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原子力マネーが関西電力に還流していた問題が表面化したが、ぼくはかつて青森県六ヶ所村の再処理工場の核燃マネーがグルグル回って驚くべきカネに化けていた事を知った。あまりに奇天烈、驚愕すべき話だった為当時のデスクは新聞掲載をためらいボツになった。今明らかにする。 https://t.co/0CBqcF1yqd
— 佐藤 章 (@bSM2TC2coIKWrlM) 2019年10月14日
核燃料サイクルはマネーもぐるぐる回る 関西電力の原発マネーだけではない。六ケ所村の核燃マネーの恐るべき実態
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019100200001.html
2019年10月14日 佐藤章 ジャーナリスト、慶應義塾大学非常勤講師、五月書房新社編集委員会委員長 論座 朝日新聞
日本の原子力政策の骨格を形作る核燃料サイクル事業は、青森県六カ所村の再処理施設がほとんど動かないことに象徴されるように、完全な失敗の歴史を刻みつつある。同じ原子力をめぐるサイクルの話でも、汚染された原子力マネー・サイクルの一端が関西電力と福井県高浜町との間で露見した。
関西電力の役員ら20人が7年間で、高浜町の森山栄治元助役(故人)から3億2千万円を受け取っていた。関西電力が高浜町の土木建築会社「吉田開発」に原発関連工事を発注、吉田開発は森山元助役に裏金を渡し、森山元助役はその裏金の中から関西電力の八木誠会長らにせっせとカネを送っていたという構造だ。
私は過去に、この構造とは少し異なった汚染原子力マネーの実態のひとつを取材したことがある。まさに六カ所村の再処理施設をめぐるマネー・サイクルの事例で、30年以上にわたる私の新聞記者活動の中で最大級の驚きをもってノートにメモを走らせた案件だ。
その内容はあまりに衝撃的かつ奇天烈な話だったため、私の担当デスクは新聞掲載に二の足を踏んでしまい、ついにボツになったという代物だ。しかし、私が生きている限りいつかは社会に出さなければならないネタの一つだ。そして今ここに明らかにする。
日本原燃の核燃料再処理工場=2008年5月11日
「私は、選挙はすべて買収で当選してきました」
少し古い話で恐縮だが、2008年、私は朝日新聞東京本社の経済部で地方経済を担当していた。「列島けいざい」という大型のコラム欄を持ち、1か月に1回、日本列島各地が抱える経済問題を掘り下げて取材、記事化していた。私は、同年6月のコラムでまさに「核燃マネー」を取り上げることにした。
前月の5月中旬、ほぼ2週間にわたって下北半島を中心に青森県を歩き回り、同13日午後1時、私は六カ所村の元有力村議の自宅を訪ねた。以前から青森県の原子力事業と地域コミュニティの関係を研究していた東北大学の研究者の紹介を受けて取材を了承してもらっていたものだ。
家人はいなかったと記憶している。元有力村議は外に開け放した居間で私と向かい合ってあぐらをかくと、あいさつもそこそこにいきなり切り出した。
「私は、選挙はすべて買収で当選してきました」
六カ所村に落ちる巨額の核燃マネーの取材という趣旨は確かにこの元村議に伝わっていたが、私は数秒の間、言葉の意味をつかみ損ね、元村議が何を言ったのか聞き返してしまった。
「私は、選挙は買収で当選してきました」
元村議は同じ趣旨の言葉を繰り返し、驚くべきマネー・サイクルの構造を説明し始めた。元村議が私に説明した話を何の脚色もなくそのまま書き記そう。
議員歳費は買収費用に、談合で入る利益で生活費
長年議員を務めていた元村議は、すべての選挙を買収で通した。村発注事業の請負会社を経営していた元村議は、4年間でほぼ1500万円になる議員歳費をすべて買収費用に充てた。有権者ひとり3万円で500票集めれば当選できた。
買収方法は、有権者を自宅に呼ぶか直接訪ねるかして、1対1の時にカネを渡す。その際に酒が入るケースも多い。また、元村議が経営していた会社は村の有力な公共事業指名業者だった。
「カネは談合で入ってくる。公共事業は自分たちで決めるんだから、談合なんて簡単だ」
