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安易に「人材の流動化」に走る日本企業の末路 日米間の「競争」に隠された巨大な不公平の壁/東洋経済オンライン・msnニュース
清水 洋
2019/08/21 08:50
http://www.msn.com/ja-jp/news/money/%e5%ae%89%e6%98%93%e3%81%ab%ef%bd%a2%e4%ba%ba%e6%9d%90%e3%81%ae%e6%b5%81%e5%8b%95%e5%8c%96%ef%bd%a3%e3%81%ab%e8%b5%b0%e3%82%8b%e6%97%a5%e6%9c%ac%e4%bc%81%e6%a5%ad%e3%81%ae%e6%9c%ab%e8%b7%af-%e6%97%a5%e7%b1%b3%e9%96%93%e3%81%ae%ef%bd%a2%e7%ab%b6%e4%ba%89%ef%bd%a3%e3%81%ab%e9%9a%a0%e3%81%95%e3%82%8c%e3%81%9f%e5%b7%a8%e5%a4%a7%e3%81%aa%e4%b8%8d%e5%85%ac%e5%b9%b3%e3%81%ae%e5%a3%81/ar-AAG5gNy?ocid=iehp
経営学者の清水洋氏は、アメリカ・イギリス・オランダ・日本の名門大学で研究を重ねたイノベーション研究のトップランナー。「インターネットから人工知能まで、アメリカ発のイノベーションが圧倒しているのはなぜか」「日本企業は、本当にアメリカ企業より劣っているのか」――清水氏の新著『野生化するイノベーション』から、一部抜粋し再構成のうえ日米間の格差の真相に迫ります。
敗因は「人材の流動性」なのか
アメリカ発のイノベーションが、日本よりも多いことは否めません。例えば、『人類の歴史を変えた発明1001』『世界の発明発見歴史百科』『1000の発明・発見図鑑』の3冊にリストアップされた404個のイノベーションの内訳を見ると、アメリカが279個と圧倒的1位で、次点のイギリスが53個、日本は24個で第3位となっています(ちなみにドイツは12個、フランスは7個)。
日本がアメリカに大きく後れを取っている原因の1つとして、近年の経営学で盛んに指摘されているのが、日本の「人材の流動性」が低いことです。日本では1つの企業でずっと働き続ける人が多く、多様性も少ない。会社のビジネスが陳腐化したとしても、なかなか清算できない。自社の既存ビジネスの強みを破壊するようなラディカルなイノベーションに挑戦する人が少ない、などの指摘が繰り返されてきました。
では、日本の流動性はどの程度低かったのでしょうか。国際的な研究グループが、研究開発の人材のマネジメントやキャリアなどについて行った比較研究によれば、転職経験者の割合はドイツ42.7%、アメリカ38.2%、イギリス34.7%となっているのに対して、日本はわずか5.8%でした 。日本ではほとんどの人材が転職をせず、とくにいわゆる大企業に勤める人材の流動性は低かったのです。
そこで日本政府は、人材の流動化を促進するため、さまざまな労働市場の改革を行ってきました。しかし、今のところ、企業側が「雇用の調整弁」として派遣労働者や非正規雇用を都合よく使うという弊害が目立つだけで、人材の流動化がイノベーションの活性化に寄与しているとはとても言えない状況です。
そもそも人材の流動性を高めることは、本当にイノベーションにとっていいことなのでしょうか。
「スピンアウト競争」の弊害
私が半導体レーザー業界を調査した結果、人材の流動性が高まり、研究者やエンジニアが企業の外に「スピンアウト」して競争するようになると、技術開発の水準がかえって低くなってしまう可能性があることがわかりました。
なぜなら、スピンアウトが盛んな社会では、他者に先駆けて魅力的なサブマーケットを開拓することが成功のカギを握るので、優秀な技術者の間で「出し抜き競争」が起こりやすくなるからです。
スピンアウトのタイミングが早まると、既存企業にとっては、研究開発の途中でプロジェクトチームから優秀な人材が抜けてしまうことになり、技術開発の成果が当初の見込みよりも低くなってしまいます。
