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安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界
2019年11月21日(木)17時00分
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安倍政権を歴代最長にした政治的要因と、その限界
長期政権の要因には「偶然の産物」もある Soe Zeya Tun-REUTERS
<野党勢力の方向性が分裂したこと、保守勢力を取り込んだことなどが要因だが、一方で保守派を取り込んだゆえの限界も示している>
安倍政権が11月20日、憲政史上最長の在職日数に達しました。あまり機能しなかった第一次政権を除外して、2012年末に発足した第二次政権だけでも、今年の年末には丸7年になるのですから、ずいぶん長いのは事実です。
これだけの長期政権を維持するには政治的な要因があるわけで、その要因を考えることは、現代の日本の政治状況を考えることになると思います。本稿では3つ指摘したいと思います。
1つ目は野党の分裂です。現在の野党に関しては、表面的には統治能力に欠けるというイメージが蔓延していることがありますが、それはあくまでも印象論であって、それ以上に分裂しているという要素が大きいと思います。
野党の分裂というのは、例えば大所帯であった新進党が瓦解した90年代、同じく二大政党制を自認した民主党が看板を掛け替えつつ崩壊した2010年代のように、政党が集合離散を繰り返したということではありません。そうした現象はあくまで結果論で、問題は政治的な対立軸がバラバラなことです。
現在の野党の立ち位置というのは、見事に分裂しています。
まず立憲民主党は左派ポピュリズムが軸です。軍事的には反米(疑米程度かもしれませんが)で一国平和の孤立主義ですが、経済は基本的には大きな政府論であり、主として引退世代を中心にバラマキを主張しています。妙に財務省にはフレンドリーで財政規律には熱心ですが、有権者に媚びて増税には消極的。その一方で官公労には甘いので、財政の辻褄を合わせるアプローチではありません。
一方で、日本維新の会は小さな政府論に右派的なポピュリズムを加えた政党ですが、産業構造の改革にはそれほど熱意はありません。軍事外交に関しては意外と穏健で、アジア諸国との関係については基本的にフレンドリーです。小さな政府といっても、官公労や地方公務員、福祉や文化政策の受給者といった権益を打破する「コストカッター」としてのイデオロギーが軸になっているだけで、財政再建や民間活力という意味では強い推進力を見せているわけではありません。
維新に近い存在として、希望もしくは国民民主の勢力がありますが、こちらは軍事外交では穏健であり、親米かつ西側フレンドリー。イデオロギー的な意味では右派ポピュリズムへの依存は限定的です。ただし、郵政、五輪、水産市場といったトピックを使ったピンポイントの既得権攻撃という意味では、技巧的なポピュリストとも言えます。基本的に小さな政府論ですが、維新ほどコストカットには情熱を傾けない一方で、官公労に対しては強く出られるという期待はできます。
ということで、本当に見事に分裂しています。ですから、政権与党に対抗するような結束はできないわけです。それだけではありません、安倍政権の自民党は、この3つの勢力の方向性に対して、うまく敵対することで求心力を得ているという面もあると考えられます。
次のページ安倍政権の限界とは
2つ目は、安倍政権が保守イデオロギー勢力を「取り込んでいる」ということです。これは多分、政権が長期化している要因の核になる問題だと思います。例えば、第一次政権の際にはこの構造は比較的単純でした。当時の安倍政権は、本気で憲法改正へ突っ走ろうとし、また歴史認識問題では米ブッシュ政権から「二枚舌」を指摘されて不信感を買うなど散々な結果となりました。
ところが、第二次政権になってからは様子が違います。「意図せざる効果」なのかもしれませんが、保守イデオロギー勢力を味方につけることで、リベラルな政策を安心して進めることができているのです。
例えば、中国・ロシアとの関係改善、入管法の改正、新元号の前倒し発表、TPP11など自由貿易の推進、児童手当の拡充、オバマ米大統領との相互献花外交、靖国参拝の自制などです。もしかしたら女性宮家創設もやるかもしれません。こうした政策については、仮に中道左派系の政権が進めようと思えば、保守派が反対して立ち往生する危険がありますが、安倍政権の場合は「保守派を取り込んでいる」ことで比較的スムーズに進めることが可能になっています。
実態としては中道政権にシフトしているわけですが、それでも第一次の時から「祖父岸信介の名誉回復にこだわり、右派論客と交友を続け、戦後レジーム否定を口にする」ことで、安倍首相本人に関しては保守派イデオローグという印象を強く持ち、それゆえに頑固なまでに敵視する左派の固定層があります。
これも政治的には興味深いのですが、政策的には中道にシフトしても、左派が激しい敵視をやめないので、イメージ的には保守派は「やはり安倍政権は保守だ」と安心してくれる、そのために中道政策を強い抵抗なく進めることが可能になっている、そんなメカニズムも機能しています。ある種の偶然のなせるわざです。
3つ目は、産業構造改革への消極姿勢です。保守派に支えられつつ、中道政策を実施して長期化している政権ですが、結果的に保守派が支えていることから、構造改革を強く推進することはできていません。アベノミクスの「第3の矢」については、第二次政権になって7年かかっても成果が出ていない、これは支持基盤を考えるとやはり不可能なのだと思います。
そして、これが安倍政権の最大の問題であって、円安による「円建ての株価高騰」という「第1の矢」の効果がそろそろ賞味期限となる中では、最終的に政権の限界を示しているとも言えるでしょう。
次のページ【動画】"超・長期"安倍政権の課題は
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プロフィール
冷泉彰彦
(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。
最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2019/11/post-1130_3.php
支持率5割切りに安倍政権が焦りを深めるワケ
「安倍首相を信頼できない」が急増中
PRESIDENT Onlineプレジデントオンライン編集部
• 382首相復帰後、「初の危機」に直面している
11月21日に「憲政史上最長」の在任期間に到達した安倍晋三首相。ところが、これと並行するように政権の大暴落が進んでいる。一連の「桜を見る会」問題が発覚以降、報道各社が行う内閣支持率が急落しているのだ。
約7年におよぶ長期政権を支えてきた安定的な支持が崩れ始めた今、安倍氏は、2012年暮れに首相復帰後、初の危機に直面している。
内閣支持率は48.7%は「数値よりも内容が悪い」
共同通信社が23、24日の両日に行った世論調査によると、内閣支持率は48.7%。10月の前回調査と比べて5.4ポイント下がった。
「桜を見る会」問題に火が付いて以来、各社が行っている世論調査は、おおむね同じ傾向が続く。内閣支持率は5〜7ポイント程度下落して5割前後になっている。
「5割」という数値は必ずしも低いとはいえない。共同通信社の調査でも安倍内閣の支持が4割を割り込んだこともある。その時と比べれば十分高い。しかし、世論調査ウオッチャーたちによると、今の内閣支持率は「数値よりも内容が悪い」という。
次ページこれまでは2〜3カ月すると持ち直していたが…
かつて安倍内閣の支持が落ちたのは、特定秘密保護法や、集団的自衛権の行使を一部容認した安全保障関連法などを成立させた時だった。反対が根強い中で強引な国会運営をした影響もあったが、ある程度支持率が下がるのを覚悟して、信念に基づいて政策を押し通した結果だった。覚悟していたから、措置しやすい。だから2〜3カ月すると支持は持ち直していた。
10月下旬、菅原一秀経済産業相と河井克行法相を巡る「政治とカネ」の問題が起きた時も、安倍氏はある程度支持が下落することを予測し、2人をあっさりと更迭。前後して、国民から批判が集まっていた大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入も見送る決断をした。
その後の世論調査では、内閣支持率は下がらず、むしろ評判の悪い英語民間検定の導入を見送ったことで評価を高めたほどだ。こういった危機管理が長期政権を築いてきた知恵でもあった。
しかし今回の支持低下は安倍氏にとって想定外だった。安倍氏も、安倍事務所も、首相官邸も「桜を見る会」についての危機感は乏しかった。この問題は10月13日、「赤旗」日曜版で問題点が指摘されている。しかし11月8日に参院予算委員会で共産党の田村智子氏が追及するまで十分な対策を練っていなかった。
不支持理由の圧倒的1位は「首相が信用できない」
共同通信のデータを元にもう少し深く分析してみたい。安倍内閣を「支持しない」と答えた人にその理由を聞いた設問がある。その中で圧倒的な1位は「首相が信用できない」で36.0%。前回は27.8%だから、8.2ポイントも上がったことになる。さらに「首相にふさわしいと思えない」も前回の11.4%から15.3%に上がっている。
前回は「経済政策に期待が持てない」が1位だった。要するに安倍政権を評価しない人は、前月までは政策に対する批判が多かったのだが、今は安倍氏自身に拒否反応が主となっている。理由は「桜を見る会」への対応だ。
この問題につい安倍氏の発言を「信頼できる」という回答は21.4%、「信頼できない」は69.2%。「桜を見る会」を巡って安倍氏に不信が高まったことが内閣支持の低下の主要因になっていたことが、はっきり分かる。
次ページ多くの人が「そんなはずはない」と思う説明ばかり
「桜を見る会」の問題はわかりやすい。税金を使って来客をもてなす会に安倍氏の後援者を大量に招いていたという話は、安倍氏が政権を私物化しているという印象を誰もが持つ。
「桜を見る会」の前日、都内の高級ホテルで開かれた「前夜祭」について安倍氏は、総額を示す明細書はなかったと説明しているが、多くの人は「そんなはずはない」と思うはずだ。このことは、すでに「支持者を堂々と『税金』で接待する安倍氏の驕り」(11月13日)や「丁寧に説明するほど疑惑増す『安倍首相の逆説』」(11月18日)で解説している。
この問題は安倍氏個人に向けられている。「森友学園」の疑惑では安倍氏の妻・昭恵氏の関与が疑われた。「加計学園」では、安倍氏の友人である加計学園の加計孝太郎理事長の存在が注目された。また、最近では安倍氏が任命した閣僚が相次いで辞任した。その都度、安倍氏も批判されたが、安倍氏は脇役だった。
しかし「桜を見る会」は、文句なく安倍氏が主役。彼自身に批判の目が向けられている。だから問題は大きく、対応が難しいのだ。
「安倍政権には岩盤支持層が3割ある」は健在
安倍氏はどこまで追い詰められてしまうのだろうか。最近、野党からは疑惑がさらに深まる前に安倍氏が衆院解散してしまうのではないか、という観測が出ている。また永田町内では安倍氏が政権を投げ出し、辞任するのではないかとの見方さえある。
しかし、そこに至る可能性は、現段階では低いとみたほうがいい。共同通信社のデータにもう一度戻ろう。「桜を見る会」に安倍氏の支援者が多数招待されたことを問題だと思うかどうか、という設問に対し「問題だと思う」は59.9%、「問題だと思わない」が35.0%だった。
