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検察の“異常な逮捕・勾留”の犠牲者ゴーンに世界で同情広まる…村木氏冤罪事件の反省ゼロ
https://biz-journal.jp/2020/01/post_137396.html
2020.01.28 文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家 Business Journal
カルロス・ゴーン被告(写真:ロイター/アフロ)
「本来、日産(自動車)のなかで片づけてもらいたかった」
1月8日、安倍晋三首相がカルロス・ゴーン被告の日本政府批判を受けて、こう語ったと報じられた。日産の一連の事件に対する安倍首相の本音だろう。
同日、レバノンの首都ベイルートで行われたゴーン被告の記者会見に戦々恐々としていた関係者も多かったはずだ。事前には「この事件に関係した、あらゆる人物の名前が出されて、日本政府もかかわっているという“陰謀説”を中心に、日産幹部への批判が展開される」と語られていた。不法行為とはいえ、日本から無事に脱出できた以上、ゴーン被告とすれば日本人関係者に遠慮することもなくなっていたからだ。
ところが、実際の会見では、西川廣人元社長など複数の幹部が自分の逮捕に関与したと述べる程度で終わった。「日産とルノーの経営統合を進めようとしたことで、トラップを仕掛けられて失脚させられたクーデターだった」という、これまでも一部で報道されて内容で、新しい材料は皆無だった。
この背景には、日本政府からレバノン政府への圧力があったと一部で報じられている。そうだとすれば、わざわざ首相自身が乗り出さざるを得なくなったことについて、冒頭のような愚痴が出たことも納得できる。また、日本はレバノンに対してヨーロッパ主要国なみの経済支援を行っており、レバノン政府側もある程度、日本に配慮せざるを得ない面もある。
ただし、日本政府の圧力も日産を守るためだけに働いたようだ。日産には軍事力にも転用できる高い技術がある。また、倒産危機などを招いて中国企業に買収されるようなことになれば、虎の子の技術が中国にとられるリスクもある。そうなれば米国も黙ってはいないだろう。つまり、事は日米関係にも及びかねないのだ。
■ゴーン逃走劇にはフランスも加担か
ゴーン被告の逃走劇にはレバノンのみならず、フランスがかかわった可能性も浮上している。
まず、フランスの重要企業であるルノーは政府と強いつながりがあり、かつルノーは日産のEV(電気自動車)技術を喉から手が出るほど欲しがっているからだ。これまでの欧州車の環境技術は、眉唾物ばかりだった。トヨタ自動車の技術についていけなくなると、クリーンディーゼルをうたって、環境負荷が高いディーゼル車の普及を押し進めていった。だがそれも、排ガス不正問題で頓挫してしまった。
そこで浮上したのがEVだった。だが、ディーゼル車に傾倒していた欧州はEV技術が遅れていた。そこで目を付けたのが、日産の技術だったわけだ。
1月6日付夕刊フジに掲載されたジャーナリスト・須田慎一郎氏の発言によれば、ゴーン被告が日本脱出を図った関西空港の管理はフランスの会社によって行われており、その親会社がゴーン被告と親密なフランスの大手建設会社であるという。そうなると、フランスがゴーン被告逃亡にかかわった可能性も、まったくないとは言い切れない。というのは、ゴーン被告の罪状がルノーの立場にも影響を与える。ゴーン被告が一方的な被害を訴えているが、国際世論が味方になればルノーの日産吸収は継続できるかもしれないからだ。
■日本の検察の“人質司法”
ゴーン被告の会見では、日産自体へ批判がトーンダウンした一方で、日本の検察と司法制度の野蛮さを強調した。もともとゴーン被告は高いプレゼン能力を持っているので、日本の司法批判は、それなりに世界のメディアには響いている。実際、ウォールストリートジャーナルは「ゴーンの主張には説得力があった。日産や検察が信頼できる新証拠を提示できなければ、ゴーンは世論という名の法廷で無罪になるだろう」と締めている。反対に、ニューヨークタイムズのように「(ゴーンは)自己正当化に終始して一貫性がなかった」と酷評しているメディアもある。
ゴーン被告の会見が終わると、森雅子法務大臣がすかさずゴーン被告を批判した。これを好意的に扱った海外メディアもあったが、これは「両論併記の原則」を守る海外メディアの文法に沿ったレベルであり、インパクトに欠けていたことは否めない。
ゴーン被告の発言のうち、「妻と面会できなかった」「クリスマスに一人だった」などは、日本が貧富によって待遇を変えないことの表れといえる。日本は平等社会であって、ゴーン被告の見解とは“文化の差”との説明ができる範囲だ。問題はゴーン被告が強調した「人質司法」のほうだ。
最初の逮捕は「金融商品取引法違反」容疑とされマスコミも大騒ぎしたが、その対象が支払い済みのものでなく、退任後に支払われる予定のもので、しかも支払い時には日産の承認が必要だとわかり、報道はトーンダウンした。また、勾留期間が過ぎると、今度は2015年までの有価証言報告書の虚偽記載容疑で起訴して、その勾留期間が終わると、それ以降の虚偽義記載で再逮捕するという乱暴さだった。その間、マスコミではゴーン被告の悪評がこれでもかというほど繰り返し報道され、「ゴーン悪人説」が常識のごとく語られるようになっていった。
ゴーン被告逮捕当初から検察に批判的だった弁護士の郷原信郎氏は、そのあとの逮捕理由となった、日産が中東に送金したというサウジアラビア・ルートとオマーン・ルートについても、「中東での証拠収集がほとんどできていないまま、日産関係者の供述だけで特別背任で逮捕」したと、検察のやり方を批判している。まさに“捜査のための勾留”を重ねたにすぎない。
ゴーン被告の一連の逮捕理由のほぼすべてに、日産幹部の承認があったと報じられている。そうだとすれば、司法取引に準じたやり方で日本人幹部から聞き出した情報で、日産幹部は「おとがめなし」のまま、ゴーン被告を逮捕し続けていた疑いがある。これでは「日本人がグルになって外国人を罠に掛けた」と見られても仕方がない。少なくとも、ヨーロッパの基準で受け入れられるやり方ではない。
2009年に大阪地検が起こした村木厚子氏冤罪事件の反省は、どこに行ったのだろうか。取り調べの一部可視化を条件に得た通信傍受の拡大や司法取引の導入を利用して、さらに慎重さを欠いた捜査を行い始めているとしか、私には思えない。
日本国内では有効だったこのやり方も、世界の代表的なマスコミが集まった席で、プレゼンの天才であるゴーン被告に非難され、日本の司法の評価は地に墜ちてしまった。ゴーン被告が何を言おうと、検察が公平な捜査をしていれば、いくらでも反論できる。だが、今の検察のやり方では、ゴーン被告に同情が集まっても止めようがない。
日本で「国際化」がもっとも必要なのは検察なのではないだろうか。かつては“正義の味方”と思われていた検察が、今は“手段を選ばない不気味な組織”に見えて仕方がない。ゴーン被告によって、そのパンドラの箱が世界に向かって開けられたような気分になった。
(文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家)
白川司(しらかわ・つかさ) 国際政治評論家・翻訳家。世界情勢からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。著書に『議論の掟』(ワック刊)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)ほか。「月刊WiLL」(ワック)、「経済界」(経済界)などで連載中。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」も好評(https://foomii.com/00184)。
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