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原発汚染水放出に世界で高まる非難 10年後には太平洋全体に拡散 資金投じ処理技術導入せよ
https://www.chosyu-journal.jp/kokusai/20840
2021年4月25日 長周新聞
日本政府が13日、福島第一原発で溜まり続ける放射能汚染水を海洋放出すると決定したことに対し、国内の漁業者の組織や周辺議会があいついで抗議の意志表明をしているのをはじめ、隣接国の韓国や中国、台湾、北朝鮮、ロシアなどが直ちに懸念や反対を表明し、日本大使館への抗議行動などをおこなっている。また、ドイツのキール大学ヘルムホルツ海洋研究センターは2012年に「福島原発から放出した汚染水は57日以内に太平洋の大部分の区域に拡散し、10年後には全世界の海域に広がる」とのシミュレーション【地図参照】を発表しており、日本国内にとどまらず、国際的な重大問題に発展している。各国政府は、日本政府に対して自国民と国際社会に対して責任ある態度をとるよう厳しく迫っている。
距離的にも近く、直接的な影響をもっとも受ける韓国では、日本政府が海洋放出を柱にした汚染水処理の方針をうち出した時点から、慎重な対応をとるよう促す行動が起こっていた。
慶尚南道の議会は昨年11月の議会で、日本政府に汚染水の海洋放出はしないように促す決議案を採択した。決議は「浄化した汚染水だとしても放射性物質の基準値を満たす汚染水は全体の27%にすぎない」「こうした汚染水が海に放出されれば、想像できないほどの危険が目の前に広がる」と指摘している。また、ドイツのヘルムホルツ海洋研究センターのシミュレーション結果を紹介し、「汚染水の放出が始まってから7カ月後に南部・済州島の近海、18カ月後には東海の大部分に影響を及ぼす」とし、同道は2513`の海岸線を持っており、汚染水の海洋放出の直接的な影響を受けると強調した。
同時期に複数の市民団体が汚染水の海洋放出に反対する集会や海上デモをおこなった。また、昨年10月22日には11の団体が釜山の日本総領事館前で記者会見を開き、放出計画を延期するよう求めている。
13日に日本政府が海洋放出を決定した後には、抗議行動が激発している。
市民団体・脱核市民行動は決定直後の13日にソウルの日本大使館前で抗議行動をおこない、「周辺国の強い反対にもかかわらず、汚染水の放流を独断的に強行しようとする日本政府の態度に怒りをこらえがたい」と糾弾の声をあげた。また、同日には海峡を挟んで日本と向かいあう韓国南部の済州島知事が記者会見をおこない、「海を共有した隣国と国民に対する暴挙」とのべ、釜山や慶尚南道、蔚山、全羅南道とともに汚染水阻止対策委員会をつくり、放出を阻止するための行動を強めていくことを明らかにした。そして、汚染水の海洋放出がおこなわれた場合は、韓日両国の裁判所で日本政府を相手どった民事・刑事訴訟を起こし、国際裁判所にも提訴するなど厳しく対応するとした。
直接的な被害が懸念される釜山、蔚山、慶尚南道などの地方自治体の反発も激しく、首長を先頭に抗議行動をおこなっている。釜山市市長は13日、「海洋放出は海洋環境汚染はもちろん、市民の健康と安全に直結するため、中央政府や国際社会との協力を通じて断固として強く対応する」と表明し、日本総領事館に抗議することを明らかにした。
蔚山市の市長も同日、抗議声明を発表し、海洋放出計画の即時撤回に向けて「姉妹・友好協力都市である萩市と新潟、熊本両県に日本政府の原発汚染水放出計画の撤回を求める書簡を送るとともに、韓日海峡に隣接する蔚山、釜山、慶尚南道、全羅南道、済州道の五市・道共同の対応策を樹立し、推進する」とした。蔚山市議会も糾弾声明を出した。
とりわけ真っ先に行動を開始したのは水産関係者で、14日には在韓日本大使館前で25の水産関連団体が放出決定を糾弾する抗議行動をおこない、決定の即時撤回を要求した。
16日には済州島の水産関連業界の代表70人余りが日本総領事館前で抗議行動をおこない、海洋放出撤回を要求した。参加者は「海には国境がない。原発汚染水放出を中止しろ」「放射能汚染無対策の日本政府を糾弾する」などのスローガンを叫んだ。
19日には忠清圏水産業協同組合協議会が「日本の原発放射能汚染水の放出決定を糾弾する大会」を開き、「日本政府は汚染水放出決定を直ちに撤回し、韓国政府は日本産水産物の輸入を全面禁止せよ」と要求した。