ここで注目するべきなのは「問題だと思わない」が35%もあることだ。今、テレビ、新聞がこぞって「桜を見る会」を取り上げて批判する中、「問題だと思わない」と答える人は、どんなことが起きても安倍氏を支持しようと考える岩盤支持層だ。
これまで安倍政権が窮地になっても、内閣支持率が30%台で下げ止まることから「安倍政権には岩盤支持層が3割ある」と解説されてきた。世論調査を見る限り、まだこの「岩盤」は健在であることを示している。
野党側はこの問題で一気に倒閣まで持ち込もうと息巻いてはいるが、「桜一辺倒」では難しいことも世論調査は雄弁に語っている。裏を返せば、安倍氏の国会などでの説明に明確な矛盾が生じ、「岩盤層」も崩れ始めた時、今度こそ安倍政権は終末を迎えることになるだろう。
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2019年11月27日特集記事
安倍政権を、誰が支えているのか
「安倍さん、辞任するって!」
2007年9月。当時、自民党担当だった私は、騒然とした記者クラブ内の様子を今でもよく覚えている。それほど突然の辞任だった。
あれから12年。
なぜ、安倍政権は復活でき、しかも「最長」となったのか。
今回、その裏側を当事者の話で明らかにしたい。
(長谷川実)
こうして安倍は「復活」した
2007年、第1次安倍政権は1年で幕を閉じた。
その後、福田、麻生、鳩山、菅、野田と、どの政権も1年前後の短命で終わった。
なぜ、長きにわたる政治の混乱の、引き金を引いたような安倍政権が復活できたのか。
それを身近に見て、復活にも手を貸してきた「盟友」がいる。自民党税制調査会長を務める甘利明だ。
「2012年の総裁選挙は勝つべくして勝ったわけじゃない。3番手からスタートし、逆境を跳ね返した。その結束力が、政権の土台に根付いていることが1番だろうね」
甘利が「逆境」と表現するのも当然だろう。
2007年9月12日、安倍は辞意を表明し、翌日、病院に入院した。
安倍は、7月の参議院選挙で大敗しながらも続投を表明。
2日前に行った所信表明演説に対する代表質問に臨む、まさにその日の辞意表明だった。
政権を放り出した格好となり、与党内からも、「理解しがたい」「とまどいを通り越して、悲しみさえ覚える」などと、厳しい批判が浴びせられた。
2012年。安倍は、政権復帰直前の自民党総裁選に再び立候補した。
これには、永田町でも驚きの声があがった。
自民党の総裁経験者が再び総裁に就いた例はないうえ、5年前のあの時の辞め方だ。
はじめに菅が…
なぜ、立候補したのか。その始まりは菅義偉だった、と甘利は語った。
総裁選挙の半年ほど前のことだ。
「菅さんが私のところに相談に来て、『安倍さんをどうしても、もう1回表舞台に引っ張り出し、この国の指揮を執ってもらいたい』と。わたしも、どん底まで落ちた人がまたトップになるのって痛快だな、これ以上の再チャレンジってないだろうなって」
承諾した甘利と菅は、連日、甘利の事務所で打ち合わせを重ねた。
その後、麻生が加わり、3人のチームが誕生する。しかし逆風は想像以上だった。
「ウチの秘書もけっこう怒鳴られたし、親しい県議会議員に頼んでも、『いやあ、今回は勘弁してくれ』などという話もあった。『何とか2番を取れ』と必死だった」
“内閣主導でいく”
9月の自民党総裁選挙。
5人が立候補し、1位は石破、安倍は2位。
いずれも過半数に届かず、決選投票の結果、安倍が逆転し、総裁に返り咲いた。
そして12月の衆議院選挙で圧勝し、自民党は政権を奪還した。喜びに沸く自民党の開票速報本部で、甘利は安倍から政権構想を明かされる。
「2人きりになった時、『人事どうします?』と聞いたら、ひと呼吸置いて、『甘利さん、閣内で経済の指揮を執ってくれ』と。『党はどうします?』と言ったら、『閣内に人材を集めたい。内閣主導でいきたい』という話だった」
安倍は、ことば通り、麻生、菅、甘利を、それぞれ副総理兼財務大臣、官房長官、経済再生担当大臣と、内閣の骨格ともいえる枢要なポジションに配した。
そのうえで、石原伸晃や林芳正ら総裁選で戦った相手も閣内に集めた。
そして内閣発足当日の夜、安倍は初閣議で緊急経済対策の策定と補正予算案の編成を指示。
年明けには、休眠状態だった経済財政諮問会議を再開させ、経済再生に向けた検討を始めるとともに、日銀と政策協定を結び、新たな金融緩和策が始まった。いわゆる、アベノミクスだ。
「3人組」
麻生、菅、甘利の3人は、結束を維持するため、菅の提案で2か月に1回程度、ひそかに食事をともにした。
甘利は、こう自負する。
「長期政権につながる人事配置は、はじめからできていた。つくづく思ったのは、『実力がそこそこあるやつが3人そろったら、政権って維持できるな』ということだね」
ところが、甘利の当時の秘書が建設会社から現金を受け取っていた問題が浮上。(最終的には不起訴処分)2016年1月、甘利は責任を取って辞任し、3人組の一角が崩れた。
「『トライアングル』というのは、それぞれ協力し合ったり、けん制し合ったりする良い距離が取れるけれども、麻生、菅、2人の関係がうまくいくといいなと。俺が間に入れなくなったんで、総理に2人の間に入る役までやらせてしまった…」
甘利が去って以降、麻生と菅は、衆議院の解散戦略などをめぐって、たびたび意見を異にし、永田町では2人の不協和音がささやかれることになった――
情報は「制服組」から
安倍が「最も信頼する自衛官」がいたことをご存知だろうか。
河野克俊。2014年に自衛隊トップの統合幕僚長に就任し、3度も定年を延長。安倍と歩みを同じくするように、「歴代最長」となるおよそ5年の任期を務めた。
河野は、ある分野での情報共有のシステム化が、政権の安定に寄与した、と語る。
「外交・防衛が一緒のテーブルに着くシステムを作ったのは非常にいい。これまでそういう機会はなかったから」
どういうことか?
総理大臣の1日の動きをまとめた記事「総理動静」には、週に1回程度、外務省、防衛省、自衛隊の幹部の名前がそろって登場する。
外務省総合外交政策局長、防衛省防衛政策局長、そして自衛隊の統合幕僚長だ。
「ブリーフィング」と呼ばれる会合で、外交・安全保障に関する最新の動向を総理大臣に説明するものだ。
こうした仕組みができたのは、実は、第2次安倍政権からだという。
それまでは、いわゆる「制服組」と呼ばれる自衛官が、総理大臣に接する機会は限られていた。
「戦前の軍の二の舞を避けるため、自衛隊を極力、政治から遠ざけてきた。それがシビリアンコントロールだと」
「でもわたしの報告があるので、安倍総理は、自衛隊の動きが頭に入っている。そういう総理は初めてだと思う。日本もその意味では、諸外国並みになってきたと思いますね」
イラン情勢が緊迫する中、政府はことし10月、中東地域への自衛隊派遣を検討することを決定した。
政府内では、ホルムズ海峡の中で活動すべきだという意見もあったが、活動範囲はホルムズ海峡外側のオマーン湾やイエメン沖などを中心にするとした。関係者は、安倍が、イランとの関係を考慮しただけでなく、自衛隊の運用や現場部隊に及ぶリスクまで把握したうえで行った判断だと話す。
また別の関係者は、自衛隊や各国の軍事動向を把握することが、首脳会談の際、通訳だけを同席させるいわゆる「テタテ」や夕食会など、用意されたペーパーを読むことが難しい場面で役立つと語る。例えば、ヨーロッパの首脳に対し、地中海付近での中国軍艦船の動向を教えると驚かれることもあったという。
官邸の「意思決定」は誰が
安倍政権以降の政治状況は、「官邸主導」「政高党低」などと言われる。
官邸内の意思決定はどのように行われているのか。
ことし9月の内閣改造で就任した官房副長官、西村明宏に尋ねた。
第2次政権の発足以降、衆議院議員では4人目となる副長官だ。
官邸では、秘書官などを交えた闊達な議論が行われていると説明する。
「政権が長いから、秘書官の皆さんも気心が知れていて、総理に言いたいことをけっこう言っている。非常に自由な議論が行われ、その中で総理が決断するプロセスがある。みんなで同じ方向を向けるのが、政権の強さの源ではないか」
このうち政務担当の今井秘書官は、第1次政権でも事務秘書官を務めた。経済産業省の出身だ。
さらに下の写真、安倍の向かって左に控えるは、やはり経済産業省出身の佐伯秘書官。第1次政権では秘書官付きの事務官だった。安倍の右につくのは外務省出身の鈴木秘書官。第2次安倍政権の発足以降、一貫して務めている。
安倍、菅、3人の官房副長官と秘書官は、原則として、毎日1回、一堂に会し、食事などを取っている。いわば「チーム安倍」ともいえる存在だ。
しかし、安倍の周辺だけで政策を決め、自民党全体での議論が乏しいのではないか。
「党側と官邸はきちんと意思疎通をしている。ただ、その意思疎通が記者団に見えないから、国民には分かりづらいかもしれない。実際、私も党の方と毎日行き来しながら話しているから」
与党も野党も…「しかし次は」
因縁の相手にも聞いてみた。小沢一郎だ。
安倍が総理就任後、初めて臨んだ国政選挙だった12年前、2007年の参議院選挙。
小沢は当時の民主党代表として対決し、自民党を歴史的な大敗に追い込んだ。
自民党は、結党以来初めて参議院の第1党の座を失い、国会は「ねじれ状態」となった。
安倍の退陣につながっただけでなく、のちの民主党への政権交代にもつながる大きな転換点だった。
長期政権の理由として、何よりもまず野党が結集できていないことを挙げた。
「政局的に言えば、1つは、野党が結集できていないことが大きい。2007年は党が基本的に1つだった。共産党などはいたけども、リベラル・中道は1つになっていたから。その違いだ」
そして、自民党内の状況も要因だと指摘した。
「もう1つ、自民党内の活力が全くなくなっていることもある。つまり与野党ともに、官邸権力に対抗するだけの力がなくなっている。もう政治家の資質の問題だな。自民党も、陰でぶつくさ言っているけど、表向きは、安倍を公然と批判する議員はほとんどいない。大きく言えば日本社会全体に言えることで、絞って言えば、政治家の資質の問題だ」
野党がまとまれば、与党に勝利できると主張する小沢。
この7年間で、与党に警戒感を抱かせた瞬間があった。
2年前、2017年衆議院選挙の「希望の党」設立だ。
「希望の党」が発足する前、小沢は、野党結集に向け、水面下で小池知事や当時、民進党の代表を務めていた前原誠司と会談を重ねていた。
小沢は、野党勢力を幅広く結集させることを望んだが、果たせなかった。
「ひとときのドラマみたいなものだった。でも、あれは小池が本気になったら十分勝てたよ。小池が衆議院選挙に出て、各党が1つになって、『排除』なんてバカなことを言わなければ」
小沢が、もっと勝てる可能性を感じていた選挙がある。
さらに1年さかのぼる2016年の参議院選挙だ。
小沢は、当時、民主党の代表だった岡田克也に対し、野党の結集を呼びかけていた。
小沢が、各党の比例代表候補の名簿を統一する方法を提案したのに対し、岡田も真剣に検討したという。
しかし岡田は、「統一名簿方式」は、各党ごとの復活当選がある衆議院選挙では適用できないことなどから、小沢の提案を最終的に断念。
結果的に野党の結集はかなわず、与党が勝利した。
「3年前の参院選は本当に残念だった。もう少しだったんだよ。統一名簿方式で連合もオッケーのところまでいったんだよ。岡田君だけが反対してダメになった。絶対勝てたはずだ」
次の選挙、野党がまとまる見通しは?
