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標的は河井夫妻にあらず。検察が狙う「安倍政権」という真の本丸
https://www.mag2.com/p/news/452349
2020.05.22 新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』 まぐまぐニュース
検察庁法改正による「検察幹部人事権の掌握」という目論見が、国民の抗議により潰えた形となった安倍政権。そもそもなぜ政府与党は、このような無理筋としか思えぬ法案を押し通そうと画策していたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、官邸が検察庁法改正にこだわらざるを得なかった事情を改めて解説。さらに現在捜査が進んでいる河井前法相夫妻の買収疑惑に安倍首相が関わっている可能性が高いとして、国民から「正常化」を望まれている検察に、政界中枢部への斬り込みを期待する旨を記しています。
検察庁法改正案で挫折した安倍首相に迫る河井前法相立件のXデー
昨年7月の参院選をめぐる買収容疑で、河井克行前法務大臣を広島地検が立件する腹を固めたようだ。
報道によると、妻の河井案里参院議員が立候補した昨夏の参院選前、広島県内の首長や地方議員、後援会幹部ら数十人に総額で1,000万円を超える現金を渡していたという。
河井前法相の疑惑には参院選の3か月ほど前に自民党から渡された1億5,000万円もの巨額資金が絡んでおり、前法相の妻、河井案里候補(現参院議員)を強く推した安倍官邸の関与もとりざたされている。広島地検が本気で捜査に取り組めば、安倍首相も安閑としてはいられない。
おりから、検察幹部人事への介入を目論む検察庁法改正案を、あたかも検察の動きを牽制するかのように、国会に提出した安倍政権だが、コロナ自粛の閉塞感ともどかしさは、むしろ政府の動きに目を研ぎ澄ます力を社会にもたらした。
それは、安倍官邸にとって夢にも思わぬ展開だった。一人の一般女性からはじまった「#検察庁法改正案に抗議します」ツイートが多数の著名人も加わってみるみる100万単位の投稿数に拡大し、気がつけば500万を超えていた。
検察OBも次々と声をあげた。5月15日には松尾邦弘・元検事総長と清水勇男・元最高検検事らが司法記者クラブを訪れ、かつてロッキード事件の捜査にあたった14人の元検察幹部連名による「意見書」を発表した。
段階的に定年を65歳に引き上げる国家公務員法改正案に検察庁法改悪を紛れ込ませて「束ね法案」にし、国会をスピード通過させる政府与党の算段は、国民の抗議のうねり、検察OBの理路整然とした反対意見のまえに、立ち往生し、15日の衆院採決を断念。さらに、週が明け、各メディアの世論調査で内閣支持率がガタ落ちになったことが判明するや、安倍首相と二階幹事長が相談のうえ、5月18日午前には「今国会での成立を断念する」と早々に白旗を掲げたのである。
それにしても清水勇男・元最高検検事が書いた意見書は、安倍首相をして、「朕は国家」のルイ14世になぞらえるほど手厳しい。検察出身者が、ここまで時の為政者に直言した例は、ついぞ記憶にない。
本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる。…今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺ぐことを意図していると考えられる。…黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。 |
これとは別に、元特捜検事有志38人もまた、改正案の再考を求める意見書を5月18日、森まさ子法相に提出した。思いは同じであろう。
こうなると、今の法案のままでは次回の国会でも成立は難しい。検察庁法改正そのものを断念するか、野党の修正案通り、内閣の判断で役職定年を延長できるという問題の部分を削除して提出するほかないのではないか。
一方、河井克行前法務大臣の立件準備を進める広島地検は、官邸が手を出しにくくなった分、心おきなく捜査を進めることができるだろう。
河井夫妻に対する広島地検の捜査と、検察庁法改正への安倍政権の動きは、安倍官邸vs稲田伸夫検事総長の“暗闘”という側面もあった。
河井夫妻の疑惑を振り返っておこう。
