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日本の奇妙な右傾化 なぜポピュリズムが台頭しないか
北海道大学教授 吉田徹
2019/11/23付
今を読み解く
ポピュリストは内外に敵を作りナショナリズムを鼓舞する=イラスト・よしおか じゅんいち
ポピュリズムとは、一般市民の意志を無視する政治・経済・文化エリートを道徳的に批判するカリスマ的リーダーによる政治のことだ。だからポピュリズムは民主的な側面を持つ一方、特定の価値体系を持たない「薄いイデオロギー」だともされる。
他方、2世紀以上にわたって人類を突き動かしてきたのは「厚いイデオロギー」たるナショナリズムだ。フランス革命に続く国民国家形成と民主化運動、様々な帝国の崩壊、戦後の脱植民地化、東西ドイツ統一など、ナショナリズムは世界史の原動力となってきた。
自国民を鼓舞
ならば、なぜポピュリズムとナショナリズムは相性が良いのか。トランプやプーチンから新興国の強権主義的な指導者まで、ポピュリストと称される指導者たちは、内外に敵を作り、自国のナショナリズムを鼓舞してきた。
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ナショナリズムとは「ネイションを関心事項の中心に位置づけ、その繁栄を追求しようとするイデオロギー」と定義するのは、アントニー・D・スミスによる『ナショナリズムとは何か』(庄司信訳、2018年・ちくま学芸文庫)だ。すなわち、ナショナリズムとは宗教、言語、習慣、エスニシティ、領土、国家に基づくアイデンティティー、それに基づく自治や統一を希求する運動でもある。
それゆえ、経済・社会的グローバル化が進む世界で、ポピュリズムがナショナリズムと結託するのは、自然である。経済的相互依存と移民による人口動態の変化は、2度の世界大戦と福祉国家によって完成したネイションに基づく人々のアイデンティティーを脅威に晒(さら)す。だから、現在のポピュリズムは「戦後」という、かつてなく豊かで平等だった時代への後ずさりを試みる政治でもある。
ナショナリズムを「愛国」と読み替えた将基面貴巳『愛国の構造』(19年・岩波書店)が跡付けるように、国民に基づくナショナリズムが所与のものとして捉えられるようになったのは、19世紀後半以降のことだ。それ以前、人々のアイデンティティーの源泉は常に流動的であり、愛国の対象も、市民の集合体、君主や藩主に対する忠誠などに向けられ、その主体も教会や原住民などだったりした。
日本のナショナリズムも愛国と切り離されて誕生したとするのは、異才・橋川文三『ナショナリズム』(15年・ちくま学芸文庫)だ。彼は、近代日本のナショナリズムが、吉田松陰等を感化した水戸学と、本居宣長に端を発する国学が天皇制を頂点とした政体のもと社会の平等を達成する手段として用いられ、市民間の平等意識に基盤を置くものではなかったと論じる。
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「奇妙」な現代日本
思想家ルナンによる1882年の演説は、国民とは「犠牲の感情によって構成された大いなる連帯心」でもあると、その作為の正の側面を強調していた。山崎望編『奇妙なナショナリズムの時代』(15年・岩波書店)が指摘するように、こうしたナショナリズムによる包摂と平等の論理を持たずに、内部の敵を排除することだけを目的に没落に怯(おび)えるマジョリティーに支えられる現代日本のナショナリズムは、確かに「奇妙」に映る。
田辺俊介編著『日本人は右傾化したのか』(19年・勁草書房)による社会調査では、権威主義や愛国主義といった「右傾化」現象は、過去10年間に観察されていない。嫌韓・反中意識の広がりや若年層の保守的志向にすぎない。ナショナリズムが国民アイデンティティーや自治を求めるのであれば政治参加の向上をもたらすはずだが、それも見られない。
かくして、作為なきナショナリズムに覆われる日本には、他国と比べて本格的なポピュリズムも台頭しない。自分たちの共同体はかくあるべしという欲求なくしてナショナリズムもポピュリズムも生まれようがない。その事実に私たちは、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。そのことを自省する時間は、まだ幾ばくか残されているのかもしれない。