「100%まとまる」
“小泉流”からの脱却
第1次政権と第2次政権との違いとして、“小泉流”からの脱却があると言うのは、一橋大学大学院教授の中北浩爾だ。
「小泉さんは派閥を否定したけれども、安倍さんは派閥をうまく使って党を掌握しています。かつての自民党の統治システムに、一連の政治改革で強化された総理・総裁の主導権をミックスしていて、非常に強固な安倍総理のトップダウンが実現していると考えていいと思います」
甘利が長期政権の要因に挙げた、「チーム安倍」の結束力を中北も指摘した。
「安倍さんは、非常に固い結束力を持つチームを作っているのが最大の強味で、第1次政権で失敗し、第2次政権で復活するプロセスの中で、さらに強固に再編された。これをつくれる政治家はしばらく出ないんじゃないでしょうか」
しかし、長期にわたる政権運営の中で驕(おご)りや緩みも出ているのも確かだ。
総理主催の「桜を見る会」をめぐっては、参加者や予算が年々増え、総理や官房長官、与党などに招待者の推薦枠があり、後援会関係者や知人も招待されていた。
また「加計学園」をめぐる問題では、当時の「チーム安倍」の一員だった総理大臣秘書官が、学園や自治体の関係者と事前に会っていたにもかかわらず、国会で「記憶の限り会ったことはない」などと否定し、安倍に近い人への優遇が疑われた。
中北も、政権の規律が失われている面があると指摘する。
「安倍政権は強固に安定しているから、それに対するチェックが効かない。権力の驕りも出れば緩みも出る。これは善し悪しだが、『悪し』の部分が目立つのも事実じゃないか」
長期政権の「驕り」は
麻生・菅・甘利の3人、秘書官らで構成する官邸の「チーム安倍」、そして制服組などからの情報網。政権維持の「骨格」はこうして形づくられた。
そして安倍は、消費税率引き上げの先送りなど、大きな決断を行う際には衆議院を解散して信を問い、勝利することで求心力を高めてきた。
一方で、政権から規律が失われつつあるのだとすれば、意外と早く崩れていく可能性もある。
安倍の自民党総裁としての任期は残り2年弱。
歴代最長任期を更新した11月20日、安倍は、「薄氷を踏む思いで、緊張感を持って歩みを始めた初心を忘れずに政策課題に取り組んでいきたい」と述べた。
安倍が驕りや緩みをそのままに政権を去るのか、緊張感を取り戻し、経済再生や拉致問題など残された重要課題に道筋をつけるのか、厳しい目が注がれている。
(文中敬称略)
#安倍晋三#小沢一郎#甘利明#自衛隊#菅義偉
政治部記者
長谷川 実
1998年入局。徳島局を経て政治部。自民党、民主党、防衛省などを取材。仙台局でデスクも。現在は官邸担当。
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https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/26401.html
2019年11月19日特集記事
安倍政権は、なぜ続くのか
安倍総理大臣の在任期間は、11月20日で第1次政権から通算2887日に達し、憲政史上最長となる。
支持する人、しない人、様々な立場はあると思うが、なぜ長期政権になったか、世論調査を分析すると見えてくるものがないだろうか。
今回、過去のデータを改めてひもといてみた。
(政木みき)
3度のピンチも・・・
安倍総理大臣の在任期間は2019年11月20日で、憲政史上、最長となる。
今回、分析に利用するのはNHKが毎月蓄積してきた世論調査の結果だ。
グラフは2012年12月に発足した第2次安倍政権以降の約7年にわたる支持率(2013年1月〜2019年11月)である。
(注:現在の電話調査は18歳以上、固定電話と携帯電話を対象に行うRDD方式で行っているが、これまで2度、調査方法を変更している。変更の前後では単純な数字の比較はできないが、過去との大まかな傾向を比較する)
支持率は発足直後に最高66%を記録するが、2015年安保法制の議論のとき、森友・加計問題で急落した2017年、2018年と大きくみて3度の局面で30%台に落ち込み、「不支持」のほうが多くなる事態に陥った。
ただ、支持率が下落するたび盛り返し、2017年7月に記録した最低支持率35%を下回ることはなく、2019年4月以降はおおむね50%近くを維持している。
第1次安倍政権の後、毎年のように変わった自民・民主の歴代政権末期の支持率が20%前後と低かったのと比べると、安定して30%を超える固定支持層が存在していることがみてとれる。
似てる?似てない?小泉と安倍
なぜ長い間にわたり政権を維持できたのか。平成時代のもう1つの長期政権、小泉政権の支持率の特徴と比べながら検証を進めたい。
回復のカギは「外交」と「選挙」
発足時の支持率が驚異の80%超、国民的人気を誇った小泉政権も、5年5か月の間には安倍政権同様、浮き沈みを繰り返してきた。
2つの政権には共通点がある。落ちた支持率が上昇に反転するときに、目立った外交の動きや選挙があったことだ。
まず外交でみると、小泉政権では「日朝首脳会談」が行われた後、2002年11月をピークに大きく上昇している。
他方、安倍政権では、2017年2月の58%の山に向かって支持率が上がっている。直近の2016年末から2017年はじめにかけて、日ロ首脳会談、オバマ大統領との真珠湾の慰霊訪問、トランプ大統領との初の日米首脳会談などといった外交イベントが重なり、有権者の期待感が高まったことも考えられる。
もう1つの共通点は衆議院の解散総選挙による回復だ。小泉政権で象徴的なのは2005年の「郵政選挙」である。
支持率は選挙の前後で47%から58%へと急上昇した。
一方、第2次から第4次の安倍政権では約7年で衆参合わせて5回もの国政選挙があり、うち2回が支持率が下がるなか安倍総理大臣が踏み切った2014年と2017年の解散総選挙である。
支持率は、2014年衆院選前後で47%から50%、2017年衆院選前後では37%から46%にアップし、戦略的に解散というカードを切り事態を打開しているのがわかる。
幅広い支持の小泉政権、固定支持層の安倍政権
男性と女性で分かれる支持
戦略的に長期政権を維持してきた2人の総理大臣。しかし支持率を詳しくみると、「誰が支持するのか」という点で大きな違いが浮かぶ。いわば幅広く支持を集める小泉政権に対し、特定の固い支持層に支えられる安倍政権だ。
わかりやすいのが男女の差である。小泉政権は男女の線が重なり男女の支持率の差が小さい。
安倍内閣は第2次政権以降一貫して男性が女性を上回る。男女差の平均は8ポイント。男女で好みが分かれる。
年代別でも違いがみられる。小泉政権の年代による支持率の差は一定程度でむしろ政権末期には縮小している。
これに対し、安倍政権では支持率が高い傾向の30代までの若い層と、低い傾向の高年層との差が徐々に広がり、第4次政権では差の平均が10ポイントを超えている。安倍政権では支持する人と支持しない人の特徴が年を追うごとに明確になっている。
自民支持層とそれ以外(支持なし層・野党支持層)で進む「二極化」
有権者の「二極化」がさらに顕著なのが支持政党別の結果だ。
「自民支持層」「野党支持層」、支持する政党を持たない「支持なし層」に分けてみると、小泉政権はこのような状態。
比較すると、安倍政権は、小泉政権に比べ支持なし層の支持率が低い。
むしろ野党支持層寄りになり、70%〜90%台で高位安定する自民支持層との隔たりが大きい。
第2次安倍政権以降の支持率の平均で傾向をみると、自民支持層では80%を超えるのに対し、野党支持層と支持なし層はともに20%台と、60ポイント前後もの開きがある。しかも第2次政権と比べ、第3次・第4次政権では差が拡大しているのだ。
第2次安倍政権以降の支持なし層の支持率は40%台でスタートした後、2015年8月の14%で底を打ち2017年2月には39%まで回復する。しかし森友・加計問題で再急落した後、第4次政権ではほぼ20%台に沈んだままだ。
東京大学名誉教授の御厨貴さんは、こう分析する。
「小泉さんは先手を打つんです。これからこういうことにしたいとか、全体の政治の流れをこういうふうに持っていきたいというときに、必ずそれに合うようなワンフレーズの言葉を入れて、みんなが何だろうと思ったところで、またぽんぽんと言っていくから自然とみんなそれについていくわけです」
「安倍さんの場合、既に起こったことや何かについて、必ずそれに立ち戻ってこれはこうだったという説明をするわけです。そして追及されたことに関して最初ははぐらかす。はぐらかしがきかなくなってくるとついに逆襲するわけです。小泉政治というのはちょっとポピュリズム的なところがあって、あまり説明はしなくても『おい、行こうぜ』みたいなところで、みんなついていってしまう。だけど安倍さんの場合そういう風にはならない。絶対安倍さんが嫌だっていう層がいるから。だから安倍政治というのは、ポピュリズムだとは誰も思わない」
支持の理由 不支持の理由
「他の内閣よりも良さそうだから」 消極的支持への変質
第4次政権では全体の3割〜4割を占める支持なし層での支持離れは政権にとって大きな痛手であるはず。でもなぜ選挙に勝ち続けられるのか。
「安倍内閣を支持する人の理由」をみると、「他の内閣より良さそうだから」という理由を挙げる人が政権の長期化とともに増え、2017年3月以降は支持する人の40%〜50%に及んでいる。
安倍内閣を支え続ける底堅い支持の動機は、政策への期待でも実行力への期待でもなく、「他の内閣より良さそうだから」といういわば消去法の「消極的な支持」に変質している様子がうかがえた。
一方、「安倍内閣を支持しない人の理由」は、森友・加計問題などで支持率が落ち込む第3次政権末期から第4次にかけて「人柄が信頼できないから」が大きく伸び、「政策に期待が持てないから」をほとんどの月で上回っている。「政策」ではなく「人柄」が不支持のキーワードだ。
個別政策の評価などをみると、安倍政権では固定支持層と支持なし層それぞれを引きつける理由があることがみえてきた。
最も評価された「外交・安全保障」
直近の11月の調査で、これまでの安倍内閣の実績として最も評価していることを6つの政策課題の中から選んでもらった結果、最も多かったのは「外交・安全保障」の23%で、特に自民支持層では33%と3人に1人があげた。
