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森友問題:籠池氏逮捕、別件逮捕で無罪の可能性…安倍首相に反逆し「300日勾留」
https://biz-journal.jp/2019/10/post_125165.html
2019.10.29 文=青木泰/環境ジャーナリスト Business Journal
籠池夫妻(撮影:青木泰)
森友学園元理事長・籠池泰典氏の別件逮捕事件の刑事裁判は、10月30日に結審を迎え、来年2月に判決が出される。籠池夫妻は国有地の不当な払い下げ、いわゆる森友問題の本丸ではなく、先進的な木造建築物に支給される国土交通省のサスティナブル補助金を詐取した容疑で逮捕された。300日も勾留された一方で、森友問題の本丸(背任・改ざん・公文書廃棄)ではひとりも逮捕されていない。
その籠池氏は初公判後に国策捜査だと主張していたが、結審を前にして、調査取材の結果、補助金申請を主導的に行い金額が過大な契約書をつくったのは、森友と請負契約した設計業者のキアラ設計(以下キアラ)と建設業者の藤原工業株式会社だということがわかった。検察の起訴状では、両業者は共謀者と位置付けられていたが、検察の捜査・逮捕は、施主である森友の籠池夫妻に絞られていた。その結果、起訴事実は補助金詐欺による損害額根拠に欠け、籠池夫妻逮捕ありきでありきの逮捕・勾留・裁判であることがわかった。籠池夫妻の無罪の可能性と、新たにわかった事実を追った。
(1)籠池刑事裁判とは
森友問題とは、豊中市にある国有地がただ同然で森友学園に払い下げられた事件である。国は約9億円の土地を埋設ごみを理由に約8億円を値引き、約1億円で払い下げたが、民間人である籠池夫妻に、国有財産の払い下げをさせる権限があるはずはない。その権限を持っていた財務省や当該土地の所有者であった国交省の官僚がどのように協力・関与したのか、そして省庁を超えて払い下げを行わせたのは誰かが問題となる。
市民団体が不法な払い下げに関与した官僚を刑事告発し、一度は検察によって受理されたが、今年8月、大阪地検特捜部は全員を不起訴にすると決定した。そして現在、刑事事件として裁判所で争われているのは、この籠池夫妻の事件だけとなった。通常、別件逮捕は事件の真相解明の手掛かりとして行われるが、しかし検察は森友事件の本丸には無関心である。なぜ籠池夫妻への刑事裁判だけが続けられているのか。
籠池夫婦は政治家や官僚に贈賄したわけではなく、それどころか安倍晋三首相から森友の小学校建設に賛同する夫人の昭恵氏を介して100万円を寄付されていた。それが発覚した当時、安倍首相は国会での質疑で「私や妻が関与していれば、総理も議員も辞める」と答弁した。自身は森友とは関係ない、という軽はずみな答弁であった。安倍首相は当初、森友の開校趣旨に賛同し、昭恵夫人は名誉校長にすら就任していた。それらの事実を隠し、籠池氏を「しつこい人」と遠ざけた。
この100万円寄付については、国会は籠池氏を証人喚問し、同氏は受け取った際の詳細な状況まで証言した。一方で寄付を渡した安倍昭恵氏の証人喚問や記者会見は実施されず、昭恵氏付の内閣事務官だった谷査恵子氏は海外の大使館勤務となり、直接話を聞くこともできていない。寄付金受領の物証となる郵便局の振込取扱票の存在も明らかになっており(写真2)、事実認定されているにもかかわらず、昭恵氏は公の場画での説明から逃げ続けている。そして安倍首相は国会答弁で約束した辞任をしていない。
※拡大→http://img.asyura2.com/x0/d9/24707.jpg
100万円寄付の振替払込請求書兼受領書に「安倍首相から」と書き、その後「森友学園」と訂正している。透かして見ると「晋三」という字がわかる。『日本崩壊―森友事件を追う』より。
籠池夫妻の刑事裁判には、以上のような事情が背景にある。多くの国民は、安倍首相を窮地に追い込んだ100万円寄付問題が安倍首相の逆鱗に触れ、17年7月の逮捕・勾留につながったとみている。その一方で、筋の通った理由に基づいて検察が籠池夫妻を逮捕・起訴したと考えられていたが、そうではなかった。
(2)サスティナブル補助金事件の起訴事実
起訴状では、次のように書かれている。