[日本経済新聞朝刊 2019年11月23日付]
愛国の構造
著者 : 将基面 貴巳
出版 : 岩波書店
価格 : 5,170円 (税込み)
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日本人は右傾化したのか: データ分析で実像を読み解く
著者 : 田辺 俊介
出版 : 勁草書房
価格 : 3,300円 (税込み)
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歴代最長の安倍政権は一体いつ終わるのか? あえて憲法改正に踏み込まない「政権維持術」――文藝春秋特選記事
これが“平成30年間の政治改革”の帰結だ
「文藝春秋」編集部2019/12/01
source : 文藝春秋 2019年12月号
genre : ニュース, 政治, 社会
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「文藝春秋」12月号の特選記事を公開します。(初公開 2019年11月24日)
11月20日、安倍首相の通算在職日数が、桂太郎(2886日)を抜き、歴代1位となった。なぜ「歴代最長政権」となり得たのか。政治学者の御厨貴氏と片山杜秀氏は、次のように分析する。
新元号「令和」を解説する安倍首相 ©共同通信社
新元号「令和」を解説する安倍首相 ©共同通信社
この記事の画像(5枚)
「前の民主党政権よりいい」「他に人がいないから」
御厨 安倍さんは、1年しか続かなかった第1次政権で失敗して、その後、民主党政権から政権を奪い返して首相に返り咲きました。これが安倍さんの強み。自民党議員にとって、安倍さんは今でも政権を奪還してくれた恩人なんです。
世論調査を見ても、安倍政権の主要な支持理由は、「前の民主党政権よりいい」とか「他に人がいないから」。安倍さんを熱烈に支持していたり、安倍さんによってこの国が変わると期待しているわけではない。ただ、この「他よりマシ」というのは、なかなか渋い(笑)。
片山 むしろ長続きの理由になっているわけですね。
御厨 あまり熱烈ファンがつくと、一時は良くても覚めたら、あっという間に風向きも変わる。
本当に憲法改正まで踏み込む気はあるのか?
御厨氏が「長きがゆえに尊からず」と言うように、その長さだけで政権評価はできない。安倍政権は、どんな実績を残し、今後、どんなレガシーを遺すのか。
御厨 5年後か10年後か、「安倍政権とは何か」という座談会をやったら、「目立った業績はないのに、なぜこんなに続いたのか」と、答えに窮するのではないか。むしろ“これといったこと=リスクを伴うこと”をやらないから、これだけ続いているという不思議さがある。
その意味では、安倍政権の至上課題は本当に「憲法改正」なのか。口ではそう言っていても、本気で考えているようには思えない。最初はやるかやらないかも曖昧で、「96条の手続きだけ変えればいい」と言ってみたり、「9条に1項を加えればいい」と言ってみたり。
御厨貴氏 ©文藝春秋
御厨貴氏 ©文藝春秋
片山 真面目に考えていない雰囲気があります。
御厨 安倍さん自身が、「憲法改正一つに絞ったら、危ない、政権はもたない」と感じているのでしょう。しかも憲法改正は、最後に「国民投票」という高いハードルがある。
片山 そこでしくじったら、さすがに総辞職するしかありませんね。
御厨 憲法改正を国民投票にかけるには、この国の国家像のようなものも語らなければなりませんが、そうすると、「他よりマシ」で支持していた層は離れてしまうでしょう。
片山 「やります、やります」と言い続けながら、本気ではやらないままでいるのが、政権を維持するには一番いいのでしょうね。
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「憲法改正の実現こそ安倍政権の悲願」という安倍政権のコアな支持層からの声もあるが、実際は、「政策の実現」よりも、「政権の維持」が自己目的化しているかのようだ。
片山 「生前退位」に消極的だったはずの安倍政権も、最終的には「令和改元」をうまく利用したわけですね。「厳しい寒さの後に咲く梅の花のように」などと首相みずから新元号の解説までして、この改元が安倍政権の継続に寄与してしまった面があります。だとすると、安倍政権は一体、いつ終わるのか。
御厨 それこそ天皇陛下ではないけれど、安倍さん自身が辞めると言わない限りは続くのでしょう。
