日本人は本当に生産性が低かった。私たちの年収が世界最速で下がるワケ=吉田繁治 2020年8月13日 https://www.mag2.com/p/money/951149 ポストコロナの日本で最大の課題となるのは「生産性の低さ」でしょう。世界の先進国と比較すると、生産性も年収も低水準にあります。日本政府がなぜか公開しない産業別の日米生産性比較、世界の世帯平均給与との比較データをもとに解説します。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
もはや瀕死の日本経済
安倍首相は国会の閉会後、7月は記者会見にも出てきませんでした。根底の原因は、経済ではアベノミクスの成果を誇ってきましたが、消費税増税とコロナでの経済停止が、国際基準では幻想だったGDPの虚妄を剥いだからです。このため、国民に顔向けができなくなりました。 コロナ禍で、円安が誘導していたインバウンド消費(3,000万人:4.8兆円)も消えました。オリンピック需要も(当方の見解では)無くなっています。 日本の最重要課題は「生産性の低さ」 1995年以降の、日本経済のもっとも大きな問題は、産業の生産性の低さです。 米国のニューヨークでは、人と人が近づく対面産業(小売り、外食、サービス業)以外では、ほぼ100%の職種でテレワークが可能です。ニューヨーク市が外出の禁止をしても、対面型産業以外の会社業務は停止しません。企業の業務では、1990年代からデジタル・トランスフォーメーション(DX)が図られてきたからです。 小売では、店舗のないAmazonがあります(売上の年率増加20%)。ウォルマートやターゲットもWEB販売と宅配をおこなっています(WEB販売増加は前年比70%)。百貨店の高級ファッションは、商品の手触りも必要でしょう。百貨店は、外出自粛で破産と破産寸前になっています。百貨店は米国でもDX(デジタル・トランスフォーメーション)を果たしていないため、店舗を閉じると、売上がなくなります。
以上から、都市封鎖による経済の停止度合いでは、ジョブ・ディスクプション型(業務方法と成果を、会社と契約する仕事の方法)で自宅PCからインターネットを介したテレワークができる米国よりも、メンバーシップ型で担当の個々の成果責任が明らかではない仕事をしている日本のほうがはるかに深くなっています。外出自粛で「会社に行かないと仕事ができない」からです。 人的生産性の日米比較 なぜか日本では取り上げられることの少ない「人的生産性」を米国と比較すると、以下のようになっています。 企業の付加価値 ÷ 労働人時数(労働時間)=人時生産性(=人的生産性)です。 GDPは、人的生産性 × 8時間換算労働者数です。 出典:Productivity Level Database 1997 benchmark | Related releases | University of Groningen https://www.mag2.com/p/money/951149 政府は、こういったデータを発表しません。都合が悪い経済の実態を示すからです。
経営陣がやるべき3つの仕事
人的生産性を高める投資と仕組み作りは、経営の本質的な成果とすべきものです。 経営者の仕事は、人的生産性が高くなる仕組みを作り、社員には、世間の30%増しの賃金を払って、利益を出すことです。このためには、業界平均の人的生産性の2倍でなければならなりません。 経営の仕事は3つです。
(1)現在の事業の、目標とする成果(利益)を上げる (2)現在の事業のビジョンを示し、新事業の構想も固める (3)社員の生産性を上げる仕組みと制度を作り、社員の賃金は、同じ業界の平均の30%増しとすることを続ける 1990年の資産バブル崩壊(地価と株価)のあと、資産の下落で借入金が過剰になった企業は、90年代からの30年、設備投資と情報化投資を減らし、負債を減らすためキャッシュフローの利益確保に走りました。 1990年代から、設備投資を、設備と機械の減価償却費以下に減らした企業は、日本経済の成長のエンジンではなくなったのです。 生産性が高くなったという「幻覚」
将来のGDP = 所得 = 人的生産性 × 8時間換算労働人口 です。 人口減の日本では、欧州のように移民を大量導入しない限り、労働人口は増えません。人的生産性の上昇しか、GDPを増やす方法はないのです。 ところが、日本経済の人的生産性の上昇は、年率0.5%〜1%ととても低くなっています。 アベノミスクでは、政府系金融機関による株買いが企図され、株式市場では30%は高い「官製相場」が作られています。政府系金融機関とは、年金運用のGPIF(総資金量160兆円)、郵貯(同200兆円)、かんぽ生命(同80兆円)、そして資金量が無限の日銀です。最初に郵貯とGPIFが株を買い、かんぽ生命が続き、4番バッターが日銀です。 日銀は、2014年以来、30兆円の株ETFを買っています。コロナショックのあとは、1年12兆円(1回が約2,000億円 × 60回(ほぼ毎週)です。 政府系金融機関が「買うだけで売らない」ため、日本株は30%は底上げされているでしょう。日経平均株価2万2,8437円(20年8月12日)のうち30%は、6,800円に相当します。 東日本大震災を受けた民主党政権では、8,500円を割っていた日経平均(12年6月)は、安倍政権の(1)量的緩和と(2)政府系金融による株買いを2つの主因として、以下のように2.3倍に上がっています。平均年率11%での上昇でした。 2013年6月:1万3,200円 2014年6月:1万4,900円 2015年6月:2万0,500円 2016年6月:1万7,000円 2017年6月:1万9,800円 2018年6月:2万2,100円 2019年6月:2万1,000円 2020年6月:2万2,200円 つまり、金融的な原因で株価が上がったことが、日本の実体経済が好調になり(失業率は減って)、生産性も高くなっているという幻覚を振りまいてきたのです。 この幻覚は、ドル建て生産性と給与を見ると、覚めるのです。
筋違いだったアベノミクス
アベノミクスの7年は、わが国の低い生産性に着目し、生産性を上げる、規制緩和を含む誘導(構造改革)をすべきでした。 ところが、実際に行ったことは、国債を日銀が買って、円を増発して銀行の現金(マネタリーベース)は500兆円に増やし、円安にすることだったのです。 円安政策とは、国際基準(ドル)での預金の価値が下がった国民にとっては、貧困化政策になります。これを示すのが、最初のページで紹介した「米国を100としたときの、日本の産業の人的生産性(2012年)」です。
ともかく、日本の産業の生産性は、低すぎます。 世帯所得平均も552万円となり、94年比で110万円も下がったため、韓国にも追い抜かれる寸前になったのです(主婦の70%の共稼ぎを含む)。 日本の転落は世界一激しい 思い起こせば日本は、1980年代の後期は、世界一の所得と資産でした。現在のスイスのような位置でした。転落は、世界一激しくなっています……。 ※参考:世帯平均所得は552万円…世帯あたりの平均所得をさぐる(2019年公開版)(不破雷蔵) – 個人 – Yahoo!ニュース(2019年7月28日公開) 出典:【ランキング】世界の平均給料【2019】1〜30位 | Izanauのコラム https://www.mag2.com/p/money/951149/3
生産性停滞の原因は「デジタル・トランスフォーメーション」の遅れ 生産性の停滞の原因は、世界の主要国と比べたときの、2000年代のモバイル化含むDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れです。 数字の処理なので情報化投資の権化であるべき金融業を含む全産業が、80年代のレガシー・システム以降の、2000年代情報化投資を渋ってきたことです。 なぜ、渋ったのか?方向と方法が、経営者に見えていなかったからです。
|