元村議はそう説明した。六カ所村には、村発注の公共事業を受注する土建業者がやたら多かった。元村議によると、談合で入ってくる利益で生活費などをまかない、議員歳費を買収資金に回すという構造だ。
このころ2007年度の六カ所村の歳入予算の構造を見てみると、約101億円のうち20%は再処理施設などのために国から交付された電源3法交付金、40%は同施設などからの固定資産税収入だった。つまり、核燃サイクル関連のカネがぐるりと回り、最終的には議員歳費が買収資金に化けて、選挙民に落ちている構造である。
関西電力と高浜町の場合には原子力マネーが電力会社に環流している構造だが、六カ所村の場合には、核燃マネーが選挙の買収資金に化けている構図だ。
これらの資金は元はと言えば消費者の電気料金。原子力マネーや核燃マネーがいかに国のエネルギー政策を歪め、地域の民主主義を蝕んでいるかがわかる。
村役場近くの尾駮沼から見える日本原燃の核燃サイクル施設=2018年6月、青森県六ケ所村
「選挙は地場産業、景気対策」
元村議の居間を辞してちょうど1週間後の5月20日夜7時、私は六カ所村では知る人ぞ知る「選挙ブローカー」を訪ねた。「選挙ブローカー」と言っても、飲食店を経営する気っ風の良さそうな村の有力者で、私の質問に対してほとんど真っ正直な答えを返してくれた。
「村長選では3億から4億はかかったな。だけど、それだけかけても、当選すれば何10億と入ってくるからね」
過去に村長選の選挙参謀を務めた時の経験を披露した有力者は、さらに驚くべき選挙買収のノウハウを語り始めた。
「村長選では、買収金額はやはりひとり3万円だった。5000票を目標にして1億5000万円ぐらいはかかったね」
さすがに「知る人ぞ知る」買収のプロの話だった。
「だれがカネをもらい、だれに入れたかは自分は全部わかったね。私は、だれに投票するかあやふやで、ちょっと危ないなと思ったところは自分で訪ねたよ。6人家族であれば、18万円用意する。『今回は向こうに入れたい』などという話をし出したら、まずひとり5万円に上げるんだ。それから、告示と同時に不在者投票させる。車に乗せて投票所まで同行して、投票箱まで付き添うんだ。その間に、投票用紙を脇からのぞき込む。これらのカネが1週間のうちに村の中を動き回るんだ。今はないが、かつては自治会役員選挙や農協役員の選挙にまでカネが動いていたよ」
買収方法とそのカネの「活かし方」をここまで赤裸々に明かしてくれる「プロ」はなかなかいない。
「選挙は六ヶ所村の地場産業、景気対策なんだ」
とこの有力者は明るく付け加えたが、妙に説得力のあるブラックジョークだった。
再処理施設をはじめとする六ヶ所村の核燃料サイクル施設は、巨額の電源3法交付金などと引き替えに立地された。また、再処理施設などが誘致される前に、六カ所村を中心とする下北半島に展開された「むつ小川原開発」は、1970年代前半から土地買収などをめぐって、陰に陽にカネを村々にばらまいた。
そのカネばらまきの歴史の中で生成してきた民主主義の毒の花が買収選挙だった。実を言えば日本のあちこちに見られる形態ではあるが、日本の重要国策との絡みでこれほどの典型例はないだろう。
原子力マネー、核燃マネーはかくも地域の民主主義を痛めつけてきた。さらに関西電力と高浜町のケースは日本経済や日本社会に対する信頼感、規範といったものまで危機にさらす問題だ。
「地震動原因説」を極力無視する電力会社や経産省
ではここで視点を変えて、六カ所村の再処理施設について、人類の生存の問題にまでかかわるような話をしよう。これはマネーの話ではないが、やはり欺瞞に満ちた日本の原子力行政が人類の危機を呼ぶ話だ。
まず、私の根本的な疑念に耳を傾けていただきたい。
東京電力福島第一原子力発電所の事故をめぐって、強制起訴された勝俣恒久元会長ら3人が東京地裁から無罪の判決を言い渡されたが、この裁判の争点自体、もう一度出発地点から問われるべきなのではないだろうか。
というのは、この裁判は「巨大津波は予測できたか」あるいは「予測できなかったか」という点をめぐって争われたが、そもそも福島第一原発は津波の到来前に、地震の揺れだけで壊れていたのではないか、という疑いが濃厚になっているからだ。