昨年7月の参院選で初当選した妻、河井案里参院議員の公選法違反疑惑が同年10月の週刊文春で報じられ、克行氏は法務大臣を辞任した。その後、夫妻は記者から逃れるように公の場から姿を消したが、大学教授らが11月27日、公選法違反で河井夫妻への告発状を広島地検に提出した。身に覚えがありすぎて何も語れないのだろうか、夫妻は説明責任を果たさぬまま、今もなお、だんまりを決め込んでいる。
広島地検は12月に入って、内偵捜査にとりかかった。法務省官房長ルートから地検の動きは官邸サイドに伝えられたであろう。「桜を見る会」で公選法や政治資金規正法違反を疑われ、安倍首相自身、ジャーナリストや弁護士らに昨年11月20日、東京地検に告発されている。
おそらく、官邸は広島地検の積極的な捜査方針に危機感を抱き、昨年末から、検察組織のトップである稲田伸夫検事総長、あるいはその周辺に“密使”を送り何らかのプレッシャーをかけ始めたに違いない。
安倍官邸は稲田氏を、慣例の在任2年を待たず検事総長から退かせ、後任に“官邸の御用聞き”黒川弘務・東京高検検事長を、今年1月中にも後釜に据えるシナリオを描いていた。
もとより検事総長の人事は、内閣に任免権がありながらも、独立性を守るため検察組織の総意をくんで総長が後任を指名するのが慣例だ。
稲田氏はその原則を忠実に守ろうとしたのであろう。官邸筋から「早期退任」を囁かれても、決して応じなかった。
法務・検察組織内部で、順当な次期検事総長候補といえば今年7月30日に満63歳となる林眞琴氏である。衆目の一致するところに従って、稲田検事総長も林氏にバトンタッチしたいはずである。
この検事総長では困る。安倍首相は、そう思ったに違いない。河井夫妻だけの問題ではない。安倍首相自身が東京地検に告発されている立場なのだ。精神安定剤としての“黒川弘務検事総長”をどうしても誕生させたいという焦りに駆られたのではないだろうか。
現在の検察庁法に定められた黒川氏の退官日は今年2月8日だったが、安倍首相は国家公務員法の「定年延長」をむりやり黒川氏に適用し、今年1月31日、「黒川東京高検検事長の勤務を今年8月7日までとする」という前代未聞の閣議決定をした。任命権者は内閣であることを振りかざし、稲田氏に、「次は黒川」と、首相の意向を突きつけたわけである。
新型コロナで日本国内が混乱しているのもおかまいなしに、黒川検事長の勤務延長を事後的に正当化する手立てとして検察庁法改正案を繰り出したのも、稲田氏への圧力を強めるため、という見方ができる。
検察OBのコメンテーターがテレビ番組で「検事も人の子。人事を握られたら、総理に忖度し、関連する政治家の捜査は避けたがる」と言っていたが、その通りだろう。
検事総長はもちろん次長検事、検事長らが、高級優遇してくれる天下り先に事欠かないとはいえ、のぼりつめた重要ポストに愛着がないとはいえまい。
しかし、政権に弱腰と思われてしまっては、検察組織は国民の信用を失い、ますます自壊の道を歩むことになる。しかも、今回の事件の本丸は、河井夫妻ではなく、異例の巨額資金を提供した政権中枢である。
特捜経験が豊富な広島高検の中原亮一検事長の指揮のもと、広島地検は政権中枢をにらんでいる。中原氏の指揮を後押ししているのは稲田検事総長であろう。安倍官邸から邪魔者扱いされればされるほど、闘志を燃やしてきたはずだ。
稲田検事総長、広島高検、広島地検の捜査方針に対し、黒川氏の定年延長や検察庁法改正案といった人事介入策で攪乱してきた安倍政権に反発をおぼえる検察関係者はさぞかし多いに違いない。
多くの検察OBから出てきた改正案への反対意見は、現職の検事たちの内なる声を代弁しているといっていい。
黒川氏の定年延長を事後的に正当化するばかりか、ついでに検察幹部の役職定年の特例延長を通じて検察組織全体をコントロールしようと画策した安倍首相の思惑は、国民の良識ある抗議によって潰えた。
しかし、国民が示したのは、検察の正常化を望む意思であることも、忘れてもらってはならない。
検察が冤罪事件や証拠改ざん、有力政治家の根拠なき不起訴などで、大きく損なってきた信用を取り戻すには、これからの捜査を正常化していくしか方法はないのだ。
「桜を見る会」疑惑はもちろん、河井夫妻の買収疑惑にしても、安倍首相がかかわっている可能性が高い。久しぶりに政界中枢部へ斬り込むチャンスである。
image by: 河井あんり − Home | Facebook
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