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【新型コロナ】第2波対策のポイント 抗体保有と超過死亡
時事ドットコムニュース 2020年06月14日15時00分
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020061001201&g=soc
新型コロナウイルスの流行が、世界の多くの国でピークを越えた。日本の新規感染者数も4月11日の714人をピークに5月4日には174人まで減少した。今や世界の関心は、第2波への対応だ。その際に重要なことは、第1波の対応を総括することだ。本稿ではそのポイントを紹介したい。(NPO法人医療ガバナンス研究所理事長・上 昌広)
◇感染者数の推計
まず議論すべきは、PCR検査についてだ。第1波ではPCR検査の陽性者数に基づき、流行状態が推定された。ところが、感染者の多くは軽症あるいは無症状で、PCR検査を受けることなく自然に治癒した者も少なくない。多くの感染者が見落とされ、PCR検査に基づく感染者数は過小評価された。
おおよその感染者数を推計するために用いられるのが抗体検査だ。抗体とは、病原体が体内に入った際に形成されるタンパク質のこと。ヒトは病原体に感染すると、その病原体を攻撃するために特異的な抗体を作り出す。この仕組みを免疫という。
抗体を有することは感染歴があることを意味し、その有無は血液を採取すれば評価できる。世界中の研究機関が、新型コロナウイルスに特異的な抗体を検出するための検査系を確立し、臨床応用した。
米国では、4月3〜4日にカリフォルニア州サンタクララ郡の住民3330人を対象に抗体検査を実施したところ、50人が陽性と判明した。この地域の人口は194万3411人だが、抗体保有率は1.5%ということになる。
この地域では、PCR検査で確認された感染者数は956人だった。人口に占める割合は0.049%。1.5%の住民が抗体を有していたのだから、感染者の30分の1しか診断されていなかったことになる。大部分の感染者が見逃されたということだ。
注意すべきは、見逃された大部分が無症状あるいは軽症であることだ。新型コロナウイルスの致死率や重症化率は、これまでに報告されていたよりずっと低いことになる。つまり、新型コロナウイルスの致死率や重症化率は過大評価されていたということだ。
これはサンタクララ郡に限った話ではない。表は5月6日現在の世界各地の抗体保有率の一覧だ。当研究所の山下えりかが公開情報を基に作成した。世界中から1.0〜62.0%の抗体保有率が報告されている。
〔図1〕【COVID-19】 PCR検査数と陽性率の推移
日本からも四つのグループの調査結果が報告されている。東京の二つのグループの陽性率が5.9%、8.0%と高いのに対し、大阪(1.0%)、神戸(3.0%)は低い。これは東京を中心に流行が拡大し、関西にも及んだという経緯とも一致する。
5月5日現在、東京都のPCR検査陽性者数は4712人(チャーター機帰国者、クルーズ船乗客を含まない)。都民の人口当たりの感染率は0.034%である。一方で、抗体保有率は5.9〜8.0%。PCR検査で判明した感染者は、全体の174〜235分の1にすぎないことになる。これは米サンタクララ郡の6〜8分の1よりはるかに低い。日本がPCR検査を絞ったことと一致する。
表で興味深いのは、抗体保有率について国ごとに大きな差があることだ。日本・中国などアジア諸国で低く、欧州は高い。注目すべきは米国だ。ニューヨークが12.3%、21.0%と高いのに対し、カリフォルニアは1.5%、4.1%と低い。欧州・米国東海岸などの大西洋周辺地域が高く、アジア・米国西海岸などの太平洋周辺地域が低いという見方もできる。
なぜ、このような差が生じるのだろうか。これについては十分に研究が進んでいない。ウイルスの突然変異によるものか、民族差か、あるいは環境的要因か。今後の検証が必要である。
ただ、これまでの研究で、欧州とアジアでは流行している新型コロナウイルスのタイプが異なることが分かっている。もし、欧州で流行しているウイルスが強毒な場合、それがアジアの第2波となれば、第1波以上の被害が出る可能性がある。既に日本には欧州由来の新型コロナウイルスが流入していることは判明している。