即位礼正殿の儀で万歳三唱をする安倍首相 ©AFLO
即位礼正殿の儀で万歳三唱をする安倍首相 ©AFLO
これが“平成30年間の政治改革”の帰結だ
では、なぜこんな事態に至ったのか。
御厨 振り返ってみると、今の安倍政権の“永続化”は、この平成30年間の「政治改革」とも大いに関係しています。
片山 「政治改革」が目指したのは、「二大政党制」と「官邸主導」ですね。平成初期の1994年に、中選挙区に代わって小選挙区制が導入されます。そこで有権者は、マニフェストや公約の達成度を見て「次はこちらにしよう」などと投票することが期待され、政権の方も、3、4年で政策を実現するために、従来の官主導の調整型政治ではなく、むしろ官邸主導で官僚にプランを降ろしていくことが期待されました。
片山杜秀氏 ©文藝春秋
片山杜秀氏 ©文藝春秋
御厨 まさにそうした改革が、橋本内閣の行革以来、平成期を通じて積み重ねられてきたわけですが、良くも悪くも、その帰結が今の安倍政権であるわけです。
片山 建前としては「二大政党による政権交代」を目指していたのに、民主党が悪かったのか、そもそも日本の政治風土と合わなかったのか、あるいは何か別のやり方をすべきだったのか、「二大政党」はいまや影も形もありません。残ったのは、強力な「官邸主導」の長期政権だけです。
「歴代最長政権」も、何も安倍さんや菅さんが一代で築いたものではなく、冷戦終結後の小沢さんや政治学者も含めたさまざまなアイデアを今の政権が独り占めした結果に見えてきます。
御厨 悲しいかな、これが“平成30年間の政治改革”の帰結です。しかも今のところ、他に代替物が見当たらない。今の政権は、もう何もしないで自動的に回っているようなものです。
出典:「文藝春秋」12月号
出典:「文藝春秋」12月号
「親アベ」でも「反アベ」でもない視点から「歴代最長政権」の実態を看破した両氏の対談「安倍政権は『桂園時代』に似ている」の全文は、「文藝春秋」12月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。
https://bunshun.jp/articles/-/15987
世界のポピュリズム、勢いは続くのか?
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世界を悩ます異常気象 それでも温暖化対策が滞る理由
NIKKEI STYLEやニュースを日経電子版アプリで読む
「東京五輪は失敗だった」 オリンピアンが断じる理由
『ホモ・デウス』著者が挑む 人類を揺らす21の課題
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO52498110S9A121C1MY5000?
世界のポピュリズム、勢い続く? 庶民の不満根深く
2019/8/5
ニッキィの大疑問
トランプ米大統領は政権発足時とほぼ同じ水準の支持率を維持している(G20大阪サミットで記者会見したトランプ米大統領)
トランプ米大統領は政権発足時とほぼ同じ水準の支持率を維持している(G20大阪サミットで記者会見したトランプ米大統領)
米国や欧州を中心に、ポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっているわ。経済格差の拡大や移民・難民の増加が影響しているみたいだけど、まだ勢いは衰えていないようね。世界の混乱は続くのかな。
世界中を揺さぶっているポピュリズムの現状と行方について、西山夏さん(53)と熊沢靖子さん(47)が小竹洋之編集委員に聞いた。
――なぜポピュリズムが広がっているのですか。
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千葉大学の水島治郎教授はポピュリズムを「人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」と捉えています。歴史的に繰り返されてきた潮流ですが、2016年を境に再び勢いを増してきました。英国が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決め、米国の大統領選でトランプ氏が当選した年です。
