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コロナショックの経済危機はリーマン超え
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/03/post-92880.php
2020年3月27日(金)16時10分 アダム・トゥーズ(コロンビア大学教授) ニューズウィーク
各国で連動して株価が暴落するなど、金融リスクもグローバル化が進む LUCUS JACKSON-REUTERS
<止まらない資本流出で大打撃必至の新興国──最大の懸念は中国による「禁断の錬金術」>
ドナルド・トランプ米大統領は2018年5月に米政府のパンデミック(世界的大流行)準備ユニットを再構築し、規模を縮小した。現時点で振り返れば軽率な判断に見える。
しかし、こうした措置を取った大統領はトランプだけではない。国家安全保障会議(NSC)の世界保健安全保障ユニットはビル・クリントンの政権下で1998年に設置された。その何年か後、まずジョージ・W・ブッシュ、次いでバラク・オバマがこのユニットを一時閉鎖した。
要するに官僚組織は、蓋然性は低いが大きな犠牲を伴うパンデミックのようなリスクにはほとんどお手上げなのだ。この手のリスクは縦割り型の行政機構とリスク評価モデルにはうまく収まらない。
NSCでさえこんなありさまだから、経済政策の立案担当者はなおさらなすすべを知らない。彼らとて「テールリスク」、つまり数十年から数百年に1度起こるかどうかのリスクを議論することはあっても、パンデミックで経済活動がストップする事態など想像もできなかったはずだ。
2008年に私たちはリーマン・ショックで金融市場が大混乱に陥るのを目の当たりにした。サブプライムローンの焦げ付きに端を発した金融危機で、経済全体が心臓発作を起こしかねない状況だった。
2008年から09年にかけての冬には全米で毎月75万人超が失業し、景気後退期全体を通じて870万人が職を失った。自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーなどアメリカが誇る大企業も経営破綻に追い込まれた。
影響は世界全体に及び、世界の貿易量はかつてないほど落ち込んだ。それでも各国の大胆な金融・財政政策のおかげで景気後退の深化と長期化は回避でき、2009年下半期には回復の兆しが見え始めた。
いま私たちが直面している新型コロナウイルスによる経済危機がどの程度進むのかはまだ予測できないが、景気後退は避けられそうにない。昨年から既に世界の製造業は伸び悩み始めていた。今や最低でも数カ月間、世界の経済大国が軒並み経済活動を大幅に制限せざるを得ない状況だ。工場は操業を停止し、店舗、ジム、バー、学校、大学、レストランが閉鎖されている。
現時点での指標を見る限り、アメリカでは6月までに毎月最大で100万人の失業者が出ると予想され、2008〜09年よりも深刻な事態になりそうだ。航空産業など一部の部門は特に大きな痛手を受けるだろう。石油業界では需要の急減を見越してOPEC(石油輸出国機構)とロシアと北米のシェール石油会社が熾烈な値下げ競争を繰り広げている。
値下げ競争が他部門にも広がれば「負債デフレ」、つまり物価の下落で企業の負債が実質的に増大する現象が起きる。世界全体で企業の負債は2008年の2倍に上っており、この負担が増大すれば世界全体で景気が急激に冷え込む。
■流動性確保に走る市場
だが新型コロナウイルスによる景気後退には、減税や政府支出など古典的な財政政策で対処できる。感染拡大の最悪期を乗り切れたら、まずは公衆衛生インフラに投資することだ。今回明らかになったように、どの国も感染症の監視、モデリング、緊急対応システムを大幅にグレードアップし、物品の備蓄や予備能力を拡充する必要がある。それにより建設的な投資機会が数多く生まれ、質の高い雇用が創出されるだろう。
2008年と違って今回は危機をきっかけに成長が見込める部門もある。アメリカのGDPの約18%を占める医療部門はその代表格だ。人と人の接触を避ける必要があるため、非対面型のデリバリーサービスやウェブ会議システムの利用も増えている。こうした部門は危機後も成長するだろう。
とはいえ2008年と同様、景気後退に対処する前に抑えるべき脅威がもう1つある。金融パニックのリスクだ。パニックは景気後退とは違う。今回の金融パニックは3月第2週から始まり、今も市場を揺さぶり続けている。
直接的な引き金となったのは、サウジアラビアとロシアの石油減産交渉の決裂と、その後のサウジアラビアの大幅な増産決定だった。イタリアの感染拡大のニュースに、経済に直結する油価のニュースが重なったため、世界的な信用収縮と、安全な資産への資金逃避に火が付いた。
感染症という異質の要因が経済にもたらした衝撃が、信頼感と信用の崩壊という経済システムの内部崩壊に「変異」しつつあることが、市場関係者にも少しずつ分かってきた。
突然の信用収縮は、ビジネスモデルが弱いにもかかわらず、莫大な借入金によって仕事を回してきた企業をあぶり出す。その経営悪化は、操業停止や雇用喪失、さらには本来なら優良な資産のたたき売りを通じて、経済全体の先行きを怪しいものにする。
こうした企業が借入金の返済に窮すれば、債権者のバランスシートがダメージを受ける(そんな企業に融資していた時点で間違っているのだが)。そしてこの種の連鎖的な破綻に対する不安が、全面的な信用収縮をもたらす。
2008年の金融危機の「主犯」は銀行だった。だがその後、アメリカの大手銀行はバランスシートを強化してきたから、今回は困難に陥るとは考えにくい。だがヨーロッパの銀行は違う。2008年の金融危機とユーロ圏の財政破綻のダブルパンチから、まだ本当に立ち直ったとは言えない状況だ。イタリアの公的債務は今も危険なレベルにある。