仮にそうなった場合に大切なことは、国内で流行しているウイルスの遺伝子配列をシークエンスし、変異を調べることだ。しかし、PCR検査すら抑制してきた日本では、ウイルスのシークエンスは国立感染症研究所がクラスター対策の一環として細々と実施しているだけで、大量のサンプルは処理できない。体制整備を急がねばならない。
◇流行はいつ始まったのか
話を戻そう。抗体検査が有意義なのは、感染者数が推定できるだけではない。流行時期の再評価にも役立つ。
5月3日、フランスのセーヌサンドニ県の医師たちは、昨年末に発熱を主訴に入院していた患者の保存血清を用いて抗体の有無をチェックしたところ、アルジェリア生まれの42歳の男性が陽性と判明した。この男性は長年フランスに住み、中国への渡航歴や中国人との接触もなかった。家族も同様の症状があったという。
〔図2〕インフルエンザ・肺炎死亡報告
これまで、フランスで新型コロナウイルス感染者が発見されたのは1月24日に武漢への渡航歴がある2人のケースが最初だと考えられていた。今回の報告は、昨年末の時点で国内に感染が広がっていたことを示唆している。
フランスで感染が急拡大したのは2月に入ってからだが、昨年末の段階で既に蔓延(まんえん)していて、検査体制が整備されたために急拡大したように映ったのかもしれない。日本でも同様のことが起こった可能性がある。日本では東京五輪の延期が決まった3月末以降にPCR検査数が急増した。そして、感染者数が増加し、緊急事態宣言へとつながった(図1)。繰り返すが、感染が蔓延している状況で検査数を増やせば、感染者数は急増する。あたかも感染の急拡大が起こったようにも見える。果たして、実態はどうなのだろうか。
幸い、日本では日本赤十字が献血者の血清を長期間にわたり保管している。その一部を用いて抗体検査をすれば、国内でいつから流行が始まったかの検証は可能だ。既に厚生労働省は日赤に調査を依頼している。一日も早い結果の開示を期待したい。
抗体検査と並ぶもう一つの指標が「超過死亡」だ。超過死亡とは、世界保健機関(WHO)が提唱するインフルエンザ流行による死亡数を推計するための指標だ。非流行時に発生すると考えられる死亡数(悪性腫瘍や心疾患などによる)をベースラインとし、実際の死者数と比較する。超過死亡は予測死亡数の95%信頼区間の上限値との差で示される。超過死亡が存在するということは、何らかの感染症の流行がなければ、死亡者の増加を説明できないことを意味する。この方法が新型コロナウイルスに応用されている。
米エール大学公衆衛生大学院の研究者たちが、米疾病対策センター(CDC)の統計データを基に超過死亡を推計したところ、3月1日から4月4日の間に約1万5000人が新型コロナウイルス感染とは診断されずに亡くなっていたことが分かった。この期間に新型コロナウイルスによる死者は約8000人だから、約2倍に相当する。特に感染が深刻だったニューヨーク州とニュージャージー州で顕著だった。
◇東京でも50〜60人確認
超過死亡の推定は、世界各国で進んでいる。表には、超過死亡の存在が確認されている地域を示している。流行が確認されている地域では、基本的に超過死亡が確認されている。
日本も例外ではない。国立感染症研究所によると、第8〜13週にかけて東京都ではベースラインと比較して1週間当たり50〜60人程度の超過死亡が確認されている。これは2月16〜22日の週から3月22〜28日の週に相当する。図2は国立感染症研究所のホームページから引用したものだ。実は、この時期に韓国も台湾も感染のピークを迎えていた。ところが厚労省は、この時期は感染を完全に抑え込むことに成功していたと説明している。現在もこの主張を変えていない。
前述したように、日本では3月24日に東京五輪の延期が決まり、それ以降、PCR検査数が増加し、それに伴い患者数が増えている。4月7日に東京など7都府県に緊急事態宣言が発令されるが、3月29日〜4月4日の週には超過死亡は消滅している。国立感染症研究所は、それ以降の超過死亡についてのデータを公表していないが、ここまではPCR検査数が示す感染者数の動向と全く違う。
