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NHK受信料の取り立て、日本郵便社員に“押し付け”案浮上…武田総務相が突如提案
https://biz-journal.jp/2020/12/post_199667.html
2020.12.28 18:00 文=松岡久蔵/ジャーナリスト Business Journal
武田総務大臣(「総務省 HP」より)
「かんぽ生命不正販売の謝罪行脚の最中に、どの面下げてNHK受信料を払ってくださいって言うんだ」――。日本郵便関係者の間では、このような嘆き節が飛び交っているという。
武田良太総務相は21日の記者会見で、「郵便局2万4000局にわたるユニバーサルサービスが展開されている郵便局のノウハウやチカラを受信料の徴収に活かすことができないかどうか、実務担当者同士で研究をしてもらいたいと私のほうから今言っている」と発言した。NHK受信料は5世帯に1世帯が未払いで、「取り⽴て経費」に当たる訪問経費が約300億円にも上ることを受けたものだ。
■携帯料金の次はNHK受信料
携帯電話料金値下げに見通しがついた武田氏の次なるターゲットは、NHK受信料となっている。菅義偉首相への逆風が強まる中で、「一丁目一番地」である総務省の所管分野でポイントを稼ぐ狙いで、NHK受信料を引き下げるにはコスト削減が手っ取り早いため、徴収コストがやり玉に挙がったわけだ。
徴収コストをゼロにするには、ドイツ⽅式と呼ばれるテレビの設置の有無にかかわらず全世帯から徴収する⽅式が有効だが、総務省の有識者会議は11月にまとめた案で採用しないことを決定。NHKは国民の個人情報を把握して取り立てを効率化するために、テレビ設置の届け出義務化や未契約者の氏名など居住者情報を紹介できる制度の導入も提案したが、それもプライバシーの問題で見送られた。案では、妥協策としてテレビを持っているのに受信契約を結ばないで支払いを逃れている人間に割増金を科す制度が法制化される見通しで、こちらの割増金をプールして受信料値下げの原資に活用するという。
ペナルティを強化することで受信料支払いを促すことになったわけだが、そもそも払う気がない視聴者がそれに応じるとは考えにくく効果は限定的とみられる。そこで武⽥⽒がさらなるコスト削減案として「思いついた」のが、「日本郵便の取り立て屋化」というわけだ。
■郵政グループのお荷物「日本郵便」が赤字
日本郵政が11月に発表した9月中間連結決算では、純利益が1789億円と24.4%減となり、子会社で郵便事業を担う「日本郵便」の純損益は65億円の赤字と、中間期としては3年ぶりの赤字に転落した。コロナ禍の巣ごもり需要でアマゾンなど宅配サービスが軒並み業績を伸ばす中での日本郵便の赤字は、そもそも日本郵便が法律で全国一律のサービスを提供する「ユニバーサルサービス」が義務付けられていることが主因となっている。
全国約2万4000局のうち、集配郵便局エリアの8割が赤字で窓口業務も4割が赤字。都市部など宅配効率のよい場所を重点的にカバーするだけでも商売が成り立つ民間業者と違い、地方の過疎地までカバーしなければならない日本郵便は少子高齢化の時代、特に苦境に立たされているというわけだ。
日本郵便の赤字を補填してきたのが日本郵政グループの「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」で、「業務手数料」などのかたちで毎年1兆円程度を負担し支えてきた。それも19年夏に発覚したかんぽ不正問題での相次ぐ契約解除や、低金利の長期化で先細りが確実となっており、日本郵便を支える余裕自体がなくなっているのが現状だ。
かんぽ不正問題についていえば、信頼回復のため、郵便局員が積極的に営業をしないという前提で全国の顧客にひたすら謝り倒す「謝罪行脚」が今年10月から始まっている。コロナ禍でも基本的に自宅訪問を求める姿勢が大いにひんしゅくを買っているわけだが、地方における郵便局の信頼に乗じて高齢者などに悪質な商売をしていたわけだから至極当然の報いだといえよう。積極営業再開のめどは立っておらず、とにかく謝るしかないというのは現場の士気を大いに下げているのは間違いない。
■武田氏が総務省の頭越しで要請
武田氏は19日に地元福岡のテレビ西日本の報道番組で突如、冒頭でご紹介した「日本郵便をNHK受信料の取り立てに利用する案」を明らかにしたが、報道関係者はもちろん、総務省と日本郵便の実務担当者にはまったく話が通っていなかったという。報道各社には、日本郵便が「当社社員がお客さま宅を訪問しての徴収や、お客さまへの営業活動などは現在のところ考えていない」と説明し、NHKも「現時点で具体的に決まったものはない」とコメントしたが、この両者の間には温度差があるという。総務省担当の全国紙記者の解説。
「⽇本郵便はやりたくもない仕事をやらされるわけですから、当然全⼒で拒否したいので、 コメントも『考えていない』と断定的です。一方、NHKは面倒な取り立て業務を押し付けられる絶好のチャンスなわけで『決まったものはない』と微妙に否定していないのがミソです。実際、22日に経営委員会の森下俊三委員長は日本郵便との連携について『(コロナ後の)訪問しない営業体制の一環で連携ができるのであれば、いいことだ』と前向きな姿勢を示している。
おそらく、武⽥⽒はNHKと握っていて、徴収業務を⽇本郵便に委託料を⽀払う形で移管させるつもりでしょ う。こうすれば、NHKにとってみればコストの大幅削減になり、日本郵便にとっては委託料という収益が入ることになる。ただ、押し付けられる側の⽇本郵便にとってみれば単純に面倒な仕事が増えるわけで、⾃⺠党の⽀持勢⼒である全国郵便局⻑会だけでなく、⽇本郵政グループ労働組合からも猛反対されるのは目に見えている。来年の解散総選挙を控える中で、こんな⼈数とネットワークにだけ着⽬した『思いつき』が実現するとは思えません」
この記者の解説はもっともだが、菅首相の威光を背景にして武田氏は携帯料金値下げを断行した経緯がある。菅氏が苦境に立たされれば立たされるほど、支持率向上を狙って手近なところから「改革」に着手する可能性は捨てきれない。
日本郵便関係者は心穏やかに新年を迎えることは難しそうだ。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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