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上昌広氏が“夜の街”叩きに警鐘「感染が蔓延するパターン」
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/275936
2020/07/14 日刊ゲンダイ
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏(C)日刊ゲンダイ
東京都は12日、新型コロナウイルスの感染者が新たに206人確認されたと発表した。新規感染者が200人を上回るのは4日連続で、過去1週間の累計は1000人を超えた。こうした状況に対し、「これを第2波と呼ばずに何を第2波というのか」と指摘するのが医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師だ。政府が新型インフルエンザ等対策有識者会議の下に新設した「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の会合も始まる中、これまでの専門家会議の問題点や新型コロナに対する心構えなどを聞いた。
――政府の緊急事態宣言解除後、新規感染者が急増しています。東京都の小池知事などはPCR検査(遺伝子検査)をしているから新規感染者が増えているなどと説明していますが、どう見ていますか。
私は第2波が来ていると考えています。4月の「新型コロナ受診相談窓口相談」数の最大は2700件ですが、現在の検査数と「新型コロナ受診相談窓口相談」数の合計と変わらないからです。「コロナ疑い」の数は既に4月並みです。
――新宿といえば、小池知事らが執拗に感染源として「夜の街」を連呼しています。
ふつうに考えれば感染拡大が「夜の街」だけのはずがない。今のように「夜の街」を袋叩きにしていれば、誰も名乗り出てこないし、隠すでしょう。これぞ感染が蔓延するパターンです。
――どうすればいいのでしょうか。
とにかくPCR検査の拡大しかありません。検査もしないと何も分からないからです。ウィズコロナというのは、感染者は病院や自宅などで過ごし、感染していない人が活動することです。世界のコンセンサスも、感染者を早く見つけてケアしたり、自宅や病院にいてもらったりしている。ところが、今の日本では、マスクをしながら従来通りの生活を続けようとしている。「夜の街」だからといって、夜中に1人で歩いている時に時にマスクをして何の意味があるのでしょうか。世界でこんな手法をとっているのは日本だけです。世界の流れと全く違うことを堂々と押し進めながら、「日本型モデルが成功した」などと言い続けているのです。
――海外は検査に重点を置いている。
NY州は750カ所のPCRセンターを整備しましたが、米国は1日500万件の検査を掲げています。中国は人口2000万人の北京市で感染が起きた時、800万人にPCR検査をしました。日本は今、1日2万件弱で、東京はおそらく、1日2000件ほど。800万件と数万件ではケタが違います。ドイツは3月時点では日本と同様、1日1万件程度の検査体制でしたが、今は1日約18万件です。
――日本ではなぜ検査が増えないのでしょうか。
新宿のあるクリニックでは6月からPCR検査を実施したいと都に要求していましたが、7月になっても許可が下りませんでした。これはまさにサボタージュです。保健所の負担を軽くするのであれば、民間でどんどん検査するようにすればいいのですが、厚労省はそういう理屈にならない。患者の命を救え、患者の検査を増やせ、ではなく、保健所の機能を強化しろと。厚労省は国民の命ではなく、保健所と感染研(国立感染症研究所)の権限維持しか考えていないのではないかと思います。私は、公衆衛生と医療を統合するべきだと考えています。というのも、国は今回、新型コロナを食中毒やコレラといった極めて規模の小さい症例を扱う公衆衛生で対応しようとした。しかし、何百万人もの人が感染するインフルエンザや新型コロナは公衆衛生ではなく、医療でなければ対応できません。37度5分の発熱が出ても4日間は待機するべき、というのは医療ではありません。それなのに国は従来型の公衆衛生にこだわり、保健所で対応しようとしたためにPCR検査は増えず、目詰まりしたわけです。
日本では特殊な発言が政府の政策のように扱われた
――西村経済再生相は専門家会議(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議)を廃止し、新たに「新型コロナウイルス感染症対策分科会」を作りました。前の専門家会議の問題点をどう見ていますか。