背景の1つに安全保障環境の変化があげられる。北朝鮮が相次いで弾道ミサイル発射した後の2017年7月と9月の調査では8割超が不安を示し、政府が北朝鮮に対する厳しい措置や圧力強化を打ち出すと、「評価する」という人は半数を超え、自民支持層はさらに高い割合だった。
外交の他の項目をみると、たとえば日韓関係が悪化するなかでの「韓国を輸出管理優遇対象国から外す決定」について尋ねた2019年8月調査では「支持する」が55%、自民支持層では66%だった。こうした外交政策では全体でも一定の評価を得つつ固定支持層でさらに高い支持をつかんでいる。
看板の「アベノミクス」
安倍内閣で評価する実績を尋ねた質問で「経済政策」をあげた人の割合は4番目だったが、第2次政権以降、大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を打ち出した「アベノミクス」が自民支持層の結束を固めていると分析する識者もいる。
確かにアベノミクスについて、2016年7月の調査で「期待する」と答えた人は46%だったが、自民支持層では76%と高かった。この差はなんなのか。
一橋大学教授の中北浩爾さんは、「アベノミクス」こそが経済を大きくして成長をめざす自民党の伝統的手法への回帰であり、安倍政権は第1次から第2次政権で、小泉政権時代から受け継いだ「改革」から「成長」にシフトチェンジしていると指摘する。
そのうえで「『成長』というのは自民党の支持基盤にとっては受け入れやすい。特に国土強靭化とか公共事業とかいったことは小泉改革とか2000年代の民主党政権時代ではずっと否定されてきたわけですけど、成長はそういったことも含むわけです。『改革』という言葉は無党派層に届きやすい一方、敵を作る可能性もある。安倍総理は自民党のありかたというものを傷つけない範囲で改革を行い、自民支持層を固めているのが小泉政権との大きな違い」と話す。
安倍政権では消費税率の引き上げを2014年4月に8%へ、2019年10月に10%へと2度行っている。消費税率10%への引き上げの実施前、「どちらともいえない」を含む三択で賛否を聞いた結果、「反対」が半数を超えることはなかった。
過去の政権が苦労した消費税引き上げという課題についても乗り越えているのは、第2次安倍政権以降、日経平均株価が上昇したり、大学生の就職内定率が高い水準で続いていたりするといった状況のなかで、全体としても経済の安定について一定の評価があることが考えられる。
自民党の原点 憲法改正
固定支持層の支持固めとしては安倍総理大臣が意欲を示し続ける憲法改正もあげられるだろう。2019年7月の参院選前の調査では今の憲法を改正することについて「必要がある」、「必要はない」、「どちらともいえない」の3択で尋ねた結果、ともに3割程度で意見が割れた。
しかし自民支持層では「必要がある」が43%と全体に比べ10ポイント以上高い。世論調査の推移をみる限り、憲法改正について、国民全体の改憲機運の盛り上がりはみられない。しかし、それでも自民党結党以来の重要政策を掲げ続けることが、自民党支持基盤を固めているとみられる。
民主党政権の記憶
政権交代前夜で、民主党の存在感が増していた小泉政権時に比べ、安倍政権下では、野党への期待感の低さも特徴的である。
安倍政権下の2019年7月の参院選前の調査で「野党の議席が増えたほうがよい」と答えたのは約3割だった。野党支持層では7割近くに上ったが支持なし層では3割台にとどまった。支持なし層の安倍政権の支持率は低いものの、野党への期待も低いという状態だ。
7月の参院選の選挙戦で安倍総理大臣は「悪夢のような民主党政権」といった刺激的な言葉や「あの暗く低迷した時代」といった言葉を多用し、政権を担えるのは自民党しかないということを強調してきた。
支持なし層の政権に対する支持率が低くても、「民主党時代よりはまし」という暗黙の前提を有権者に醸成し、それが「他の内閣より良さそうだから」という消極的支持を引き出しているのだろう。
御厨さんはこう話す。
「『あの民主党政権』と言われたときに、ああ、あれよりは安倍さんいいよねという気持ちを起こされる。だから、あのときの政権交代というのは本当に安倍さんには有利に働いて、単にそこで政権交代しただけでなく後の選挙に全部効いてくる。だからある時期からもう安倍さんは不戦勝みたいなもので、戦わずして勝っているようなところがある」
中北さんは次のように指摘する。
「『改革』を打ち出すことで熱狂的な支持を獲得してきた小泉総理に対し、安倍総理は、国民の熱狂的支持があるわけではないが、やっぱり消極的支持がある。民主党よりはましだ、経済もいいでしょ、政治も安定しているでしょということが下支えになっている」
「単に政権の力だけでできたわけではなくて、民主党という対抗する最大勢力が失敗したっていう後にこそ出現したという感じでしょうか。それは安倍総理自身、相当意識してやられているし、また、民主党の失敗ということで国民も安倍政権がいいと。政権を戻しちゃいけないということで自民党も結束していくと。そういう中で安倍長期政権が成立したのではないかと」
選挙でも二極化 投票意欲が下がる支持なし層
有権者の二極化の進行、支持なし層の野党への失望が最終的にもたらしているのが投票意欲の低下であろう。
安倍政権下で毎年のように行われた国政選挙では、衆院選、参院選ともに投票率の落ち込みが目立ち、2019年7月の参院選の投票率は48.80%と半数を下回った。国政選挙前の調査でも、特に支持なし層で投票意欲や選挙への関心の顕著な低下が確認できる。
「必ず選挙に行く」という人は、支持する政党を持つ人で多い。投票に行く人と行かない人の二極化が進むなか、安倍政権は自らの支持層を固めて選挙に勝ち続け、政権を維持してきたのである。
死角は「風」?
では、安倍政権に死角はないのだろうか。ポイントの1つは他の選択肢が生まれるかどうかだ。2019年7月の参院選では、選挙直前に発足した「れいわ新選組」は比例代表で得票率4.6%、2議席を獲得し、れいわ旋風とも称された。
2017年の衆院選前、自民党に変わる政権政党を目指す「改革保守」の旗を掲げて発足した「希望の党」の例もある。
小池百合子東京都知事のもとで発足した直後にもかかわらず、衆院選前の調査の支持政党の質問では5%前後の支持を集めた。
希望の党はその後解党し、れいわ新選組の支持の広がりも現時点ではみられない。しかし、自民党に代わる選択肢が出て「風」が吹けば、長く続いた安定に変化が起きる可能性もありうる。
有権者の信頼を損ない、身内の支持まで失ったり、支持なし層のさらなる支持離れが起きたりしても状況は変化するだろう。
2019年10月に改造直後の安倍内閣で2人の大臣が相次いで辞任したのもつかの間、11月に入ると総理大臣主催の「桜を見る会」のありかたが大きな問題となっている。
いずれも政権は即座に大臣を更迭したり、桜を見る会の中止を決定したりして、問題の収拾を図ろうとしているが、長期政権の緩みとの批判は根強い。
こうしたさまざな要素が絡み合い、選挙で変化をもたらす重要な要素となるのが投票率の向上だ。ずっと選挙で勝ち続けてきた安倍政権。しかし、支持なし層の支持は低く選挙での投票率は低い。有権者の4割から5割は投票さえしていない選挙が続いている。
「選挙での選択」について有権者の関心が上向き、残りの有権者が選挙に行くような事態になったら・・・盤石にもみえる政治状況に変化が起きるかもしれない。
#世論調査#安倍晋三
選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在、政治意識調査を担当。
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安倍政権はなぜ続く? 豊田洋一・論説委員が聞く
2019年10月26日
第一次内閣を含めた安倍晋三首相の通算在職期間が来月、桂太郎首相を超え、歴代内閣で一位となります。二〇一二年に発足した第二次内閣以降、「安倍一強」と呼ばれる「数の力」を背景とした強引な政権、国会運営には厳しい批判はありますが、なぜ安倍政権はこれほど長く続いたのか。神戸大教授の砂原庸介さんと考えます。
<首相の通算在職日数> 歴代最長は明治・大正期の桂太郎首相で2886日。現職の安倍晋三首相は今年8月、第1次内閣との通算で、大叔父である佐藤栄作首相の2798日を超えて歴代2位に。このまま政権を維持し続けた場合、11月19日に桂首相と並び、翌20日には史上最長となる。連続在職日数の最長は佐藤首相の2798日。歴代最短は終戦直後に就任した東久邇宮稔彦首相の54日。
◆野党弱く圧力かからず 神戸大教授・砂原庸介さん
砂原庸介さん
豊田 小泉純一郎首相が退陣した二〇〇六年以降、第一次内閣当時の安倍首相を含めて在職一年程度で首相が交代する短期政権が続いていました。その中で連続七年近い、第一次を含めれば八年近くに及ぶ長期政権は異例です。なぜこれほど長く政権が続いたのでしょう。
砂原 交代圧力の不在が大きな理由です。オルタナティブ(代替勢力)であるべき野党が非常に弱いので、政権交代のプレッシャー(圧力)がほとんどかからない。その結果、政権交代がないだけでなく、独善的と批判される政権運営でさえ可能になっています。
豊田 野党が弱くなり、政権交代の現実味が欠けていることに加えて、派閥の衰退で自民党内の圧力がなくなったことも長期政権につながっています。まず野党の政権交代圧力がなくなった原因をどう考えますか。
砂原 一義的には民主党政権の失敗、と言っても、実は何を失敗と言うのかは難しいのですが、うまくいかなかった記憶が強い。あの人たちに任せていいのかと思う有権者は多いと思いますし、政治家側も、かつてと同じような形で結集しても支持が集まるのか、という感覚がある。加えて、野党の足並みがそろわない原因の一つは、安全保障政策で合意がないことです。自民党はそこを攻撃するので、野党は分裂的になります。
豊田 一方で、自民党内の圧力がなくなった背景には政党・政策本位の政治を目指した平成の選挙制度改革があります。派閥がかつての権勢を失ったのは改革の狙い通りですが、人材育成機能までなくしてしまった。後継者が育たない、競争原理が働かない現状もあります。
