2021年08月27日 黄金の十字架 / 忘れ去られたポピュリスト 金本位制の秘密 http://kurokiyorikage.doorblog.jp/archives/68868984.html William Jennings Bryan 655Jewish picture 333
(左 : ウィリアム・ブライアンを宣伝するポスター / 右 : ユダヤ人の金貸しを描く風刺画) 8月21日のチャンネル桜で、水島総社長と近代史家の林千勝による対談が放送された。最近、林氏は一般書店やアマゾンで販売されない『ザ・ロスチャイルド』という本を出版したので、色々なYouTubeチャンネルでロスチャイルド家にまつわる話している。(この本は「経営科学出版」から直接販売されており、林氏のツイッターからも購入できるそうだ。) チャンネル桜で定期的な出演をする林氏は、前々からロスチャイルド家の過去や金融資本家の手口など紹介していたが、今回は米国における金本位制や民間銀行、ポピュリズムなどに触れていた。彼はドナルド・トランプ以前にもアメリカには「ポピュリズム(人民主義)」があったと述べ、日本人が誤解している「大衆迎合(ポピュリズム)」を修正するため、1896年に大統領選挙の候補者になったウィリアム・ジェニングス・ブライアン(William Jennings Bryan)を紹介していた。 William Jennings Bryan 667( 左 / ウィリアム・ジェニングス・ブライアン ) このウィリアム・J・ブライアンは元々、ネブラスカ州選出の連邦下院議員(民衆党)で、“草の根”運動の政治活動をしていた人物。真面目に働く巷の庶民は、倫理道徳のことなら体験的に解るけど、金融とか経済といった複雑な学問にはお手上げだ。だから、狡猾な銀行家をやっつけるブライアンは庶民の味方。彼が民衆から絶大な支持を受けていたのも頷ける。ウィリアム・ブライアンは当選こそしなかったものの、1896年と1900年、そして1908年の三回にわたって大統領選挙に出馬し、通貨発行権を民衆の手に取り戻そうと奔走した。ブライアンの政敵はズバリ、「中央銀行」を私物化しようとする国際金融資本家だ。換言すれば、連邦準備制度の成立を目指すエスタブリッシュメントである。 アメリカ合衆国は理念上、共和政ローマと同じ統治形態を有するから、王様が国家の「宝箱(fiscus)」を独占することはない。通貨鋳造の権利、すなわち君主の特権(seigniorage / 通貨発行権)」は、アメリカ人民の掌中にあるはず。アメリカ共和国の財務長官や米銀総裁は、国王陛下に仕える大蔵大臣(Exchequer)ではなく、立法府や行政府の管轄下にある金融機関でなければならない。ところが、現在のアメリカはどうなのか? どのくらい儲けているのか全く分からない謎の金融業者が、中央銀行もどきの独立機関にふんぞり返り、そこの理事や総裁に就いているんだから言語道断だ。しかも、アングロ・サクソン人ではないユダヤ人が、こともあろうに名誉ある連邦議員や最高裁判事、財務長官、国防長官、FRBの議長になっているんだから、建国の祖父が蘇ったら死にたくなるだろう。 利子が附かない政府発行の自国通貨というのは、アメリカの庶民にとって長年の夢である。資産と自由を大切にするアメリカでは、常に公式な中央銀行による無利子の紙幣が求められていたので、1791年に設立された最初の「合衆国銀行(Bank of the United States)」や1816年に再び設立された「第二合衆国銀行」に愛国者は激しく反対した。この第二合衆国銀行は時限立法による暫定的な金融機関であったので、恒久的なチャーターに基づく銀行ではなかった。1833年9月10日、アンドリュー・ジャクソン大統領は銀行継続の更新を許さず、拒否権を用いて銀行から全ての公的資金を取り除いてしまった。当然、旨い汁を吸っていた金融業者は大激怒。俗に言う「銀行戦争(Bank War)」の勃発だ。 しかし、経済的搾取に苦しむ一般国民は、ポピュリストのジャクソン大統領を熱烈に支持。この庶民派大統領は、一部の特権商人が私腹を肥やし、常識で暮らす勤労者が抑圧されるなんて“けしからん”と思っていた。また、巷の庶民も同じ憤慨を抱いており、紙幣を印刷するだけで巨額な利益を得る銀行を忌々しく思っていた。腹が立っても反抗できない無力な民衆は、第二合衆国銀行の傘下に収まっていた各銀行を「ペット銀行(pet bank)」と呼んでいたくらい。ところが、議会で安逸を貪る政治家というのは、基本的に風見鶏か偽善者。彼らは民衆の声ではなく、札束の量と金貨の音に靡く。