<被告人籠池康博、被告人籠池真美、被告人両名は、森友学園が小学校の校舎の建設に関して、国土交通省の実施するサスティナブル建築物等先導事業「木造先導型」補助金(以下「補助金」)について、だまし取ろうと考え、有限会社キアラ建築研究機関(以下「キアラ」)の松本正ら(藤原工業株藤原社長)と共謀>
そして以下の経過をへて、だまし取ったとしている。
・15年7月17日 森友学園(キアラ申請書作成) 補助金の申請
(実際の設計総額と工事代金より過大な見積書を添付)
・同年9月4日 交付限度額 6194万円4000円 交付採択
・同年10月8日 平成27年度分 5644万8000円 交付決定
・16年3月 4829万8000円 振込
・17年1月 追加815万円振り込み 入金合計5644万8000円
補助金は、申請・仮決定・実績報告(請負契約書)・交付という流れで行われるが、キアラはすべての手続きを進め、担当者のY氏は、手続き書類の内容を籠池氏に見せず申請していたことを、弁護士の尋問で明らかにした。この事実は、ネット上でも大きく取り上げられた。本件の補助金の場合、手続き書類も十数枚に及び、補助金算定のための設計や工事見積書も、事業者でなければ作成は不可能である。実際キアラは、申請段階から違法に補助金を詐取する申請を行い、その帳尻合わせのために過大な工事契約書を藤原工業に依頼し、作成させていたことがわかった。
裁判の結審を前にして大きく浮かび上がったのは、キアラ、藤原工業の両事業者を捜査も逮捕もしていなかったため、検察の犯罪立証は「両事業者は施主である森友の言うとおりにひたすら従った」という虚構に頼るしかなく、真実から遠く離れたものとなっていた。
だまし取った点については、2点が上げられている。
1.実施設計時期を偽った
募集要項に「事業の採択時点ですでに着手している実施設計及び建設工事は、公募の対象にならない」との記載があるにもかかわらず、交付採択(9月4日)前の15年3月には設計着手していたのに、以後に着手したようにして欺いた。
2.設計総額や工事代金を、実際の金額より過大に見積額を申請した。平成27年度分として5644万8000円の交付決定を行わせ、二度にわたって振り込み入金を受けたと罪状を指摘している。
裁判で検察は、森友学園は資金難のため、業者に指示してできるだけ多くの補助金をだまし取ろうと補助金を申請させたと主張し、一切の責任を籠池夫妻に負わせようとしている。それに対して弁護側は、共謀者の業者を見逃すような立件に疑問を呈し、「業者が考えて主導した」という見解を示している。それが、最大の争点となっている。
補助金申請が業者主導になっていたのは、複雑な申請作業は業者に任せるほかはなく、また業者を信頼して任せていたことは、キアラの担当者のY氏が、籠池氏は補助金申請書を見ず表書きに押捺したと公判で答えたことからも明らかである。その場で裁判長も中味を見ず押捺したことを確認した。もしその証言が認められれば、籠池氏は補助金の申請内容を知らなかったにもかかわらず補助金をだまし取ろうとしていたという、論理的に破綻した理由による起訴だったことになる。
起訴状では、籠池夫妻がサスティナブル補助金をだまし取ろうと考えキアラらと共謀したと書かれているが、本件を主導するには補助金制度に通じていることが必要不可欠であろう。建築業者でもない籠池夫妻がこの補助金制度に通じ、だまし取るストーリーを考えることができたのかという疑問も湧く。
(3)新たにわかった事実
この補助金は、単なる新しい構想や計画に出されるものではなく、実際に工事施工することが条件である。そのため補助金の申請名義人は、施主である森友となっていて、補助金は施主に交付される。しかし施主は、設計や工事についてはまったくの素人であり、補助金の申請自体、事業者に頼むほかはない。したがって補助金の申請は、施主と設計、工事事業者との共同作業で行われるが、補助金申請の経過を見ると、キアラが施主に相談なく進めて虚偽の申請を行い、補助金を得るために、その後の報告書や過大な契約書の作成に及んだことが明らかになった。
本来ならば、設計事業者のキアラには直接的な損得がないはずなのに、なぜこのような虚偽の申請を行ったのかを検察は調べなければならなかった。ところが検察は、公的補助金の詐欺という事件に対処しながら、キアラや藤原工業への取り調べには、なぜか蓋をしてしまっていた。そのため、検察の主張は、キアラや藤原工業は単に施主から言われた通りに従ったという認識であった。