木村俊雄・元東電原子炉設計管理担当が『文藝春秋』9月号に寄稿した論考によると、東電が新たに開示したデータに基づき、「メルトダウンの第一の原因は、『津波』ではなく『地震動』だった可能性が極めて高い」という結論が導き出された。
実は、津波襲来前に地震動だけで原子炉が壊れていたのではないかという疑いは国会事故調査委員会の委員だった田中三彦氏により当初から提示されていた。田中氏はその当時明らかになっていたデータを駆使してそのことを証明しようとしたが、決定的なデータがなく合理的な疑問の提示にとどまっていた。
それが今回、新たなテータに基づく木村氏の分析によって、ほとんど確定的になった。
しかし、今回の裁判の争点を見てもわかるように、福島第一原発の原子炉が壊れてメルトダウンしたのは津波で電源を失ったことが原因という見方がほとんど決定的なまでに流布してしまっている。なぜだろうか。地震動がメルトダウンの真の原因であるとすれば、すべての原子力施設の耐震設計基準をさらに見直さなければならなくなるため、すべての原発は即時運転停止となってしまうからだ。
3・11の前から『AERA』誌に所属していた私は当初から田中氏の分析を積極的に紹介していたため、電力会社や経産省を中心に田中氏の「地震動原因説」を極力無視している様子がよくわかった。原発を続けていくためには「地震動原因説」は絶対にあってはならないからだ。
下北半島の「活断層」
ここで六カ所村の再処理施設に話を戻すと、実はこの施設の耐震設計基準は驚くほど低い。再処理施設だけではなく、同じ下北半島に建っている東北電力の東通原発、建設中の東京電力・東通原発、電源開発の大間原発も全国の原発に比べて格段に低い。
なぜだろうか。再処理施設を運営する日本原燃が、下北半島の近くには警戒を要する活断層は存在しないと、かつての原子力安全・保安院に報告、その報告をチェックする保安院と当時の原子力安全委員会がそのまま認めてしまったからだ。
AERA2012年2月6日号から
原子力施設の耐震指針は、3・11前の2006年9月に大幅改定された。既設の原発や再処理施設については、新指針に基づいてバックチェックと呼ばれる耐震安全性の再評価を行うことが電力会社や日本原燃に指示された。下北半島の原子力施設の再評価報告を検討したのは、原子力安全委員会の地震・地震動評価委員会及び施設健全性評価委員会のワーキンググループ(WG)のひとつ、WG4だった。
しかし、このWG4の議論は最後まで紛糾した。
「私はまとめには納得しておりませんので、皆さんがそうお思いになるのなら、それで結構ですが、私は一委員としては納得しておりません」
2010年8月30日、WG4の席上、こう発言したのは、地球惑星科学専攻の池田安隆・東京大学大学院准教授(当時、現奈良大学教授)だった。池田氏は、下北半島の東沖合を100キロ以上の長さにわたって走る巨大な大陸棚外縁断層が危険な活断層であることをWG4の会合があるごとに何度も指摘していた。
池田氏は、第34回のこの日の会合で、活断層ではないとする日本原燃側の報告を通そうとする山崎晴雄・WG4主査のまとめに反論した。首都大学東京教授の山崎氏は、旧通産省地質調査所の出身だ。
「学問の世界では、下北半島東の大陸棚外縁断層は99%活断層です。原子力安全委員会は常識的な判断をしていません。だれが考えても非常識だ。こういう判断がまかり通っているということに本当に驚いています」
かつて話を聞きに行った私に対して、池田氏はこう憤っていた。「普通、自動車保険や火災保険の場合、危険率が1%以下でも保険をかけるでしょう。それが、防災上99%危険なのに保険をかけないとはどういうことですか」とも話した。
さらに東通原発近くの地点で、地下6000メートルまで人工地震探査をしてみた結果、池田氏は、驚くべきことが強く推測されると指摘した。下北半島の東を走る大陸棚外縁断層はそのまま半島の西の方へ深く斜めに切れ込み、ほとんど陸奥湾あたりまで入り込んで、再処理施設や東通原発のある半島の細い首の部分は、この断層の上にそっくりそのまま乗っかった状態だ、というのだ。
