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2020年05月26日
ペスト(黒死病)がイギリスの「パブ文化」を育てた
https://gigazine.net/news/20200526-black-death-british-pub-culture/
人類は過去何度も感染症の流行に襲われ、多くの人が亡くなってきていますが、現代まで受け継がれる文化の中には、感染症の流行によって形作られたものもあります。イギリスの文化の1つである「パブ」もまた、ペストの流行をきっかけに作られていきました。
How the Black Death Gave Rise to British Pub Culture - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/what-is-the-oldest-pub
イギリス最古のパブの1つといわれる「Ye Olde Fighting Cocks」(イエ・オールド・ファイティング・コックス)は、ハートフォードシャー州のセント・オールバンズという歴史ある町に存在します。イギリスでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を受けて各都市でロックダウンが実施されており、イエ・オールド・ファイティング・コックスも閉鎖を余儀なくされましたが、閉鎖期間中のパブは高齢者に食料品を配達するなど、地域コミュニティの一部として機能しているとのこと。時にはイギリスの伝統的な食事「サンデーロースト」を作って配達するというアイデアは、店主のトファリさんによると、「パブの歴史」からインスピレーションを受けたそうです。
by Matt Brown
イギリスで感染症の大流行が起こったのは、COVID-19が初めてではありません。感染者の皮膚が内出血で黒変することから、「黒死病」と呼ばれるペストが14世紀ヨーロッパを襲った際は、世界人口の20%以上が死亡したといわれています。
ペストは1348年にイギリスの南海岸で感染者が確認され、1349年には多くに人が感染症の流行で亡くなりました。中世の歴史について研究しているNorman Cantor氏によると、ペストの流行に対して人々はなすすべがなく、貴族や富裕層も多くが死亡しました。当時、イギリスとフランスは100年戦争のさなかでしたが、ペストの流行は戦争を一時的に停止させるほどの威力でした。ペストは繰り返しヨーロッパを襲い、少なくとも1世紀中に3回の波があったといわれています。
イギリスに大打撃を与えたペストですが、歴史家のRobert Tombs氏によると、ペストの存在が、イギリス文化の1つである「パブ」を台頭させた側面を持つとのこと。
ペストが流行した1348年当時、イギリスでは既に「ビールを飲む」という行為が根付いていました。しかし、ペスト流行前のイギリスにおいて、ビールは家庭で醸造されたものが主流で、結婚式や教会の集まりなどで、各々が作ったビールの一種エールが振る舞われ、みんなで騒ぐといった飲み方が一般的でした。このため、特にエールの標準などはなかったそうです。
by Michael Fajardo
しかし、ペストによって人口の半分ほどの人が亡くなったため、1370年までに人材の不足が起こりました。このため農家の賃金が上がり、人々は高い生活水準を保てるようになったとのこと。この結果、それまで残り物のエールを売っていた一般家庭が商業化され、ビールや食べ物を販売する恒久施設に変化しました。
ペスト流行を生き抜いた人々は食べ物・着る物・燃料・家庭用品に対する支出を重視するようになり、より質のよいエールや食事にお金を費やし、肉や乳製品を消費するようになりました。また可処分所得が増加したことで余暇に使うお金も増えたとのこと。このような要因により、パブの文化が創り出されていったわけです。
もちろん、全てのパブが現代のパブのような形だったわけではなく、多くは「ビールを醸造する民家の一部」に近い形でした。しかし、時間とお金に余裕ができた農民がよりよい食事やビールを楽しみ、醸造が商業化されていったことで、この時代にビールとゲームを楽しむための「タヴァン」や「エールハウス」、そして宿泊場所とビールを提供する「イン」という「英国パブの精神」が作られたそうです。
イン・タヴァン・エールハウスの3つは、時間の経過と共に「パブリックハウス(公共の家)」として、1つのコミュニティに統合されていき、当局によって規制されるようになります。今日のイギリスで見られるパブはエールハウスが持っていた「コミュニティ」という側面と、「イン」の建築、夜にゆっくりと仲間と過ごす「タヴァン」の文化という、3つの遺産を受け継ぐものとのこと。
イギリスにとってパブはビールを売るだけの場所ではなく、イギリス文化を形作る重要な部分となっています。地域住民への食料配達を続けるイエ・オールド・ファイティング・コックスのトファリさんは、「戦争やパニック、感染症の流行があっても、私たちは何世紀にもわたって酒と食料を提供してきました」「今後も最善を尽くし、正しいことを行います」と語っています。また、ロックダウンによって閉鎖を余儀なくされ、いつお店を再開できるかわからないまま、家賃だけを払い続けているという他のパブでも、「バーチャル・トリビア・ナイト」を開催するなど、別の方法で地域の人々と関わる方法を模索しているそうです。
https://gigazine.net/news/20200526-black-death-british-pub-culture/
- 『レ・ミゼラブル』が描いた19世紀のパリ 王政が放置した下水道の探索 今日につながる公衆衛生の営み 中川隆 2020/5/27 14:44:35
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