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原発処理水放出、風評被害発生を煽り国益を損なう「全漁連・水産族議員・メディア」
https://biz-journal.jp/2021/04/post_223228.html
2021.04.30 06:00 文=編集部 Business Journal
東京電力福島原発(「gettyimages」より)
政府は、東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する方針を決定した。政府や東電は、浄化装置で取り除ききれないトリチウムを含んだ処理水の安全性を強調。ただ、全国漁業協同組合連合会(全漁連)をはじめとした漁業団体、国会議員、報道機関のトライアングルの構図が必要以上に風評被害の発生を煽っている。水産物の販路拡大策などで行きすぎた歳出増圧力を高めるこのトライアングルこそ、悪の元凶なのだ。
■不安心理を利用か
全漁連の岸宏会長らは、政府による正式決定前に菅義偉首相と面会し、改めて処理水の海洋放出について断固反対の意を伝達した。岸氏は面会後のぶら下がり取材で「当然ながら風評被害が起きる」と主張。これに対し、野上浩太郎農相は「風評被害が生じることを懸念する気持ちは当然」と理解を示す。
とはいえ、ただただ風評被害が起きるとだけ叫び続ける漁業団体の反応は過剰そのものといわざるを得ない。概念が曖昧で目に見えないがゆえに生じる消費者の不安を利用し、国から予算を取ろうとしているとの指摘も少なくない。政府は「生産・流通・消費それぞれの段階での追加の支援策を政府全体で検討していく」(野上農相)とし、漁業者らからの聞き取りなどを経て、年内に対策を決める方針。
■全国の水産物支援を要望
常識的に考えれば、福島県産に加え、太平洋に面した近隣県で水揚げや加工された水産物が支援対象になる。ただ、全漁連は水面下で政府に対し、全国の水産物に対し販路開拓などの支援を行うよう要望。本来なら、全漁連は漁業者の立場に寄り添いつつ、避けて通れない処理水の海洋放出に伴う風評被害をいかに未然に防ぐか政府と共に知恵を絞らなければいけない。そうしたことを怠り、行政に対策を迫るだけでは、団体としての責務を果たしているとはいえず、全漁連不要論が出てもおかしくない。
しかも、自民党の水産族議員が全漁連の主張を全面的に是認していることが、事態をさらに悪くしている。水産族議員からは「処理水の放出決定により、魚ではなく何となく肉を選ぶ消費者が増える」「海を切り分けることはできない。全国の水産物が支援対象になる」との声が聞かれる。経済官庁幹部は「無茶苦茶だ」とあきれかえる。
全漁連の顔色をうかがっているだけなのかどうかは図りかねる部分もあるが、団体の言い分を鵜呑みにすることは無責任との誹りは免れない。族議員の役割は団体の無理難題を抑え込み、軟着陸を図ることだ。「日本海側など関係ない県選出の国会議員は問題を煽らないでほしい」(被災地選出衆院議員)という良識的な声はかき消されている。
原発事故や漁業問題を報じる大手メディアの姿勢も問われる。漁業団体の意見や政治家の立場をフェアに報じなくてはならないが、一部の漁業者や消費者団体などの感情的で断片的な話を、それがすべてかのように報道している部分も否めない。これまで処理水のことを汚染水と混同したかのような報道もあり、消費者の誤解を招いている。
海に流すのは汚染水ではなく、トリチウムの濃度を国の基準の40分の1程度に抑えた処理水である。政府は安全性を確保するため、漁場などでのトリチウムの濃度を調べるモニタリングを新たに実施する。
■韓国・中国が政治利用
このトライアングルが必要以上に問題を大きくしているようでは、「韓国や中国などに政治利用され、被災地などの食品の輸出解禁は実現しない」(政府関係者)との懸念も聞かれる。中韓や台湾など15カ国・地域が日本産の農林水産物の輸入規制措置を講じている。経済官庁幹部は「日本以上に国外のほうが深刻な風評被害が起きる可能性がある」と憤る。政府は引き続き科学的根拠を示しながら、規制撤廃を求めていくが、解除できるかどうか見通せない。
政府による処理水の放出決定を受け、中韓両国はすぐさま反発。中国は日本政府の対応を「無責任だ」と批判した。現在、日中間で処理水をめぐる言い争いが過熱している。
きっかけは麻生太郎財務相の発言だ。麻生氏は4月13日の記者会見で、福島第1原発の処理水のほうが、中韓両国が海洋放出しているものよりもトリチウムの濃度が低いことに触れ「飲んでも何ということはないそうだ」と強調。安全性に問題はないという同氏の認識に対し、中国外務省は「太平洋は中国の下水道ではない」と反論した。さらに同氏は16日の記者会見で「中国の下水道なのか。みんなの海だ」と指摘した。泥仕合が続いている。
■政府はいったい何をやっていた
政府は昨年10月に海洋放出を決定する方向で調整していたが、漁業団体の反発があまりにも強かったため、いったん表明を見送った経緯がある。環境省幹部は昨年、「いったん立ち止まる必要があった。決定時には風評対策を示す必要がある」と説明していた。
しかし、ふたを開けてみれば、いくつかの柱は示されたが、具体性に欠けている。いったい政府はこの半年間、何をやっていたのだろうか。しかも丁寧なステップを踏んで周到に意思決定した形跡はなく、「結論ありきの日本の典型的な悪いやり方だ」(水産庁OB)との見方もある。
この半年間を有効活用し、丁寧な説明を行い、具体的な対策を示していれば、多少なりともこのトライアングルを抑え込めた可能性がある。結果的に歳出増を求める圧力を跳ね返せない状況にした政府の責任も厳しく問われる。
(文=編集部)
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