砂原 中選挙区制当時、政権交代は基本的に起きないと考えられていたから、自民党内で「今の首相は全然だめだ」と言えました。今、それを言うと、ひょっとしたら政権交代が起きるかもしれないと、皆が理解しています。だから、自民党内で野党的なことを言う人がいなくなって、今の枠組みで昇進するための競争をしています。自民党総裁選は最終的には国会議員が決める規程ですから、議員の中で受ける人たちが再生産されていくわけです。
豊田 平成の政治改革はリクルート、東京佐川急便事件を機に自民党の派閥をなくし、野党を政権交代可能な勢力にすることが狙いでした。派閥の力をそぐことはできましたが、野党の力までそいでしまった。なぜ目指していたものと違ったのか。
砂原 単純に野党のことを考えていなかったからです。政治改革には二つの要請がありました。一つは二つのブロックに分けること、もう一つはリーダーが求心力を強めることです。自民党は人事や選挙での公認などを通じてリーダーの求心力を高めてきましたが、野党側のためにそうした改革をしてこなかった。野党は求心力を高めることができず、都市部を中心に同じような支持層を奪い合う、極めて過当な競争を続けています。
豊田 長期政権になったのはそうした制度的な変化が要因なのか、安倍首相の属人的な問題なのか、どちらでしょう。
砂原 基本的には制度の問題ですが、安倍首相が第一次内閣の教訓を生かして、野党を見ながら自分のポジションを決め、それに成功している面はありますから、制度だけでは説明できない部分はあります。
豊田 長期政権のメリット、デメリットを伺います。海外で規格外の指導者が誕生する中、外交では安定した政権の方が有利という面はあります。
砂原 ある意味、安倍首相がリベラル(自由主義)世界のリーダーのようになっているのは仕方がない。野党支持者には不満でしょうが、そこは受け入れて、安倍首相を利用することを考えた方がいい。リベラルなリーダーならこれくらいはするでしょうと、圧力をかけるとか。安倍首相はリベラルじゃない、と言っても仕方がありません。
豊田 現状を受け入れた上でコントロールした方がいいと。
砂原 そう思います。「集団的自衛権の行使」の問題も同様で、憲法を変えたくない気持ちは理解できるし、私も九条を変更することが他国との関係に影響があるか懸念します。ただ政権側の憲法解釈に強く反対するあまり、状況に関与できなくなるのはよくありません。
豊田 平成の政治改革により当初の目的としていた政権交代は二度ありましたが、野党の弱体化や首相官邸への過度の権力集中というデメリットも顕在化しました。国民にとって望ましい政治を実現するためには、どんな選挙制度とすべきですか。
砂原 一般論としては比例代表制がいいと思います。個人的には衆院をすべて比例にして、参院を廃止してもいいと思いますが現実には難しい。特に衆院の選挙制度は変えにくいので、変えるのなら参院と地方です。その際、女性の代表を増やすなど多様性を拡大するには、明らかに比例代表制が望ましい。
豊田 個人的には比例代表制の方がいいと思いますが、政党の統治機能を強めることが前提です。比例代表選出議員が離党したら、議員を辞めるくらいでないと政党本位にはならない。
砂原 その通りです。地方でも、選ばれた議員は全住民への責任を負わされていますが、選んだ人たちから見ると、自分たち特定地域の代表にすぎなかったりする。そして、その代わりがいないわけですよ。だから、妊娠などによる議員の休職を支持者の側が認めない。(採決での)代理投票など比例の方が融通は利く。責任だけ異常に重く、入れ替えできないのは、個人への投票だから当然です。そのことが相当程度、足を引っ張っていると理解しています。
豊田 民主主義にお金がかかるのは分かりますが、政党交付金制度ができて、各政党は政府からお金をもらうのが当然になってしまった。まるで国営政党です。それが政治の劣化につながっているのではないですか。
砂原 私自身は劣化だとは思いませんし、政党に資金面で責任を負わせると、また野党への負担になる。政治に劣化があるとすれば、選挙制度とは関係なく、どういう人が政界に入ってくるのかです。以前、政治家の仕事には見返りが多いと思われていましたが、政治改革でほとんど切ってしまった。だから、良くも悪くも自分の能力を生かして、ひと山当てようという人が政界に来なくなってしまった。ちゃんとした人に議員になってほしいと思ったら、報酬は上げてもいいと思います。首長の中には身を切るといって報酬を下げる人がいますが、対抗馬をつぶすダンピングという側面も無視できません。
<すなはら・ようすけ> 1978年、大阪府生まれ。東京大教養学部卒。同大大学院博士後期課程単位取得退学。大阪大准教授、ブリティッシュコロンビア大客員准教授などを経て、神戸大大学院法学研究科教授。専門は政治学、行政学。著書に『分裂と統合の日本政治』(千倉書房)など。
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2019年11月20日特集記事
歴代最長政権 海外はどう見たか
アメリカ
「他国がまねしたい位な蜜月。ただ、簡単に政策がひっくり返る可能性も」
中国
「永遠の隣国関係どうし協力して手をとりあうべき」
ロシア
「個人的信頼はあるが、領土問題の解決は、幻想では…」
11月20日、歴代最長となった安倍政権を世界はどう見ているのか。
今回、私たちは各国メディアの東京駐在の特派員を取材し、二国間関係を中心に安倍外交の評価を聞くとともに各国の本音を探った。
(政治部取材班)
“地球儀俯瞰外交”
安倍総理大臣が、第2次政権以降の6年11か月で訪れた国は、のべ172の国と地域。移動距離は155万キロ余り、地球を38周以上した計算になる。
この中で、最も多く訪れたのはアメリカ。その数、実に16回。
3年前に行われたアメリカ大統領選挙でトランプ氏の当選が決まった直後の11月、「初めて」会った外国の首脳は、安倍総理大臣だった。トランプ大統領との個人的な関係は世界の首脳の中でも際立っている。
”安倍・トランプ” 日米関係は
日本が、かつてない強固な関係だとしている日米関係。アメリカのメディアはどう見てきたのか。
有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長で、日本取材歴は通算およそ17年になる、ピーター・ランダースさん(50)。安倍総理大臣に直接、インタビュー取材した経験もある。
「最初、読者の間では、『アベノミクス』で日本経済を復活させるという意味で安倍総理は注目されていた。最近はあまり言われなくなったがね…。アメリカの経済関係者の評価は悪くはないと思うよ」
そして、注目してきたのは、やはり、トランプ大統領との関係だ。
「トランプ大統領という、全く誰も予想しなかった人に対して、ほかの国が被っているようなダメージを避けているという意味で、大きな成果を上げている」
どういう意味か。
ランダースさんは、激しい貿易摩擦が起きている米中関係と比較して説明した。
「中国は高い関税を払わなければならなくなり、トランプ大統領になるまでと比べ、全く不利な状況だ。これに対し、日本は、貿易協定もそうだが、状況はそれほど変わっていない。日本経済全体で言えば、ほとんど被害はなかった」
「日米首脳の蜜月は、アメリカにとってどうかはわからないが、日本にとってはプラスだと思う。他国がまねしたい位にプラスになっている」
安全保障面でも、日米同盟はより強固になったとされる中、日米の関係に死角はないのだろうか?
「うーん…。トランプ大統領との個人的な関係は、かつてないほど強い。一方、国家の組織同士の関係では、まだそこまでは基盤を作り切れていない気がする。仮に来年の大統領選挙で、日本に懐疑的な見方をする民主党の候補が当選した場合、日本にもっと貿易の不均衡を見直すよう迫ったり、防衛面で負担を求めたりなどと、簡単に政策がひっくり返る可能性はあると思う」と指摘した。
日本とヨーロッパは
そのトランプ大統領との関係が、貿易や安全保障面でぎくしゃくしているとも言われるヨーロッパ。フランスの有力紙、ル・モンドの東京特派員、フィリップ・メスメールさん(47)の指摘はこうだ。
「トランプ政権と交渉するのは、とても難しいことだ。だから安倍総理は、やりすぎだとは思うが、ベストを尽くし現在の関係は良い。しかし、あすは…。もし米中の貿易交渉が解決したら?、もしアメリカが在韓米軍の韓国負担増額に成功したら?、次は日本にもっと求めてくる。それがトランプ大統領のやり方だ。日米の首脳の関係は強固だと言うけれど、簡単に壊れかねない。トランプ政権を見ているとそういう印象だ」
一方、安倍政権の日本と、ヨーロッパの関係については。
「関係は非常に良いと思う。特に経済面で日本とEU=ヨーロッパ連合のEPA=経済連携協定が締結されたことは良い進展だった。フランスも、日本を外交における優先順位の高い国とし、安全保障分野では、インド太平洋地域への関心を共有し関係は非常に良い」
ただ、メスメールさんからは、環境問題や女性政策について手厳しい指摘が相次いだ。
「ことし6月のG20大阪サミットでは、地球温暖化対策の国際的な枠組み『パリ協定』をめぐり、日本は、協定に否定的なトランプ大統領に配慮して、消極的だった」
「『女性活躍』については、女性を輝かせると大キャンペーンをやっているが、言葉よりも行動が重要だ。しかし、女性の働きやすさに向けた待機児童対策のほか、企業の女性管理職を増やすこともあまり進んでいない。男女の所得格差は広がったままで、経済大国なのにとても残念だ」
中国は日本をどう見る
そして、大国となった中国。今、安倍政権に何を思っているのか。
「外交は、相手国の政権に合わせてやっている。一つの政権が長期に続いている間は、基本方針が変わらないだろうから、そういう意味では外交がやりやすいでしょうね」
こう話すのは、中国国営の経済紙、「経済日報」の東京支局長、蘇海河さん(55)だ。
「僕たちから見れば、安倍さんは、第2次政権に入ってから、第1次よりソフトな態度で、日本国内でも国際社会でもいろんな意見が聞けるようになり、より現実的になってきた。そういう意味で、よく協力できるパートナーになると思う」
