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堀潤氏「分断」テーマに映画 重要なのは“小さな主語”目線 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/269002
2020/02/17 日刊ゲンダイ
堀潤氏(C)日刊ゲンダイ
与党か野党か、賛成か反対か、右か左か――。自国中心主義に傾斜するトランプ米国やEU離脱を決めた英国など、世界各国で「分断」が深刻化している。賛否が割れる原発政策や米軍基地問題を抱える日本も例外ではない。そんな「分断」について、多くの現場を取材してきたのがこの人。来月7日にはドキュメンタリー映画の公開も控える。なぜ「分断」は生まれるのか。話を聞いた。
◇ ◇ ◇
――「分断」をテーマに映画を作ろうと思ったきっかけはなんだったのでしょう。
2020年は東京五輪・パラリンピックが開催される年ですが、一方で11年の原発事故から10年目の節目でもあります。僕は原発事故現場の取材を継続していますが、時間が経てば経つほど、現場でもさまざまな分断が深まってきていると感じます。例えば、被災した方と、していない方、賠償金をもらった方と、もらっていない方。賠償金をもらっている方の中でも、額の大小の差がある。被災した当事者から離れれば離れるほど、意識の感度も低くなります。そういう分断を私たちはどうやって迎え入れるべきか。何かできることがあるのではと思ったのです。
――被災地以外にも分断は存在していますね。
「分断」というキーワードで世界を見ると、米国のトランプ現象しかり、英国のブレグジットもそう。右か左か、移民排斥か多様性か、いわゆる中道というのがなくて、極右か極左か。極端なイデオロギーのぶつかり合いが起きているように見えます。私は北朝鮮の平壌にも取材に行きましたが、そもそも北朝鮮と日本との間には大きな分断がある。イスラエルとパレスチナの緊張が続く中で、ガザ地区という壁やフェンスで囲われた地域は、まさに究極の分断が起きていますよね。
「経済発展のためなら少数派切り捨ては仕方ない」という風潮
――「分断」の背景には何があるのでしょう。
ベースにあるのは、経済的に発展できるのであれば、「ある程度の少数派が切り捨てられてもしょうがない」という風潮。原発事故の現場でもそうでした。まだ震災や事故から救済されていない人の声が、「エネルギーや環境問題、経済対策を考えれば原発は必要だよね」という声にかき消されてしまう。中国の一帯一路構想の現場であるカンボジアなどでは、中国資本によって土地が強制収奪されています。香港で起きている大規模デモも、逃亡犯条例に若者たちが反発していると語られがちでしたが、その実、香港に対して中国の経済的覇権が強まっていったことへの危機感が背景にありました。
――経済的な格差が大きく影響しているのですね。
より大きいのは「経済システム」かもしれない。経済的豊かさの恩恵にあずかれない人たちは、イデオロギー以前に「目の前の生活がよくなるのであれば仕方がない」と考えざるを得ない。誰だって、自らの生活を成り立たせなければいけないわけですから。しかし、その先がどうなるのか、想像力が働かなくなっているように見えます。生活が支配されてしまっていると感じます。
――映画で印象に残っているのは、堀さんが「大きい主語」を問題視していたことです。
これは僕自身が大反省しながら取材してきたポイントなんです。例えば、「震災から10年近く経過。被災地では今でも多くの方が苦しんでいます」と言ったとしましょう。すると、「堀さんよく言ってくれました。私はまだ古里に戻れず、復興住宅での暮らしなんです」「もう皆忘れちゃってるかもしれないから、どんどん言って欲しい」と拍手を送ってくれる人がいる一方、「堀さん、まだ被災地のレッテルを貼るのかい」「この10年間、どんな思いで風評被害と闘ってきたか分かるだろ」と言う人もいる。これは「被災地は」という主語が大きすぎるからなんですね。
――「被災地」とひとくくりにしても、いろいろな思いを持った人がいると。
じゃあ「福島」という主語はどうか。「福島は今も苦しんでいる」。これも違いますよね。福島には浜通りや中通り、他にも会津などがある。ひとくくりに「今も苦しんでいる」というのは誤りです。一部地域では帰還が始まっていたり、帰還が困難でも復旧復興に向かって何かしらの取り組みがあったり。一方で、先行きが見通せない地域もある。「大きな主語」を用いることは分断を招きます。
――「小さな主語」で語ることが重要であると。