実際の死亡者数と、氷山の一角でしかないPCR検査数のいずれが判断基準にふさわしいかは議論の余地はない。
英医学誌『ランセット』は5月2日に『COVID―19:毎週の超過死のリアルタイム監視の必要性』という論文を掲載している。世界では超過死亡を毎週リアルタイムに公開することが議論されている。一方、日本の状況はお粗末だ。大阪、神戸の超過死亡の有無については、現時点では評価不能だ。大阪は第9週までのデータしか公開されていないし、神戸に至ってはデータが開示されていない。東京のように、開示されても1カ月遅れだ。残念なことだが、日本のメディアはこのことを報じない。
問題は、これだけではない。先ほど、エール大学公衆衛生大学院の研究者たちがCDCのデータを用いて超過死亡を推定したことをご紹介した。日本でCDCの役割を担うのは国立感染症研究所だが、データ開示については消極的だ。知人の公衆衛生学の専門家が、国立感染症研究所に基になるデータの提供を求めたところ、「手続きなどで数カ月かかる」と言われたという。これでは健全な議論は期待できない。
新型コロナウイルスの流行は長期化するだろう。米ミネソタ大学の研究者たちは、流行は1年半から2年間は続くと予想している。
第1波では多くの国が都市を封鎖(ロックダウン)した。現在、その効果について検証が進んでいる。米『ウォール・ストリート・ジャーナル』は4月27日に「都市封鎖の効果、データは否定的」という寄稿記事を掲載した。この記事では、人口当たりの死者数と都市封鎖の関係を調べたが、明らかな相関はなかったという。死亡率と最も相関したのは人口密度で、ニューヨーク州は都市封鎖から恩恵を受けたかもしれないが、ウィスコンシン州は影響はなかったとしている。
◇スウェーデンが取った対策
感染が終息するには、人口の6〜7割が免疫を獲得するしかない。最も安全なのはワクチンを接種することだ。しかしながら、ワクチン開発には時間がかかる。第2波対策では、ワクチン開発を急ぎながら、集団免疫戦略を推し進めることになる。そして、都市封鎖は必要最小限にとどめることになるだろう。
実は、これは第1波でのスウェーデンのやり方に近い。スウェーデンでは高齢者にのみ自宅待機を要請し、それ以外の制限は課さなかった。一時期、高校・大学を休校としたが、小中学校は閉校しなかった。50人以上の集会禁止、不要不急の旅行の禁止、小売店やショッピングモールへの入店者数の制限を課したものの、多くの店舗やレストランは閉鎖しなかった。ボルボの自動車工場は一時期閉鎖されたが、その後再開された。
5月6日現在、スウェーデンで新型コロナウイルスと診断された感染者の死亡率は12.2%。厳しい都市封鎖を実施したフランス(19.3%)、英国(15.1%)、イタリア(13.7%)より低い。今後、超過死亡のデータを用いた再検証が必要だが、同日現在の抗体保有率が25%に到達していることは注目に値する。
日本ではいまだに「接触の8割減」を“金科玉条”のように主張する専門家が多いが、果たして、そのやり方でいいのだろうか。第1波の経験を踏まえ、もっとメリハリの利いた対応が必要ではないか。超過死亡や抗体検査の結果も踏まえ、日本の流行状況を再評価し、いかに経済活動を継続させながら死者を減らすか、戦略を見直すべき時期にきている【「厚生福祉」6月5日号より】。
(図2のみ添付し、他は省略しました)
- Re: (新型コロナ)第2波対策のポイント 抗体保有と超過死亡(時事/上 昌広) AN 2020/6/14 22:11:40
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- Re: (新型コロナ)第2波対策のポイント 抗体保有と超過死亡(時事/上 昌広) AN 2020/6/14 22:14:26
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- Re: (新型コロナ)第2波対策のポイント 抗体保有と超過死亡(時事/上 昌広) AN 2020/6/14 22:14:26
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