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大飯原発設置許可取消判決の正当性
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2020年12月 8日 植草一秀の『知られざる真実』
12月4日、大阪地方裁判所が重要な判決を示した。 福井県にある関西電力大飯(おおい)原子力発電所3号機と4号機について大阪地裁は、国の原子力規制委員会の審査過程に看過しがたい誤りや欠落があるとして、原発の設置許可を取り消す判断を示した。 原子力規制委員会は福島第一原発事故後に新しい規制基準を設定したが、この規制基準に基づく原発の設置許可が初めて取り消された。 この裁判は、関西や福井県などに住む約130人の原告が「大飯原発の3号機・4号機の大地震への耐震性が不十分だ」として、設置を許可した原子力規制委員会の決定を取り消すよう求めて訴えを起こしたもの。 原発はその周辺で想定される最大規模の地震の揺れとして「基準地震動」を算出し、この揺れに耐えられる設計になっていることを必要とする。 原子力規制委員会は大飯原発の「基準地震動」が福島第一原発事故後の新しい規制基準に適合していると審査で判断したが、この是非が争われた。 大阪地方裁判所の森鍵一裁判長は、 「審査のガイドラインには、基準地震動の設定にあたっては過去に起きた地震の規模の平均値より大きな規模の地震が起きることも想定し、そうした『ばらつき』を考慮する必要があると書かれている。 しかし、原子力規制委員会は『ばらつき』を考慮する場合、平均値に何らかの上乗せをする必要があるかどうかすら検討していない。 審査の過程には看過しがたい誤りや欠落があり、違法だ」 として、 大飯原発3号機と4号機の設置許可を取り消した。 福島第一原発事故後に原発の設置許可を取り消した司法判断は初めて。 今後の原発稼働に大きな影響を及ぼす。 判決は、原子力規制委員会が行う原発の耐震性をめぐる審査で、判断にあたって必要な検討をせず、欠落があったとし、司法として原発の規制の在り方に疑問を呈した。 福島事故前までは「原子力安全・保安院」が原子力規制を担ってきた。 しかし、事故の発生を防ぐことができず、2012年に独立性の強い三条委員会として「原子力規制委員会」が発足して新しい規制基準がつくられた。 この規制委員会が審査して原発の再稼働が進められてきた。 政府は新しい規制基準が「世界最高水準」の内容になったと説明してきたが、その実態はまやかし以外の何者でもない。 世界最大の地震国である日本の規制基準が世界でもっとも厳しくなるのは当然のことで、問われるのは、その基準が事故を回避する程度に十分なものであるのかどうかなのだ。 何よりも問題になるのは原発が地震の揺れに耐えられるのかどうか。 この点について明解な判断を示したのが福井地方裁判所の樋口英明裁判長。 2014年5月21日、福井地方裁判所の樋口英明裁判長は大飯原発運転差止請求事件で運転差止を命令する判断を示した。 この判決要旨は、関西電力が1260ガルの揺れに耐える能力を大飯原発が有していると主張したことについて、次のように指摘した。 「大飯原発には1260ガルを超える地震は来ないとの確実な科学的根拠に基づく想定は本来的に不可能である。 むしろ、 1.我が国において記録された既往最大の震度は岩手宮城内陸地震における4022ガルであり、1260ガルという数値はこれをはるかに下回るものであること、 2.岩手宮城内陸地震は大飯でも発生する可能性があるとされる内陸地殻内地震であること、 3.この地震が起きた東北地方と大飯原発の位置する北陸地方ないし隣接する近畿地方とでは地震の発生頻度において有意的な違いは認められず、若狭地方の既知の活断層に限っても陸海を問わず多数存在すること、 4.この既往最大という概念自体が、有史以来世界最大というものではなく近時の我が国において最大というものにすぎないことからすると、1260ガルを超える地震は大飯原発に到来する危険がある。」 大飯原発の基準地震動は新規制基準で700ガル。 関西電力が「大飯原発の敷地に限っては700ガル(震度6に相当)以上の地震は来ない」と主張し、原子力規制委員会もそれでよしとしているが、この想定が甘いことは誰にでも推察できる。 2008年宮城岩手内陸地震 4022ガル 2004年新潟県中越地震 2515ガル 2018年北海道胆振東部地震 1796ガル 2016年熊本地震 1740ガル など700ガルを超える揺れの地震は枚挙に暇がない。 強い地震で原発が電源を喪失する、あるいは断水に直面すれば、フクシマの二の舞はいつでも発生し得る。 フクシマの教訓を得た私たちが、甘い規制基準を設定して原発を再稼働させることは愚かと言うほかない。 1992年の伊方原発最高裁判決は「原発訴訟は高度の専門技術訴訟である」として「裁判所は原発の安全性を直接判断するのではなく、規制基準の合理性を判断すればよい」とした。 このために、多くの裁判所判断が、原子力規制委員会の作った規制基準が正当な手続を踏んで作成されたこと、前後の脈絡が合っていて学者が支持しておればそれで合理的として、原発稼働を認めるものになっているが、これは裁判所が政府に従属することを自己正当化する口実に過ぎない。 裁判官の良心と独立性が問われている。 大阪地裁の森健一裁判長は、司法が果たすべき役割に背を向けずに正当な判断を示したと言える。 |
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