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コロナショックに直撃された非正規女性 仕事失い生活も苦しく
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2020/06/post-93660.php
2020年6月12日(金)12時45分 ニューズウィーク
厚生労働省によると、新型コロナの影響で雇い止めや解雇となった人の数は、9日時点で見込みも含め2万人を超えた。その多くは非正規で、6月に入ってから雇用情勢は急速に悪化している。写真は4月1日、東京・六本木で撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)
「女性が輝く社会」を掲げたアベノミクスのもと、女性の就業率は70%を超えるまでに上昇した。しかし、その多くはパート、アルバイト、派遣などの非正規雇用であり、こうした層は新型コロナウイルスによって最も打撃を受けている。
厚生労働省によると、新型コロナの影響で雇い止めや解雇となった人の数は、9日時点で見込みも含め2万人を超えた。その多くは非正規で、6月に入ってから雇用情勢は急速に悪化している。総務省が5月29日に発表した労働力調査によると、4月は非正規の職員・従業員数が前年比97万人減少、そのうち71万人が女性だった。
女性の就業について詳しい元淑徳大学教授でジャーナリストの野村浩子氏は、「明らかにまず女性から切られていることがわかる」と指摘、「最初に切られるのはパート・アルバイトで、ここには女性が多い」と話す。
また、「リーマン・ショックのときは輸出型大企業、金融が痛んで、大企業が打撃を受けて派遣切りが起きたが、今回は内需サービスが新型コロナの影響を最も受けた。宿泊・飲食サービス業で働く人は女性が6割を占める。そのうち75%が非正規。ここで一番雇用が減っている」と分析している。
野村氏によると、職を失ったり収入が減ることによって最も貧困状態に陥りやすいのはシングルマザー、次いで一人暮らしの独身女性だという。
森山翔子さんは広島に住む31歳のシングルマザー。6歳の男の子と4歳の双子の女の子がいる。新型コロナの影響で幼稚園が休園となったため、10カ月前からパートで働いていた物流関連会社の仕事を休まなければならなくなった。「パートで月に決まった給料、出勤しただけもらえる給料がなくなったので、パートの仕事を休んでからは、基本的に収入はゼロになり、フリーランスの方でもらえる分だけになった。(フリーランスの状況は)正直、厳しいところ」と話す。
子どもたちと過ごす毎日に「夏休みだと、外に行く場所とかを考えられたけど、家で過ごすとなったら本当に何をしたら良いかわからなかった」という。
43歳のシングルマザーAさんは、8歳の息子を育てながら、人材サービス会社に派遣社員として1年半勤めていた。5月半ば、新型コロナの影響で7月からは契約を更新しないと告げられた。Aさんは派遣社員のため在宅勤務は許可されないと言われた。同じ仕事をしている正社員はテレワークをしている。子どもの学校が休校となり、学童保育も閉鎖されてしまったため、Aさんは仕方なく、自宅待機を選んだ。
「ショックだった。別に休みたくて休んだわけじゃなく、休まざるを得なかった。リモートさえやらせてもらえず、自宅待機しかできない。その選択肢しかなかった。今まで一生懸命働いてきたのは何だったのだろうと。今までやってきたことは意味なかったな、と裏切られた感じがした」と、Aさんは語った。
幸い、Aさんはその後別の仕事を見つけ、7月からはそこで働くことになっている。
2歳の娘を持つ小林さん(34)は、パートで医療関係の事務をしている。子どもは保育園に預けているが、新型コロナで仕事が増えて忙しくなり、残業すると保育園の延長料金がかかるため支出が増えているという。また、病院で仕事をしているため周りの目も気にせざるを得ない。
小林さんは3年間別居している夫との間で離婚が成立していないため、一人親への政府の支援が受けられない。夫から養育費をもらっていないので実質的にはシングルマザーだが、セーフティネットで拾われない立場にある。朝から晩まで仕事と育児に追われ、「毎日が綱渡りの生活で、不安は尽きない」という。今は残業が思うようにできていないため、「今後、それを理由に切られる可能性があると思う」と話した。
■非正規のシングル一人暮らし
非正規で働く独身一人暮らしの女性たちも、セーフティネットからこぼれ、貧困に陥りやすい層に当たる。
大阪に住む美雪さん(53)は派遣社員として農業用機械を製造する工場で10年前から働いてきたが、4月中旬に、新型コロナによる影響を理由に5月末で契約を打ち切ると言われた。派遣会社からは別の仕事を紹介され、早く受けた方がいいと言われて工場を辞めたが、応募した会社の募集はキャンセルとなった。数日後、製薬会社で派遣の仕事が見つかったが、収入は以前の半分に減った。その仕事も7月末までの契約だ。
「仕事がない不安から余分な出費を抑えなければいけないということで、車を手放した。涙が出た。ここまでしないといけないかな、と思って」と語る。特別給付金は申請したが、まだ届いていない。「一回きりもらったぐらいでは、一日一日生きていかなければいけない者としては、ちょっとしんどい」と話す。
和光大学名誉教授の竹信三恵子氏は、一人暮らしの非正規雇用の女性が支援を受けにくい理由について、日本では「もともと男性が生活費を稼ぎ、女性が足りない部分を補うという働き方(が主流)だったため、女性が失業しても夫の安全ネットがあるからそんなに問題はないと思われている。経済が悪くなったら解雇すべき人たちだと思われている。でも実は違う」と指摘する。
野村浩子氏の試算によると、配偶者のいない約130万人の女性が不安定なパートで生計を立てており、「コロナ渦は、こうした非正規女性の生活を揺るがしている」。さらに非正規雇用で働く女性の約7割が年収150万円未満(2017年「就業構造基本調査」)であり、独身一人暮らしだと当座を乗り切る現金の貯えがあるとは考えにくい。
■まだまだ続く解雇・雇い止め
日本の全労働者の約4割が非正規で働いているが、女性だけでみると、6割弱がパート、アルバイト、派遣社員などの非正規労働者。男性では非正規の比率は2割程度にすぎない。
野村氏は、非正規労働者に対する解雇、雇い止めは、まだまだこれから増えるとみている。契約社員の場合、3カ月ごとに更新されるケースが多く、6月末に職を失う人が急増するとの見方もある。
非正規社員の待遇改善に取り組む労働組合、派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は「リーマン・ショックの時、派遣切りがあったのは製造業が中心だったが、今回はあらゆる業種に広がっている傾向がある。まだまだ雇い止めはどんどん継続していくと思う」と話す。
政府が経団連に対し、雇い止めや解雇を行わないよう要請したが、その効果は期待できるかとの質問に、関根氏は「お願いして聞いてくれるものではない。切れないようにルールを作らなければならない」と答えた。
宮崎亜巳、山光瑛美(取材協力:リンダ・シーグ 編集:山川薫)
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