大会では「2011年の福島第一原発事故以来、海洋環境が持続的に汚染されている」「浄化されていないトリチウムやストロンチウムなど放射性物質62種が残存する原発汚染水が海に放出されると、韓国など近隣諸国の水産業が壊滅する恐れがある」「日本政府の汚染水放出決定は、韓国国民はもちろん全世界の人類に対する核攻撃だ」と訴えた。
19日には慶尚南道の巨済の漁業者が海洋放出決定に抗議する海上デモをおこなった。
海洋放出に抗議する海上デモ
また、忠清南道教育庁は19日、学校給食から日本産水産物を排除する措置をとった。
道教育庁は2014年に制定した「放射能等有害物質から安全な食材の使用に関する条例」にもとづき、毎年水産物と農産物に対する放射能の定期点検をおこなっている。道教育庁は日本政府の非論理的な態度を生徒に教える計画を明らかにした。道教育監は「原発汚染水を海に放出すれば、海流に乗って地球全体の海洋生態系に影響を及ぼす」「放射能は農薬や重金属よりも深刻な有害物質だ。放射能検査を強化し、日本産水産物が給食に使われないよう徹底的に監督する」とのべた。
また、忠清南道市議会と大田市議会も19日、声明を発表し、海洋放出決定を糾弾し撤回を求めた。
忠清南道知事も19日、「地球が一つであるように、海も一つなのに、日本政府は世界と人類の生存を脅かす放射能倭乱を起こした」と批判し、「韓国市道知事協議会傘下に共同協力機構をつくり、日本政府に対応しよう」と提案した。また同知事は13日に自身のSNSで「日本は太平洋戦犯国という汚名に、太平洋汚染国としての罪を上塗りするつもりなのか」と批判した。
韓国大学生進歩連合などの学生団体も16日、ソウルの日本大使館前で抗議行動をおこない、その後正面入口前で座り込み行動をおこなうなど、青年・学生の行動もあいついでいる。
韓国、中国が抗議 海洋は人類の共同財産
中国もまた、13日に日本政府が海洋放出を決定する前日の12日に外務省報道官が「福島原発の放射性汚染水の適切な処理の問題は世界の公共の利益と周辺国の切実な利益にかかわる」「国際世論は日本が海洋放出を決定しようとしていることに高い関心を示し、全体的に疑念と反対を表明している。日本国内でも強く反対する意見が少なくない。国際社会はみな日本を見つめており、日本は見て見ぬふりはできない。日本と世界の公共の利益に対し責任を負わなければならず、これはまた自国民の利益に対して責任を負うものだ」と海洋放出をとどまるよう促した。
だが13日に日本政府が海洋放出を決定した。中国外務省の報道官は「中国側は重大な懸念を表明する」とし、以下のように見解を示した。
「福島原発事故は世界で起きた原発事故のなかでもっとも深刻な事故の一つであり、大量の放射性物質の漏洩をひきおこし、海洋環境、食品の安全、人類の健康に深刻な影響を及ぼした」「ドイツの海洋科学研究機関は福島の沖合いには世界最強の海流があり、放出した日から57日以内に放射性物質が太平洋の大部分の区域に拡散し、10年後には全世界の海域に広がるだろうと指摘している」「日本側は安全に処分するための手段を尽くさない状況下で、国内外の疑念や反対を顧みず、周辺諸国および国際社会と十分な協議をすることなく海洋放出を一方的に決めたが、こうしたやり方はきわめて無責任」だと批判している。
さらに「海洋は人類の共同財産である。汚染水の処分問題は日本国内の問題にとどまらない。日本が自身の責任を見極め、科学的態度を堅持して、国際義務を履行し、国際社会、周辺国および自国国民の重大な懸念にしかるべき回答をおこなうよう強く促す」と迫っている。
また、13日には中国の「環球時報」電子版が汚染水の海洋放出について「日米なれ合いのパフォーマンス」とする社説を配信し、「日本政府がこのように決定できた根本的原因は米国の容認があったから」だとした。「日本がこの時期を選んで“正式”決定したことは、米国となんらかの裏取引があったことを排除できない。当初四月九日に予定されていた米日首脳会談が一週間延期された原因の一つである可能性もある。日本は“米国の後ろ盾を得る”ため代償を払うことになるかも知れない」と論じている。
さらに社説は「海洋放出まで2年あり、中国は最大限の努力で自国の沿海、とくに漁業の安全を守り、影響を受けた生産者のために日本に賠償請求する条件を整え、日本の漁民と同様の補償を受ける権利を得るよう支援する必要がある。日本の放射能汚染水放出のつけをおもに周辺国の国民が支払う状況にしてはならない」と主張している。