合衆国銀行を仕切っていたニコラス・ビドル(Nicholas Bidle)は、飼い馴らした議員連中の尻を叩き、驚いた「先生」方は御主人様のご要望にお応えしようと獅子奮迅。情けないけど、これが現実だ。当時の有力者であったケンタッキー州選出のヘンリー・クレイ(Henry Clay)上院議員は、銀行の旦那衆に媚び諂(へつら)い、ジャクソン大統領の反対者になっていた。 Andrew Jackson 001Nicholas Biddle 01Henry Clay 01 ( 左 : アンドリュー・ジャクソン / 中央 : ニコラス・ビドル / 右 : ヘンリー・クレイ ) 保守派の国民、つまりカタギの平民から愛されるトランプ大統領が、ホワイトハウスの中にジャクソン大統領の肖像画を掲げていたのは、こうした歴史を知っていたからだ。ところが、端っから木偶(でく)の坊で、国際金融資本家のペットになったジョセフ・バイデンは、養老院(ホワイトハウス)に入居するや否や、大統領執務室からジャクソンの肖像画を取り外してしまった。ただし、その本意を隠すために、一応“当たり障りのない”ベンジャミン・フランクリンの肖像画を掲げ、知らぬ顔でお茶を濁していた。ところが、トランプ大統領を徹底的に否定したいバイデンには別の意図があった。この痴呆老人は、重要な政治問題に関する答弁なら直ぐ忘れるのに、左巻きの支持者に対する「胡麻すり」だけは忘れなかったというから凄い。何と、バイデンはあの極左活動家として悪名高い、セザール・チャベス(Cesar Chavez)の胸像を設置したのだ。(Zack Budeyk, "Biden replaces Andrew Jackson portrait in Oval Office, adds Cesar Chavez bust", The Hill, January 20, 2021.) Cesar Chavez 2Rosa Parks 22Martin_Luther_King,_Jr. 033Eleanor Roosevelt 1 (左 : セザール・チャベス / ローザ・パークス / マーティン・ルーサー・キング / 右 : エレノア・ローズヴェルト ) もう目が眩んでしまうというか、呆れ果ててしまうじゃないか。共産主義者や反米主義者の労働組合から拍手喝采を浴びる極左分子、というのがチャベスだ。左翼陣営がこぞって崇める英雄の彫像を、よりにもよってホワイトハウスの執務室に置くなんてどうかしている。だが、その両隣には別の胸像が二つ並んでいた。一つは黒い左翼のマーティン・ルーサー・キング牧師。もう一つは白い左翼に惜しまれたロバート・ケネディー司法長官。これを見ればバイデンがどんな連中に媚びているのか、がよく分かる。さらに、ホワイトハウスには限りなく共産主義者に近いエレノア・ローズヴェルト夫人と、公民権運動で有名な黒人活動家のローザ・パークス(Rosa Parks)を描いた肖像画も掛けられていた。これじゃあ、白亜館じゃなくてマルキストのピンク・サロンじゃないか。 脱線したので話を戻す。エイブラハム・リンカン大統領が南北戦争で必要な戦費を調達するため、政府主導の「グリーンバック(Greenbacks)」紙幣を発行し、人々から好評を博したのは有名な話である。ところが、自前の通貨発行で儲けたい金融業者は、何としても無利子の政府紙幣を葬りたい。そこで、彼らは政府を困らせるために、「国債の償還(返済)は金(gold)で支払え !」と騒ぎ立てた。本来なら、国債の支払いは緑色の紙幣で済むはずなのに、銀行家とツルんだ牧師や教授達は、正義漢を装って一緒に煽り立て、「金で償還すべし !」と要求し始めたのである。 Edmond_James_de_Rothschild 02James_Armand_Edmond_de_Rothschild 01(左 : 父親のアブラハム・エドモンド・ベンジャミン・ジェイムズ・ド・ロスチャイルド / 右 : 息子のジェイムズ・アーマンド・ド・ロスチャイルド ) ところが、こうした支払い方法になると政府は窮地に陥ってしまう。なぜなら、政府は全ての国債を金で償還できるほどの金を保有していなかったからだ。もしゴールドでの返済になれば、誰かからゴールドを借りなければならない。しかし、大量の金塊を貸してくれる人物となれば数は限られてくる。心当たりと言ったら、先ずイングランドの大富豪であるジェイムズ・ロスチャイルド男爵が浮かんでくるし、他の者といっても、このユダヤ人と同類の銀行家しかいないのだ。これは本当に馬鹿らしい。