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安倍晋三首相はきのう、内閣改造と自民党役員人事を行った。
政権の骨格である麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長を留任させ、初入閣は安倍内閣最多の13人に上った。
知名度が高い小泉進次郎環境相や橋本聖子五輪相を目玉とし、政権浮揚を図る狙いのようだ。
しかし、その内実は首相に近く保守的な思想・信条が色濃い議員の優遇や、派閥の入閣待機組に配慮した順送り人事である。
首相は改造に際して「安定と挑戦の強力な布陣を敷きたい」と述べてきた。だが、その顔ぶれを見る限り、何のための安定で、何に挑む内閣なのかが判然としない。
第2次安倍政権の内閣改造は6年連続となる。まるで年中行事のようだ。改造が課題に取り組む態勢づくりのためではなく、政権の求心力を維持する道具と化しているように見える。
内外に難題を抱える中、緩んだ「1強政治」を継続することは許されない。
■問題が多い側近重用
保守派の側近重用人事の象徴として見過ごせないのが、萩生田光一氏の文部科学相就任だ。
萩生田氏は官房副長官在任中、加計学園問題で文科省に残されていた文書に名前が登場し、首相の意向として学園獣医学部の早期開設を同省幹部に迫ったとされた。
萩生田氏は関与を否定するが、加計問題は国民の疑念が払拭されたと言える状況にはほど遠い。首相はその渦中にあった側近を、あろうことか文科相に起用した。到底納得できるものではない。
麻生氏が、自殺者が出た森友学園問題を巡る財務省の決裁文書改ざんの政治責任を取らず、閣内に居続けているのも首をかしげる。
麻生、二階両氏は主要派閥を率いる実力者だ。外せば政権のバランスを失う。だから残す―。国民不在の「安定」の内実だろう。
総務相に再登板した高市早苗氏も、首相に近い保守派として知られる。前回の在任中、放送法4条を根拠に、政治的に公平でない放送を繰り返す放送局に電波停止を命じる可能性に言及した。
メディアに対する政権の圧力とも受け取られかねない発言を忘れるわけにはいかない。
派閥の意向以外に起用の理由が見当たらない閣僚も散見される。資質を度外視した順送り人事が無残な結果を招きかねないことは、4月に五輪相を辞任した桜田義孝氏で実証済みではないか。
■国会論戦が急がれる
首相の自民党総裁任期は2021年9月までだ。総裁の連続4選を禁じた党則の改正がない限り、政権の残り時間は多くはない。
急ぐべきは戦後最悪とされる日韓関係の改善だろう。河野太郎氏から茂木敏充氏への外相交代を機に対話の糸口を探るべきだ。
ところが菅官房長官は8日に、関係悪化の「全責任」が韓国にあると強調した。一方的な非難は事態をさらに悪化させるだけだ。そういう認識を閣内で共有し、建設的な外交へ転換する必要がある。
北方領土問題や北朝鮮による日本人拉致問題は一向に進展していない。茂木氏が経済再生担当相として取り組んだ日米貿易交渉も、農業を犠牲にして決着しようとしていることは看過できない。
社会保障に関し首相はきのうの記者会見で、高齢者中心から現役世代にも給付を広げる「全世代型社会保障改革」の推進に向け検討会議を設置する方針を表明した。
これは2年前の衆院選から掲げてきた政策だ。議論する時間はいくらでもあったのに、高齢者の負担増が想定されるため参院選後に先送りしたのが実情ではないか。
米中貿易摩擦が激化する中で消費税増税が控えている。景気の先行きに暗雲が垂れこめている。政権の看板政策のアベノミクスは行き詰まりが一層顕著になろう。
加えて問題なのは、これら内外の重要課題について国会でろくに論戦が交わされていないことだ。
参院選から2カ月近くがたつが、政府・与党は臨時国会の召集を来月上旬としている。あまりに遅い。怠慢のそしりを免れまい。
■「私心」は許されない
首相が「挑戦」に執念を燃やすのが改憲である。しかし首相が旗を振れば振るほど、野党ばかりか公明党も警戒感を強めている。
国民もついてきていない。先月の共同通信社の世論調査では、安倍政権下の改憲に反対52%と、賛成の35%を上回った。
7月の調査では優先して取り組むべき政策も「年金・医療・介護」と「景気や雇用など経済政策」が、改憲を大きく引き離した。
首相は11月に、通算の在職日数が桂太郎を抜き歴代1位となる。
国民が求めていないのに、改憲を長期政権の遺産として憲政史に刻みたい―。そんな私心は間違っても抱いてもらいたくない。
北海道新聞社説 2019年9月13日
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/343814?rct=c_editorial
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