また同じく13日に「新華社」は論評を配信し、海洋放出は「短期的には“コストがもっとも安い”プランと見えるかもしれないが、目先だけの“損得勘定”だ。周辺国・地域ひいては全世界の海洋生態環境と人類の健康、食品の安全、生活の質に延々と続く被害をもたらす可能性があり、この大きな勘定を日本政府がしたのだろうか」「日本政府は自国民と国際社会に対して高度に責任ある態度で、厳格な科学的論証をおこない、情報を迅速に、透明性高く、正確に開示し、また直接影響を受ける周辺国と十分協議し、各国の合理的懸念に配慮し、人類社会の長期的福祉に有利な行動をとるべきだ」と質している。
24カ国の環境団体 経産省に放出中止要請
韓国や中国以外にも抗議の世論は広がっており、12日は世界24カ国の311の環境団体が経済産業省に「福島第一原発の汚染水を海洋に放出してはならない」との書簡を届けている。福島原発の汚染水の海洋放出がこれほど国際的な関心と反発を受けているのはもとより「海は一つ」だからだ。
ドイツのキール大学のヘルムホルツ海洋研究センターは福島原発事故後の2012年7月6日に、福島第一原発からの放射能汚染水の海洋拡散シミュレーションを発表した。
ただしこのシミュレーションの対象はセシウム137だけで、実際の汚染水には炭素14やトリチウムなど対象の放射性物質が含まれており、それらが海流によってどのように流され、人間の体や海にどのような影響がもたらされるかは今後の研究課題となっている。
しかも、このシミュレーションは汚染水の海洋放出を「数週間のみ」と想定したものだ。今回日本政府が発表した海洋放出計画は30〜40年、あるいはそれ以上に及ぶものであり、影響ははかり知れない。
限定された条件のもとでのシミュレーションでも、放出の日から57日以内に放射性物質が太平洋の大部分の区域に拡散し、2年後には米国の西海岸付近がもっとも汚染され、10年後には全世界の海域に広がると指摘している。
日本政府は希釈して放出するので安全だと主張しているが、希釈しても放射性物質=トリチウムの総量に変化はなく、危険性に変わりはないことは誰でもわかる。総量を下げるには、半減期12年のトリチウムの場合、50〜120年間ほど長期間タンクに保管して半減期を数回経なければならない。その後に海洋に放出する案も、政府の汚染水処分に関する小委員会では検討の一つとしてあがった。
また、処分方法としては「汚染水の固定化」があり、ALPSによって放射性物質が一部浄化された低レベルの汚染水をセメントや砂と一緒に固体化し、コンクリートタンクの中に流しこむという方法も検討された。ただ固定化の過程で体積が大きくなるため、さらなる敷地の確保が必要になる。
小委員会はこうした案も含めて五つの処分方法を検討した。処分方法別の費用は34億〜3976億円で、政府はもっとも安い費用で済む海洋放出(34億円)を採用した。
政府はトリチウムの分離は不可能だとして海洋放出を強行しようとしているが、実際にはトリチウム分離は現在の技術で可能である。
経産省が7年前に公募したトリチウム分離の試験プラントにロシアのRosRAO社が応じ、6カ月で実証プラントを建造、1日当り4・8dのトリチウム汚染水を濃縮して体積を1万分の1にすることを実現した。実用プラントでは、現在発生している140d/日の汚染水量の3・4倍の処理能力がある。今建設を決定すれば、年度内には汚染水の増加を抑えることができるとする提案も出ている。
また、2018年6月27日には近畿大学工学部の井原辰彦教授、東洋アルミニウム、近畿大発ベンチャー企業のア・アトムテクノル近大らの研究チームが、放射能汚染水からトリチウムを含む水を分離・回収する方法と装置を開発したと発表した。炭やスポンジのように多量の小さな穴を持つ構造で、「多孔質体」を格納したフィルターを使ってトリチウムを分離する。初期段階でほぼ100%除去が可能としている。
こうしたトリチウム分離プラント建設や分離装置の導入にどれほどの費用がかかるかは明らかにされていないが、海洋放出で世界の海を汚し、漁業を破壊し、人間や自然界にとりかえしのつかない被害を与えることを考えれば、出せない額ではないはずだ。金がないというのであれば、東京オリンピックをやめてその費用を回しても、日本を含めた全世界と将来の世代のためには決して無駄遣いではないと誰もが賛同するはずだ。
世界史上でも最悪な福島原発事故を起こしながら、その反省もなく放射能汚染水を海洋放出しようとする日本政府は、国内でも総スカンを食っているが、国際的にも政治的な孤児となっている。
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