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「専門家が語る『ロシア軍の原発攻撃』の無謀さ 原発は武力攻撃に耐えきれず、安全対策も無力」
(東洋経済 2022/3/8)
https://toyokeizai.net/articles/-/537164
ロシア軍は、ウクライナの原子力発電所を武力攻撃し、施設を占拠した。戦時下で原発が標的となったのは歴史上初めてのことで、世界に衝撃が走っている。
原子力安全・テロ対策に詳しい専門家の佐藤暁氏に、今回の事態の重大性と行き着く先について聞いた。
――ロシアによるウクライナ侵略では、軍隊による原子力施設への攻撃・占拠が相次いでいます。
そこまでやるのかと衝撃を受けた。同時に何が目的なのかと考えてみた。原子力発電所を占拠することにより、これを盾にしようとしているのではないか。
つまり、占拠したうえで原発の周辺をミサイル基地化することにより、戦争がエスカレートした場合でも、NATO(北大西洋条約機構)軍が攻撃できないように盾にしようという思惑があるのではないか。チェルノブイリ原発周辺を軍事基地化すれば、NATO軍が攻め込んできたとしてもそこを攻撃できない。
チェルノブイリ原発の4基はすでに廃炉になっているが、使用済み核燃料プールには多数の使用済み核燃料が保管されている。また、爆発を起こして大破した4号機は「石棺」で覆われているが、ここが攻撃を受けたら大規模な放射能汚染につながりかねない。それを恐れて攻撃できなくさせるという狙いがあるのではないか。
■ ザポリージャ原発への影響
――稼働中のザポリージャ原発もロシア軍の攻撃を受けて、占拠されました。
原発を攻撃すること自体、やってはならないことだ。国際条約でも禁止されている。
他方、(6基ある原発のうち)4号機の運転が継続されていることから見て、ロシア軍は見境なく攻撃したわけでなく、一定の冷静さはあったとみることができる。全基を停めて発電できなくしたのでは、所内での電源の融通ができなくなってかえって危険だからだ。
ただし、万が一、攻撃がエスカレートしていたら、発電中の原子炉が真っ先に事故を起こし、とんでもない事態になっていた可能性がある。
――ウクライナのクレバ外相は、原子炉が攻撃されて最悪の事態になった場合には、「被害は(1986年に起きた)チェルノブイリ原発事故の10倍にもなる」とし、ゼレンスキー大統領は「ヨーロッパが破滅する」とまで警告しました。
確率はともかくとして、まったくありえないことではない。
――最悪の場合、どういうことが考えられますか?
まずもって申し上げたいことは、原発は軍事攻撃に耐えられるような安全性を有していないということだ。
銃撃戦であれば格納容器の破壊には至らないだろうが、ミサイルが撃ち込まれたら、格納容器を貫通してしまう。格納容器は鉄筋コンクリート製だが、内側には数ミリの鉄板が張られている程度だ。
穴が開いたところに、焼夷弾のような燃焼エネルギーの大きな爆弾が投下された場合、最悪の事態につながりうる。ジルコニウム合金の燃料被覆管がいったん発火すると、それが発熱反応によっていっそう火勢が増し、炉心や燃料プールの核燃料から、高温の煙に乗って膨大な放射性物質が環境中に放出されるおそれがある。
ここで中途半端に水をかけると水蒸気が一気に発生し、今度は高温の水蒸気とジルコニウムが化学反応を起こしてさらに水素ガスが生じる。火災が発生した時点で一気に水をかけて火を消し止めることができればいいが、戦闘が続いている中でそれができるとは思えない。
原子炉が攻撃されても原子爆弾のような爆発現象は起こらない。しかし、全方位に拡散される放射性物質による影響は、10メガトンの水爆をもはるかに上回る。実際に何が現実に起きるかは、攻撃を指揮する者たちの悪意や狂気のレベルによる。
■ 国際標準的な安全対策の有効性は
――ザポリージャ原発は、電源系統を多重化したり、非常用ディーゼル発電機を備えるなど、過酷事故対策を整えていたようです。
ヨーロッパ原子力安全規制グループ(ENSREG)は、ウクライナの原発が過酷事故にどこまで耐えられるかについてのウクライナの原子力規制当局による「ストレステスト」に対するピアレビューを実施しており、その報告書が2015年に発表されている。
それによれば、ザポリージャ原発を含めて、ウクライナの原発の所外電源は、各号機に3系統以上あり、外部から電力の供給を受けられるようになっている、また、非常用ディーゼル発電機も各号機に3系統ずつ備えられている。同発電機には7日分の燃料がある。
さらにザポリージャ原発については、近くの水力発電所と火力発電所からもバックアップの電源が得られるようになっている。もちろん、原発内での融通も可能だ。バッテリーによる直流無停電電源も3系統ある。そして最終的な熱の逃がし先として、川や冷却塔、スプレーポンド、さらには大きな貯水池もある。福島原発事故を踏まえた重大事故対策の設備として、可搬式のディーゼル発電機やポンプのユニット、消防車も備えている。
このように、国際標準的な安全対策は講じられている。なお、最悪の事態(クリフエッジ)の評価としては、全電源喪失と最終排熱喪失が同時に起きたうえに、運転員が何も対応できない場合に、炉心損傷に至るまでの時間は、ザポリージャ原発の原子炉と同じ炉型の場合に3.5〜4時間となっている。ただし、これは武力攻撃された場合の想定ではない。
言えることとして、福島原発事故後の安全対策は、戦争下においてはまったくの無力ということだ。
-------(引用ここまで)-------------------------------
安全保障を考えれば、原発は一刻も早く全廃するしかない、
という結論に達しますね。
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