日中関係は、民主党政権では沖縄県の尖閣諸島の国有化や、中国漁船の衝突事件をきっかけに悪化。安倍政権になっても、尖閣諸島をめぐっては中国公船の領海侵入などが相次ぎ、その都度、日本側は抗議してきた。
しかし、蘇さんは、そうした中でも、対話と協議、そして経済交流を重視してきた安倍政権の姿勢が、今の関係改善につながっていると指摘する。
「安倍総理は、『中国の発展は、日本にとってチャンスだ』というスタンスで臨んできた。経済交流がどんどん密になり、中国人の日本に対する理解も深まってきた。それも、両国間に横たわる問題は『対話と協議を通じて情勢悪化を防ぐ』という合意を、安倍政権が中国政府との間でできたからだと思う」
一方、中国は、貿易問題で対立するアメリカを念頭に「保護主義や一国主義に反対する」とした上で、日本には接近を図っているとみられている。日米同盟を基軸とする日本の立ち位置がアメリカ側にある中で、中国政府は、日本をどう評価しているのだろうか。
「まさに、一国主義か国際協調路線かですよね。日本はTPP=環太平洋パートナーシップ協定も、そして、今交渉が行われている中国も含めたRCEP=東アジア地域包括的経済連携も積極的に進めている。これを中国は高く評価している」
その上で…。
「日本はアジアの国で永遠の隣国関係だ。国際自由経済をどんどん進めるため、中国と日本が協力し、もっと広い範囲で、いろんな国と手をとり合って進めていくべきだ」
”安倍・プーチン” 日本とロシアは
そして、もうひとつの大国、ロシア。
「安倍晋三氏は、ロシアでは、作家の村上春樹氏、映画監督の北野武氏の次に有名だ。ただ、安倍政権の長さは、ロシア人にとってはそれほどでもないね。というのも、ロシアのプーチン政権は、合わせて15年ほども続いているからね…」
そう話すのは、ロシア国営テレビ・ラジオの東アジア支局長、セルゲイ・ミンガジェフさん(42)だ。
北方領土問題を含む平和条約交渉という難題を抱える日ロ関係。
安倍総理大臣とプーチン大統領は27回もの会談を重ね、お互いを「ウラジミール」、「シンゾウ」と、ファーストネームで呼び合う関係を築いてきた。
これについて、ミンガジェフさんは、「通訳のみを同席させた1対1の会談で本音で話ができるという意味での信頼関係はあるとは思うが、それだけで実際に問題を解決できるかというと、不十分だ」と厳しい見方を示す。
それはなぜか。
「首脳間だけでなく、国民同士に良い信頼関係がないといけない。両国政府は、『関係が良くなっている』としているが、数字を見ると、貿易量や経済協力は低いレベルだ。二国間関係の発展には、必ず、経済分野での関係強化が伴わなければならないと思っている」
その上で…。
「両首脳が目指すのはウィン・ウィンの解決を見つけることだ。しかし、ロシアにとってのウィンとは、北方四島の主権はロシアに残った上で平和条約を締結し、経済分野の関係強化を進めることだ。一方、日本の最終的な目的は、どんな形かわからないが、主権は日本に戻すことなんでしょう?これだと、ウィン・ウィンにはならない」
さらに、ロシアと対立するアメリカを強く意識した発言も。
「ロシア政府から見ると、日本は経済は強いが、国際政治で強いポジションを取れているとはまだ言えない。日本のイメージは、何よりもまず、アメリカの同盟国であり、アメリカの政策に従っているとみている。そうした点からも、領土問題の解決は、幻想ではないでしょうか」
日韓関係は
一方、戦後最悪とも言われる日韓関係。
韓国の人たちは、安倍政権をどう見ているのか。韓国の保守系有力紙、朝鮮日報の東京支局長、イ・ハウォンさん(李河遠・51)に聞いた。
「安倍政権は率直に言って人気はない。安倍総理は日韓関係を大切にしない、そんなイメージが韓国では強い。植民地の被害者だったので、日本から学びながら、どのように乗り越えるのか。日本は友好関係を結ぶライバルじゃないかと思っている」
日本政府は、関係改善のためには、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、韓国が国際法違反の状態を是正するよう、重ねて求めてきた。
イさんは、具体的な解決策を打ち出さないムン・ジェイン(文在寅)政権の対応には批判的だ。
「1965年の日韓請求権協定は、守っていくほうがよいと思う。被害者の救済については、韓国政府がまず法整備して解決し、日本企業が未来志向で、自発的に救済のための取り組みに参加する案が考えられるのではないか」
一方、日本政府が、ことし7月に「安全保障上の措置」として行った韓国への輸出管理の強化については、強く批判する。
「G20大阪サミットで自由貿易を宣言した安倍総理が、直後にこのような措置をとったのは大いに間違った行動だ。参議院選挙を前に、政治的な徴用の問題に対し、経済的に報復したことになる。韓国経済が悪化し、国民が心配している中だったので不安感を増幅させることになった」
ただ、うらやましい点があるという。
「ことしは令和時代に入ったのを利用してトランプ大統領を国賓として招待し、TICADではアフリカの首脳を、即位の礼でも200人近い各国の要人を招待した。このような役割を果たせているのは、本当にうらやましい」
そして、日韓関係改善に向けては…。
「私はある程度、日本の立場を理解できるが、最後の段階で安倍政権や日本国民が柔軟性をみせてほしい。法律的な問題ではなく、日本は加害国だと謙虚に考え、問題解決に乗り出すことを望みたい。遠い道かもしれないが、お互い知恵を出す。日米韓3か国の協力を強くするのが利益であり、日韓がけんかして時間を無駄にする余裕はない。未来志向が重要だ」
日本に期待される役割とは
日本の長期政権に、さまざまな見方を持つ海外メディアの記者たち。
取材の最後に、全員に問いかけてみた。
「今後、国際社会において、日本に期待される役割はなんですか?」
アメリカ・ランダースさん
「民主主義に厳しい時代、世界のお手本に」
フランス・メスメールさん
「平和構築へ他国の後追いせず自ら戦略を」
中国・蘇さん
「経済の国際協調主義を守る」
ロシア・ミンガジェフさん
「米の意思決定に左右されない役割を」
韓国・イさん
「近隣国の不安解消し平和と経済に役割を」
#アメリカ#ロシア#中国#外交#韓国
政治部記者
山本 雄太郎
2007年入局。山口局勤務を経て政治部。現在は外務省を担当。
政治部記者
小泉 知世
2011年入局。青森局、仙台局を経て政治部。外務省担当を経て、現在、厚労省を担当。医療など社会保障政策を取材。
政治部記者
高島 浩
2012年入局。新潟局を経て国際部。2019年8月から政治部で外務省担当。専門は中国。
政治部記者
渡辺 信
2004年入局。サハリン赴任など経験し、現在は政治部で外務省担当。小学生の時にモスクワ生活。大学時代も旧ソビエトのウズベキスタンに留学。
政治部記者
瀧川 学
2006年入局。佐賀局、福岡局を経て報道局政治部。その後、沖縄局で県政を担当し、現在は政治部で再び取材にあたる。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/26045.html
2019年11月19日特集記事
安倍政権は、なぜ続くのか
安倍総理大臣の在任期間は、11月20日で第1次政権から通算2887日に達し、憲政史上最長となる。
支持する人、しない人、様々な立場はあると思うが、なぜ長期政権になったか、世論調査を分析すると見えてくるものがないだろうか。
今回、過去のデータを改めてひもといてみた。
(政木みき)
3度のピンチも・・・
安倍総理大臣の在任期間は2019年11月20日で、憲政史上、最長となる。
今回、分析に利用するのはNHKが毎月蓄積してきた世論調査の結果だ。
グラフは2012年12月に発足した第2次安倍政権以降の約7年にわたる支持率(2013年1月〜2019年11月)である。
(注:現在の電話調査は18歳以上、固定電話と携帯電話を対象に行うRDD方式で行っているが、これまで2度、調査方法を変更している。変更の前後では単純な数字の比較はできないが、過去との大まかな傾向を比較する)
支持率は発足直後に最高66%を記録するが、2015年安保法制の議論のとき、森友・加計問題で急落した2017年、2018年と大きくみて3度の局面で30%台に落ち込み、「不支持」のほうが多くなる事態に陥った。
ただ、支持率が下落するたび盛り返し、2017年7月に記録した最低支持率35%を下回ることはなく、2019年4月以降はおおむね50%近くを維持している。
第1次安倍政権の後、毎年のように変わった自民・民主の歴代政権末期の支持率が20%前後と低かったのと比べると、安定して30%を超える固定支持層が存在していることがみてとれる。
似てる?似てない?小泉と安倍
なぜ長い間にわたり政権を維持できたのか。平成時代のもう1つの長期政権、小泉政権の支持率の特徴と比べながら検証を進めたい。
回復のカギは「外交」と「選挙」
発足時の支持率が驚異の80%超、国民的人気を誇った小泉政権も、5年5か月の間には安倍政権同様、浮き沈みを繰り返してきた。
2つの政権には共通点がある。落ちた支持率が上昇に反転するときに、目立った外交の動きや選挙があったことだ。
まず外交でみると、小泉政権では「日朝首脳会談」が行われた後、2002年11月をピークに大きく上昇している。
他方、安倍政権では、2017年2月の58%の山に向かって支持率が上がっている。直近の2016年末から2017年はじめにかけて、日ロ首脳会談、オバマ大統領との真珠湾の慰霊訪問、トランプ大統領との初の日米首脳会談などといった外交イベントが重なり、有権者の期待感が高まったことも考えられる。
もう1つの共通点は衆議院の解散総選挙による回復だ。小泉政権で象徴的なのは2005年の「郵政選挙」である。
支持率は選挙の前後で47%から58%へと急上昇した。
一方、第2次から第4次の安倍政権では約7年で衆参合わせて5回もの国政選挙があり、うち2回が支持率が下がるなか安倍総理大臣が踏み切った2014年と2017年の解散総選挙である。
