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不毛な韓国叩き ここまでやるのは何のため?誰のため?
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/259651
2019/08/02 日刊ゲンダイ 文字起こし 日韓外相会談は主張の応酬に終始(C)共同通信社 先月の参院選に向け、安倍官邸が浅はかな人気取りで始めた韓国叩きがエスカレートしている。元徴用工訴訟をめぐる対抗措置として半導体材料の輸出規制が発動したのが、先月4日。それ以降で初となる日韓外相会談が1日、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連会合が開催中のバンコクで開かれたが、主張の応酬に終始した。康京和外相は輸出規制の撤回と、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正の中止を要求。一方、河野外相は元徴用工訴訟で賠償を命じられた日本企業に実害が及ばない解決策を重ねて求め、協議は平行線に終わった。 ようやく仲介に乗り出した米国のポンペオ国務長官を交えたきょうの日米韓外相会談を待つことなく、安倍政権は韓国を「ホワイト国」から除外する関連政令の改正を閣議決定。安倍側近の甘利選対委員長が先月31日に出演した報道番組で「100%(ホワイト国外しに)向かう」と言っていた通りに動いた。いよいよ、出口なしの日韓対立だが、恐ろしいのは安倍一派に睨まれるのが怖くて、誰も文句をつけられないことだ。 「韓国に対する一連の流れは、完全に総理主導で進められています。自民党内からも〈さすがにやり過ぎではないか〉という声が上がっていますが、“総理のご意向”を前に異論はかき消されてしまっている。韓国最高裁が日本企業に元徴用工への賠償を命じた昨年10月末の判決を受け、官邸は年明けから対策を練ってきました。各省から上げられた対抗措置案は輸入関税引き上げ、短期滞在査証(ビザ)免除措置の撤廃、特定物資の輸出制限など、その数は100を超えているといいます。2015年12月の日韓合意に基づく『和解・癒やし財団』の解散、レーダー照射問題、韓国国会議長の天皇謝罪要求発言などが重なった上、韓国叩きが参院選対策に有効だとの情勢分析も影響したようです。外務省は蚊帳の外で、経産省と官邸が一体になって突っ走っている」(官邸事情通)
輸出規制について説明を求めた韓国産業通商資源省の課長らをとっちらかった汚部屋に通した経産省の非常識。ソファにふん反り返って南官杓駐日大使と面会し、その説明を遮って「無礼」と言い放った河野の外交非礼。韓国側は屈辱的対応の数々にブチ切れながらも、関係改善の糸口を探るべく、1日まで韓日議員連盟のメンバーらによる国会議員団を東京へ派遣し、日韓議連との会談で輸出規制の取りやめを訴え、公明党の山口代表とも会って打開策を見いだそうとしていた。ところが、日韓議連常任幹事でもある二階幹事長との面会は、延期された揚げ句にドタキャンされたという。 「元徴用工訴訟の対応策の取りまとめを担う李洛淵首相と親しく、韓国の政財界に人脈がある二階幹事長の立場としては、韓国議員団と会いづらい状況だったのでしょう。9月前半に実施するとみられている内閣改造・党役員人事で、二階幹事長外しが取り沙汰されている。党中枢に置いたままでは官邸の方針とたがえてしまうというのが、その理由です。参院選を終え、韓国との関係修復を視野に入れているのであれば、二階幹事長は温存されるはず。官邸の本気度がうかがえます」(与党関係者) 陣笠議員は言うまでもなく、傘寿を迎えた党トップの幹事長までもが安倍の顔色をうかがう。軍部に逆らえない戦前日本のようなありさまである。 度重なる外交非礼に韓国側も黙っていない。議員団の姜昌一韓日議連会長は「我々はこじきでもあるまいし、十分に考えを伝えた。自民党と安倍政権の本心と本音が何なのか分かった」「物乞い外交をしに来たのではない」と吐き捨て、帰国の途に就いた。挙国一致の韓国は24日に更新期限を迎えるGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の見直しをチラつかせ、揺さぶりをかける。日韓が軍事上の機密情報を共有する安保協力の枠組みで、韓国側が破棄すれば北朝鮮をめぐる日米韓の連携に支障をきたす可能性がある。 これには、文在寅政権からの仲介要求にのらりくらりだった米国のトランプ政権も反応。河野も菅官房長官も「そうした事実はない」と否定するものの、米国は日韓が一定期間は新たな対抗措置を取らず、交渉時間を確保する「休止協定」への署名検討を提案。しかし、官邸は頬かむりだ。安倍シンパたちは米国の仲介も否定、拒否し、居丈高な態度を続け、韓国がひれ伏すのを待っている。不毛な韓国叩きは誰のため、何のためなのか。それは安倍のケチなプライドのためなのだ。 あらゆるニラミを利かせる狭量首相(C)日刊ゲンダイ
