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アメリカ大統領選挙、ラストベルトもトランプ離れ コロナ失政批判で地盤動揺
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/post-94814.php
2020年10月26日(月)11時33分 ニューズウィーク
米オハイオ州北東部のコートランドで暮らすターニャ・ウォジャークさん(39)は生粋の共和党員で、トランプ大統領が再選を果たす上では欠かせない郊外地域の女性層の典型だ。しかし、既に彼女の心はトランプ氏から離れてしまった。写真はペンシルベニア州ストッカータウンの住宅に飾られたトランプ大統領の人形。2日撮影(2020年 ロイター/Brian Snyder)
■根深い不満
ウォジャークさんのコートランドはトランブル郡、ボンジョルノさんのバンコアはノーザンプトン郡に属し、いずれの郡も16年にトランプ氏が制するまでは数十年間、民主党の地盤だった。
多くの住民がトランプ氏に投票したのは、保護主義的な通商政策や銃所有の権利尊重、移民への強硬姿勢などを好感したからだ。その結果、16年にトランプ氏はトランブル郡で約6%ポイント、ノーザンプトン郡で約4%の差で勝利を収めた。
ところが今、彼らの一部はトランプ氏にうんざりしている。
ノーザンプトン郡を含むペンシルベニア第7選挙区で投票しそうな有権者のうち、9月時点でバイデン氏に入れると答えた割合は51%とトランプ氏の44%をしのいだことが、ミューレンバーグ大学とモーニング・コールの調査で判明した。
トランブル郡が属するオハイオ州北部の工業地域の有権者を対象にニューヨーク・タイムズとシエナ大学が10月2─6日に実施した調査では、バイデン氏支持が49%、トランプ氏支持が43%だった。
風向きが変わった原因は新型コロナのようだ。ロイターがトランブル郡とノーザンプトン郡で取材した有権者50人余りは、トランプ氏が新型コロナを軽々しく扱い、自らマスクを常には着用しようとしないばかりか、国民にマスク着用を呼び掛けないことに根深い不満を表明した。
ノーザンプトン郡は、世界最大の鉄鋼メーカーだったこともあるベスレヘム・スチールの牙城だったところだ。同郡の新型コロナによる死者は300人強、死亡率は10万人当たりで約100人と、全米平均の約66人よりずっと高い。
一見すると、飲食店は屋外で客をもてなし、学校の校庭には野球のバットが勢いよくボールを打つ音が響き渡り、人々の生活はほぼ正常に戻っているように見える。しかし、ここの労働者は引き続き一時帰休を強いられ、給与を得られないでいたりしている。同郡の8月の失業率は10.2%と1年前の4.9%から跳ね上がった。
かつては強大な製造業の拠点だったトランブル郡。ゼネラル・エレクトリック(GE)やゼネラル・モーターズ(GM)などの工場閉鎖が相次いできた。現在の同郡はグローバル化の嵐、オピオイド中毒症の社会問題に新型コロナの感染が加わり、地域経済は苦しみにあえぐ。新型コロナの死者は130人強、死亡率は10万人当たり約68人。8月の失業率は1年前の6.3%から11.4%と倍近くになった。
米オハイオ州北東部のコートランドで暮らすターニャ・ウォジャークさん(39)は生粋の共和党員で、トランプ大統領が再選を果たす上では欠かせない郊外地域の女性層の典型だ。しかし、既に彼女の心はトランプ氏から離れてしまった。
ウォジャークさんは今年4月、友人の1人を新型コロナウイルスで失っており、トランプ氏の対応に怒りを隠さない。トランプ氏が時々しかマスクを着用せず、自分が感染した後でさえ、新型コロナを軽視する発言を繰り返す様子は「全く大統領の振る舞いではない」と批判。4年前に同氏に投票したことを後悔していると打ち明けた。今、彼女の自宅前の芝生には、民主党候補・バイデン前副大統領への投票を呼び掛ける手描きの看板がある。
そこから東に547キロ離れたペンシルベニア州バンコアでレストラン付きのビール醸造所を営むレオ・ボンジョルノさんも、今回の大統領選でバイデン氏に票を入れるつもりだと話す。彼は前回2016年は棄権していた。