例えば「○駅前で中華料理店を営んできた△さんは、震災から×年経った今も、元の場所で営業が再開できていません。夜、眠れない時があるといいます」――。こういう小さい主語で語ると、それは正しい正しくないではなく、「あ、そうなんだ」となりますよね。
――「事実」ということですね。
例えば、今蔓延している新型コロナウイルスの話なら、「中国人は」と言った瞬間に、いろんな中国の人たちを一緒くたにしてしまいますよね。逆に、「日本人はこうだ」「日本はこういう状況だ」と言われた時に、「どこの誰のことを言っているんだ」「私は違いますけど」と思わず反論したくなることもありますよね。一緒くたにしてしまうから、差別的な表現と捉えられてしまう。主語の置き方は丁寧に考えていかないといけないと思います。「香港人は」「北朝鮮人は」と大きな主語で語ることは、怖いことだと思いますね。
デモ隊の抗議に涙を浮かべた香港の警官
――香港のデモ隊と警察が向き合う場面は銃撃もあり、緊迫感が伝わってきました。堀さんは「取り締まる側もまた香港人である」とナレーションしていますが、ここにも「香港人は」という「大きな主語」の弊害がありそうですね。
僕はどちらかというと、デモ隊の若者たちを撮ろうとカメラを構えていた。デモ隊の中で向き合った警官の目元をアップでのぞいていると、ある隊員は激しく抗議されたことにくやしい思いがあったのか、涙を浮かべていました。目頭を押さえて、何も言えなくなった同僚に「おまえはもういいから下がっとけ」と声をかける警官もいた。普段は暴力的な彼らのそういう姿を見て、「誰がそうさせたのか」「背景にある仕掛けは何だろう」と想像する気になれた。そう思えるからこそ、「小さい主語」目線は重要だと思います。
ガザ地区入域直後の様子(ドキュメンタリー映画「わたしは分断を許さない」より)/(C)8bitNEWS
政治家の「分かりやすい言葉」に要注意 |
――取り締まる側と、取り締まられる側と2つに分けてしまうと、そこから先にある事実に、目が向かなくなってしまうと。
2つに分けて語るのは、シンプルで分かりやすいですよね。ただ、その分かりやすさで、自らの陣営を一気に広げていこうとするのは、政治的プロパガンダのセオリー。それに乗っていいのか、僕がそれを助長する装置になっていいのか、と思うんです。今はスマホやSNSが普及し、誰もがメディアになれる時代です。一国の大統領がSNSで人々の心を揺さぶる世の中ですから、注意深さは体得したいと思っています。
――日本の政治家はどうでしょう。
この間、討論番組で与野党の若手国会議員と一緒に議論したんですが、出てくる言葉は「大きな主語」のオンパレードでした。「社会はこうあるべき」「男性社会はこうで、女性社会はこうあるべき」とか、「政治は」「官僚っていうのは」とか……。僕は「皆さんちょっと各論で話しましょう」と持ちかけ、「こういう個別のケースがあった。他にも類似のケースがあった。どう手当てしていけばいいんですか」と聞くと、具体的な答えが返ってこない。これが国民が抱く政治への不信感のひとつかもしれません。
――政治に関心が薄いといわれる「若者」たちにとっても、「大きな主語」は分かりやすいのでしょうね。
今、ご指摘の「若者」というのが大きな主語になってますよ(笑い)。
――つい、使ってしまいました……。
いえいえ、僕自身もよくやっちゃうんです。「我々は」とか。いずれにせよ、「大きな主語」の先には、与野党問わず「選挙戦略」や「政治闘争への勝利」があるのでしょう。大きなビジョンへ向かっていくための「装置」かもしれない。そこをキチンと見極められる目を持ちたいですね。
(聞き手=小幡元太/日刊ゲンダイ)
▽ほり・じゅん 1977年、兵庫県生まれ。2001年、立教大学文学部卒業後、NHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て、13年4月にフリー転身。現在は、NPO法人「8bitNews」代表。監督した映画「わたしは分断を許さない」が3月7日から「ポレポレ東中野」ほか、全国で順次公開予定。
小さな主語でのコミニケーションは、大切さが、伝わってくる
— あき (@fujtmr) February 16, 2020
注目の人直撃インタビュー
— KK (@Trapelus) February 13, 2020
映画「わたしは分断を許さない」監督 堀潤
「日本人は」「中国人は」「香港人は」
大きな主語が分断の原因です
- 「経済発展のためなら少数は切り捨ては仕方ない」という風潮
- 政治家の「分かりやすい言葉」に要注意
(日刊ゲンダイ) pic.twitter.com/araxZPmiFP
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