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欧米の破壊を“帝国主義”と糾弾 アフガンで倒れた中村哲医師の遺言 トランプ騒乱の時代と中東、日本
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/266235
2019/12/14 日刊ゲンダイ
2008年6月、アフガニスタン東部のガンベリ砂漠で用水路工事の指揮を執る中村哲医師(C)共同通信社
12月4日、アフガニスタン東部ナンガンハル州の州都ジャララバードで、何者かによって銃撃を受けて死亡した中村哲医師(享年73)。アフガニスタン支援に真摯に、一生懸命に取り組んだ彼の姿は、イスラム地域を研究し、この地域と日本の相互理解を進めようと考えている者には大きな励みになってきた。
中村医師は地球環境問題も危惧し、また集団的自衛権についても「日本はこれまで、アフガニスタン国内では民生支援に専念してきた。そのことが日本への信頼であり、我々の安全保障であった。それが覆されようとしている」「戦争の実態を知らぬ指導者たちが勇ましく吠え、心ない者が排外的な憎悪を煽る」と語っていた。日本がなし崩し的に米国の軍事行動に協力してきたことが日本人に対する誤解や憎悪を煽り、最も強く警鐘を鳴らした中村医師が犠牲になったことが悔しくてならない。
アフガニスタンは、中村医師が緑化に成功した地域もあるが、全体としては混迷を深めている。「ワシントンポスト」は、12月9日、米国歴代政権のアフガン戦争に関する虚偽の報告が、400人以上の政府・情報関係者への聞き取りから明らかになったと報じた。同記事によれば、米国政府・軍関係者はアフガン政策について「進歩」あるいは「やや進歩」があると言い続けてきたが、「進歩」とは真逆な情勢にある。米国は18年間の戦争で9800億ドル(100兆円余り)とも見積もられる戦費や資源を費やしたにもかかわらず、アフガニスタンで安定した政府の創設に必要な軍・警察づくりにも失敗し、アフガニスタンでは各地で政情不安が増幅するようになった。この連載でも書いた通り米軍はケシ栽培の根絶にも成功しておらず、いったい何のためのアフガニスタン駐留かと問う声が当然上がるような状態だ。
■米国が100兆円の戦費を投じても混迷を深めるアフガニスタン
2017年2月1日、米国政府の「アフガン再建特別監察総監(SIGAR)」の報告書が発表され、16年11月時点で、アフガン政府が支配、影響下に置いているのは全土の57.2%で、16年8月の63.4%より約6ポイント、15年11月より約15ポイント低下するなど、タリバンなど反政府武装勢力が確実に勢いを増している。アフガニスタンは、2018年6月にIMFが発表した世界の貧困ワースト順位では12位にランクされ、1人あたりGDPは601ドルと低い。またユニセフが同様に18年6月に明らかにした統計によれば、アフガニスタンでは子どもの半数の370万人が学校に通えず、そのうちの60%が女子だという。
米国はオバマ政権時代にアフガニスタンで最も不安定で、武装集団が活動する地域にあまりに短期間に金を性急に与え、それがアフガニスタンの政治社会の腐敗を招き、腐敗への反感からかえってタリバンなど武装集団の求心力を高め、その活動を強化することになった。米国防総省は支援規模や資金が限定されているため、アフガニスタンで戦闘が発生している不安定な地域での武装集団の鎮圧を優先することになり、USAID(合衆国国際開発庁)がこれらの地域の復興の責任を負わされているものの、危険な地域では十分な成果を得られていない。
