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一斉休校は「科学より政治」の悪い例 クルーズ船対応の失敗を告発した岩田教授に聞く
https://mainichi.jp/articles/20200229/k00/00m/040/192000c
毎日新聞 2020年2月29日 18時28分(最終更新 3月1日 00時18分)
岩田健太郎・神戸大学教授(本人提供)
新型コロナウイルスの感染者が多発したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の内部に入り、「カオス状態」と告発した神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授(48)。生々しい内容に賛否両論が巻き起こり、教授は2日後に動画を削除した。しかし、陰性とされて下船した乗客がその後に陽性となるケースが国内外で相次ぎ、教授の警告どおり船が「ウイルス培養器」と化していたことが明らかになった。我々はどこで間違ったのか。政府や自治体が取るべき対策は何か。27〜29日、岩田教授に電話とメールで聞いた。【國枝すみれ/統合デジタル取材センター】
「ゴールをはっきりさせないと政策の成否が判然としない」
――安倍晋三首相が全国の小中高校に3月2日から春休みまでの臨時休校を要請しました。これは感染拡大を防ぐために有効でしょうか。
◆小児の発症、重症化が少ない中で、学校だけ休むのは合理的ではありません。小児患者が発生している北海道は理解できなくもありませんが。
休校を正当化するならば、その方策がもたらすゴールをはっきりさせる必要があります。休校で感染をゼロにするとか、1日何人まで減らすとか。そういう目標設定がちゃんとあり、その背後に根拠があれば、事後的に政策の成否が分かります。それなしに、ただ「やる」と言われても、その成否は事後的に判然としません。クルーズ船のときと同じ、「みんながんばったね」が残るだけです。ゴールが見えず、ただ場当たり的に政治的判断がなされており、「科学よりも政治」という、またしても悪い前例となってしまいました。
記者会見で新型コロナウイルス対策として全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校に対する臨時休校の要請などについて説明する安倍晋三首相=首相官邸で2020年2月29日午後6時11分、川田雅浩撮影
「クルーズ船でしくじり。公開する情報が不足」
――日本政府はどこでボタンをかけ違えたのでしょうか。
◆ボタンをかけ違えたとは思いません。日本は細かい失敗(エラー)はたくさんしましたが、間違った道筋を選んではいない。日本の感染者数は、クルーズ船での感染者を除けば、イタリアや韓国よりも少ないのです。日本はおおむね妥当な対策を取ってきたのです。しかし、クルーズ船でしくじりました。クルーズ船の感染者が東京、千葉、神奈川の病院に搬入され、新たな感染者の受け入れ能力を下げています。
それ以外の問題は公開する情報の不足です。米国の疾病対策センター(CDC)には広報部があり、感染症情報を国民に分かりやすく効果的に広報しますが、日本政府にそういう部署がない。これでは「心配するな」と言われても、国民の不安は募ると思います。
「入国禁止はもろ刃の剣」
――米国は中国滞在者の入国禁止に踏み切りましたが、日本はしなかった。2月1日に武漢市のある湖北省に滞在歴がある外国人の入国を拒否しただけです(2月12日に浙江省も禁止)。中国全土に感染が拡大していたのに、これは間違いだったのではないですか?
◆入国禁止は一つ検討に値します。しかし、もろ刃の剣です。人や物が入ってこなくなり、中国で作っている医薬品も入ってこなくなる。それによって死ぬ人も出てくるかもしれない。そういったマイナス面と感染症のリスクを考えなくてはいけない。日本が1月の段階で中国からの入国禁止を決めるのは難しかったと思います。米国やロシア、北朝鮮などは比較的早期に入国禁止に踏み切りましたが、他の国も判断が難しかったから、対応が割れたのです。
水際作戦には、いくつか種類があります。空港などで熱を測る、問診票を提出させるのは、ほとんど効果はありません。次に検疫。クルーズ船を留め置いたり、武漢からのチャーター便帰国者をホテルで14日間隔離したりするのがこの例です。
最後が国境封鎖ですが、これは大変な覚悟がいります。国境封鎖に抵抗が薄い人も北海道封鎖や東京訪問禁止となったら、どうでしょうか。中国は武漢を封鎖しました。ある意味、このコミュニティー内の人々を感染リスクにさらすわけです。クルーズ船と同じですね。閉じ込められる恐怖、感染する危険の中にずっと留め置かれる恐怖。イタリアでも感染拡大地域で外出禁止令などが出されています。日本でもそういう判断をしなくてはいけない時がくるかもしれません。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から下船した乗客らを乗せて出発するバス=横浜市鶴見区で2020年2月19日午後3時22分、滝川大貴撮影(画像の一部を加工しています)
クルーズ船は「上下水道混じった水を飲んだのを見た感じ」
――ダイヤモンド・プリンセス号ですが、最大の問題はレッドゾーン(感染危険がある区域)とグリーンゾーン(安全区域)の分離が完全でなかった点ですか?