一方で、スピンアウトした技術者も、まだ技術が成熟する前に飛び出してしまうため、追加的な開発投資を最小限に抑えようとして、手っ取り早く商品化できる「手近な果実(ロー・ハンギング・フルーツ)」に狙いを定め、お金を得ようとします。
つまり、出し抜き競争が起こると、下記グラフが示すように、(1)スピンアウトするタイミングがtからt-1へと前倒しされる結果、(2)技術進化の軌道が点線まで下がり早い段階で収束してしまうのです。
このように、優秀な研究者やエンジニアが「手近な果実」ばかりもいでいると、太い幹を持つイノベーションが育たなくなり、社会全体としては先細りしてしまう恐れがあります。
ところで、流動性の高い社会で「手近な果実」をもいでしまう現象が起こるとすれば、日本よりもアメリカの方が深刻な悪影響が出るはずです。
実際、アメリカでは、最近のイノベーションの多くが、近視眼的な意思決定の結果、手近な果実を摘み取って生み出されたものばかりだという懸念が多く出されています。
例えば、ノースウエスタン大学のロバート・ゴードン氏は、これまでの歴史を振り返ると、電気、内燃機関、そして屋内配管の3つが社会全体の生産性の向上に極めて重要な役割を担っていたと指摘しています。
アメリカを支える「DARPA」の存在
これらはどれもジェネラル・パーパス・テクノロジーと呼ばれる汎用性の極めて高い技術です。そのような技術は、さまざまな産業で広く生産性の向上に寄与しうるため、経済全体に与えるインパクトは大きいのです。社会がそのような基幹的な技術を継続的に生み出していけるかは、長期的な経済成長の実現にとって非常に重要です。
ゴードン氏は、1970年以降、このような汎用性の高い技術はアメリカでは生み出されていないと指摘し、今後の経済成長についてやや懐疑的な見方を示しています。ジョージ・メイソン大学のタイラー・コーエン氏も、アメリカは「過去30年以上にわたり、手近な果実をもいで暮らしてきたということだ」と指摘しています。
しかし、アメリカはインターネットや人工知能、あるいは原子時計やそれを応用したGPSなど多くのイノベーションを生み出しています。「手近な果実」問題を、それほど心配する必要はないだろうと思う人もいるかもしれません。
ただ、それらのイノベーションがどこから生まれてきたのかを考える必要があります。実は、これらは民間企業の力だけで生み出されたものではありません。アメリカの国防高等研究計画局(一般的にはDARPAと呼ばれています)の研究費が重要な役割を担っていたのです。
アメリカでは、DARPAの研究資金が、まだ実用化までの道のりが遠い基礎的な研究を下支えしてきました。まずはDARPAが基礎研究を支え、そこからよい結果が出れば企業家がスタートアップを設立し、事業化していきます。そして、さらにその事業化後の競争を勝ち残ったものが、大きなビジネスに育っていくのです。
このような「国家→民間」の循環が存在しているため、人材の流動性が高まり、企業が「手近な果実」をもぐ傾向が強まったとしても、アメリカでは次世代の果実を生み出す幹の太い技術が育まれているのです。
日本には国防関連の研究予算がほとんどないうえに、近年は大学の基礎研究の予算をどんどん削減しています。その点で、アメリカ企業に比して、日本企業は「巨大な不公平」を抱えながらイノベーション競争をしていることになります。
イノベーション戦略を立て直す
日本全体の研究開発予算のうち、国が支出する割合は20%を切っており、国防関連支出だけで48%もあるアメリカに比して、極めて低い水準にあります。
基礎研究の担い手が誰もいないような状況で、日本政府が人材の流動化政策だけを推進すれば、どうなるでしょうか。人々はどんどん「身近な果実」をもぎはじめ、イノベーションのタネがまったくない社会になってしまうおそれがあります。
だからと言って、日本も国防関連の研究開発をしろと言いたいわけではありません。イノベーションのコスト負担のあり方は、国の歴史や国民の価値観、経済システムなどによって異なってくるのは当然です。
私が言いたいのは、このような社会構造の違いを理解せずに、表面的にアメリカのまねをして人材の流動性を高めてしまうのは危険だということです。アメリカとの社会構造の違いを前提にしたうえで、日本のイノベーション・システムの戦略的な組み換えを考えていく必要があります。
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