米欧では経済格差の拡大や移民・難民の増加に悩む庶民が少なくありません。ところが既存の政治家は富裕層や大企業の意向に左右され、グローバル化の痛みにあえぐ人々に寄り添ってきませんでした。長く置き去りにされてきた庶民の不満や怒りがついに爆発し、そこにつけ込む扇動家の躍進を許したのです。
ポピュリズムは米欧だけでなく、フィリピンやメキシコ、ブラジルなども侵食しています。排他的な通商・移民政策や強権的な政権運営に傾く右派のポピュリズムが優勢ですが、バラマキ色の濃い公約を掲げる左派のポピュリズムの伸長も目立ちます。
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ちょっとウンチク
――世界を主導する米国の変質は特に深刻なようです。
米国では上位1%の高所得層が富の4割を握り、全人口の0.01%にすぎないエリートが大口献金で政治を支配しています。白人の人口比率は今後30年以内に5割を割り込み、ヒスパニック(中南米系)やアジア系の存在感が一段と高まります。そんな国のかたちにいら立つ庶民が既存の政治家に「NO」を突きつけ、異端児のトランプ氏に変革を託したといえます。
米投資会社社長のJ・D・ヴァンス氏は16年の著書「ヒルビリー・エレジー」で、中西部や南部の取り残された白人労働者階級の窮状を描きました。トランプ氏はこうした庶民のための政治を訴え、「米国第一」の看板を掲げて民意をつかんだのです。
たとえ民意の反映であっても、内向きの経済・外交政策が米国のためになるとは思えません。主要国との貿易戦争や中南米・アジアの移民制限は、経済成長の基盤を損ないます。環太平洋経済連携協定(TPP)や温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱で、国際的な地位の低下にも拍車がかかるでしょう。国内がトランプ派と反トランプ派に割れ、社会の分断が深まっているのも心配です。
――トランプ氏は再選されるのでしょうか。
各種世論調査の平均支持率は40%台前半で、17年1月の政権発足時とほぼ同じ水準です。共和党の支持者に限れば80〜90%を維持しており、20年の大統領選で再選を果たす可能性は十分にあります。
民主党の大統領候補争いでは、中道派のジョー・バイデン前副大統領が優勢です。ただ存在感を増しているのは左派の候補者で、庶民受けする国民皆保険の導入や公立大学の無償化を訴えています。巨額の国費が必要なのに、責任ある財源を示してはいません。次の大統領選は、右派と左派のポピュリズムの戦いになるかもしれません。
――世界のポピュリズムを抑え込めますか。
5月の欧州議会選では、EU懐疑派の極右勢力などが躍進しました。英国では強硬なEU離脱派のジョンソン新首相が、問題をこじらせる可能性があります。グローバル化や既存の政治、エリート支配への反感を原動力とするポピュリズムの根は深いといわざるを得ません。
ポピュリズムの封じ込めは簡単ではありません。経済成長や技術革新の促進、所得再分配や安全網の強化、教育や職業訓練の充実といった包括的な対応が必要です。政治資金や選挙制度の改革なども組み合わせ、庶民の不満や怒りを和らげるべきでしょう。
米著名投資家のレイ・ダリオ氏らが2017年に試算したポピュリズム指数。先進国の値は1930年代の水準まで上昇していたという。偏狭なナショナリズムのせいで悲惨な世界大戦に至った歴史を繰り返すのか。マクロン仏大統領が右派のポピュリズムの台頭を憂い、「古い悪魔がよみがえりつつある」と警告するのも無理はない。
トランプ米大統領のような扇動家の罪は重い。だがポピュリズムの病根は、現状の打破を望む民意にある。経済、人種、政治などを巡る庶民の不満や怒りを解きほぐさない限り、トランプ氏的な異端への渇望を断ち切れないのではないか。(編集委員 小竹洋之)
■今回のニッキィ
西山 夏さん 会社員。週2回程度、ストレッチやヨガに励む。始めたのは5年ほど前で、健康維持が主な目的だが「通う頻度を増やし、姿勢が良くなりました。体だけでなく、心も軽くなります」
熊沢 靖子さん 不動産会社勤務。6月、10年ぶりにソウルへ旅行した。カフェなど写真映えする光景を撮影して楽しんだ。「政治問題などはあるのでしょうが、出会った韓国の人に助けられました」
[日本経済新聞夕刊 2019年7月29日付]
※「ニッキィの大疑問」は原則月曜掲載です。
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