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臭さを耐え抜く新競技
https://www.chosyu-journal.jp/column/12820
2019年8月19日 コラム狙撃兵 長周新聞
東京五輪がとんでもない大会になりそうな気配を見せている。猛暑の8月に開催することへの懸念は当初からあったが、マラソンのスタート時間を早朝に切り替えるとか、競技場は冷房施設が不十分だが涼を感じさせるために国立競技場周辺に朝顔を植えるとか、道路も熱対策で特殊な塗装を施したり、さまざまに対応していることが報じられてきた。こうして「世界一コンパクトなオリンピック」はどこへやら、追加で競技施設や関連施設工事が膨れ上がり、7000億円といわれていた大会関連経費は最終的に3兆円を上回るといわれている。福島汚染水に限らず、なにからなにまでまるで「アンダーコントロール」されていないのである。
最近になって物議を醸しているのが、トライアスロンの会場になるお台場海浜公園のスイムコースが余りにも汚れすぎていることだ。17日に予定されていたパラトライアスロンW杯のスイムは、直前の水質検査で大腸菌の数値が大会基準上限の2倍をこえていたことがわかり中止となった。それ以前に開かれた健常者のテスト大会でも、参加した選手たちから「臭い!」「トイレみたいな臭いがする」と苦情が殺到していたという。
それもそのはずで、東京新聞の報道によると、東京都の山手線エリアのほぼ全域のトイレや台所から排出される汚水が港区の浄水施設に集められ、「簡易処理水」として未浄化のまま膨大な量を運河に放出しているというのである。過去に浄水作用のある牡蠣を用いて水質浄化実験をしたこともあるが、1年以内に牡蠣が死滅するほど強烈な汚水なのだという。大腸菌の多い海を泳がされるとは、すなわちウンコ垂れ流し運河のなかを泳がされるということで、いくら鉄人レースの選手といえども健康を害しておかしくないレベルの話だ。
海洋汚染を禁じるロンドン条約が90年代中頃に厳格になり、2000年代初頭あたりから下水汚泥の海洋投棄にも制限が加えられるようになった。地方都市でも汚泥浄水施設の整備が進み、直接の海洋投棄はあまり目にすることはない。それまで浄水場の排水口近くで牡蠣養殖していた下関の漁師たちにいわせれば、「海に栄養がなくなった…」「海が綺麗になりすぎるのも痛し痒しだ」と貧栄養化を心配する意見もあるが、逆に汚なすぎて牡蠣が死滅するというのだから、首都圏の超過密人口が排出する汚水の量は想像を絶するものがある。人口が多いが故に処理量があまりにも膨大で、未浄化のまま流さざるをえない事情もあるのかもしれない。
しかしいずれにしても、大腸菌が溢れる汚水のなかを泳がされる選手が不憫でならない。人生かけた晴れ舞台だろう五輪で、どうして大腸菌の海に放り込まれなければならないのかだ。マラソンにも共通するが、この五輪ときたらアスリートへの心配りなど微塵もないではないか−−。ゼネコンや五輪利権に群がる者たちが、みずからの恣意性や願望に基づいて計画を立案し、自然条件や人間にとってどうかなどおかまいなしにやらかしていく。それこそ福島爆発事故につながる無謀さともかかわった問題に見えて仕方がない。
福島は汚染水を海洋に垂れ流し、お台場ではウンコ垂れ流しのなかを選手が「臭い!」「臭い!」といいながら辛抱して泳ぎ、そのなかで誰がもっとも耐え抜いて1位、2位になったかを競うようだ。それはトライアスロンというより拷問のようにも感じられて、表彰台を見る目が変わってしまいそうである。汚水が解決できないのであれば、場所を大胆に変更するのがまともな選択だろう。
某五輪競技施設の電気工事に入っている友人が盆に帰省した折、実は六次下請で元請がどこかもわからない…とぼやいていた。ゼネコンや傘下企業のピンハネも相当なものだ。あの「お・も・て・な・し」以後、東北の被災地から復興に従事していた作業員は一斉に引き揚げ、建設資材も五輪優先で回ってこない。かくして「復興五輪」が復興の足かせとなり、もっぱら東京の五輪開発利権だけが白熱しているのが実態だ。これはスポーツの祭典ではなく、五輪利権に群がる者たちのビジネスの祭典なのだろう。
吉田充春
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