そのような杜撰な取り調べは、肝心の補助金詐取の金額特定などにも現われていた。本件の補助金には「調査設計計画費」と「建設工事費」の2種類があった。検察による起訴状では明確に分かれていないが、調査設計計画費の補助金については、補助金申請前に実施設計を終えていたため、設計費の見積もりを水増ししたかどうかにかかわりなく、申請できなかったことになる。一方、建設工事費への補助金は、採択後に建設工事が始まったため申請することが可能である(起訴状では、建設工事についての補助金も採択前に設計をしていれば受領できないかのように書かれている)。
調査設計計画費の場合、申請期限を過ぎていたのに偽って申請したのはキアラである。その上、設計金額を過大に申請したことが補助金額に影響があったとしても、申請期限を過ぎて偽ったことがなければ、過大申告による補助金の交付は不可能であり、罪に問われるのは申請者であるキアラである。申請の中身を知らない籠池夫妻に詐欺罪を問うことができないのは自明である。
建設工事費の補助は、かかり増し分の50%(工事費の3.75%以内)と決められている。かかり増し分というのは、先導的な木造建築にすることによって、従来の工法より余分にかかる費用である。起訴状では、工事代金は14億4000万円であるのに、22億800万円と過大に申請し、2通の契約書をつくったとされている。しかし起訴状では、過大な申告により、本来受け取ることのできる補助金がどれだけ過大に交付され、詐取されたかについて金額の記載はない。
詐取された金額を、補助金で交付された金額全体とすると合計5644万8000円となるが、この交付金には調査設計計画費への補助金(698万円)と建設工事費への補助金が含まれている。調査設計計画費の補助金申請は、籠池夫妻がまったくあずかり知らない。一方、建設工事費は、本来なら受け取ることができた金額と過大に申請して受け取った補助金との差額が、発生した詐取分となる。そして最大の問題は、証人喚問でのキアラのY氏の下記の発言で分かった驚く事実である。
証人尋問では、検察側の証人であるキアラのY氏は、「(採択された交付金)約6200万円はもらえるが、正式には見積書と契約書がいる」「もらうためには、本来の14億4000万円の契約書では減額されるので、約22億円の契約書でなければならない」と語った。
この発言は検察の起訴状の骨格となっていたが、ここで語られているのは、補助金申請時に本来の契約書の14億4000万円ではなく、過大に見積もった約22億円で申請を行い、その申請に基づき補助金を入手するためには本来とは異なる工事契約書をつくらなければならないということである。
申請書を提出したキアラがなんらかの理由で過大請求し、その後、始末のために過大な金額の契約書をつくり、なんらかの詐取が行われたのであれば、キアラや、2通目の契約書作成に協力した藤原工業の役割が、犯罪立件のためには明らかにされる必要がある。ところがこの2業者は起訴状では共謀者としながら、捜査も逮捕もしないというのが検察の方針であった。実際の被害額、詐取金額を特定しようと考えれば、事業者の果たした役割は浮き彫りとなる。そのため詐取金額を起訴状に書かなかったといえる。
元検察官の見解
以上の事実について、概略をお伝えした上で、元法務大臣で元検察官の小川敏夫参議院議員(現参議院副議長)に所見を聞いた。すべての書証に目を通した上での話ではないとしながらも、下記の所見を聞くことができた。
――本件の補助金詐欺について、どのようにとらえればよいか。
小川氏「要点は、国を騙して補助金を詐取したかどうかということ。起訴状からは、
(1) 設計に実施着手していたのに、それを偽り、詐取しようとした
(2) 建設工事費を過大に偽り、詐取した
となっている。(1)の点については、申請時にはそのような申請をしていたとしても、申請したキアラですら、間違って申請したとも考えることができ、騙す意思が不明確である。その際、籠池両被告はそのような申請内容を知らず、したがって騙す意思はなく、この面では犯罪は成立しない。