◆レッドゾーンとグリーンゾーンが明確に分かれていないということは、いつどこにウイルスがいるのか区別できないということです。
船内に入った途端に驚きました。専門家じゃない人にその衝撃を伝えるためには、どのように説明すれば分かりやすいのか、とよく考えるのですが……。例えば、上下水道が混じっていて、トイレの汚水が混入した水をみんながリラックスして飲んでいる場面を見てしまった、とでも言えばいいでしょうか?
――非常に分かりやすいです……。80人以上の乗員が感染していることもショックです。彼らが乗客に食事などを配っていたわけですよね。
◆発熱した乗員は隔離されることになっていましたが、医務室まで歩いてきた乗員もいました。英語の問題もあったと思います。日本語が通じない乗員に対し、きちんとメッセージを伝えることができていなかったと思います。
専門家は「船に戻ってこなかった。怖かったからだと推測」
記者会見で新型コロナウイルス対策として全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校に対する臨時休校の要請などについて説明し、国民に対し協力を呼びかけて頭を下げる安倍晋三首相=首相官邸で2020年2月29日午後6時19分、川田雅浩撮影
――岩田教授が18日に公開した告発動画に対し「感染症の専門家はいたのに、いないと言っている」など激しい反発がありました。
◆僕は「感染症の専門家がいなかった」とは言っていません。英語でいうと、イン・チャージ(拡大防止策を担当する)の感染症専門家がいなかった、と言ったのです。
ダイヤモンド・プリンセス号には、国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP)の疫学チームや、日本環境感染学会の災害時感染制御支援チーム、国際医療福祉大学など、感染症の専門家たちが入りました。本来なら、疫学チームが船のどこで感染が発生し、何が原因かを分析し、環境感染学会に引き継ぎます。知恵を出し合い、感染拡大を防ぐ戦略をたて、それを実施すべきでした。しかし、権限は厚生労働省の職員にありました。FETPや環境感染学会は船に戻ってこなかった。(状況があまりに危険で感染が)怖かったからだと推測します。
――なぜ厚労省は専門家の助言を聞き入れなかったのですか?
