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JR東海の悪夢…東海道新幹線の利用者94%減の一方、リニア建設費3800億円の負担
https://biz-journal.jp/2020/06/post_163004.html
2020.06.16 06:00 文=編集部 Business Journal
JR東海車のN700系(「Wikipedia」より/JobanLineE531)
東海道新幹線は前回の東京オリンピック開会直前の1964年10月1日に開業した。それから半世紀あまり。今年開かれるはずだった2回目の東京五輪はコロナ禍で延期になり、東海道新幹線は苦境に立たされた。
JR東海はゴールデンウィーク(GW)期間を含む4月24日〜5月6日の東海道新幹線や在来線特急の利用者数が前年同期に比べ94%減ったと発表した。期間中の輸送人員は新幹線が94%減の29万2000人、在来線特急が96%減の1万1000人だった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う政府の緊急事態宣言により、帰省やレジャーといった外出の自粛が強まった影響をモロに受けた。人の移動がなければ新幹線は空(から)になる。
JR東海は今後の利用客の動向を明らかにしていない。「新幹線の5月の輸送人員は前年比9割減」という情報があるが、非公式なものだ。国の緊急事態宣言の延長を踏まえ、JR東海は東海道新幹線の最速列車「のぞみ」の運行本数を2019年度の平均と比べ6割削減した。5月11日から1時間あたり約3本、山陽新幹線に直通するのぞみは同1〜2本程度になった。東海道新幹線は4月24日から臨時列車をすべて運休しており、定期列車の削減にも踏み込んだ。「ひかり」や「こだま」は運行本数を減らさないため、東海道新幹線全体でみると1日約250本の運行と、19年度比で3割強の減便となった。その後、新幹線は徐々に本数を元に戻しているが、コロナ前の水準にはほど遠い。
■輸送量は2月が8%減、3月が59%減、4月が90%減
JR東海の20年3月期通期の売上高は前期比2%減の1兆8446億円、純利益は9%減の3978億円だった。純利益は従来予想(4260億円)より281億円下振れし、8年ぶりの減益となった。上期(19年4〜9月期決算)は増収増益だったが、20年1〜3月期の失速が通期の業績を悪化させた。
20年1〜3月期連結決算は、売上高が前年同期比16%減の3966億円、営業利益は61%減の442億円、純利益は85%減の97億円だった。減益の主因は新幹線の利用客の急速な落ち込みだ。20年1月まではビジネス客の出張や訪日外国人(インバウンド)の需要が追い風となり、前年同月比プラスで推移してきたが、2月以降、月を追って利用客が減った。新型コロナの影響が広がり始めた2月は輸送量が同8%減、3月は過去最大の減少率となる59%減。1〜3月で見ると新幹線の運輸収入は2552億円と2割減った。
JR東海の4月の東海道新幹線の輸送量は前年同月比で90%減。3月の59%減を大きく上回った。1カ月で1100億円の運賃収入の減少だ。4〜6月期は過去最悪の決算となるだろう。金子慎社長は「会社発足以来の厳しい局面」とした。
コロナ後の商慣行の変化に株式市場は着目している。
「オンラインの会議や商談が普及すると、出張して会いに行かなくても失礼にはならなくなる。ビジネスの常識が変わる」(外資系証券会社のアナリスト)
新幹線のビジネス客の今後の動向を注視する必要がある。JR東海の営業利益全体でみた場合、運輸事業の割合は9割強。JR東日本、西日本の同6割台と比べて運輸事業の比重が大きい。20年3月期決算に基づく数字だ。19年同期もJR東海はほぼ同じである。
というのも東海道新幹線の採算が良く、だから必然的に新幹線1本足打法になった。それだけに運賃収入の落ち込みはJR東海を直撃した。
