http://www.asyura2.com/20/kokusai29/msg/742.html
Tweet |
※2020年12月3日 日刊ゲンダイ9面 紙面クリック拡大
吉崎達彦氏が占うバイデン新政権の舵取りと日米関係の今後 注目の人 直撃インタビュー
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/282191
2020/12/07 日刊ゲンダイ
吉崎達彦氏(C)日刊ゲンダイ
吉崎達彦(双日総合研究所チーフエコノミスト) |
米大統領選は、法廷闘争を続けているトランプ大統領がついに力尽きそうだ。14日に行われる選挙人投票でバイデン大統領誕生は確実。決まればトランプはホワイトハウスを去る用意があると表明した。とはいえ、両者の得票はバイデン8000万票、トランプ7400万票。バイデン新政権は真っ二つに割れた米国社会をどうかじ取りしていくのか、日米関係はどう変わるのか――。大統領選をウオッチし続けてきたこの人に聞いた。
*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。
◇ ◇ ◇
――バイデン政権への移行が粛々と進む中、トランプは法廷闘争を続けています。
今年は新型コロナウイルスに見舞われ、トランプがなかなか敗北を認めない困った大統領選ではあるけれども、そこは州ごとにルールが異なる地方分権型の選挙システムのおかげで、安心して見ていられます。逆に中央集権型だったら、連邦最高裁の判決ひとつでひっくり返って、トランプ逆転の可能性がありました。米国の選挙システムは長い歴史に耐えてきただけあって、こういうときに意外としっかりしているのだなと改めて感心しました。
――国を二分する選挙戦となりました。
米国は中間層が少なく、「赤」か「青」に分裂してしまう国です。今は保守とリベラルで割れている。中間層の多い日本から見ると、真っ二つになってとことん戦う米国が不安に映るけれど、負けた側から人が去っていくので、とりあえず負けた側は少しおとなしくなり、勝敗がハッキリしてくる。白黒つけて一からやり直しする方が、米国民にとっては快適なのでしょう。
――トランプによる政権移行の妨害には、身内である共和党内からも批判が噴出しています。
トランプはプロレス興行から多くを学んだ人。悪役のレスラーが負けたときのことを考えると、敗北をすんなり認めないのは全然、不思議ではありません。米大統領がやっていると思うから困る。彼の言葉を額面通りに受け止めてはダメなのです。
今の米国には「昭和のアナログ政治家」が必要だった |
――トランプがヒールレスラーなら、バイデンはどんな人物でしょうか。
2つの特徴があると思います。1つは「わらしべ長者」のように運が良い人。もう1つは、いわゆる「国対族」の政治家だということです。この2つの特徴から説明すると、今回の選挙の面白さが見えてきます。
――どういうことでしょうか。
バイデンが「わらしべ長者」であるという意味は、何か見えないものに味方されて勝利したということです。バイデンは今年2月のアイオワ州党員集会で4位でした。普通、アイオワ州で4位以下は足切りです。その時点で候補者としての生命を絶たれているはずでしたが、集計アプリの調子が悪くて数字が正確に出なかったおかげで、誰が1位かも分からず、バイデンが4位だったこともなかったことになった。3月の「スーパーチューズデー」では同じ中道派の候補2人が選挙戦を離脱し、バイデン支持に回ってくれたおかげで勝利を獲得した。その後、コロナ襲来やBLM運動の拡大、感染者急増と、不思議な力に導かれるようにして大統領選を勝ってしまったのです。もし、私がバイデン陣営の末端のスタッフだったら、今ここにいることが信じられないくらいの感覚でしょう。
――もうひとつの特徴である「国対族」とは何でしょうか。
その話をしてくれたのは笹川平和財団上席研究員の渡部恒雄さんです。「バイデンはうちの親父(渡部恒三元衆院副議長)と同じだよ」と。「渡部恒三って具体的に何した人?」って聞かれたら思い出せないけれど、「平成の黄門さま」と呼ばれて愛された政治家でしたよね。バイデンも同じで、好かれる人であり、悪く言う人がいない。そして、与野党との間でいつの間にか話をつけている。いわば「昭和のアナログ世代」の政治家なのです。そんな人が今の米国に必要だったと捉えると分かりやすい。
――米社会にとって、「国対族」が必要?