◆ウイルスは見えないから危機感を共有できないのでしょう。ダイヤモンド・プリンセス号は乗員乗客3700人以上の大型クルーズ船で、高齢者が多く、オペレーションが難しかった部分もあるでしょう。
下船させるか、させないかは難しい判断と思いますが、船内に残すと決めたからには2次感染を絶対に起こさないことを明確な目的(ミッション)に据えるべきでした。感染症は抑え込める時に抑え込まないと振り出しに戻ってしまいます。(長期の検疫について)人権の問題があると言いますが、我々は例えば結核患者がいたら完全隔離します。「外を歩きたい」と訴えられても、許しません。2次感染が起きたらさらに悲惨な結果になるからです。
新型肺炎の感染拡大のため、中国・武漢から日本人を乗せ到着したチャーター機の第5便=東京都大田区の羽田空港で2020年2月17日、竹内紀臣撮影
旧日本軍の「万歳突撃」「一致団結に価値。異論に耳を傾けない」
――2月25日の時点で、厚労省の職員や検疫官7人が感染しています。この問題で司令塔となるべき人々が感染していることにぞっとします。
◆(玉砕前提の)万歳突撃です。(旧日本軍の組織上の問題点を分析した名著)「失敗の本質」で指摘されたことの繰り返しです。一生懸命やっているとか、一致団結していることに価値を見いだし、異論や異説に耳を傾けない。いったん計画を作るとそれに固執し、代替案(プランB)を持たない。
厚労省の方々はきっと不眠不休だと思います。しかし、そのように働き続ければ、睡眠不足でイライラして判断を誤る危険性が高まります。これは危機の時には決してやってはいけないことです。米国では感染症拡大時の危機管理が徹底していて、司令塔は交代し、休みます。要職についている人が感染することで国の戦略を作る力が減退します。
――感染防止策が取られた2月5日以降も、実際は船内で感染拡大していた可能性が強いですね。14日たった19日以降に下船者などに陽性が判明しているわけですから。
◆そうですね。下船時に陰性と判定され母国に戻った後で感染が判明したケースが、米国、オーストラリア、香港、英国、イスラエルなどで二十数件起きています。災害派遣医療チーム(DMAT)や災害派遣精神医療チーム(DPAT)の医師らも感染しました。乗員13人を加えると、少なくとも47人の感染が19日以降25日までに判明しています。
――14日間の検疫期間を終えたとして、日本政府は19日から陰性の乗客を下船させ、公共交通機関で家に帰しました。
◆厚労省は大丈夫と思っていたと思います。下船した日本人の感染が確認(注1)されて、都道府県から健康チェックの電話をいれる仕組みになりました。
(注1)2月26日時点で日本でも4人が下船後に感染が確認された。
「厚労省に一斉に従うやり方はだめ。保健所ごとに違う方針必要」
新型コロナウイルスへの感染が確認された男性医師が勤務している済生会有田病院=和歌山県湯浅町で2020年2月14日午前9時56分、本社ヘリから幾島健太郎撮影
――今後できることは何でしょう。まず政府や地方自治体はどういった対策を取るべきでしょうか?
◆感染検査キットのキャパがどれぐらいあり、検査がどれぐらい行われているのか、検査をしないほうが良いのならその理由を積極的に公開すべきです。(注2)
感染検査の総数とその中で何件が陽性だったのかが大切です。例えば、ある保健所で10人検査して3人が陽性だったら、検査を100件に増やさないとだめかもしれません。逆に、10人検査して一人も陽性が出ない地域であれば、そこで検査を増やす必要はありません。感染が増え始めたらそこに資源を投入するのです。つまり、保健所ごとに違う方針を取る必要がある。厚労省に指示を仰ぐとか、その指示に一斉に従うなどのやり方ではだめなのです。保健所が自ら判断する必要があります。
(注2)加藤勝信厚労相は2月26日、1日最大3800件ほどの検査能力があるのに、実際の検査数は1日平均900件程度にとどまっている、と明らかにした。
済生会有田病院の医師感染公表は正しかった
――感染者情報の公開はどのレベルまでやるのが適当だと思われますか?
◆線引きは難しいですが、その情報を流すことで感染拡大の防止に役立つ利益があるかどうかを一つの判断基準とすべきでしょう。例えば、和歌山県が済生会有田病院の医師の感染を発表したのは正しかったと思います。そのことで、病院にかかっていた人で体調が悪い人が申し出ることができたからです。感染者が出た銀行の支店名やタクシー会社を発表するのもいいことです。しかし、東京で感染者が通勤に使った地下鉄路線を発表しても混乱を招くでしょう。個人バッシングにつながらないように注意しながら、市町村レベルで情報を出すべきだと思います。
感染者対策ができない病院は最初から「無理」と表明を
――病院はどうでしょうか。全国の病院で感染者を受け入れるとなると、防護服の着用方法から区域管理までマスターしなければなりません。
◆できない病院は最初から「無理です」と白旗を揚げた方がいい。感染者は感染症対策が得意な病院にまかせ、そのかわり普通の病人を肩代わりするのです。肩代わりは重要な役割です。無理なのに感染者を引き受けると、ダイヤモンド・プリンセス号と同じ状態になってしまいます。
――このウイルスの感染力はインフルエンザよりも強いのですか?
