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日産は財務悪化で研究開発費削減の一方、トヨタは過去最高水準の金額維持…深まる差
https://biz-journal.jp/2020/06/post_163290.html
2020.06.22 06:00 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
日産・リーフ AUTECH(「Wikipedia」より/DR17 Sagittarius Runaway)
2020年3月期、日産自動車の最終損益は6,700億円を超える大幅赤字に陥った。同社は過剰生産能力を抱え、コロナウイルスの問題もありかなり厳しい状況に追い込まれている。ここへきて同社の債務は増加し、財務内容も悪化している。
日産の経営が悪化した背景には、かなり根の深い問題がある。今から考えると、日産は自分の力で自分を変革することができなかったといえるだろう。1980年代以降、同社は経営がうまくいかなかった。その結果、カルロス・ゴーンという外部の人材を導入せざるを得なかった。ゴーンは強力なリーダーシップで改革を進め、業績は一時的に持ち直した。しかし、それでも日産には自己変革する能力を培うことができなかった。ゴーンは自己利益の確保に走ると同時に、世界的な拡張主義で日産の拡大を行った。ところが、ここへきて中国経済の減速やコロナショックの発生などによって、拡張主義が裏目に出た。
今後、日産は一段と厳しい状況を迎えることになるだろう。ゴーンの問題以降、同社の経営はごたごた続きだ。身を削る改革を進めつつ、日産がルノー・三菱自動車とのソフトアライアンスのなかで独自性を発揮し、組織の士気を高めることは口でいうほど容易なことではない。
■悪化する日産の収益力と財務内容
2020年3月期、日産の連結決算は最終損益が6,712億円の赤字だった。赤字の額としては、元会長のカルロス・ゴーン被告が「日産リバイバルプラン」を進め始めた2000年3月期の6,843億円についで大きい。
最終赤字の要因は大きく2つに分けられる。まず、日産の過剰生産能力が深刻化している。つまり、需要以上の自動車を生産する設備を抱えてしまっている。日産の年間生産能力は720万台だ。しかし、近年の年間生産台数はそれを下回ってきた。2017年度以降の生産台数は580万台、540万台と推移し、昨年度は460万台にまで落ち込んだ。
その結果、固定費の負担が重くのしかかり、構造改革を進めて事業体制をスリム化せざるを得なくなった。日産はインドネシアとスペインのバルセロナにある工場を閉鎖し、グローバル生産能力を2割削減する。今回の決算ではその費用と減損損失として、6,030億円が計上された。
それに加えて、新型コロナウイルスの発生によって自動車への需要が落ち込んだ影響もある。コロナショックは日産にとって約1,000億円の減益要因となった。本年1〜3月期、中国における日産の販売台数は前年同期に比べ40%減少した。日米欧の主要市場でも日産の販売台数は低迷している。
収益が減少した結果、日産の財務内容は一段と不安定化している。特に、同社の借り入れ依存度が高まっている。リーマンショック後の2009年3月期と2020年3月期を比較すると、日産のDEレシオ(負債資本倍率)は1.4倍から1.6倍に上昇した。日産と対照的に、国内自動車各社のDEレシオは横ばい、ないしは低下している。
日産の販売台数が減少し、収益力と財務内容の両面において先行きの悪化懸念が高まったとの見方から、大手信用格付け業者は日産の信用格付けを引き下げた。当面の資金繰りにめどをつけるために日産は国内大手銀行などに5,000億円程度の融資枠設定を要請した。同社の債務依存度は追加的に高まり、財務内容は一段と不安定化する恐れがある。
■自己変革を実現できなかった日産
突き詰めて考えると、日産は消費者がどのような自動車を求めているかを深く考え、新しい発想の実現に向けて自己変革を目指すことが難しかった。その状況が長く続いたことが、収益力と財務内容の悪化を招いた一因と考えられる。
1980年代から90年代にかけて、日産は多くの子会社を抱え、非効率な経営を続けた。また、1980年代から日産の国内工場では、資格を持たない従業員が完成車の検査を行い、完成検査員の印鑑を借りて検査が完了していたことが明らかになっている。それは常識では考えられないことだ。その状況下、経営陣が品質の向上や生産プロセスの改善を目指したとしても、生産の現場に指示が徹底されることは難しかったはずだ。その結果、日産は自ら新しい発想を取り入れ、改善を追求する経営風土を醸成することが難しかった。
バブル崩壊後、同社の経営は急速に悪化し、ルノーに救済を求めざるを得なくなった。ルノーとの資本提携後、日産はゴーン元会長の指揮の下でコストカットを進めた。その上で、ゴーンは、世界シェア拡大を目指す拡張路線を進めた。それは、世界経済の復調と中国などでの自動車需要の増加という波に乗り、一時的に一定の成果を収めた。
問題は、ゴーンが拡張路線を追求し続けたことだ。リーマンショック後、ゴーンは新興国でのシェア拡大を追求して「ダットサン」ブランドを立ち上げるなど、固定費がかさんだ。その一方、米国市場で日産は新型モデルの投入が遅れ、人気が低下した。日産は米国での販売台数を増やすために値引きを強化せざるを得ないという悪循環に陥った。その上に日産は販売台数の3割程度を占める中国経済の減速にも直面し、過剰生産能力が深刻化した。ゴーンが進めたことは、新しい発想を用いて付加価値の高い自動車を生み出す、あるいは、自助努力によって原価低減を実現するという自己変革とは異なる。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界全体で自動車需要が低迷し、日産の経営体力は急速に低下している。
■経営陣のリーダーシップへの不安
ゴーンの不正支出が発覚して以降、同社経営陣はリーダーシップを発揮できていない。1月には、新しい経営体制が発足してすぐに副COOが退社した。経営陣をはじめ組織全体がぎくしゃくしたまま日産が改革を進め、着実に収益を出す体制を整えられるかは不透明だ。
実質的な日産の親会社であるルノーでもゴーンの拡大路線が裏目に出た。その結果、昨年の同社の決算は10年ぶりの赤字だった。ルノーは収益力と財務内容の立て直しを優先しなければならず、日産との経営統合は棚上げせざるを得ない。今後、ルノー、日産、三菱自動車はソフトアライアンスの下で各社の生産設備の相互利用を進め、固定費の削減と収益率の改善に取り組む。
ただ、その取り組みが日産の収益力と財務内容の改善に十分な効果を発揮するとは考えづらい。日産は固定費削減の一環として研究開発費を削減する。その一方で、トヨタ自動車はリーマンショック時に研究開発費を削減してしまったことへの反省から過去最高の研究開発水準を維持する。世界各国で自動運転やEV(電気自動車)の開発が進み、自動車が動くITデバイスとしての性格を強めている。そうした変化に日産がどう対応できるか不安が残る。また、日産が2割の生産能力を削減したとしても過剰生産能力は残る可能性が高い。さらなるコスト削減が不可避となる展開は排除できない。
日産経営陣が相当の覚悟を持って改革を進めようとしているか否かも軽視できないポイントだ。今回の決算において、日産は業績見通しを公表しなかった。先行きが見通せない中で構造改革が進むことに関して、多くの従業員が不安を感じ、士気は一段と低下するだろう。日産の内田社長は構造改革の目標が日産の強みに集中し着実な成長を実現することにあると表明したが、その発言が従業員に勇気を与えるとは考えづらい。
コロナショックによって、世界各国で所得・雇用環境は悪化している。自動車を筆頭に、耐久消費財の購入を先送りする家計は増える可能性が高い。日産の収益力・財務内容が追加的に悪化するリスクは軽視できない。当面、日産はいばらの道を歩むことになりそうだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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