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トランプが大統領選の結果にごねれば、笑うのは中国だ
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/11/post-94874.php
2020年11月2日(月)18時15分 ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授) ニューズウィーク
THOMAS PETER-REUTERS
<トランプは中国に素晴らしい贈り物をしてきた。米大統領選が激しい政争と終わりのない訴訟合戦につながれば、中国へのさらなる贈り物となるだろう>
ドナルド・トランプは少なくとも中国にだけは、素晴らしい贈り物をしてきた。
コロナ禍に対する彼のぶざまな政策のおかげで、中国の初期対応が模範的にさえ見えた。トランプの「アメリカ第一」主義の外交政策は同盟諸国をアメリカから遠ざけ、反中国の広範な同盟を築きにくくした。
もちろんトランプは、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に手痛い打撃をもたらした。米中貿易戦争で両国の商業的関係は傷つき、トランプによる台湾への支持は中国政府首脳を怒らせた。
それでもトランプは、今回の大統領選で習に対してさらに大きな贈り物を与えたように思える。それはアメリカの選挙制度を揺るがせたことだ。
大統領選が近づくなかで、トランプは選挙結果をそのまま受け入れない可能性を繰り返し明言してきた。郵便投票の正当性を傷つけようとも試みた。エイミー・コニー・バレットを判事に加えたことで保守色が強まった最高裁を利用すれば、選挙結果に介入して再選を実現できるとも示唆した。
投票日直前の世論調査では、民主党候補のバイデン前副大統領が明らかに優勢だった。だが仮にトランプが一般投票では敗れても、実際の勝敗を決める選挙人の数に関しては激戦州の結果が当日のうちに明らかにならない可能性も取り沙汰された。
選挙後には悪夢のようなシナリオがいくつも考えられる。どれもアメリカの民主主義を傷つけ、中国共産党を喜ばせるものだ。
大統領選が激しい政争と終わりのない訴訟合戦につながれば、中国に格好のプロパガンダの材料を与える。中国指導層はアメリカの選挙後の混乱を、国家の末期的症状を示すものだと言い立てるだろう。
トランプが有権者の審判を突っぱねれば、中国のような独裁国家で暮らす人々にとって民主主義の魅力は地に落ちる。武装した極右集団が投票日に有権者を威嚇して死者が出るような事態になれば、中国国営メディアはその終末的光景を喜々として伝えるはずだ。
仮にトランプが複雑な選挙制度や連邦最高裁の判断を使って勝利しても、中国はさらに恩恵にあずかれそうだ。2期目のトランプ政権は中国への締め付けを強めるだろうが、それでも中国にうまみはある。
まず、トランプが当選しても一般投票で負けていれば、米有権者の約半数は彼を正統な大統領と認めない。さらに彼の勝利にアフリカ系有権者などをターゲットにした投票抑制策や、共和党が支配する政府機関による激戦州での工作が関わっていたと分かれば、政治的な内戦状態に陥りかねない。
民主党も共和党も、中国をアメリカにとって最大の脅威と見なしている。だが指導者の正統性を半数の国民が疑問視する状況の下では、中国との「新冷戦」は効果的に戦えない。国内の争いが激化すれば、中国に対する競争優位を保つために直ちに追加投資が必要な公衆衛生や教育、科学などの分野を強化することもできなくなる。
国際的には、非民主的手段で成立した2期目のトランプ政権は自由民主主義各国とアメリカとの溝を深めるはずだ。民主主義の衰退が進めば、米中の争いは独裁者同士の争いとなる。アメリカは自由主義の同盟諸国を引き込むのに苦労するだろう。
中国はバイデンの勝利を願っていたというのが、もっぱらの見方だ。バイデンが勝てば、中国が相手にする欧米諸国の結束は強まる。それでもバイデン政権のほうが出方の予想がつくし、気候変動などの分野では協力しやすい。
だが選挙結果に対してトランプがごねて、アメリカが分裂する事態のほうが、中国にとってはバイデン政権の誕生よりも魅力的かもしれない。
©Project Syndicate
<2020年11月10日号掲載>
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