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「いきなりステーキ」のペッパーフード、債務超過寸前で“個人から20億円借金”の異常状態
https://biz-journal.jp/2020/06/post_163700.html
2020.06.18 22:19 文=編集部 Business Journal
いきなり!ステーキの店舗(「Wikipedia」より)
「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービス(東証1部上場)は6月1日、個人から20億円を借り入れたと発表した。借入先は肉の供給元であるエスフーズの代表取締役社長、村上真之助氏。エスフーズの筆頭株主(25.2%を保有)でもある。
ペッパーフードの筆頭株主は17.1%を保有する一瀬邦夫社長。エスフーズは11.6%を持ち第2位の大株主(19年12月期末時点)である。20億円の返済期日は7月末の予定。有担保・無保証だという。有担保とは、ペッパーフードもしくは新たに設立したJPの株式を担保として差し入れるということだろう。普通ならペッパーフードの株式が担保となる。一方、ペッパーフードは借り入れの保証をしていないということから無保証だ。借入金の返済が滞れば、エスフーズは担保に取った株式の名義を書き換えればいい。
ペッパーフードは急速に出店を増やしていたが、店舗の売り上げ不振に新型コロナウイルスが追い打ちをかけ業績が悪化した。東証1部上場で、日銭が入る業態の企業が個人から借り入れをするというのは極めて異例。どの金融機関からも借り入れができなかったとみられ、それほど資金繰りに窮しているという証左である。
6月1日には、ステーキ店「ペッパーランチ」事業を分社化し、新会社JPを設立した。JPは株主総会の承認がいらない「簡易新設分割」という手法で急遽、立ち上げた。JPの資本金は1000万円。ペッパーフードが100%株式を保有。本社は東京・墨田区のペッパーフードの本社内に置き、一瀬社長が代表に就いた。
簡易新設分割は総資産の5分の1以下が分割され新会社がつくられた場合に適用される。株主総会の議決を得る必要はない。会社分割とは、会社を新旧の2つに分離し、旧勘定となる既存会社は特別清算する。新会社に出資者を募り、出直すというのが一般的に行われるやり方だ。
ペッパーランチ事業の2019年12月期の売上高は87億8800万円。ペッパーフードからJPに分割する資産は15億3600万円、負債は3億5500万円となる。
一瀬社長は、いきなりステーキの立て直しに全力投球している。旧会社のペッパーフードを清算することは考えにくい。関係者は「新会社のJPを売却して、再建資金に充てるのでないか」と見ている。
■急成長のいきなりステーキが、いきなり失速
一瀬氏は高校卒業後、レストランやホテルで経験を積み、1970年、レストラン「キッチンくに」を創業。1994年にペッパーランチ事業を始め、2004年には100店舗を達成、06年、東証マザーズに上場。17年、東証1部に指定替えとなった。
13年、ステーキくにのステーキを半額で楽しめるいきなりステーキ1号店を銀座に開いた。高級ブランドがひしめく銀座で、「立ってステーキが食べられる」という斬新なスタイルが脚光を浴び、一躍、外食産業の輝ける星となった。18年、いきなりステーキは300店となる。一瀬社長は「1000店舗」という大風呂敷を広げ、猛烈な勢いで新規出店を始める。ステーキの本場、米国にも進出。18年、日本の外食企業としては初めて米NASDAQ市場に上場を果たした。この時が絶頂だった。
18年の春先まで好調が続いていたいきなりステーキが、いきなり失速する。18年4月から既存店売り上げは前年実績を割り込み、数字は月を追うごとに悪化。19年10月には、売り上げ、客数とも4割以上減った。19年は年間を通して既存店の売り上げは3割減となった。コロナ以前に外食企業の月次売り上げで、これほど落ち込む例はまれ。
1000店の実現のために郊外型のFC店を同じ商圏に多数出店した。その結果、客を奪い合う深刻なカニバリゼーション(自社競合)が起きた。車で来店する客が大半の郊外店では、商圏が重ならないようにするのが出店戦略のイロハだ。店を増やすことだけに目を奪われ、1つの商圏に1つの店という基本ルールを置き忘れてしまった。
■窮余の一策が会社分割と個人からの借り入れ
19年12月期連結決算は惨憺たるものになった。売上高は675億円。期初予想の935億円を3割近く下回った。営業利益は55億円黒字予想が7100万円の赤字。純利益は34億円黒字の見込みが27億円の赤字に転落した。自己資本比率は2%と債務超過寸前のところまで急激に悪化した。オーナー社長でなければ即クビである。
新型コロナの感染拡大が追い打ちをかけた。20年中に74店を閉店する。3月25日、新型コロナの影響が見通せないことから、GC注記(継続企業の前提に関する注記)を記載。20年1〜3月期決算の発表を延期した。
窮地から脱する、手っ取り早い方法が会社分割と個人からの借り入れというわけだ。ペッパーフードの命運を握るのが、20億円を個人で貸し付けた食肉加工エスフーズ社長の村上氏だ。兵庫県立龍野実業高校卒業。1975年に村上畜産に就職したのが食肉業界に足を踏み入れるきっかけとなった。81年、エムアンドエム食品、82年にムラチクを設立し、社長になる。2004年9月、ムラチクがエスフーズのグループに入り、のちに合併。村上氏はエスフーズの副社長食肉本部長に就任。06年3月、社長に就いた。現在、兵庫県食肉事業協同組合連合会会長を務める食肉業界の大物だ。
エスフーズの20年2月期の連結決算の売上高は前期比3.9%増の3519億円、営業利益は2.5%減の107億円、純利益は9.4%減の65億円だった。19年8月、居酒屋「金の蔵」などを展開する三光マーケティングフーズ(東証2部上場)の第三者割当増資を引き受け、株式の9%(議決権ベース)を保有する第4位の大株主になった。
エスフーズの15.3%の株式を保有する第2位の大株主は丸紅だ。持ち分法適用会社に組み入れられている。このままのジリ貧が続けばペッパーフードサービスはエスフーズの軍門に降ることになるとの声もある。
(文=編集部)
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