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「死に体」のはずのメルケルが欧州のリーダーに返り咲き
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-93967.php
2020年7月15日(水)17時20分 スダ・ダビド・ウィルプ(ジャーマン・マーシャルファンド・ベルリン事務所副所長)、エリザベス・ウィンター(同プログラムアシスタント) ニューズウィーク
EU分断を招いたメルケルが、危機のなかで再び頼れるリーダーに YVES HERMAN-REUTERS
<模範的なコロナ対策やEU理事会の議長国就任で来年退任予定のレームダック首相は注目の人に。メルケルとドイツは再びEUのリーダー役を引き受けた>
誰にだって、2度目のチャンスは与えられるべきだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相も例外ではない。
政権を率いて約15年、現任期が満了する来年に退任予定のメルケルは、やり残した仕事に取り組む覚悟のようだ。ドイツが7月1日、半年ごとの輪番制のEU理事会議長国に就任したおかげで、特に自国の気候変動対策強化やデジタル化、欧州の結束促進でチャンスを手にしている。
メルケルが同盟国からも、かつての敵国からも人気を得たのはもはや何年も前の話だ。
2008年の金融危機から比較的うまく立ち直ったドイツは、再生可能エネルギー導入でも名を上げた。高まる称賛の声がおそらくピークに達したのは、2015年に難民危機が起きたときだ。しかし2017年の連邦議会選挙で与党が議席を大幅に失って以来、メルケルとドイツならではの政策は輝きを失っていった。
中道左派の社会民主党(SPD)と連立を組み、指導者として中道の立場を守ってきたメルケルは保守派の不満を招く一方、革新派が唱える「ユーロ共同債」発行や産業界への環境規制強化に待ったをかけた。国際舞台では「高貴な利己主義」を取り続ける姿勢がいくらか逆効果になり、EUの連帯を脅かした。
だがこの数カ月、ドイツは再びリーダーの役割を引き受けたように見える。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への同国の対策はこれまでのところ模範的だ。大規模な検査体制や新たな接触追跡アプリのおかげで医療需要は抑制され、死亡率は比較的低い。
その結果、メルケルとドイツはより力強い存在になろうとしている。重要な課題で軌道修正を図る絶好の機会だ。
首相就任から間もない頃のメルケルのあだ名は「気候首相」。気候変動防止を強く訴え、二酸化炭素(CO2)排出量を削減せよと長らく他国に圧力をかけてきた。
とはいえ、自国が気候変動に関する目標を達成していないのに、他国に厳しい課題をお願いするのは難しい。メルケルの熱意によって、ドイツはいち早く脱原発に舵を切った。だがこの決断は同時に、再生可能エネルギーの普及が進まないなか、EU最大の経済国が石炭発電に大きく頼る現状をつくり出している。
■温暖化に「攻め」の対策
ドイツは2018年になって自国の状況を告白し、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減するという目標は達成できないと認めた。
取り組みを軌道に戻すべく議会は昨秋、2030年までに排出量の1990年比55%削減を目指す総額540億ユーロ超の気候変動対策パッケージを承認した。実に賢明な判断だった。ある世論調査では、パンデミックを受けた政府の経済再生プログラムでは、環境・気候に配慮した技術や企業を特に支援すべきだと考えるドイツ市民の割合が62%に上っている。
今や攻めの姿勢を取るメルケルは、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするとの野心的な目標を定める欧州委員会の「欧州グリーンディール」も支持している。
外国のテクノロジー大手に依存せず、欧州のデジタル主権を確立しようという動きも、メルケルとドイツが再び牽引役の座に就くチャンスになる。ドイツ政府は2014年、3カ年計画「デジタル・アジェンダ」を発表。ブロードバンド通信網の拡大やIT(情報技術)部門の教育機会、情報セキュリティーを目標に掲げた。しかしデジタル公共サービスは欧州内の他国に大きく後れを取っており、2019年のデータによれば、EU加盟国28カ国(当時)のうち21位にとどまる。新技術部門に代表的な独企業は存在せず、ブロードバンド整備も進まない。
いまだ企業や民間団体の一部が4Gサービスの改善を待っている状況ではあるものの、ドイツ政府はセキュリティーを犠牲にすることなく競争力の高い第5世代(5G)サービスをいかに展開するかを既に検討し始めている。
こうした姿勢は、デジタル主権を求めるEUの動きと結び付け、電子政府プロジェクトやサイバーセキュリティーに拡大適用することもできる。候補の1つが、アメリカや中国のテクノロジー企業に依存しないプラットフォームの構築を目指す、独仏主導の欧州クラウドデータインフラ構想「ガイアX」だ。
■EUの仲間に歩み寄る
「ジャーマンパワー」に対する近隣国の懸念を軽減しようと、ドイツはEUの枠組み内で常に注意深く行動してきた。
過去10年間にEUが直面した債務危機や移民・難民問題で、ドイツは指導役になる機会を手にした。ユーロ圏を救う役目を自覚し、難民流入の際のメルケルの人道的対応は広く称賛されたものの、その手法は分断を招き、ポピュリスト政党台頭の要因になった。
緊縮策や財政均衡にこだわるドイツの姿勢はほかの加盟国に反発され、移民の受け入れ割当制という主張はハンガリーやポーランドの恨みを買った。だがEU理事会議長国就任に合わせ、ドイツは双方の点で立場を変化させている。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領と共に、メルケルは債務のプール化を可能にする「コロナ債」プログラムを策定しているが、これは従来、ドイツ政府が忌み嫌っていた手法だ。移民割当制でもほかの加盟国に融和的な態度を示し、今では域外国境の管理改善に焦点を当てている。
ドイツ、特にメルケルはリーダーの座に返り咲こうとしている。メルケルはパンデミックのさなかで故国を導き、今後は欧州のために同じことをしようとしている。直ちに求められる経済回復に加え、メルケルは気候変動やデジタル化をめぐってレジリエンス(回復力)のある欧州を目指している。
EU理事会議長国として掲げる課題が、これまで失敗してきた分野であるのは皮肉だ。だが、過ちを認めるのは優れた指導者の証し。ドイツを進歩させる機会を再び手にしたメルケルだが、今回はEUの連帯も忘れていない。
<本誌2020年7月21日号掲載>
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先の大戦に敗れたドイツと日本のその後の歩みは対照的だ。地政学的な違いはあるが、欧州にその存在感を増すドイツと、アジアで名誉ある地位を占められない日本。地政学だけではない「リーダーシップ」の違いか?
— こぶ (@tweetkowai) July 16, 2020
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