トランプ大統領は今年7月に、パキスタンのイムラン・カーン大統領との会談の中で、「アフガニスタンで戦争をやる気になれば、1週間で容易に勝てるが1000万人を殺すことは望まない。米国が戦えばアフガニスタンは地上から消滅する。」と述べた。アフガニスタン政府関係者はトランプ氏の発言を受けて、米国はガニ政権にもっと敬意を払うべきだと語った。反政府勢力タリバンのスポークスマン・ザビフッラー・ムジャーヒド氏は、「米国は18年間アフガニスタンで戦ってきたが、人を殺害することに抑制などなかった。米国の戦いは無益で、なぜアフガニスタンが『帝国の墓場』と呼ばれているかを理解していないことを表している」と述べた。ムジャーヒド氏の発言は、大英帝国やソ連がアフガニスタンでの戦いに敗れて退いていったことを指すものだが、米国が18年からタリバンと協議して外交的解決を求めていることも、トランプ大統領は意識していないようだ。
中村哲医師は「対立感情は、むしろ(欧米の)援助する側が持っているような気がしますね。優越感を持っているわけですよ。ああいう遅れた宗教、遅れた習慣を是正してやろうという、僕から言わせれば思い上がり、もっときつくいえば、“帝国主義”ですけどね」と述べているが、トランプ発言はまさに「帝国主義的」で、アフガニスタンに対する彼の傲慢な思いや姿勢を端的に表すものだった。中村医師は、「銃で押さえ込めば、銃で反撃されます。当たり前のことです。でも、ようやく流れ始めた用水路を、誰が破壊しますか。」と語っていたが(※注)、トランプ大統領は爆弾でアフガニスタンの人々を押さえ込めると考え、反米感情をさらに植えつける発言をした。
(注)中村哲医師の発言はインタビュー記事「アフガニスタンという国で、9条をバックボーンに活動を続けてきた」より。
■砂漠を緑化して農地を造ろうとした中村医師
中村医師は、「人が飢えているところに爆弾を落して何になるんですか」と語っていたが、米国のアフガン政策は、砂漠を緑化して農地を造り、人々に生活手段を与えるという中村医師の発想とは真逆にある。そもそも、タリバン政権は9.11の同時多発テロの実行とはまったく関係がなく、単にオサマ・ビララディンのアルカイダの活動拠点になっていたという理由だけで米国はアフガン戦争を開始した。米国のアフガン戦争での市民の犠牲者は、国連の見積もりで、07年以降だけでも4万人に近い。破壊でテロを制圧し、アフガニスタンに平和をもたらそうとした発想自体に重大な欠陥がある。アフガニスタンの警察が中村哲医師殺害事件の容疑者を拘束し、また福岡県警が刑法の国外犯規定に基づき、アフガン側と協力して殺人容疑で捜査を行っている。テロの容疑者に対しては逮捕して公正な裁判にかければ十分で、市民を巻き添えに戦争を行うことの正当性はまったくなく、暴力の種子を蒔くだけで、平和をもたらすものではない。
宮田律 現代イスラム研究センター理事長
1955年、山梨県甲府市生まれ。83年、慶應義塾大学大学院文学研究科史学専攻修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院修士課程修了。専門は現代イスラム政治、イラン政治史。「イラン〜世界の火薬庫」(光文社新書)、「物語 イランの歴史」(中公新書)、「イラン革命防衛隊」(武田ランダムハウスジャパン)などの著書がある。近著に「黒い同盟 米国、サウジアラビア、イスラエル: 「反イラン枢軸」の暗部」(平凡社新書)。
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— 吉川 幸男 (@FP_Yoshikawa) 2019年12月14日
故 中村哲医師 談『日本はこれまで、アフガニスタン国内では民生支援に専念してきた。そのことが日本への信頼であり、我々の安全保障であった。それが覆されようとしている』
「戦争の実態を知らぬ指導者たちが勇ましく吠え、心ない者が排外的な憎悪を煽る」
— もーちゃん(1/19告示2/2投票 京都市長選2020は福山和人さんで決まり‼️) (@shalomochanism) 2019年12月15日
外部勢力が介入して混乱が収まった国は日本だけ。
アメリカ帝国主義はその唯一の成功例に固執しているにすぎない。
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