戦後最悪といわれる日韓対立をめぐり、立大大学院特任教授の金子勝氏は日刊ゲンダイ連載(7月10日付)で〈この輸出制限、日本企業に大ダメージである〉と断じ、こう書いていた。 〈やがて、日本不信を強める韓国企業は自前生産に向かうだろう。実際、文在寅は毎年1兆ウオン(約920億円)を投じて半導体部品や設備開発を支援する方針を決めた。他方で、日本の半導体材料産業は顧客ニーズに応じた開発ができなくなり、開発力が落ちて切られていくことになる。 前例がある。韓国企業に半導体の工業用露光装置を納めていたニコン、フォトレジストを納入していた東京応化工業は、1997年のアジア通貨危機を受けた与信能力への懸念から現金払いを要求。危機脱出後、韓国勢はニコンを切り、オランダのASMLに乗り換えたのだ〉 実際、中国やロシア企業が韓国に急接近している。この対立で得られるものがあるとすれば安倍一派のケチなプライドだけで、計り知れない経済的損失、国際的信用の失墜、隣国からの恨み、積み上げてきた外交努力の崩壊を招くだけだ。 高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)は言う。 「安倍政権が圧力をかける徴用工問題を生じさせたのは日本の植民地支配です。歴史の大前提には都合よく目をつむり、元徴用工の個人請求権は1965年の日韓請求権協定で解決済みだと取りつく島もなく、司法の判断を行政が解決しろと迫るやり方はマトモとは言えない。文在寅政権とは歴史認識、見識の違いが根深すぎる。麻生財務相の親族が経営していた旧麻生鉱業の炭鉱で徴用工を働かせていた影響もあるのでしょうか。官邸に渦巻く私情や私見をナショナルなプライドに絡め、日本全体の問題に膨らませて日韓関係を複雑化させている印象です。もっとも、中国の徴用工問題では16年に日本企業が和解し、賠償金を支払っている。韓国に対してもいずれそうなるでしょう。にもかかわらず、安倍政権は日韓関係をグチャグチャにした。取り返しがつかない愚行ですよ」
日韓議連と会談した韓日議連側は、ホワイト国除外を「少なくとも8月15日以降に先送りしてほしい」「文在寅大統領が8・15光復節の祝辞で日本に対するメッセージを伝える時まででも見送ってほしい」と要請したという。日本では8月15日は終戦の日だが、韓国では光復節と呼ばれる。 「光を復する」と書くのは植民地統治の暗黒時代と相対する観念によるもので、「奪われた主権を取り戻す」を意味する。日韓の戦後は彼我の差から始まっているのである。国交を樹立した日韓基本条約と同時締結された請求権協定、平成の天皇の踏み込んだ発言、慰安婦問題に決着をつけた河野談話、植民地支配と侵略を謝罪した村山談話などを通じて日韓は未来志向で歩んできた。そうした経緯を踏みにじって河野・村山談話の見直しを言いだし、国際法を振りかざして人権をないがしろにするのが安倍である。 政治評論家の森田実氏はこう言う。 「安倍首相は凝り固まった右翼思想を100%は表に出さず、妥協しながら長期政権を築いてきた。ついに押さえつけてきたものを爆発させ、全面勝負に出たとみています。憲法改正で自主防衛を目指した祖父の岸信介元首相の亡霊、それが安倍首相です。韓国との対立を利用して一気に軍国化を進め、ベルリン五輪でナショナリズムをあおったヒトラーのように、1年後の東京五輪を民族の祭典とする夢想をしているのではないか。安倍政権の動向を相当に注意してみなければ危険です」 こじれにこじれた日韓関係が着地点を見つけたとしても、日本に対する恨みは増幅したままになるのではないか。その責めを負わされるのは、国民にほかならない。
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