支持率は、2014年衆院選前後で47%から50%、2017年衆院選前後では37%から46%にアップし、戦略的に解散というカードを切り事態を打開しているのがわかる。
幅広い支持の小泉政権、固定支持層の安倍政権
男性と女性で分かれる支持
戦略的に長期政権を維持してきた2人の総理大臣。しかし支持率を詳しくみると、「誰が支持するのか」という点で大きな違いが浮かぶ。いわば幅広く支持を集める小泉政権に対し、特定の固い支持層に支えられる安倍政権だ。
わかりやすいのが男女の差である。小泉政権は男女の線が重なり男女の支持率の差が小さい。
安倍内閣は第2次政権以降一貫して男性が女性を上回る。男女差の平均は8ポイント。男女で好みが分かれる。
年代別でも違いがみられる。小泉政権の年代による支持率の差は一定程度でむしろ政権末期には縮小している。
これに対し、安倍政権では支持率が高い傾向の30代までの若い層と、低い傾向の高年層との差が徐々に広がり、第4次政権では差の平均が10ポイントを超えている。安倍政権では支持する人と支持しない人の特徴が年を追うごとに明確になっている。
自民支持層とそれ以外(支持なし層・野党支持層)で進む「二極化」
有権者の「二極化」がさらに顕著なのが支持政党別の結果だ。
「自民支持層」「野党支持層」、支持する政党を持たない「支持なし層」に分けてみると、小泉政権はこのような状態。
比較すると、安倍政権は、小泉政権に比べ支持なし層の支持率が低い。
むしろ野党支持層寄りになり、70%〜90%台で高位安定する自民支持層との隔たりが大きい。
第2次安倍政権以降の支持率の平均で傾向をみると、自民支持層では80%を超えるのに対し、野党支持層と支持なし層はともに20%台と、60ポイント前後もの開きがある。しかも第2次政権と比べ、第3次・第4次政権では差が拡大しているのだ。
第2次安倍政権以降の支持なし層の支持率は40%台でスタートした後、2015年8月の14%で底を打ち2017年2月には39%まで回復する。しかし森友・加計問題で再急落した後、第4次政権ではほぼ20%台に沈んだままだ。
東京大学名誉教授の御厨貴さんは、こう分析する。
「小泉さんは先手を打つんです。これからこういうことにしたいとか、全体の政治の流れをこういうふうに持っていきたいというときに、必ずそれに合うようなワンフレーズの言葉を入れて、みんなが何だろうと思ったところで、またぽんぽんと言っていくから自然とみんなそれについていくわけです」
「安倍さんの場合、既に起こったことや何かについて、必ずそれに立ち戻ってこれはこうだったという説明をするわけです。そして追及されたことに関して最初ははぐらかす。はぐらかしがきかなくなってくるとついに逆襲するわけです。小泉政治というのはちょっとポピュリズム的なところがあって、あまり説明はしなくても『おい、行こうぜ』みたいなところで、みんなついていってしまう。だけど安倍さんの場合そういう風にはならない。絶対安倍さんが嫌だっていう層がいるから。だから安倍政治というのは、ポピュリズムだとは誰も思わない」
支持の理由 不支持の理由
「他の内閣よりも良さそうだから」 消極的支持への変質
第4次政権では全体の3割〜4割を占める支持なし層での支持離れは政権にとって大きな痛手であるはず。でもなぜ選挙に勝ち続けられるのか。
「安倍内閣を支持する人の理由」をみると、「他の内閣より良さそうだから」という理由を挙げる人が政権の長期化とともに増え、2017年3月以降は支持する人の40%〜50%に及んでいる。
安倍内閣を支え続ける底堅い支持の動機は、政策への期待でも実行力への期待でもなく、「他の内閣より良さそうだから」といういわば消去法の「消極的な支持」に変質している様子がうかがえた。
一方、「安倍内閣を支持しない人の理由」は、森友・加計問題などで支持率が落ち込む第3次政権末期から第4次にかけて「人柄が信頼できないから」が大きく伸び、「政策に期待が持てないから」をほとんどの月で上回っている。「政策」ではなく「人柄」が不支持のキーワードだ。
個別政策の評価などをみると、安倍政権では固定支持層と支持なし層それぞれを引きつける理由があることがみえてきた。
最も評価された「外交・安全保障」
直近の11月の調査で、これまでの安倍内閣の実績として最も評価していることを6つの政策課題の中から選んでもらった結果、最も多かったのは「外交・安全保障」の23%で、特に自民支持層では33%と3人に1人があげた。
背景の1つに安全保障環境の変化があげられる。北朝鮮が相次いで弾道ミサイル発射した後の2017年7月と9月の調査では8割超が不安を示し、政府が北朝鮮に対する厳しい措置や圧力強化を打ち出すと、「評価する」という人は半数を超え、自民支持層はさらに高い割合だった。
外交の他の項目をみると、たとえば日韓関係が悪化するなかでの「韓国を輸出管理優遇対象国から外す決定」について尋ねた2019年8月調査では「支持する」が55%、自民支持層では66%だった。こうした外交政策では全体でも一定の評価を得つつ固定支持層でさらに高い支持をつかんでいる。
看板の「アベノミクス」
安倍内閣で評価する実績を尋ねた質問で「経済政策」をあげた人の割合は4番目だったが、第2次政権以降、大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を打ち出した「アベノミクス」が自民支持層の結束を固めていると分析する識者もいる。
確かにアベノミクスについて、2016年7月の調査で「期待する」と答えた人は46%だったが、自民支持層では76%と高かった。この差はなんなのか。
一橋大学教授の中北浩爾さんは、「アベノミクス」こそが経済を大きくして成長をめざす自民党の伝統的手法への回帰であり、安倍政権は第1次から第2次政権で、小泉政権時代から受け継いだ「改革」から「成長」にシフトチェンジしていると指摘する。
そのうえで「『成長』というのは自民党の支持基盤にとっては受け入れやすい。特に国土強靭化とか公共事業とかいったことは小泉改革とか2000年代の民主党政権時代ではずっと否定されてきたわけですけど、成長はそういったことも含むわけです。『改革』という言葉は無党派層に届きやすい一方、敵を作る可能性もある。安倍総理は自民党のありかたというものを傷つけない範囲で改革を行い、自民支持層を固めているのが小泉政権との大きな違い」と話す。
安倍政権では消費税率の引き上げを2014年4月に8%へ、2019年10月に10%へと2度行っている。消費税率10%への引き上げの実施前、「どちらともいえない」を含む三択で賛否を聞いた結果、「反対」が半数を超えることはなかった。
過去の政権が苦労した消費税引き上げという課題についても乗り越えているのは、第2次安倍政権以降、日経平均株価が上昇したり、大学生の就職内定率が高い水準で続いていたりするといった状況のなかで、全体としても経済の安定について一定の評価があることが考えられる。
自民党の原点 憲法改正
固定支持層の支持固めとしては安倍総理大臣が意欲を示し続ける憲法改正もあげられるだろう。2019年7月の参院選前の調査では今の憲法を改正することについて「必要がある」、「必要はない」、「どちらともいえない」の3択で尋ねた結果、ともに3割程度で意見が割れた。
しかし自民支持層では「必要がある」が43%と全体に比べ10ポイント以上高い。世論調査の推移をみる限り、憲法改正について、国民全体の改憲機運の盛り上がりはみられない。しかし、それでも自民党結党以来の重要政策を掲げ続けることが、自民党支持基盤を固めているとみられる。
民主党政権の記憶
政権交代前夜で、民主党の存在感が増していた小泉政権時に比べ、安倍政権下では、野党への期待感の低さも特徴的である。
安倍政権下の2019年7月の参院選前の調査で「野党の議席が増えたほうがよい」と答えたのは約3割だった。野党支持層では7割近くに上ったが支持なし層では3割台にとどまった。支持なし層の安倍政権の支持率は低いものの、野党への期待も低いという状態だ。
7月の参院選の選挙戦で安倍総理大臣は「悪夢のような民主党政権」といった刺激的な言葉や「あの暗く低迷した時代」といった言葉を多用し、政権を担えるのは自民党しかないということを強調してきた。
支持なし層の政権に対する支持率が低くても、「民主党時代よりはまし」という暗黙の前提を有権者に醸成し、それが「他の内閣より良さそうだから」という消極的支持を引き出しているのだろう。
御厨さんはこう話す。
「『あの民主党政権』と言われたときに、ああ、あれよりは安倍さんいいよねという気持ちを起こされる。だから、あのときの政権交代というのは本当に安倍さんには有利に働いて、単にそこで政権交代しただけでなく後の選挙に全部効いてくる。だからある時期からもう安倍さんは不戦勝みたいなもので、戦わずして勝っているようなところがある」
中北さんは次のように指摘する。
「『改革』を打ち出すことで熱狂的な支持を獲得してきた小泉総理に対し、安倍総理は、国民の熱狂的支持があるわけではないが、やっぱり消極的支持がある。民主党よりはましだ、経済もいいでしょ、政治も安定しているでしょということが下支えになっている」
「単に政権の力だけでできたわけではなくて、民主党という対抗する最大勢力が失敗したっていう後にこそ出現したという感じでしょうか。それは安倍総理自身、相当意識してやられているし、また、民主党の失敗ということで国民も安倍政権がいいと。政権を戻しちゃいけないということで自民党も結束していくと。そういう中で安倍長期政権が成立したのではないかと」
選挙でも二極化 投票意欲が下がる支持なし層
有権者の二極化の進行、支持なし層の野党への失望が最終的にもたらしているのが投票意欲の低下であろう。
安倍政権下で毎年のように行われた国政選挙では、衆院選、参院選ともに投票率の落ち込みが目立ち、2019年7月の参院選の投票率は48.80%と半数を下回った。国政選挙前の調査でも、特に支持なし層で投票意欲や選挙への関心の顕著な低下が確認できる。
「必ず選挙に行く」という人は、支持する政党を持つ人で多い。投票に行く人と行かない人の二極化が進むなか、安倍政権は自らの支持層を固めて選挙に勝ち続け、政権を維持してきたのである。
死角は「風」?