(2)の点であるが、建設工事費の金額を拡大して申請し、約14億円では出ない補助金が、約22億円にした時に出るのであれば問題となる。しかし約14億円では、どれだけの補助金が出され、約22億円に過大にすることによって、どれだけ出ることになったのかは、明らかになっているのであろうか? 過大にすることによってどれだけ詐取したか明確でない限り、犯罪は成立しない」
――建設工事費を過大に記載したサスティナブル補助金の申請書に印鑑を押したり、2通の契約書に印鑑を押しているが、騙すことを知っていて印鑑を押したことが問われないか。
小川氏「この件も、過大に報告することによって、補助金を増やすことができることが示され、客観的に詐欺行為ができる状況が示される必要がある。押捺だけでは、罪に問われない」
――法人の責任者や社長の印鑑が押捺されていて、責任が問われたり、逆に問われなかったりすることがあるようだが、どこで線引きされるのか。
小川氏「例えば、補助金の申請をしますよと言われ、印鑑を押しただけでは罪にならない。騙すということを知っている必要がある」
――キアラや藤原工業は、起訴状では共謀者と書かれているが、一般的にこの種の事業者と施主の責任はどのように考えるべきか。
小川氏「設計や工事を請け負う事業者は、その道のプロであり、知っていた、知らなかったというレベルは、大きく違う。罪状は重くなる。共謀と言いながら重くなる事業者は、最初から捜査や立件の対象から外しているというのはおかしい」
また、元検察官である郷原信郎氏は、当初から交付を受けた補助金は全額(5644万8000円)を返還しているのに、なぜ逮捕されるのかと疑問を投げかけていた。
“首相反逆罪”を成立させてはいけない
日本には、いつから“首相反逆罪”ができたのであろうか。筆者は改めてそう感じた。森友問題では、国有財産を根拠なく格安に売却した官僚は、誰ひとつ立件されなかった。契約の決裁文書は300カ所にわたって改ざんされ、財務省の報告書では「配下職員」と記載された職員は改ざんを強要されるなかで死に追いやられ、直接強要した職員は英国公使に派遣された。廃棄したはずの公文書は4000ページにもわたり、いまだに財務省は違法に公文書を隠している。
犯罪の容疑がある者を放置し、首相に逆らったものは率先して逮捕・勾留する。これでは法治国家といえるのであろうか。本件でも、事件を解くカギは、補助金の申請・取得を知っているキアラと藤原工業であるが、逮捕どころか捜査もされていない。この検察の捜査について、森友事件の本丸捜査との関係で指摘した小川氏の見方は鋭い。
小川氏は6月、当時立憲民主党常任幹事だったときに『日本崩壊 森友事件黒幕を追う』を電子出版で上梓した。そのなかで、検察は事件に蓋をしていると指摘していた。「犯人を逃がすためのような常軌を外れた捜査」と検察への意見を述べ、「共犯者の逮捕も捜査もせず、決定的証拠の収集回避」の項では、捜査の基本は証拠の収集であるが、強硬捜査には不当捜査との批判があり、今回のような政治的な影響が大きい事件では難しいとしている。しかし、森友事件については「今回の事件はやりやすかった」と述べ、森友の校舎建設に絡み補助金詐欺が行われ、「設計事業者と工事事業者も起訴状では、共謀者して行ったとされていた」という。森友問題の本丸事件である格安払い下げ事件、埋設ごみがあったかどうかに迫るためには、これらの工事関係者からの関係資料が入手できれば、「ごみの撤去費用の積算が不当であることは、判明するに決まっていた」としている。
「こうして起訴事実を固め、財務省、国交省職員の事情聴取を行い、当局職員を背任罪により逮捕する」というのが、小川氏が描く背任罪のシミュレーションだ。そこから、「職員らに指示を与えた者はいないか、そして財務省や国交省を同時に働かせる大きな力がどのように働いたのか」「そこまで検察は解明する職責があった」と言い切っている。本件の籠池夫妻逮捕によって、夫妻に罪を押し付け、事業者を免罪する捜査には、明らかに黒幕への追及を避けるという意図があったのであろう。
今回の籠池夫妻への別件逮捕・勾留は、首相反逆罪による逮捕といってよい。無罪とし、日本の崩壊を食い止めることが裁判所に期待されている。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)
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