池田氏によれば、大陸棚外縁断層は数1000年に一度は動くという。すぐには動かないのではないかとも思えるが、1000年に一度と言われる東日本大震災は2011年に起きた。一度動けば、取り返しのつかない事態となる。
これほど大きな危険が予測されながら、日本原燃や保安院、原子力安全委員会は、なぜ大陸棚外縁断層を活断層と認めなかったのだろうか。
原発30基分の使用済み核燃料
超高濃度の高レベル放射性廃液からガラス固化体を製造する再処理施設内のセル(小部屋)は超高濃度に汚染されているために人間が入ることができず、遠隔操作で作業を行っている。つまり、再処理施設はすでに相当汚染されているために、人間が近づけないセルが数多くあり、耐震補強工事は不可能なのだ。
東通原発や大間原発の耐震基準が低いのも、そんな再処理施設の基準に合わせなければならなかったからだ。
しかし、原発に比べても再処理施設の危険性は飛び抜けて高い。六カ所村の再処理施設敷地内にたまっている使用済み核燃料は約3000トン、原発30基分だ。本格稼働すれば、通常の原発から出る放射能1年分を1日で出すとされる。
万が一ではなく、数千年に一度の大陸棚外縁断層の動きが始まり、再処理施設が破壊された場合、その影響は地球の北半球全体の生物に及び、人類の生存にもかかわってくると言われる。日本の原子力関係者、政治家は人類に対してどういう責任を取るつもりなのだろうか。
再処理施設と並んで核燃サイクルの要の施設だった高速増殖炉の原型炉もんじゅはすでに廃炉が決まっている。政府は代わりに、ウラン・プルトニウム混合燃料(MOX)を軽水炉で燃やすプルサーマル計画で核燃サイクルを維持しようとしているが、MOX燃料は格段に高価で経済性が成り立たない。
政府はなぜここまで核燃サイクル事業にこだわるのだろうか。
核保有能力を温存する
佐藤栄作政権時代の「1969年9月25日」の日付がある「わが国の外交政策大綱」という文書がある。1994年8月に明らかになった外務省の外交政策委員会の極秘文書だ。そこにはこう書かれている。
「当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘を受けないよう配慮する」
「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャル」というのは、核兵器用の純度の高いプルトニウムが抽出できる再処理施設のことだ。日本の核武装については、日本政府は岸信介内閣以来、憲法9条に違反しないという解釈を取っている。ただ、米国が容認しないだけの話だ。
佐藤栄作首相は当時のジョンソン米国大統領に日本が核兵器を保有することを打診、ジョンソン大統領はそれを認めず、代わりに再処理施設の建設を認めたという経緯がある。このため、再処理施設は核保有国の5大国以外では日本だけが保有、核兵器の潜在的保有願望を持つ保守層にとっては隠れた「虎の子」となっているのだ。
もうひとつ、核燃サイクル事業を手放せない事情は経済的なものだ。現在、全国の原発サイトに置いてある使用済み核燃料は、プルトニウムを取り出す再処理施設があるためにバランスシートの資産勘定に入っている。これから再処理施設に売ることになる資産だからだ
ところが、再処理施設がなくなってしまえば何の価値も持たない危険なゴミと化し、資産勘定から負債勘定に移ることになる。莫大な損失となり、このロスに耐えうる電力会社は恐らく1社もない。
日本の核燃サイクル事業は事業としては完全な失敗、その核燃マネーは地域の民主主義を破壊し、再処理施設は人類の生存に脅威を与えるほどの危険物となっている。しかし、それにもかかわらず事業は日本の政治経済に骨絡みにしがみついている。
本来であれば、日本の政治はこの骨絡みを解いて新しいエネルギー供給体制の構築を目指さなければならないが、現在の安倍政権にはそれをやる気はまるでない。ないどころか、問題の所在さえ理解していないだろう。まったく新しい政治体制が望まれる由縁である。
日本原燃の核燃料再処理工場(中央左手)。周辺にはウラン濃縮工場や低レベル放射性廃棄物埋設センターなど関連施設が立ち並ぶ=青森県六ケ所村、2008年5月11日
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