リンカン大統領以降の合衆国政府は、黄金ではなく紙幣で経済成長や財政の健全化を図ろうとしたのに、国債を償還するためにヨーロッパの金持ちからゴールドを借りて、ゴールドを差し出し、余計な利子まで附けて支払う破目になってしまうんだから。以前、当ブログで紹介したスティーヴン・ザレンガによると、金(gold)というのは究極的に、ロスチャイルド男爵や他の国債保有者から離れ、再びロスチャイルド男爵と国債保有者に戻る、という仕組みになっているそうだ。(Stephen A. Zarlenga, The Lost Science of Money : TheMythology of Money - The Story of Power, New York : American Monetary Institute, 2002, p.487.) ブリテンのロスチャイルド家とアメリカにいる国際金融資本家は、何としても自分達の「中央銀行」を合衆国政府に認めさせ、“私的”な銀行を“公的”な銀行のように見せたかった。そして、自分達が独占しコントロールできる「ゴールド」を“裏付け”にし、自らの金本位制を揺るぎないものにしようと謀ったらしい。なぜなら、一部の経済学者やアメリカ人の金融業者は、銀を基にして貨幣を発行してもいいんじゃないか、と思っていたからだ。しかし、大量に流通する銀を使われたら米国や歐洲の金融を支配できないから、どうしても金本位制じゃないとマズかったのである。 August Belmont 002(左 / オーガスト・ベルモント ) アメリカの輿論が「グリーンバック」紙幣に傾くのを懼れたロスチャイルド家は、現地の手下を動かしてグリーンバック運動の芽を摘んでしまえ、と画策した。その一人がロスチャイルド家に仕える在米エージェントのオーガスト・ベルモント(August Belmont)である。彼はドイツのレニッシュ・ヘッセンに生まれた外国人なのだが、親分と同じ種族のユダヤ人。(ただし、ベルモントはセファラディー系。) ベルモントは当初、キューバにおけるロスチャイルド家の利益を守るために派遣された代理人であったが、ユダヤ人らしく転々と様々な職業に就いた。彼はニューヨークで勤務するオーストリア帝國の総領事になったし、活躍の場を政界に移すと、今度は後に大統領となるジェイムズ・ブキャナン(James Buchanan)に仕え、彼の選挙参謀になっていた。 ちなみに、1852年の大統領選挙では、ペンシルヴァニア州からブキャナンが出馬したが、他にも大物が立候補し、イリノイ州からはスティーヴン・ダグラス(Stephen Douglas)が名乗りを上げた。テキサス州からは大御所の政治家、あのテキサス共和国で大統領を務めたサム・ヒューストン(Sam Houston)も候補者になっていた。ところが、選挙の蓋を開けると、ダークホースのフランクリン・ピアース(Franklin Pierce)が当選。敗れたブキャナンはピアース政権で駐英アメリカ大使となり、ベルモントの方はネーデルランドへ派遣されるアメリカ大使となった。 Franklin Pierce 11Stephen A Douglas 01Sam Houston 3James Buchanan 02 (左 : フランクリン・ピアース / スティーヴン・ダグラス / サム・ヒューストン / 右 : ジェイムズ・ブキャナン )
こうした経歴を持つベルモントは、1860年、民衆党の全国委員会の委員長に就任する。だが、彼の権力は政界だけでなく、マスコミ界にも及んでいた。このユダヤ人エージェントは、マントン・マーブル(Manton Marble)が主幹となっていたニューヨークの新聞、『The World (or The New York World)』のアシスタントを務めていたのだ。この新聞を購読する者は主に民衆党員であったから、大統領選挙となれば同党から出馬するホレイショ・セイモア(Horatio Seymour)候補を支援するはずであった。ところが、裏でベルモントが動いたから、新聞の論調は一夜にして激変。以前から『The World』紙は「グリーンバック」に賛同しており、元ニューヨーク州知事のセイモア氏を支持すると思われていた。しかし、ロスチャイルド家の権力は見くびれない。1869年、民衆党のセイモア候補は、あえなく敗北。共和党の候補者であったユリシーズ・グラント(Ulysses S. Grant)将軍が勝利を納めた。 Ulysses Grant 1870(左 / ユリシーズ・グラント ) 当選した北軍の大将は、46歳という若さで合衆国大統領になった。普通の日本人は43歳で就任したジョン・F・ケネディーが最も若い大統領と思っているが、セオドア・ローズヴェルトは42歳で就任したから、彼が一番若い。