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【宝くじの闇・下】社会的弱者から搾取する“税金”…コロナ禍にネットで若者を賭博に勧誘
https://biz-journal.jp/2020/12/post_198737.html
2020.12.25 05:55 文=松岡久蔵/ジャーナリスト Business Journal
宝くじ売り場前にできた行列
宝くじに潜む利権の闇を明らかにする連載の第3回目。高齢化で廃れ行く宝くじがネット販売を始めるなど、若者や女性にすそ野を広げることで生き残りを図ろうとしている。自分たちの利権を放棄しないまま、コロナ禍で弱った若者などに「一攫千金の夢」をたきつけ販売を上向かせようとする手法は、さながら情報弱者相手の悪徳商法のようである。
■廃れ行く宝くじ
宝くじは斜陽である。日本宝くじ協会によると、宝くじの販売は2005年度の1兆1047億円をピークに減少し、19年度は7931億円と約3割減となっている。宝くじ協会の調査でも、直近1年間に宝くじを買った人は16年の49%から19年は42%に低下している。一人当たりの年間購入額も07年の1万9470円から19年は1万120円とほぼ半減し、大台の1万円を割り込む寸前と過去最低を記録した。
宝くじ販売の減少は購入者の高齢化が主な要因とされるが、ネット販売を18年度から始めるなど販売戦略の弱さも響いた。「宝くじ売り場の窓口職員など雇用問題もあり対応が遅れた」(総務省取材の長い全国紙記者)という事情もあるという。
ネット会員は19年3月時点で93万人だったのが、緊急事態宣言の窓口閉鎖により20年3月には213万人と急増し、12月には300万人に届こうかという勢いだ。コロナでの10万円給付もあり、サマージャンボは前年比約1割増の743億円と8年ぶりに増加し、秋のハロウィンジャンボも約1割増の348億円。これまでのメインの50代以上の窓口販売に加え、ネット販売で20〜30代の若者層の開拓が奏功した。
■宝くじは「社会的弱者の税金」
さて、宝くじはそもそも刑法の例外である賭博であることは連載第1回でご紹介した通りだ。少し古いが、コロナ禍のような不況で宝くじの売れ行きが伸びているということについて、実に興味深い論文があるのでご紹介しよう。大阪商業大学の谷岡一郎学長が2002年に公表した「宝くじは社会的弱者への税金か?」がそれだ。要点を抜粋する。
「もともと社会的ステイタスの高い人々は、あまり宝くじを買う必要がない。宝くじを買うのは『ひとつ上のステイタスを求める』人々であり、しかも『機会がブロックされている』人々であるからだ」
「『夢を買う』と言えば聞こえは良いが、成功者、家を持つ者(大金持ち)、高い教育を 受けた者、トラウマの少ない者などが払う気のしない税金を、昇進の遅い者、家を買う余裕のない者、充分な教育を受けなかった者、トラウマの多い者(ハンデの大きい者)たちが払う構図なのである。なんという不平等であろうか。加えて、かりに大金が当たった場合でも人生を狂わせる人が多いことは、宝くじ協会が高額当選者用の心のケア本を作ったことでも明らかである」
「『夢』という名のごちそうをぶらさげ、たまに当たった人を大げさに宣伝し、しかし実態として、ほとんどの一生涯当たらない人が払いつづける余分な税金だと言って間違いではないだろう。しかもより多くを払うのは、社会的弱者なのである」
まったくの正論だろうと思う。実際、宝くじ協会の調査ではジャンボ購入の理由は「賞金目当て」が71%で、「夢がある」は60%だ。この論文から見えてくるのは、1億だの10億だのと喧伝しておきながら、カネを払い続ける人の多くは非高所得者だという事実である。この論文が書かれたのは02年で約20年前だが、当時より日本の格差が拡大、固定化した現在のほうが実態は悪くなっているとみられる。コロナで失業が増えれば当然「300円の紙切れに夢を託そう」という気持ちも強まる。未来のある若者ならなおさらだろう。
総務省などは若者に新規開拓のターゲットを絞っており、今年の年末ジャンボから1万円の当たりを増やしてカモを育て、今後はコンビニ販売を始めることで、さらなる生き血をすすろうとしている。CMに若手人気俳優を起用するなどPRを始めているが、「買わないという選択肢はない」とタレントに言わせ、賭博を露骨に勧誘するなど倫理観にもとると言わざるを得ない。
■宝くじは廃止が決まっていた
連載第1回でもご紹介したが、現在の地方自治体の収益になる宝くじは第二次世界大戦での敗戦直後に誕生した。根拠法は「当せん金付証票法」で、第1条に「経済の現状に即応して、当分の間、当せん金付証票の発売により、浮動購買力を吸収し、もつて地方財政資金の調達に資することを目的とする」と定められている。つまり、税務署が把握しにくい家庭のタンス預金である「浮動購買力」を「当分の間」、吸収するためのものであり、仕組みがつくられた当時は長続きさせる予定は政府当局にもなく、あくまで臨時の措置だったのである。さらに、1954年2月12日に吉田茂内閣は「将来、適当な機会においてなるべく早く全廃することを目途として運営すべきものとする」と閣議決定している。
ここから浮かび上がってくるのは、一度宝くじの収益や関連のポストという利権を得た総務省や地方自治体、第一勧銀を前身とするみずほ銀行がなんだかんだと廃止を先延ばしにしてきたという事実である。筆者は、公営ギャンブル自体の是非はともかくとして、社会的弱者から余分な税金を巻き上げ、不透明な販売ルートでさばき、自分たちの天下り先への過剰な人件費と待遇を確保しようとする、現在の宝くじのあり方には大いに疑問を感じる。
少なくとも、顧客への還元率を高めることや、カネの流れをはっきりさせることなどの措置が必要だろう。それをやらないなら、とっとと閣議決定に従い、即刻廃止すべきである。
こんなおかしな仕組みの宝くじ、アナタはまだ買いますか?
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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