
新型コロナウイルスは強毒のSARSやMERSと弱毒のインフルエンザの中間くらいで、よくうつるし、死にも至る。「嫌な病気だね」と話していたのですが、そしたら、和歌山で出てしまった。中国関係との接触のない医者の感染で、病院中で広がっているかもしれない。驚懼しましたね。えらいこっちゃと。しかし、防遏するのは論理的には簡単。感染者を隔離、治療するには、まず感染者を見つけることです。
――当時、国が推奨していたPCR検査の基準は、中国への渡航履歴や中国人との接触でした。
そんなこと関係ないわけですよ。中国と無関係のところで出ているわけだから。病院の新規外来の受け付け禁止を決めました。クルーズ船と違って、入院患者を抱えたままやらざるを得ないので大変でした。それから、コロナをうつす“媒体役”の存在です。医者や看護師は感染している可能性が高い。そこでトリアージといって、感染の可能性が高い人から順番をつけて検査していきました。病院が汚染されていると思われたら、使い物にならない。それでわざと過剰なことをしたのです。病院関係者474人のPCR検査を10日でやりました。
――どうやって短期間に大規模検査をできたのですか。
検査サイクルを増やすために徹夜でやってもらった。大阪府の吉村知事に電話して、150件の検査を引き受けてもらいました。検査キットは厚労省に頼んで送ってもらいました。
――国の基準を逸脱した検査です。厚労省はおもしろくなかったのではないですか。
厚労省は、はじめは「やり過ぎ」と言っていました。事務次官に「県初の感染なので、完全に抑え込みたいからわざと過剰なことをやりたいんだ」と訴えたら「わかった」と。厚労省はちゃんとしているところはしてるんです。
親分が決めないと現場は戸惑う |
――しかし一方で、全国的には厚労省の対応が現場の混乱を招いているように見えます。
知事は保健医療行政の親分。知事がこういう基準でやるんだと決めないと、現場の保健所はどうしていいかわからないわけですよ。知事があいまいな態度だと、現場は国の「中国由来の人だけ検査」という通達にどうしても引っ張られてしまう。「国がけしからん」と言うばかりで、知事自らは何もしないのはよくありませんね。知事ができることはいくらでもあるのです。
――徹底検査の他に何をしましたか。
3つやりました。県内外からの問い合わせなど大騒ぎになりましたが、その対応を主力部隊である保健所にやらせなかった。県庁に窓口をつくって、電話は5回線、24時間体制でコロナの受け答えができるようにした。「私、不安」「感染者はどこに住んでいるの」など変な電話もいっぱいありましたから、保健所が対応していたら大混乱になっていたでしょう。次に、やはり疑わしいのは中国由来。中国人旅行客はすでに帰国していたので、有田病院の周辺エリアで徹底的に聞き込みをしました。もちろん保健所ではない部隊にやらせました。中国人が泊まった可能性があるホテルや立ち寄ったコンビニとか飲食店に行って、「症状ないですか」と。調子の悪い人は皆無だった。さらに、県内の病院のよくわからない肺炎の入院患者に全部PCR検査をしたのです。結果は陽性者は見つからなかった。この3つで大丈夫かなと思いました。
――「安心」と思えるまで、できることはすべてやった感じです。
そうです。PCR検査をたくさんやったのが、「和歌山モデル」ではない。あえて言うと、3プラス1ですね。早期発見、早期隔離、行動履歴の徹底調査、そしてプラス1は保健所や行政の統合システムを早く形成しておくことです。保健所がバラバラだったら、絶対にうまくいきません。実は日本の保健所は、感染症法に基づいて早期隔離という強い権限を持っています。それは意外にも欧米にはない。
――えっ、そうなんですか。
日本は外出制限や休業要請は欧米と比べてものすごい緩いでしょう。フランスでは外出したら逮捕されていた。にもかかわらず、欧米では感染が爆発的に拡大しました。自分と同じこと(早期発見・早期隔離)をやればいいのにと思って見ていた。それで、ちょっと調べてみたところ、欧米諸国には「隔離の権限がない」という私の仮説がほぼ間違っていないことがわかりました。たぶん、国家権力が出て行って感染者を隔離するなどというのは、あまり好まれていないんじゃないですか。日本では地方を中心に保健所が感染症法の権限で、一生懸命、隔離をした。それに国民の行動自粛が加わった結果、感染が抑えられたのです。
国内初の院内感染が発生した済生会有田病院(C)共同通信社
保健所の隔離権限は最大の武器 |
――欧米では医療崩壊も起きました。
欧米では隔離がないので、どんどんうつり、患者はみんな自由に医者に行くわけです。その結果、重症者の命が救えない事態が起こっていました。政府の専門家は、この欧米の状況から学んだ“教養”をベースに日本のコロナ対応に当てはめてきました。欧米のようにしたくないという良心としてね。だから、軽症者や37・5度が4日続かないと医者に行くなとガンガン言ってたでしょう。
――2月25日に政府が基本方針で軽症者に自宅療養を呼びかけると、知事は「早期発見し重症化させないことが大事。『医者にかかるな』というのはおかしい。従わない」と断りました。
病院が逼迫していない状況で、政府の方針は明らかに間違っている。「従わない」と言って示した対抗モデルは、クリニックや診療所で発見してもらう方法です。「風邪症状で肺炎」の患者を保健所に連絡してもらい、PCR検査で陽性だったら隔離病棟に入院です。毎年、風邪のような症状で肺炎は1〜2%。その肺炎の中で、コロナの陽性者は2%しかない。少ない陽性患者だけが大病院に行くようにすればいいのです。ところが、軽症者を自宅待機にすると、クリニックは暇なのに活用されない。医者にかからなければ、コロナと違う他の病気も見逃すことになる。自宅にいて症状が続き、いよいよヤバイとなると、クリニックを飛ばして大病院に行くでしょう。大病院が混んで、それこそ重症者も診られなくなります。
――成功した和歌山モデルは全国で生かされていますか。
全国の多くの県では、私のような知事が保健当局を指導して、同じことをやっている。感染者が出ても、その都度抑え込むから、ドッカーンといかない。ドカーンのところは保健医療行政が十分機能していない。それを政府がたしなめない。トップが現場にぐっと入って、担当者と同じぐらいのレベルまで一生懸命勉強しないと。それをやらずに、保健所に丸投げしていたら、いつまでも収まりません。
――感染抑制と社会経済活動の両立に苦労しています。
コロナ対策は、保健医療行政に半分依存し、残り半分は国民行動の自粛、営業の自粛に依存します。緊急事態宣言で国民は緩い要請にもかかわらず、100点満点の対応をされました。ただ、後者の自粛にのみ依存するのはできるだけ避けなければいけない。生活、健康、経済が壊れますからね。前者の保健医療行政の責任者は知事です。厚労省でも専門家でもありません。知事がどれくらい一生懸命やるかによって、半分が違ってくるわけです。幸い、日本には優れた医療や保健所の隔離権限など保健医療体制が壊れない仕組みがあります。私も県庁の職員も医療従事者も大変だけど、県民に奉仕するのが僕たちの仕事ですから。
(聞き手=生田修平/日刊ゲンダイ)
*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。
▽にさか・よしのぶ 1950年、和歌山市生まれ。74年、東大経済学部卒。通産省(現経産省)、駐ブルネイ大使を経て、2006年、知事に初当選。現在、4期目。
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