「JR東海はリニア中央新幹線の投資が重く、JR東日本と比較するとホテルや駅ビル、商業施設を後回しにしてきたツケが回ってきている」(前出と別のアナリスト)
JR東海は21年3月期の業績予想・配当を「未定」とした。東日本、西日本も同様である。
■6年連続で過去最高となる設備投資
新型コロナの影響の長期化が確実になった。特に新幹線への依存度が高く、その一方でリニア中央新幹線の建設を行っているJR東海への影響は深刻だ。コロナ禍以前に策定されたものだが、JR東海の20年度(20年4月〜21年3月)の連結設備投資額が単年度としては過去最高の7180億円となる。19年度の当初計画(6210億円)を15.6%上回り、6年連続で過去最高である。リニア中央新幹線の建設工事に半分強の3800億円を投じる。
脱線防止ガードの敷設や新幹線車両に大型荷物置き場を設置するなどの安全・安定輸送の確保に1490億円を充てる。7月には新幹線の新型車両「N700S」がデビューする予定になっているほか、約20年ぶりに在来線の通勤型電車「315系」を新たに開発し、輸送サービスの充実にも930億円を投資する。
JR東海の「超電導磁気浮上式リニアモーターカー(超電導リニア)」は品川−名古屋間を最速40分で結ぶ計画。時速150キロメートルを超えると浮上して、高速走行する仕組みだ。13年から山梨県で試験走行してきた初代営業仕様「L0系」の改良型を3月25日、報道陣に公開した。「鼻」と呼ばれる車両の先頭部分は凸凹が際立ち「鼻筋」が通った形状となり、先端だけが従来より丸くなった。L0系は平らな部分が多く、鼻ペチャだった。テレビが改良型を映し出すと、鉄道ファンのボルテージは一段と上がった。
■リニア新幹線の27年開業が困難に
新型コロナの影響でリニア中央新幹線の建設工事の中断が相次いだ。4月中旬までに東京都と神奈川県の一部で工事を中断したが、山梨県を除く、静岡、長野、岐阜、愛知の各県でも工事中断が相次いだ。
全長286キロのうち9割近くをトンネルが占める。「最難関工事」のひとつの静岡工区(8.9キロ)は本体工事に着工できていない。静岡県の川勝平太知事が約60万人が利用する大井川の水量が減る恐れがあるとして慎重の姿勢を崩していないためだ。静岡県とJR東海は解決に向けた協議を続けているが膠着状態に陥っている。
着工の同意が6月中に得られないと、静岡県内のトンネル工事が始められない。JR東海は、6月に静岡県内で工事が着手できないとリニア中央新幹線の品川―名古屋間の2027年開業が困難、と表明していた。
JR東海は金子社長と川勝知事のトップ会談で打開を目指すが、開業へのハードルは一段と高くなっている。川勝知事は6月10日、県庁で開いた定例会見で、「私の関心は2027年にない」と言い切った。最速で37年とされる大阪延伸も困難になる。
■JR東日本、西日本のダメージも大きい
JR東日本のGW期間中の新幹線や在来線特急の輸送人員は91万6000人で前年同期間に比べ95%減った。空港利用者の落ち込みで大幅減便となった成田空港と東京都心を結ぶ「成田エクスプレス」は3000人。前年の1%の利用にとどまった。東京都が外出自粛を呼びかけた4月25日〜5月5日の11日間における自動改札の利用実績は、前年同期間と比べて東京駅で85%減、渋谷駅で82%減だった。
JR西日本も利用者数が19万人と前年同期に比べ95%減った。利用者数は山陽新幹線や在来線の特急で95%減、北陸新幹線で97%減。GW期間中の山陽新幹線で、新大阪駅発車時点の自由席乗車率が3%の列車があった。
20年1〜3月期連結決算の最終損益はJR東日本が530億円の赤字、JR西日本は277億円の赤字。新型コロナの感染拡大は、鉄道事業だけではなく、JR東やJR西が稼ぎ頭としてきた流通・サービス・不動産・ホテル事業など非運輸事業にも、ダメージを与えた。ただ、JR東日本は首都圏の鉄道網のラッシュ時に利用客が戻れば、業績回復のテンポが速まる。
(文=編集部)
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