国境封鎖で観光業界は未曽有の危機に直面している(ベネチアの運河) MANUEL SILVESTRI-REUTERS
一方、原油価格の急落で石油収入が激減した産油国は、政府系投資ファンドの資産売却を強いられるかもしれない。そうなれば、本来なら優良資産だったものが買いたたかれて、幅広い市場に連鎖反応を引き起こしかねない。
だが、何より懸念すべき兆候は、株価と米国債の急落だ。本来なら米国債は、資金の安全な逃避先となるはずだ。その価格が下がるということは、相当な数の投資家が、必死で手元資金を確保しようとしていることを意味する。
それなのに、各国の中央銀行の対応はどこか頼りない。ECB(欧州中央銀行)のクリスティーヌ・ラガルド総裁は3月半ば、ECBにはイタリアを支援する義務はないと示唆するかのような発言をして市場を動揺させた。
FRB(米連邦準備理事会)が15日に緊急決定した措置も、インパクトに欠けた。政策金利を実質ゼロにまで引き下げ、4回目の量的緩和に乗り出すというものだったが、これでは2008年の対策と基本的に同じだ。
確かに、感染症のパンデミックにぴったりの金融政策は存在しない。実際、米欧の金融当局はどちらも、これは財政政策によって対処するべき問題だと主張する。だが、たとえ中央銀行が取れるパンデミック対策は限られているとしても、信用システムそのもののリスクが高まることは阻止しなければならない。
■FRBのリードに期待
今のところ世界の中央銀行には、2008年の世界金融危機で見られたレベルの連携はない。ただ、明示的な連携は必要ないかもしれない。私たちは十分な時間をかけて、世界金融危機の経験を消化してきた。その展開をよく理解して、FRBがリーダーシップを取らなくてはいけないことは、誰もが分かっている。
世界の金融市場はドルベースで動いている。それだけにFRBが15日、日本やイギリスの中央銀行と協力して、ドル資金の通貨交換(スワップ)を拡充すると発表したことは重要だった。
こうした中央銀行の世界的な協力体制に、トランプと米政権内の経済ナショナリストが異議を唱えるのではないかという懸念も、パンデミック以前は根強かった。
スワップ協定は、簡単に言えば、FRBが他国の中央銀行の要請に応じてドルを供給するものだ。「アメリカを再び偉大な国に」と気勢を上げる人々に支持される政策ではなさそうだが、自宅から出ることさえ恐れている最中に、経済ナショナリズムにこだわる余裕はないようだ。
しかし、FRBの介入も市場の売りを止めることはできず、緩和政策がさらに拡大するのか、様子見が続いている。
FRBはまず、金融機関が国債などを担保に短期資金を貸し借りするレポ市場に、緊急の資金供給を追加した。続いて、大企業が無担保の短期約束手形で資金を調達するコマーシャル・ペーパー市場にも、流動性を供給している。
今や世界の要となった中国経済の活動が麻痺した影響は計り知れない(中国人民銀行本店) JASON LEE-REUTERS
ただし、世界全体との関係を考えたとき、中央銀行の行動には根本的な限界がある。
近年のスワップ協定は、先進国の中でも最重要国に限られてきた。先の金融危機に際して一時的に拡大したときも、FRBのドル供給の恩恵にあずかることができるのは14の中央銀行だけ。そのうち新興市場は、韓国、ブラジル、メキシコだけだった。
■中国が米国債を換金?
とはいえ、2008年以降、最も進んだ新興国経済と先進国経済の垣根は、次第に曖昧になりつつある。
パニックが起きると、資金はアメリカを中心とする先進国に流れる。今のところ、ドル建て資産への資金流入は始まったばかりのようだ。しかし、いくつかの新興国市場は既に、深刻な金融逼迫に直面している。実際、新型コロナウイルスの不安が世界的に広まり始めてからというもの、外貨の大規模な流出が続いている。3月中旬までの8週間で、新興国市場から逃げ出した資金は550億ドル。2008年の金融危機や、2013年にFRBが量的緩和策の縮小を示唆して金融市場が動揺した「テーパータントラム」の際の2倍に当たる規模だ。
メキシコやブラジルなど、人口が多くて、公共インフラや財政が脆弱な国は、特に深刻な影響を受けるだろう。
ただし、最も懸念されるのは中国だ。2008年の中国経済はたくましかった。資金流出の影響を受けず、大規模な財政・金融刺激策によって、自国の経済も、中国への輸出に頼る国々の経済も、大きく底上げしてみせた。
FRBと中国人民銀行がスワップ協定を真剣に検討することもなかった。2008年以降、中国はドルではなく人民元を核に、独自にスワップ協定網を確立している。
その中国が経済活動の大部分を閉鎖せざるを得ない事態となり、世界の貿易が大幅に縮小しようとしている今、問題は中国のグローバル企業のドル需要がどこまで増えるかということだ。
2008年以降、中国企業の国際進出は目覚ましく、他の新興国市場の企業と同じように米ドルを大量に借り入れている。中国の外貨準備も膨大だが、現金の米ドルではなく、ほとんどを米国債で保有している。
米債券市場の不安定さを考えると、世界が何よりも恐れているのは、中国がその膨大な外貨準備高を現金化せざるを得ない状況に追い込まれることだ。そうなれば、公的資金によって市場の安定を図ろうとしているFRBの努力は、水の泡になりかねない。
一方で、FRBが人民元を担保に中国と大規模なスワップ協定を結ぶことは、想像しにくい。FRBも米議会の反中タカ派の怒りを買いたくはないだろう。
世界が公衆衛生危機に直面し、経済の安定を守るという共通の利益が脅かされている。官僚の創意が、この危機を政治化したい人々のあからさまな誘惑に打ち勝つことを、願うしかない。
From Foreign Policy Magazine
<本誌2020年3月31日号掲載>
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