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企業はこれから人件費削減へ、ニューノーマルで「失業率7%超」の衝撃
https://diamond.jp/articles/-/246926
2020.8.27 5:05 野口悠紀雄:早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る ダイヤモンド・オンライン
Photo:PIXTA
コロナ不況のもとでも日本の失業率は目立って高まってはいない。それは企業が雇用を維持しているからだ。
さらに、雇用調整助成金が支えている。
しかし、落ち込んだ売上高はすぐには回復しないので、企業は雇用を維持できなくなる。また、雇用調整助成金の財源問題も発生する。
失業率が7%を超える事態はあり得なくはない。
ニューノーマルは、
「売り上げ1割減、利益3分の1減」
日本企業は深刻な売り上げ減に直面している。それは、4〜6月だけのことではなく、今後も続くと考えられる。
では、それに対して、企業はどのように対応しようとしているのだろうか?
それを考えるための貴重なデータが、企業の業績予想に示されている。
日本経済新聞は、上場企業の4〜6月期決算で、金融を含む全産業の売上高は、前年同期比18%減、純利益は57%減となり、通期では売上高が10%減、純利益は33%減と報じた(8月18日「上場企業、4〜6月純利益57%減」)。
つまり、ニューノーマルは、「売り上げ1割減、利益3分の1減」経済だ。
では、上記の見通しの中には、人件費の削減が予定されているのだろうか?
企業はこれから
人件費に手をつけざるを得ない
以下では、企業の行動について仮説を立て、その結果が、上記の業績予想と整合的かどうかをチェックする。
それにより、間接的に企業の行動を推測することにする。
その際、法人企業統計調査(2020年1〜3月期)の資本金10億円以上の企業(金融機関を除く全産業)の売り上げ、原価等のデータを用いる。これは、図表1の上半分に示すとおりだ(注1)。
拡大→http://img.asyura2.com/x0/d11/2356.jpg
最初に、上記日経新聞の記事を参考にして、つぎの仮定からなる「仮説1」を検討しよう。
(仮定1)売り上げは2020年1〜3月期の値から1割減。
(仮定2)営業利益を2020年1〜3月期の値の33%減にとどめる。
(仮定3)人件費を削減しない。
これらのうち、仮定1と2は、前記の業績予測に基づく値であり、これは所与とする。検討したいのは、その場合に仮定3が成り立つかどうかだ。
(注1)引用した日経新聞の記事の計数は、金融業を含む全産業の経常利益。それに対して、ここでは、金融業を含まぬ全産業を対象としている。また、経常利益でなく、営業利益を考えている。
仮定1、2、3の下で図表1のデータを用いて計算すると、図表1の「仮説1」の欄に示すように、人件費以外の原価総額を10.11%と、売り上げ減少率より若干高い率だけ削減する必要があることが分かる(注2)。
しかし、原価総額(とくにその中の「販売費及び一般管理費」)の中には、固定費的なものも含まれている。
したがって、売り上げ減少率より高い率で削減することは難しいだろう。
だから、仮定3は、成立しないと考えられる。
つまり、企業は、人件費を削減しようとしているわけだ。
(注2)ここでいう「原価総額」とは、「売上原価」と「販売費及び一般管理費」の合計。
人員削減始まれば
失業率4.8ポイント上昇はあり得る
では、人件費をどの程度削減しようとしているのだろうか? これを推測するために、つぎの仮定からなる「仮説2」を検討しよう。
(仮定1)売り上げは2020年1〜3月期の値から1割減。
(仮定2)営業利益を2020年1〜3月期の値の33%減にとどめる。
(仮定3)人件費の削減率=人件費を除く原価総額の削減率÷2
仮定1と2は、仮説1と同じである。
仮定3は、「必ずこうなる」という予想ではなく、1つのあり得る姿を示すものにすぎない。ただし、「人件費が削減しにくい」という事情を考えれば、大いにあり得る姿といえるだろう。
仮定1、2、3を満たす人件費の削減率は、図表1の「仮説2」の欄に示すように、4.8%である。
仮にこれが人員削減によって行なわれ、削減された人が失業者となれば、失業率は4.8ポイント上昇することになる。
6月の完全失業率は2.8%なので、失業率は7.6%になる。
なお、この場合には、「人件費以外の原価総額」の削減率は、9.58%だ。
現在程度の非正規減では不十分
正規社員も失業の可能性
以上の検討から、企業は、2021年3月までの事業年度のうちに、人件費に手をつける可能性が高い。
その場合には、非正規就業者から削減を始めることになるだろう。
ところで、労働力調査によれば、非正規就業者はすでに減っている。
「非正規の職員・従業員」は、20年1月の2149万人から、4月には2019万人まで減少した。その後、回復して、6月には2044万人だ。それでも、1月より約100万人の減となっている。
100万人は大きな減少数だ。しかし、雇用者総数5929万人に対する比率では1.7%にすぎない。
上述のように5%近い削減が必要ということには、とても及ばない。
非正規就業者だけで減らそうとすれば、これまでの数倍の規模の削減が必要となる。また、正規就業者にも手をつけざるを得なくなる事態も考えられる。
雇用調整助成金の財源がもたない
給付はすでにリーマン時の1年分超える
いまの日本では、売り上げと利益の急減にもかかわらず、企業が雇用を支えている。
それを可能にしているのが、雇用調整助成金だ。
もともとは雇用保険の積立金を用いる仕組みだが、限度額引き上げなどのために、すでに国費が投入されている。
その支給額はどの程度か?
8月14日時点で、コロナの感染が広がった2月中旬からの累計で8615億円を支給した。
これは、リーマンショック後の2009年度の1年分の支給額(約6534億円)を上回る。
件数で見ると、8月7日時点で約63万件と、09年度の約79万件に迫りつつある。
これが雇用を支える上で大きな役割を果たしている。実際、失業者数は目立って増えていない。それだけでなく、勤労者世帯の収入はそれほど落ち込んでいない。
これが社会不安の高まりを防いでいるのは事実だ。
しかし、ここにまったく問題がないわけではない。
第1は、財源問題だ。
20年度に1.3兆円の残高を見込んでいた積立金は、すでに5000億円程度しか残っていない。現在の支援内容を続ければ、この積立金が底をつく。
このため、特例措置を9月以後も継続するのは容易ではない。
財源問題のために秋以降は特例措置の継続が難しくなれば、企業の雇用調整が加速化する可能性もある。
古い雇用構造が固定化
助成金での雇用維持
基本的議論が必要
第2に、雇用調整助成金については、日本経済の長期的な動向との関連も考える必要がある。
日本では、リーマンショック後に雇用調整助成金で雇用を支えたために、企業が過剰人員を抱える構造が続き、日本経済構造改革の足を引っ張った。
今回も、コロナによって引き起こされるさまざまな変化が「ニューノーマル」をもたらすとされているが、雇用構造が古い構造のままで固定化されると、こうした変化が生じないおそれがある。
雇用調整助成金が雇用を支え、社会不安が高まるのを抑えている効果があるのは間違いないが、いつまでも続けることができないものであることも、間違いない。
この機会に、「雇用調整助成金で雇用を支える」という政策の基本について検討することが必要だ。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
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