ペンシルベニア州は6月にバーとレストランの営業規制を緩和し始めたが、それでもなおボンジョルノさんの店は、引き続き先行きが不安な状態にある。同州の新規感染者数は10月に入って4月半ば以来の水準に増加し、常連客の多くが酒を飲みに来るのを怖がっていると話す。
連邦政府から受け取った支援融資額は、失業した場合にもらえる保険金より少ないし、醸造所の毎月の支払いは売上高をはるかに上回っている。ボンジョルノさんは、米国が求めているのは零細企業がパンデミックを生き残るために何が必要か分かる大統領で、それはトランプ氏ではないと言い切る。「現在、われわれは債権者が代金回収に訪れるのをただ待っているだけだ」と苦境を訴えた。
このオハイオ、ペンシルベニアを含めた「ラストベルト(さびついた工業地帯)」は米大統領選では激戦州に位置付けられる。16年にはトランプ氏の勝利に貢献しており、今回も結果を左右しそうだ。12年に民主党のバラク・オバマ氏に投票したこの地域の多くの白人や労働者は、16年には経済再生を掲げたトランプ氏に共感した。
そうした有権者のなお多くはトランプ氏を支持するが、今年になってその支持率はじりじりと下がりつつある。もちろん、その大きな理由はパンデミックだ。どうやら今回の大統領選は、トランプ氏の新型コロナ対応を巡る信任投票の様相が濃くなってきたことが、世論調査から分かる。
ロイター/イプソスが10月9─13日に全米で実施した調査では、投票に行く公算が大きい有権者の50%は、バイデン氏の方がパンデミックをうまく乗り切れると回答。トランプ氏に軍配を上げたのは37%だった。ペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、ウィスコンシンという激戦州における調査結果でも、新型コロナ問題の指揮を執るのはバイデン氏がふさわしいとの見方が示された。
最近の複数の調査を見ると、バイデン氏はオハイオ州でトランプ氏と互角、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンでは若干優勢に選挙戦を進めている。
■バイデン陣営の攻勢
コートランドのバーで時間を過ごす家具セールスマンのビル・ベベックさん(66)は、トランプ氏がこの前の冬、新型コロナウイルスの危険性を理解していたのに事実を伝えなかったことで、票を失っているとの見方を示した。
4年前にトランプ氏に投票したベベックさんは「われわれはこの感染症がどれほど深刻か、知る権利があったとは思わないか」と語る。かつてはトランプ氏を熱烈に応援していたが、同氏が新型コロナ問題で「完全に大失敗した」と突き放した。
ジャーナリストのボブ・ウッドワード氏が9月に公表したトランプ氏との今年の会話記録によると、トランプ氏は当時、新型コロナの危険性をことさら過小評価していたことを認め、それは国民をパニックにしたくなかったためだったと弁解していた。
実際、バイデン陣営関係者がロイターに明らかにしたところによると、同陣営はこのベベックさんのように、世論調査が示すところの新型コロナに恐怖心を抱く高齢者、かつ16年にトランプ氏に一票を投じたか、棄権していた高齢者層の取り込みを狙う。
16年の出口調査によると、55歳以上の有権者の得票率は当時はトランプ氏が13%ポイントも優勢だった。しかし、今年9月と10月のロイター/イプソス調査では、55歳以上の支持率はバイデン氏が47%、トランプ氏が46%とほぼ二分されている。
民主党候補の支援組織である特別政治行動委員会(スーパーPAC)「アメリカン・ブリッジ21世紀」は、ペンシルベニアやミシガン、ウィスコンシンといった激戦州で計4000万ドルを費やし、16年にトランプ氏を支持した白人、労働者、高齢者の層に照準を合わせた政治広告を強化している。
(Ernest Scheyder記者、Nick Brown記者、Jason Lange記者)
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