http://www.asyura2.com/19/warb23/msg/654.html
Tweet |
※紙面抜粋
※2022年4月18日 日刊ゲンダイ2面
【この戦争の複雑怪奇と報道の薄っぺら】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) April 18, 2022
プーチンの悪魔が覆い隠していること
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/P88M9UADQ8
※文字起こし
ウクライナの首都キーウ近郊のブチャやボロディアンカでの大量虐殺が判明して以来、ロシア軍の非道ぶりが連日、報道されている。
無数の民間人に殺人や拷問、身体的および性的暴行を加え、無差別攻撃を強める南東部のマリウポリでは産科や小児科が入る病院を空爆。犠牲者は2万人超と指摘される。停滞する戦局の打開に向け、今なおロシアには核兵器の限定使用や生物化学兵器を使う可能性がくすぶり続けている。
プーチン大統領のあまりの悪魔性に、メディアは「ロシア=極悪」の報道スタンスだ。抵抗するウクライナは「可哀想な犠牲者」であり、軍や市民を鼓舞するゼレンスキー大統領は「正義の味方」という単純な二元論が目立つ。
むろん、ロシアの侵略行為は絶対に許されるべきではない。民間人をターゲットにした無差別で非人道的な武力行為は決して正当化できない。明確な戦争犯罪、国際法違反だ。
しかし、そうした戦場から遠く離れた安全地帯に身を置きながら、「白」か「黒」かの価値判断を一方的に決めつける。「善」が「悪」を徹底的にやっつけるのを容認するメディアの姿勢は、ある種のプロパガンダのようで危うい。
文筆家の師岡カリーマ・エルサムニー氏は「世界臨時増刊 ウクライナ侵略戦争」(岩波書店)で、こう書いていた。
〈誰が加害者で、誰が被害者か、白黒のつけやすさゆえに、世界の人々は自ら考えるという労を要さない安易な勧善懲悪の悦に浸りすぎてはいないか〉〈これほど簡単に正しい側につける紛争はめずらしい。それをいいことに、メディアも政治も私たち市民も、考えることを放棄していないか〉
情勢の判断や情報も偏ったまま、メディアが思考停止に陥れば、複雑な各国の関係や思惑をひもとくことなど不可能だ。
戦力逐次投入の愚策
ロシア軍のひどさを強調し、「とりあえずプーチンを叩いておけばいいだろう」みたいな薄っぺらい報道の裏で、覆い隠されている「真実」は山ほどある。
まず、この戦争はプーチンの暴挙・愚挙であると同時に西側の外交的失敗でもあるということだ。NATOの東方拡大問題やプーチンの歴史・世界観と心理状態、これらを把握していたはずなのに、戦争回避の努力は本当に尽くされたのか。
その問題と向き合うことなく、プーチンへの憎悪をむき出しにし、エスカレートさせるバイデン米大統領に、戦争を止めようとする気配はみじんもない。米国はロシアの侵攻直後から「終結までに数年かかる」との見通しを示しているが、バイデンの願望が透けて見えるかのようだ。
戦争状態が続けば軍需産業は儲かり、高笑いの“武器商人”からの献金が増える。対ロ制裁で天然ガスや原油など米国産の資源は高騰。アフガン撤退で地に落ちたバイデン外交の評価も回復し、大国ロシアを経済的にも軍事的にも弱体化できる。自国民が一滴も血を流すことのない戦争は、いいことずくめだ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言った。
「バイデン大統領はウクライナに対し、新たに8億ドル(約1000億円)規模の軍事支援を発表。榴弾砲18基や軍用ヘリ11機などを提供しますが、小出し、後出しの印象で『戦力の逐次投入』の愚策です。これまでの携帯型ミサイルよりも強力な兵器を提供するなら、なぜ、もっと早く送らなかったのか。その兵器があればロシア軍の残虐行為はエスカレートせずに済んだかもしれないし、あれだけ市街地が破壊されながら、『さあ、この兵器で戦え』というのは酷な話です。武器を供与しながら、ゼレンスキー大統領の『ロシア産のエネルギーを買っている国々への圧力』という要望は放置。いくらウクライナを軍事支援しても、ロシアが資源をさばいて儲ける限り、戦争は終わりません」