世界のどの国でも、専門家会議のメンバーには最先端の医科学に通じた人物を抜擢しています。しかし、日本では役人やその周辺の学者で固められる。ここに構造的な問題があり、日本のコロナ対策が国際議論から逸脱して迷走した理由だと思います。世界からみれば、本庶佑氏(京大名誉教授)、山中伸弥教授(京都大学iPS細胞研究所所長)という、ともにノーベル医学・生理学賞を受賞した両氏が公然と日本政府のコロナ政策を批判しているにもかかわらず、なぜか専門家会議のメンバーの意見ばかりが優先されている状況に疑問を感じていたはずです。
――専門家会議のどの部分が特異だったのでしょうか。
専門家の役割というのは、分かっていることと、そうではないことを切り分ける論点整理です。そして、最終的な判断は政治家がすればいい。分かりやすく言うと、専門家はリスク評価し、そのリスクに対し具体的な政策を打ち出すのが政治の役割です。しかし、前の専門家会議というのは、政治家ではない専門家が自らの意見を主張する場になっていました。
――「8割おじさん」などと呼ばれた北海道大学の西浦博教授は、対策をまったくとらなければ、国内で約85万人が重症化し、うち約42万人が死亡する恐れがある、といい、人との接触を8割削減すれば、約1カ月後には流行を抑え込めると言っていましたね。
結論から言えば、8割削減できなくても死亡者は42万人に達していない。つまり、彼の数理モデルは間違っていたわけで、良い悪いではなく、彼は何が間違っていたかを分析して開示するべきでしょう。重要なことは、なぜ、こうした極めて特殊な発言が政府の政策のように扱われてしまったのかということです。
――専門家会議に代わる分科会で何か変わると思いますか。
変わらない可能性が高いでしょう。厚労省と経産省を足して2で割ったような感じだからです。新型コロナ対策は、政府と国民が一体となって取り組まなければなりません。官邸や役所に近しい人たちで進めてもうまくいかないのです。しかし、政府と国民が一体となるには両者間に信頼関係が必要ですが、今の安倍政権には国民の信頼はありません。悪い見方をすれば全く収集がつかなくなる恐れもあります。
やみくもに怖がらずインフルエンザワクチンを接種
――すでに「第2波」が来ているとして、国民はどう対応すればいいのでしょうか。
まず、やみくもに怖がる必要はありません。第1波で分かったことは、小さい子供や若年層は重症化するケースが少なく、リスクが高い人は高齢者や持病のある人です。感染の有無の判別は唾液のPCR検査でもできるようになったので、どんどん検査すればいい。不安を覚えたら検査を受け、陽性であれば自宅などに待機する。とにかく正確な情報を知ることです。一方、怖いからといって自宅などに閉じこもると、糖尿病や高血圧などのリスクが高まります。これは福島原発の事故後でも見られたし、うつ病なども発症しかねません。
――国内外でワクチン開発も進んでいます。
ワクチン開発はそう簡単にできないでしょう。確かに遺伝子工学で特定の遺伝子を増やすワクチン開発は進んでいますが、本当に効き目があるのかはわかりません。私はインフルエンザワクチンを打っておいた方がいいと考えています。イタリアではインフルエンザワクチンが新型コロナ抑制に効果があった、と報告されていますが、ワクチンで特異的免疫を得ると、程度によりますが、インフルエンザ以外のウイルスに対しても免疫力がつくといわれています。日本では毎年、1000万人以上がインフルエンザに感染します。つまり、インフルエンザに感染して発熱すると、医療機関では新型コロナ感染者として扱われる疑いも出てくるわけです。そうなると、病院によっては診察を断るケースが出てくるかもしれません。インフルエンザワクチンを打てば、インフルエンザに感染しにくくなる上、新型コロナにも効果を期待できると思います。
(聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ)
▽上昌広(かみ・まさひろ)1968年兵庫県生まれ。内科医。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がん研究センター中央病院で臨床研究に従事。2005年から16年まで東京大学医科学研究所で、先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究。16年から現職。
【動画】新型コロナ対策で人体実験が行われている 上昌広
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