ちなみに、ビル・クリントンが大統領に就任したのは46歳で、バラク・オバマは47歳で大統領になった。逆にアメリカ史上、最も高齢で大統領になったのはジョセフ・バイデンで、普通なら隠居するはずの78歳。でも、ロナルド・レーガンが77歳で就任していたから、それほど驚く事じゃない。トランプ大統領とアイゼンハワー大統領も70歳で就任したし、ジェイムズ・ブキャナンとアンドリュー・ジャクソンが就任したのは69歳の時だった。 翻って我が国は・・・? 東京都知事の小池百合子は、もしプロフィールが正しければ、昭和27年(1952)生まれの69歳だから、まだまだ総理の椅子を狙える年齢だ。引退しそうな二階俊博は、昭和14年生まれの82歳。自民党の重鎮である麻生太郎も高齢で、昭和15年生まれの81歳だから、そろそろ潮時である。もし、菅総理の側近が“菅院政”のシナリオを作るなら、東京の女帝を“電撃復党”にさせる、という「どんでん返し」も可能だ。保守派国民は高市早苗を望んでいるが、知名度と人気度から言えば小池の方が遙かに上だから、野心家の女帝も「その手があるわよねぇ〜」と微笑む。レイムダックの菅義偉に、役人的な岸田文雄、左翼が持ち上げる不人気の石破茂と河野太郎、という面子を見れば、小池百合子が“勝利”を確信してもおかしくはない。「辞任した都知事が衆院選に出馬 !」となれば、マスコミは小池劇場で大賑わいだ。裏舞台での密約を考えるなら、橋下徹と昵懇の菅総理が日本維新を取り込み、元田中派の二階が小沢一郎と組めば立憲民主党は自民党の下部組織になる。二階と小沢、菅の親分たる習近平にも異論はあるまい。男を変えて出世する小池が、「昔の男」である小沢とヨリを戻し、習近平の妾になっても不思議じゃないし、この女帝なら米国と支那に愛想を振りまく二股交際だって有り得る。 脱線したので話を戻す。それにしても、なぜ民衆党系の『The World』紙が、共和党のグラント将軍を助けるような真似をしたのか? この答えはグラントが就任早々に行った署名にあった。彼は当時の銀行家が推進した、所謂「債権強化法(Credit Strengthening Act / Public Credit Act of 1896)」を承認し、「金(ゴールド)で政府の債権を支払います」、と誓ったのだ。前任者のアンドリュー・ジョンソン大統領は同法に対し、大統領の拒否権(veto)を以て却下したのに、新たな大統領はパトロンの御機嫌を取っていた。やはり、権力の階段を昇り始めると、金持ちの下僕になるらしい。ちなみに、グラント大統領は元々反ユダヤ主義者で、南北戦争の時は「General Order No. 11」という法令を発して、彼の占領地からユダヤ人を全て追い出したことがある。現在のアメリカ軍人はユダヤ人の権力に怯える意気地無しが多いけど、昔の軍人は勇敢なうえに正直で、遠慮なく反ユダヤ的な発言をしていたから偉い。例えば、陸軍のアモス・フリーズ少将は、ユダヤ人をアメリカの遺産と宗教を侵害する原因と評していたし、「米国ユダヤ人委員会(AJC)」を嫌悪する、ある陸軍大佐は、ユダヤ人を堕落した「下劣な詐欺師」と呼んでいた。参謀本部のJ.S. リチャードソン少佐やドイツ駐在武官のトルーマン・スミス大佐もユダヤ人を侮辱することに躊躇は無かった。(ジョーゼフ・W・ベンダースキー『ユダヤ人の脅威』 佐野誠 / 他 訳、 風行社、2003年、pp.54-57.) Simon Wolf 22(左 / サイモン・ウルフ ) ところが、グラント将軍も政界で最高司令官になると、奇妙な具合に態度が豹変した。彼はユダヤ人の御機嫌を取るためか、辣腕の法律家で「ブナイ・ブリス(B'nai B'rith / 有名なユダヤ人団体)の指導者を務めていたサイモン・ウルフ(Simon Wolf)をアドヴァイザーにしたのだ。しかも、ロシアの国境でユダヤ人2千名が排斥されると猛烈に抗議した。ロシアに続いてルーマニアでもユダヤ人に対する迫害が起きたので、グラント大統領は再ひ激怒。もう、ジョン・F・ケネディーかリンドン・B・ジョンソンを髣髴させるような大統領である。(両者とも大のユダヤ人贔屓。) ユダヤ人に奉仕すると御褒美が貰えるようで、1873年、グラント大統領は再選された。ユダヤ人に媚びるグラント大統領を観ると、何となく吐き気がするので、彼のエピソードは省略する。 林千勝はチャンネル桜の番組で、ウィリアム・ブライアンの貨幣論や民衆運動に言及したが、その情報源やネタ本を披露しなかったので、視聴者の中には不満に思った人もいるはずだ。