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全国新聞ネット 東京電力が事故前に作成していた福島第1原発の最大浸水想定図(東電株主代表訴訟提出資料より)
隠し続ける「不都合な事実」 繰り返された東電の過ち 「砂上の楼閣―原発と地震―」第8回/全国新聞ネット・msnニュース
全国新聞ネット
2021/03/09 07:00
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e9%9a%a0%e3%81%97%e7%b6%9a%e3%81%91%e3%82%8b-%e4%b8%8d%e9%83%bd%e5%90%88%e3%81%aa%e4%ba%8b%e5%ae%9f-%e7%b9%b0%e3%82%8a%e8%bf%94%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%9f%e6%9d%b1%e9%9b%bb%e3%81%ae%e9%81%8e%e3%81%a1-%e7%a0%82%e4%b8%8a%e3%81%ae%e6%a5%bc%e9%96%a3-%e5%8e%9f%e7%99%ba%e3%81%a8%e5%9c%b0%e9%9c%87-%e7%ac%ac%ef%bc%98%e5%9b%9e/ar-BB1enEnU
2006年9月に原子力安全委員会が耐震指針を改定し、既存原発が新指針に適合しているかを調べる「バックチェック」が始まった直後の07年7月、新潟県中越沖地震が東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)を直撃した。東電と経済産業省原子力安全・保安院は震源の海底活断層の存在を03年には知っていたが、一般には公表していなかった。「不都合だから隠していた」との厳しい批判にさらされた東電の担当者は「同じことは繰り返さない」と心に誓ったはずだったが、上司の方針により、福島第1原発の大津波想定でも同じ「過ち」を犯すことになる。(共同通信=鎮目宰司)
▽風当たり
07年12月5日、東電の高尾誠氏は柏崎刈羽原発で記者会見に臨んだ。中越沖地震を起こした活断層を公表していなかったことの釈明だ。本社で地震や津波関係を担当する高尾氏が地元への説明役に呼ばれた。新たな海底活断層の存在を公表すると原発の運転に支障が出るかもしれない―。だから隠したのではないか―。「隠蔽体質」との激しい批判が巻き起こった。
新潟県中越沖地震で火災が起きた柏崎刈羽原発3号機の変圧器を視察する経産省原子力安全・保安院の作業部会メンバー=2007年10月© 全国新聞ネット 新潟県中越沖地震で火災が起きた柏崎刈羽原発3号機の変圧器を視察する経産省原子力安全・保安院の作業部会メンバー=2007年10月
03年当時、保安院に活断層の存在を報告するなど手続きは踏んでいる。だが4年後に地震が起きると「運転に影響がでたのは土木担当の責任だ」などと社内の風当たりが強まった。
「次は秘密にせず、速やかに公表しよう」。福島原発事故後、法廷で当時そう考えたと証言した高尾氏は、07年11月ごろから本格化させた原発の津波想定問題に熱心に取り組むことになる。バックチェックの一環だった。
▽因縁
福島第1原発を襲う可能性がある津波を想定する上で課題となるのが、02年7月に政府・地震調査委員会が公表した地震予測「長期評価」だった。福島県を含む東北太平洋岸で大津波が起こる危険を警告していた。高尾氏は当時、保安院に呼び出されて福島第1への津波の高さを計算し直すよう求められたが、粘って計算をせずに切り抜けた経緯がある。
今回のバックチェックでは、長期評価に対して同じ太平洋沿岸に原発を持つ東北電力、日本原子力発電などと歩調を合わせる必要があった。他社の担当者に、長期評価に基づく津波想定の必要性を説いたのは高尾氏だったとされる。
07年12月、高尾氏から長期評価を考慮する必要性の説明を受けた原電の担当者のメモによると、高尾氏は「後で(当然すべきことをしない)不作為であったと批判される」と話していた。
▽報告
率先して津波想定を見直していた東電は08年3月、「困った事態」に直面する。長期評価を基に、過去に起きた津波のデータを利用して計算すると、福島第1原発は最大15・7mの大津波に襲われるとの結果になったのだ。それまでの高さ5〜6mとしていた想定とは天と地ほど違う。
そんな津波が来れば、高さ10mの敷地に原子炉建屋4基が並ぶ福島第1は水没し、緊急用の炉心冷却系統などの電気設備が使えなくなる。
東京電力が事故前に作成していた福島第1原発の最大浸水想定図(東電株主代表訴訟提出資料より)© 全国新聞ネット 東京電力が事故前に作成していた福島第1原発の最大浸水想定図(東電株主代表訴訟提出資料より)
これを防ぐには10mの敷地の上に高さ10mの壁を造る必要がある。こんな計算結果を公表すれば、原発の運転が続けられなくなるかもしれない。だが、これを公表せず、高尾氏ら担当者で抱え込んだままでは中越沖地震の二の舞いだ。高尾氏は上司の酒井俊朗氏、部下の金戸俊道氏と共に、彼らの上司である原子力設備管理部長の吉田昌郎氏に報告した。吉田氏も事態の重大さに「私では判断できない」として、原子力・立地本部副本部長で常務の武藤栄氏に判断を仰ぐことを決めた。
▽経営判断
武藤氏への説明は2回行われた。最初に15・7mの計算結果を報告したのは6月10日。大きく跳ね上がった数値に武藤常務は仰天し、長期評価の根拠などについて質問を重ねた後、宿題を出して再度説明するよう求めた。防潮堤など対策工事の結論は、この時は保留された。
7月31日、東電本店の会議室であった2回目の説明会で、酒井氏は陸の防潮堤と海の防波堤を組み合わせる大規模工事が必要だと説明した。費用は数百億円、工期も年単位だ。
30分ほどの説明を聞き、武藤氏は「(津波計算の)信頼性が気になるので第三者に見てもらった方がいい。外部有識者に頼もう」と切り出した。津波想定の見直しも対策工事も「先送り」するというのだ。
東京電力の武藤栄元副社長=2019年9月© 全国新聞ネット 東京電力の武藤栄元副社長=2019年9月
武藤氏の指示は「保安院へのバックチェック報告は現状の津波想定でしのぐ」「津波評価の再検討を土木学会の有識者に委託する」「津波対策は東電の自主的な見直し作業として行う」との趣旨だった。
保安院が待ってくれる保証はない。酒井氏は「審査に間に合わないです」と口を挟んだが、武藤常務は「未来永劫、対策を取らないわけではない」と譲らない。酒井氏は予想外の展開を受け入れた。金戸氏は「経営判断だ」と考えた。だが、高尾氏は、本人の弁によれば「予想しない結論に力が抜け、やりとりを覚えていない」。柏崎刈羽の教訓は生かされなかった。
▽理由
指示を受けた酒井氏は急いで自席に戻り、東北電と原電の担当者たちにメールを出した。東電が主導してきた、長期評価に基づく対策が白紙になったことを伝えるためだった。
8月6日。東電から原電に出向し、津波問題を担当していた安保秀範氏は、酒井氏に白紙撤回の理由を尋ねた。「(中越沖地震で)柏崎刈羽も止まっているし、これと福島も止まったら経営的にどうなのかってことでね」と説明されたと、安保氏は原発事故後、東京地検の聴取で話した。(つづく)
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