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習近平打つ手なし 中国初コロナ恐慌、五輪中止の現実味
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/268804
2020/02/08 日刊ゲンダイ
あの歓喜からの7年がムダに(C)共同通信社
新型肺炎が日本経済をむしばんできた。影響が顕在化したのは、牽引役の自動車産業だ。
ホンダは14日にも計画していた中国・武漢工場の稼働再開を再び延期する方針だ。最短で今月下旬までずれ込む見通しだが、従業員の確保や在庫状況など不透明な要因ばかりで再開をさらに先送りする可能性は高い。
武漢工場の生産能力は年60万台と中国全体の約半分。昨年の中国での新車販売台数は約155万台と過去最高を更新し、業績を支える工場閉鎖が長引けば、ホンダの経営悪化は避けられない。
トヨタ自動車も稼働停止中の中国4工場の再開を17日以降に再延期した。昨年は中国国内で前年比6・6%増の約140万台を生産。販売台数は約162万台と初めて日本国内を上回った。こちらも閉鎖の長期化は業績の足かせとなる。
新型コロナウイルスの発生地・武漢は中国内陸部の交通の要衝。素材、自動車、ハイテクと幅広い産業が集まる。封鎖が続けば中国全土はもちろん、世界全体のサプライチェーン(部品供給網)にも大打撃だ。日本貿易振興機構によると、18年に中国から日本に輸入された自動車部品の総額は約3470億円。日本への輸入部品の約3割を占める。武漢封鎖の波紋に日本経済が巻き込まれるのは必至だ。
実際の感染者数は25万人と予測
収束のメドが全く見えない中、中国当局の感染者数の発表は信頼できないとの見方もある。
7日、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客から新たに41人の感染が判明。乗員乗客約3700人のうち、少なくとも61人の感染が確認された。7日までの感染率は約1・6%。
中国当局発表の武漢市の感染率に比べると、異常に高い。
7日時点で中国本土の感染者は3万1161人。うち武漢の感染者は1万1618人だ。
武漢の人口は約1100万人で、クルーズ船の感染率を当てはめれば、17万人以上が感染していてもおかしくはない。英ランカスター大の予測数はさらに多い。4日までに武漢市の感染者数が約25万人に達したと予測した。
山野美容芸術短大客員教授の中原英臣氏(感染症学)はこう指摘する。
「エボラ出血熱のように毒性が強いウイルスだと、患者が亡くなるため感染が広がりにくい。今回の新型肺炎の毒性は09年に流行した新型インフルエンザと同程度の弱さとされ、一般に毒性が弱いと患者が死なずに体内でウイルスが増え、感染が広がりやすいのです。しかも人から人に慢性的に広がるうちに、ウイルスが変異し、毒性が強まる心配もあります。武漢は既にパンデミックですが、世界レベルでの感染拡大のピークはまだ先。ワクチンや治療法など対処手段がない以上、収まるにはかなりの時間がかかりそうです」
約8000人が感染、死者774人のSARSは02年11月に最初の患者が見つかってから、WHO(世界保健機関)の終息宣言までに8カ月を要した。今回はさらに長期化しかねない。
習近平国家主席はトランプ米大統領との電話会談で、新型肺炎に「打ち勝つ自信と能力がある」と語ったというが、実際は打つ手なしでマッ青なのではないか。
打つ手なし(C)JMPA
あらゆる対策が水泡に帰す中国経済の停止 |
SARSが猛威を振るった際、世界経済の成長率の減速幅は0・1%にとどまったが、中国経済の存在感はあの頃とは格段に増している。世界経済に占める割合は当時の4%から現在は18%に拡大。日本に限っても中国人は訪日客の3割を占める「太客」。感染拡大が長期化するほど個人消費は縮小していく。
日銀の黒田総裁はサプライチェーンやインバウンド激減を通じ「影響が大きくなる可能性も意識する必要がある」と警戒感をにじませ、安倍首相は来週にも新型肺炎の緊急対策をまとめる考えを表明。与党も観光客減少で損害を受けたホテルや、サプライチェーンに影響が出た中小製造業への資金繰り支援など、慌てて対策に動き始めた。
「有事の円高」への懸念から政府は「クジラ」と称される世界最大級の年金基金を動かし、円相場を安定させているとの臆測が市場で広まっているが、いずれの対策も焼け石に水だ。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「中国当局による感染者数の過少発表の疑いがある限り、実体経済への悪影響は払拭できません。実際、ゴーストタウン化しているのは武漢だけではないようです。北京や上海、温州も厳しい外出規制が敷かれ、経済活動がマヒしていると、欧米メディアは報じています。それでも感染拡大は止まらない。先月23日の武漢封鎖から既に2週間も経済活動は事実上ストップしていますが、これが1カ月、2カ月と長引けば中国は大幅なマイナス成長に陥る。SARS蔓延時に成長率が2%ほど落ち込んだのとは次元が異なり、恐らく2桁台のマイナス幅となるでしょう。日本経済も中国とのビジネスが成り立たなくなれば大きな商機を失う。とてもじゃないですが、4月の習国家主席の国賓訪日の実現は困難ではないでしょうか」
3月中にはIOCに結論が下される
今や新型肺炎恐慌前夜の日本経済。習近平訪日が中止になるような事態になれば、さらなる「悲劇」が現実味を増す。ズバリ、東京五輪の中止である。
大会組織委員会は4日、「新型コロナウイルス感染症対策本部」を発足。本部長を務める武藤敏郎事務総長の会見に同席したIPC(国際パラリンピック委員会)のクレイグ・スペンス広報部長は、こう語っていた。
「WHO、IOC(国際オリンピック委員会)と密接に連携を取っている。特に日本と中国の当局は、十分責任ある行動を取り、対処してくれると確信している」
とはいえ、日本にできることには限界がある。発言の裏には、早い時期に感染拡大を食い止めなければ「それなりの対応を取る」との意味が隠されていると捉えるべきだろう。前出の斎藤満氏もこう予測する。
「感染が収まらない場合、東京に代わる開催地を選ぶ時間と現地の準備期間、チケットの対応を考えれば、3月中に結論を出す必要があるのではないでしょうか。特に欧米圏では新型肺炎について、中国だけでなく、アジア系全般への拒否反応が強い。日本人が思う以上に厳しいのです。マラソン開催地を日本の頭越しに札幌に変更したように、IOC、IPCが東京開催を断念する可能性は十分あり得ます。となると、数兆円も投じた五輪コストは回収できず施設もムダとなり、外国人客をアテにしたホテル、旅行、交通、デパートなどの業界は未曽有の大混乱。何より準備してきた選手が報われませんよ」
昨年10〜12月期の日本の成長率は消費増税と台風で大幅マイナス。今年1〜3月期も新型肺炎の影響で大減速必至。加えて4〜6月期は五輪中止のショックで、7〜9月期は現実の五輪キャンセルの影響と、実に1年にわたるマイナス成長も危ぶまれる。
習近平訪日と東京五輪のダブル中止となれば、安倍政権も総辞職せざるを得ないはずだ。しかし、日本経済に及ぼす代償はあまりにも重い。
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