筆者はアメリカの裏歴史や貨幣論争を知りたい方に、先ほど紹介したスティーヴン・ザレンガの本を推奨したい。この本は720ページにも及ぶ大著であるが、各章が簡潔かつ具体的に書かれているので、アメリカ史を勉強したい人には格好の参考書になると思っている。日本の大学教授が書いた本を読む人なら分かるはずだが、彼らは制度論や法律論ばかりに焦点を絞り、どんな素性の人物が誰と組んで、如何なる法案を作成したのか、どんな意図を持って、あるいは、どのような魂胆で新たな制度を構築したのか、という点を説明しないのだ。それゆえ、参考文献として渡された本を熟読しても、その真意がよく分からないし、授業を聞いている学生も何が何だか解らない。大学で金融の歴史やアメリカ経済の仕組みを勉強した学生でも、生々しいアメリカ史になると中学生程度の無知蒙昧で、「そう言えば、どうなんだろう?」と首を傾げてしまう。こんな塩梅だから、「卒業証書は領収書」と小馬鹿にされるのだ。 またもや脱線したので話を戻す。林千勝は水島社長を前にして、ウィリアム・ブライアンの「黄金の十字架演説(Cross of Gold Speech)」を紹介したが、引用元を披露しなかったので、勉強熱心な視聴者には不満であろう。日本の評論家は政治や歴史の本を書いても、どこから引用したのかを明かさない人が多い。これでは、著者が本当の事を述べているのか、正確な引用なのかが分からないから、本の価値が著しく低下する。筆者は林氏の新刊本『ザ・ロスチャイルド』を購入したが、詳細な脚注が施されていなかったのでガッカリした。巻末に参考文献を羅列しただけでは読者の利益にならない。 それはともかく、ブライアンは有名な政治家だったので、彼の演説文は簡単に手に入る。「黄金の十字架スピーチ」は彼の評論集である『The First Battle』の中に納められていた。そこで、ブライアン演説の一部分をちょっとだけ紹介したい。彼は金本位制を維持したい金融業者を非難して、民衆の利益を擁護していた。 これは再び1776年の問題である。我々の祖先は、人口が300万人であった頃、どの国に対しても政治的に独立していると宣言するだけの勇気を持っていた。彼らの子孫である我々は、人口七百万に増大したが、祖父達よりも独立性が少ないといえるのか? 諸君、違うぞ。まだ評決が下りたわけじゃない。それゆえ、どこで闘いが行われているのか、ちっとも構わないのだ。もし、彼らが金銀複本位制(bimetallism)が良いと言っても、我々は他国が手伝ってくれるまで、それを持つことはできない。 我々はこう答えよう。イングランドが持っている金本位制を持つ代わりに、我々は複本位制を取り戻し、イングランドにもこれを採用させようじゃないか。なぜなら、合衆国がこの制度を取っているからだ。もし、彼らが公の場に出てきて、金本位制を善きものとして擁護するんなら、我々は徹底的に戦おうじぉないか。我々の背後には、この国で働く大衆や、商業的利益に支えられた世界、労働者の利益、各地の苦労人が存在する。金本位制を要求する彼らに答えてやろう。君達は労働者の額に茨の王冠(crown of thorns)をギュっと被せることはできないし、全人類を黄金の十字架で磔にして苦しめることは出来ないんだぞ。("Contest Over the Platform", in William Jennings Bryan, The First Battle : A Story of the Campaign of 1896, Chicago : W.B. Conkey Company, 1896, p.206.) 日本では無名のブライアンでも、アメリカ本国では今でも人気が高い。ただし、ブライアンの伝記や評論には注意が必要な本もあるので、よく吟味して読まなければならない。一般国民の中にはマイケル・カジン(Michael Kazin)が書いた『A Godly Hero』という伝記を手にする人もいるが、ポヒュリズムを研究するユダヤ人学者には左翼が少なくないので、心の奥にどんな意図を隠しているのか、と疑った方がいい場合がある。また、アメリカの金融や財政を勉強する日本人は、ワシントンやウォール街の地下に流れる“ドス黒い水脈”にも目を向けなければならない。明治大学の海野素央や上智大学の前嶋和弘、慶應義塾の中山俊宏の授業を聞いても、アメリカの実態は解らないぞ。 http://kurokiyorikage.doorblog.jp/archives/68868984.html
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