では、安倍政権に死角はないのだろうか。ポイントの1つは他の選択肢が生まれるかどうかだ。2019年7月の参院選では、選挙直前に発足した「れいわ新選組」は比例代表で得票率4.6%、2議席を獲得し、れいわ旋風とも称された。
2017年の衆院選前、自民党に変わる政権政党を目指す「改革保守」の旗を掲げて発足した「希望の党」の例もある。
小池百合子東京都知事のもとで発足した直後にもかかわらず、衆院選前の調査の支持政党の質問では5%前後の支持を集めた。
希望の党はその後解党し、れいわ新選組の支持の広がりも現時点ではみられない。しかし、自民党に代わる選択肢が出て「風」が吹けば、長く続いた安定に変化が起きる可能性もありうる。
有権者の信頼を損ない、身内の支持まで失ったり、支持なし層のさらなる支持離れが起きたりしても状況は変化するだろう。
2019年10月に改造直後の安倍内閣で2人の大臣が相次いで辞任したのもつかの間、11月に入ると総理大臣主催の「桜を見る会」のありかたが大きな問題となっている。
いずれも政権は即座に大臣を更迭したり、桜を見る会の中止を決定したりして、問題の収拾を図ろうとしているが、長期政権の緩みとの批判は根強い。
こうしたさまざな要素が絡み合い、選挙で変化をもたらす重要な要素となるのが投票率の向上だ。ずっと選挙で勝ち続けてきた安倍政権。しかし、支持なし層の支持は低く選挙での投票率は低い。有権者の4割から5割は投票さえしていない選挙が続いている。
「選挙での選択」について有権者の関心が上向き、残りの有権者が選挙に行くような事態になったら・・・盤石にもみえる政治状況に変化が起きるかもしれない。
#世論調査#安倍晋三
選挙プロジェクト記者
政木 みき
1996年入局。横浜局、首都圏放送センター、放送文化研究所世論調査部を経て現在、政治意識調査を担当。
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2019年11月18日注目の発言集
アベノミクスをどう評価するか
在任期間が憲政史上、最長となる安倍総理大臣。最初に就任したのは12年前。この間、私たちの暮らしは豊かになったのか。安倍政権の一丁目一番地の政策、「アベノミクス」の効果を検証します。
アベノミクスとは
平成24年、2012年12月に発足した第2次安倍政権が打ち出した一連の経済政策は「アベノミクス」と表現されます。政策の柱は3つ。
「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」そして「成長戦略」。これを「3本の矢」と呼んで物価が継続的に下がるデフレからの脱却と持続的な経済成長を目指しました。
このうち1本目の矢の金融政策では、政府と日銀が異例の共同声明を発表。日銀は「2年程度で2%の物価上昇率を達成する」と目標に掲げました。
そして大量の国債を買い入れて市場に大量の資金を供給する「異次元」とも言われる大規模な金融緩和に踏み切り、企業や国民に染みついたデフレ心理を一掃しようとしました。
2本目の矢である財政政策では、低金利をテコに、リニア中央新幹線などのインフラ整備を加速したほか、公共工事の上積みなどで需要の拡大をねらいました。
そして3本目の矢である成長戦略では、規制緩和などによって、経済の実力を引き上げることをねらいました。
法人税の実効税率の引き下げなどで、企業の成長を後押し。自由貿易を推進して経済の活性化につなげようとTPP=環太平洋パートナーシップ協定などの交渉加速にも取り組みました。
安倍政権は、この「アベノミクス」を経済政策の基本にデフレ脱却に取り組み、その後は、子育て支援や女性や高齢者が働きやすい環境整備など一人一人の個人の暮らしに焦点をあてた経済政策に重点的に取り組む姿勢を強めています。
アベノミクスの経済効果
アベノミクスによって大きく変わったのが金融市場です。
当時、日本の産業界は、歴史的な円高に苦しめられていました。2011年には、1ドル=75円台の史上最高値を記録した「超」円高。第2次安倍政権の発足と、日銀の異次元の金融緩和策で急速に円安方向に動き始めました。
2015年には、円相場は1ドル=125円台まで円安が進み、輸出企業の採算が大きく改善しました。
株式市場も急速に回復。第2次安倍政権発足前日の2012年12月25日に1万80円12銭だった日経平均株価は、去年(2018年)10月には2万4270円62銭に値上がり、およそ27年ぶりの高値となりました。
企業の利益もはっきりと増えました。財務省の法人企業統計によりますと企業の「経常利益」は、2012年度はおよそ48兆4000億円。2018年度にはおよそ83兆9000億円に拡大しました。
企業活動が上向いたことで、雇用情勢も改善を続けました。仕事を求める人1人に対し、企業から何人の求人があるかを示す有効求人倍率は、2012年12月に0.83倍。働きたくても十分な仕事がない状態でした。
それが2018年8月には、1.63倍に上昇。およそ45年ぶりの高い水準となり、直近のことし9月も1.57倍を維持しています。
総務省の労働力調査によりますと仕事についている人の数は、2012年の平均の6280万人が2018年には6664万人となり、380万人以上増えました。働く女性や高齢者が増えたことが主な理由です。
経済界は評価も「長期的視点を」「持続可能性を」
安倍政権のこれまでの経済政策を、経済界はおおむね評価しています。
日本商工会議所の三村会頭は「第2次安倍政権が発足した当時、円相場は1ドル・80円台で、輸出企業を中心に日本の大手企業の国際競争力が失われていた。為替レートはその後、正常化され、大幅な収益向上がもたらされた。アメリカでトランプ政権が発足してから、国際情勢は不安定になり、米中の覇権争いは、いつまで続くかわからないという状況になった。安倍総理大臣は米中のはざまの中で、非常に巧みに立ち回り、長期政権であることは変動が大きい今の国際情勢の中では財産になっている」と述べました。
経団連の中西会長は「アベノミクスは、たくさんの議論がありながらも結果として、日本の競争力を強めた。安定的な経済運営を行い大変大きく貢献したと思っている。また、これだけ不安定な国際情勢の中で、日本にとって、相対的によいポジションを作ってきたことも非常に高く評価している」と、述べました。
その一方で、「経済の基盤が大きく変わろうとしている時代なので、目の前の景気対策だけでなく、成長をより促進するような政策をぜひ打っていってほしい」と述べ、より長期的な視点にたって日本経済の成長戦略を打ち出してほしいと求めました。
経済同友会の櫻田代表幹事は「経済のデータを見るかぎり、状況は明らかによくなっていて、経済最優先という公約については果たされつつある」と述べました。
そのうえで、櫻田代表幹事は多くの人が将来不安を感じていることを今後の課題にあげ、「国民の消費が伸びないのは、社会保障制度に対する不透明感があると確信している。今後、全世代型社会保障制度の構築にきちっと切り込んでいくことを期待したい」と述べ、将来にわたって持続可能な社会保障制度を整えるよう求めました。
「景気回復の恩恵を実感できない」はなぜ
企業の業績や雇用情勢は改善してきましたが、その恩恵は、わたしたちの暮らしにどこまで届いているか。受け止めは分かれています。
総務省の家計調査をみると収入は、緩やかに増加しています。サラリーマン世帯の1か月の平均の実収入は2012年には46万7774円だったのが、2018年には49万2594円となり、2万4000円余り増えました。
厚生労働省の国民生活基礎調査をみても1世帯当たりの平均の所得は増加しています。ただ詳しくみると所得が高い上位20%の世帯は平均所得が増えた一方、中間層の平均所得は逆に減少しています。
このデータをみると豊かな世帯に、大きな恩恵が及んでいる可能性があります。
また家計調査で、サラリーマン世帯の平均の支出を見ますと、税金と社会保険料の負担が重くなっています。所得税や住民税といった「直接税」と年金・医療などの「社会保険料」を合わせた毎月の負担額は、2012年の平均で8万3840円でしたが、2018年には9万1490円となり、7600円余り増えました。
所得や家族構成によって、それぞれの世帯が実際に支払う税や社会保険料の金額は変わってきます。ただ、全体としては負担が増えていることも示しています。厚生年金保険料が2017年まで毎年引き上げられたことなどが影響しています。
また、この負担とは別に第2次安倍政権の間に消費税率は社会保障に充てるため5%から10%になり、買い物の際の支払いが増えています。
収入が増えたのに、景気回復の恩恵を実感できないという人が多いのは、こうした負担が増えているからだと指摘する専門家もいます。
高齢化がさらに進み、今後も、税金や保険料の負担はさらに重くなっていくと身構える人も多く、それが将来不安につながっているという指摘もあります。
一方で、税や保険料の負担が、所得の再分配に使われた結果、全体の所得格差は小さくなっているという統計もあります。「ジニ係数」と呼ばれるデータですが、2011年と2017年を比べると改善しています。このようにデータによって見えてくる姿はさまざまです。
では、家庭から企業へと目を移すと、状況はどうなったか?2012年以降、企業が順調に利益を積み上げ蓄えを増やしているのです。
財務省の法人企業統計をみると、企業が内部に蓄えた利益を示す利益剰余金、いわゆる「内部留保」は2012年度には304兆円でしたが、2018年度には463兆円まで増えました。企業の持つ「現金・預金」も2012年度には168兆円でしたが2018年度には、223兆円に増えています。
ただ、企業が、利益をどれだけ従業員の給与の支払いなどにあてたかを示す「労働分配率」は、低下傾向が続いています。
法人企業統計をみると2012年度の労働分配率は72.3%。利益の7割以上は、従業員に支払われていましたが、2018年度は66.3%に下がっています。
働く人たちが景気の回復をいまひとつ実感できないのは企業がもうけをため込んで、従業員の十分な賃上げにつながっていないためだという指摘も増えています。
家計簿からみると「収入増えたが支払いも増えた」
東京都内で暮らす40代の菅原さんです。夫と小学生の2人の子どもの家族4人暮らし。
たまたま“アベノミクス”が始まった2012年から家計簿をつけていました。
その7年間の家計簿をもとに、毎月の家計を分析して見えてきたのが、手取りの収入が思ったほど増えていない実態でした。
子育てのため仕事を辞めていた菅原さんが仕事に戻った2013年からことしにかけての、夫婦の給料や手当、ボーナスなどを合わせた平均の「月収」は、8万4000円余り増えていました。
その一方で、所得税や住民税、それに年金などの社会保険料の支払いも増え、毎月、7万2000円余り負担が増えていました。
厚生年金保険料が2017年まで毎年引き上げられたことに加え、菅原さんの場合は、介護保険料の支払いが始まったことも負担の増加につながりました。
この結果、「月収」から「税と社会保険料負担」を差し引いた「手取りの収入」は、2013年からことしまでの間に1万2000円余りの増加にとどまっていました。
それに加えて消費税率はこの間、2度引き上げられ5%から10%にあがり、買い物の際の支払いも増えています。
節約のため、外食は1か月に1回以内と決め将来の子どもの学費や、老後に備えてできるだけ貯蓄を増やそうとしています。
菅原さんは、「景気は悪くなっていないと思うが、自分の暮らしには回復の実感がないと感じています。社会保険料と税金は家計にとってかなりの負担で、前の年より大きな消費をすることもできません。いま払っている社会保険料も老後に戻ってくる保証はどこにもないのでまずは貯金するしかありません」と話していました。
3本の矢の1つは手詰まり 財政健全化の道筋も見えず
日本経済は、第2次安倍政権が発足した2012年12月から回復を始め、政府は、戦後最長の景気回復が続いているという立場です。しかし、アメリカと中国の貿易摩擦などの影響で世界経済は減速に転じ、日本の景気にも変調の兆しがでています。
最近、発表になった企業の中間決算では、製造業を中心に今年度の業績見通しを下方修正する企業が相次ぎました。
従業員の削減に踏み切る企業も出始め、業績の落ち込みが広がればアベノミクスの最大の成果の1つにあげられるこれまで大きく改善してきた雇用の先行きにも影響するおそれがあります。
経済政策にも課題が浮かび上がっています。なかでもアベノミクスの3本の矢の1つ、日銀の金融政策が手詰まりの状態になりつつあります。
政府と日銀が、共同声明を出してスタートした異次元の金融緩和。2年程度で2%の物価上昇率の達成を目標に掲げました。
日銀は、空前の規模で国債を買い入れて市場に大量の資金を流し込んだうえ、異例のマイナス金利政策にも踏み切りました。しかし、ことし9月の消費者物価上昇率は、0.3%のプラスにとどまり2%の目標達成がいつになるのか展望できていません。
マイナス金利政策の長期化で銀行は本業の企業向け貸し出しや住宅ローンで利益を上げにくくなり、生命保険会社も運用難になっています。金融緩和の副作用が、むしろ目立つようになっているのです。
三井住友フィナンシャルグループの太田純社長は「デフレからの脱却に向かって心理面が変わり、非常に大きな成果はあったと思う。ただ、日銀のマイナス金利政策が導入されて、いろいろな悪影響が出ているのも確かだ。今後は効果とリスク、影響をよく考えて、対応していただきたい」と話しています。
また財政運営にも大きな課題があります。政府は「基礎的財政収支」という財政指標を2020年度に赤字から黒字に転換させることを目標に掲げていました。
しかし、歳出の拡大傾向には歯止めをかけることができず黒字化の目標を2025年度に先送りしました。
最新の政府の見通しでは、このあと高い経済成長が実現できても2025年度もなお2兆円を超える赤字が残るとしています。
高齢化で、社会保障費がさらに膨張するのが避けられない中、財政健全化の道筋も見えていません。
#安倍晋三#日銀#景気#財政
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