間接的な餓死を生む戦争と制裁の長期化
ウクライナ戦争と対ロ制裁の負の側面もほとんど報じられていない。苦しんでいるのは貧困国で、その要因は「パン不足」だ。ロシアとウクライナは世界有数の穀倉地帯。とりわけ小麦の輸出量は両国合わせて世界で約3割のシェアを占める。ところが、戦争の影響で現在、黒海の穀物輸出港からの輸出がストップ。主な輸出先は中東やアジア、アフリカの途上国で、小麦輸入の30%以上を両国に依存していたのは約50カ国にも及ぶ。
これらの国々では深刻な小麦不足で主食のパンの価格も暴騰し、市民の不満が増大。すでに経済的・政治的危機を引き起こしているのだ。
両国への依存度8割以上と、世界最大の小麦輸入国のエジプトでは、3月の都市部のインフレ率が10%超と約3年ぶりの高水準を記録。主な押し上げ要因は穀物などの食料品で、戦争の影響がモロに直撃した形だ。
経済危機下のレバノンもウクライナ産小麦への依存度が高く、影響は深刻だ。不況で外貨が不足している上、2020年に起きた大爆発で国内最大級の穀物倉庫は大破したまま。そのため、小麦の備蓄は1カ月半程度の量しかなく、販売数が激減したパン屋の前には連日、長蛇の列ができているという。
「戦争や制裁が長引くほど、貧困国の人々が間接的に飢えて死にかねないわけです。制裁のジレンマに西側諸国はどう落とし前をつけるのか。米国をはじめ、停戦に向けて手をこまねいている場合ではない。ましてや中東や南米、アフリカ諸国が全て、米国の価値観を認めているわけではないのです。戦争の長期化で途上国が恨みを募らせれば、すでに綻び始めた西側中心の世界秩序の崩壊を早めるだけです」(五野井郁夫氏=前出)
メディアの間でも「自由と民主主義」対「強権的な専制主義」の戦いという単純な構図が定着しているが、世界の現実はもっと複雑怪奇だ。
大和に例えるセンスに漂う薄気味悪さ
ロシア軍黒海艦隊のミサイル巡洋艦「モスクワ」が沈没。首都の名を冠した黒海艦隊の旗艦が失われたことに、日本のメディアまで大ハシャギしていることにも、違和感を覚える。
朝日新聞(電子版)は16日に〈「モスクワ」沈没は「大和」に匹敵〉と旧日本海軍の連合艦隊に例えた記事を掲載した。しかし、「ABCD包囲網」の経済封鎖による石油の禁輸などで、戦略物資が入手困難だった当時の日本と今のロシアとでは状況が大きく違う。
対ロ制裁は抜け穴だらけだ。EUがエネルギー供給のため、ロシアに1日あたり10億ユーロを払い続ける一方で、ウクライナ軍支援に提供した総額は15億ユーロに過ぎない。
ゼレンスキーは14日、英BBCの取材に「ロシア産エネルギーに対する禁輸措置の実現を両国が阻止した」として、ドイツとハンガリーを名指しで非難。これだけの資金がロシアに流れていれば、モスクワ級の巡洋艦をあっという間に造り直せるのではないか。
戦艦大和を持ち出す時代がかったセンスには、それこそ戦果をことさら誇大化した当時の大本営発表のような薄気味悪さが漂う。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。
「日本のメディアはロシアに抵抗するゼレンスキー氏を英雄視しますが、停戦の意思がない点ではプーチン氏と変わりません。両氏とも典型的なナショナリストで、手柄を欲しがる部分も共通しています。一国のトップなら国民の命を最優先にすべき。国民を盾にしてロシアを悪魔化する勇ましさだけでは、戦争は止まらない。行き着くところまで行くしかないという危うさを感じます」
この国全体が「正義の味方症候群」に陥ってはいけない。あのナチスでさえ、自分たちは正義だと信じていたのだから。
最新投稿・コメント全文リスト コメント投稿はメルマガで即時配信 スレ建て依頼スレ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。