◆感染力の議論はあまり意味がないと思っています。感染力の定義は、1人が何人に感染させるかで決まりますが、それは環境や人々の行動によって変わってくる。例えば、同じウイルスでも、中国と東京では感染力が違うし、クルーズ船のような閉じられた場所では感染力が数倍に高まる。
強毒化の可能性は低いが封じ込めが難しい
国立感染症研究所が分離した新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真=同研究所提供
――確かにそうですね。我々が行動を変えればいい。でも、マスクが底を突きました。
◆せっけんと水できちんと手洗いすればウイルスは死にます。アルコール消毒液がないなら、「キッチンハイター」など次亜塩素酸ナトリウムが成分の家庭用漂白剤を薄めて使っても大丈夫です。いつも「プランB」を知っておくことです。
――ウイルスが強毒化する可能性はありますか?
◆ないとは言いませんが、可能性は低いと思います。ウイルスは一般的に弱毒化する傾向があります。ウイルスにとっては宿主を殺してしまっては困るからかもしれません。
――それならば、そんなに危険なのでしょうか?
◆致死率が約1割と高かったSARS(重症急性呼吸器症候群)や感染して短い時間で高熱が出るインフルエンザよりも、ある意味で危険です。封じ込めが難しいからです。感染者のなかには症状が軽い者がいて、歩き回ります。日本人は37・5度ぐらいの熱ではなかなか仕事を休みません。日本社会のエートス(特性)を突いた最悪のウイルスなのです。
「何カ月、何年続くか分からない。上手に手を抜くことが大事」
――どうすればいいのでしょうか?
◆重要なことは、政府も自治体も国民も、焦ってパニックに陥らないことです。いいかげんな情報やデマ、誇張にまどわされない。このウイルスに有効な治療薬はまだありませんし、特定の食品やサプリが効果的ということもありません。こういうときにわらにすがってはだめです。
日本は感染症に弱い社会だと思います。何カ月、何年続くか分からないのだから、上手に手を抜くことが大事です。マラソンで最初の100メートルを全力で走っちゃだめなのと同じです。
こういうときに大切なのはデータ解析です。それが次に何ができるか教えてくれます。新型コロナウイルスに関する論文が中国でたくさん出ているのに、日本からはあまり出ていない。中国ではこんなときでも現場と距離を置くリサーチ部門がデータ解析しているのです。日本は長年、もうけられそうな所に資源を集中することを繰り返していましたから、弱いのです。
新型コロナウイルスの感染拡大への懸念が強まり、日経平均株価の下落などを示すモニター=大阪市中央区で2020年2月25日午後3時42分、小出洋平撮影
「この問題を政治の道具にしてもいけません」
――映画館はがら空き、株価は暴落。感染を怖がるあまり経済が冷え込み、かえってマイナスだという世論もあります。
◆これは、経済的な利益か感染症対策か、という選択ではありません。感染症は封じ込めないとだめです。中国はいま封じ込めに全力を挙げています。克服すれば中国経済は立ち直ります。もし日本が感染を継続させれば、日本に観光客は来ないし、イベントも開けなくなる。日本の製品は買われなくなります。
この問題を政治の道具にしてもいけません。私の動画に関して「野党と結託している」「日本の評判を傷つける」などと非難する人がいました。そうではありません。世界で日本の評価を上げるには情報公開が必要です。都合の悪いところもすべて公開することで信用される。隠せば信用は丸つぶれです。よいことしか言わないのであれば、北朝鮮のアナウンサーと同じです。大局的にみることが日本の国益と合致すると思います。
――2009年の豚インフルエンザH1N1のときは結局、封じ込めに失敗しました。このウイルスもそうなるのではないですか?
◆封じ込めに全力を挙げるべきです。もちろん最終的に封じ込められるかどうかは楽観論と悲観論の両方ありますが、現在、白旗を揚げている国は一つもありません。
いわた・けんたろう
1971年、島根県生まれ。島根医大(現・島根大)卒業。ニューヨークのコロンビア大セントルークス・ルーズベルト病院やベス・イスラエル病院、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院などを経て、2008年から現職。
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