議会選挙では共和党が負け渋り、民主党は上院では多数派を取れませんでした。もし、事前の予測通り、上下院、ホワイトハウスも全部、民主党が大差をつける「トリプルブルー」となっていたら、民主党左派があれもやれ、これもやれと言って、まとまらなかったでしょう。ところが、上院は共和党が多数を取っているから、法案を通すためには1人でも2人でも共和党議員の賛同を得ないといけない。そこで「国対族」であるバイデンの出番です。共和党の重鎮であるミッチ・マコネル上院院内総務に「これ頼むよ」と根回しできるのは、年もキャリアも近いバイデンぐらいなものでしょう。今はSNS時代なので歯切れの良い人が人気になりやすいけれども、そんなデジタル化が進んだ今の政治に、意外と昭和のアナログ的な「人肌の熱さ」が求められているのかなと思います。
米国を二分した(C)ロイター
自動車規制の行方が日本経済の命綱 |
――バイデンの政策の特徴は何でしょう。
政権移行チームは優先4分野を掲げています。「コロナ対策」「経済再建」「人種の平等」「気候変動」の4つです。選挙期間中に民主党内左派と中道派がお互いに委員を出し合い、政策論議をやって、政策の6本柱をつくっています。その中で1番手に掲げられているのが気候変動対策です。コロナ対策がトップかと思いきや、左派の国民皆保険制とか学生ローン無償化などの“過激”な公約を取り下げてもらう代わりに、左派の希望である気候変動対策を重視することになった。ただ、現実問題として足元はコロナ対策優先になっていくと思います。バイデンはコロナを収束させた大統領になりたいのではないか。語弊を恐れず言うと5年を超えてパンデミックが続くとは考えにくいので、4年の任期のうちに抑えられる。4年間でコロナ対策をちゃんとやって、後任にバトンタッチしたいと考えていると思います。
――「シンゾー」「ドナルド」と呼び合っていた日米首脳が代わり、菅首相とバイデンによって日米関係がどう変わるかも気になります。
バイデンはトランプに比べて予見可能性が高い。日米首脳の電話会談でバイデンが、「尖閣は日米安保5条の対象内」だと言ったようですが、普通、日米安保5条や6条に何が書いてあるかなんてことは知らないはずです。「これを言うと絶対喜びます」と耳元でささやくスタッフがいるのでしょう。日本側からすると安心感があります。
――通商政策も注目です。
バイデンの通商政策は思ったほどトランプと変わりません。関税をかけるのは国民負担を増やすからよくないと主張していますが、中国への制裁関税を一気にゼロに戻せるかというと、それは政治的に難しい。今回の大統領選で、前回2016年選挙でトランプが取ったいわゆるラストベルトの州を民主党が取り返しました。しかし結構、僅差です。制裁関税を急に元に戻したら、かろうじてバイデン支持に回ったブルーカラーの支持層がどう受け止めるかを考えなくてはいけないのです。結局、「バイアメリカン」や海外の慣行に是正を求める動きはあまり変わらない。そこはシビアに見ていた方がいい。日本経済にとって自動車の対米輸出が命綱なので、バイデンが自動車規制をどのように進めていくかも注目です。
これからは「ウィズトランプ」時代 |
――トランプ支持者の顔色をうかがいながらのかじ取りを迫られる?
簡単に言うと、これからの時代は「アフタートランプ」ではなくて、「ウィズトランプ」です。トランプが前回選挙から1000万票以上を上乗せし、票を掘り起こしてくれたおかげで、共和党の上下院議員の中には議会選挙で助かった人もいるでしょう。この人たちは「2年後の中間選挙は大丈夫かな」と考え、トランプに応援をお願いする。別の見方をすると、共和党は大敗していれば生まれ変わることができたけれど、議会レベルでほとんど勝ってしまったから生まれ変わるチャンスを逃したとも言えます。過去には同じ大統領がカムバックした前例もあるので、トランプとしては「4年後も出るんだ」と言っておいて損はない。トランプ人気をあてにしている人がいる限り、影響力はこれからも残るでしょう。
(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)
▽よしざき・たつひこ 1960年、富山県生まれ。一橋大卒業後、日商岩井(現・双日)入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て2004年から現職。「アメリカの論理」(新潮新書)など著書多数。
今の米国には昭和のアナログ政治家が必要だった <注目の人直撃インタビュー 吉崎達彦>
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/
since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。