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姜尚中氏に聞く。最悪の日韓関係をつくり出すもの
【番外】ナショナリズム 日本とは何か/いがみあう歴史の亡霊たち
藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
論座 2019年08月01日
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インタビューに応じる姜尚中氏=7月26日、東京都内。藤田撮影
日韓関係の悪循環が止まらない。修復不能にさえみえる深刻さだ。なぜこうなってしまったのか? 論座での連載「ナショナリズム 日本とは何か」に取り組む筆者が助言をいただく姜尚中・東京大学名誉教授(68)に、あらためて尋ねた。
在日コリアン2世の政治学者として、日本と韓国の事情をリアルに知る姜さん。もつれ合う日本と朝鮮半島の近現代史を解きほぐしつつ、「歴史の亡霊を呼び出していがみ合う言動」に警告を発した。
■「ここまで悪くなるとは」
――令和になって3カ月になります。残念ながら日本にとってこの新たな時代のスタートは、1965年の国交正常化後で最悪に陥った日韓関係とともに記憶されそうです。なぜこうなってしまったのでしょう。
ここまで悪くなるとは、正直予想していませんでした。
韓国の前の前の李明博大統領が竹島を訪問し、天皇陛下への謝罪要求をしたことが、日本国民の韓国に対する反発の土壌になっていたと思います。前の朴槿恵政権と日本の安倍晋三政権との間で「慰安婦問題合意」という形で蓋をしたと思ったら、文在寅政権になって慰安婦に加え、徴用工の問題で蓋が外れてしまった。
日本側にすれば、韓国との歴史問題はいつまでたっても埒(らち)があかないという世論が、安倍政権のコアな支持基盤よりも広がってきました。かたや韓国側には、安倍首相はかつて満州国政府で幹部を務めた岸信介首相の孫であり、その政権は右傾化した歴史修正主義だという、通り一遍の不信感があります。
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2018年4月27日、板門店で韓国と北朝鮮の軍事境界線を挟んで握手しようと手を伸ばす文在寅大統領(右)と金正恩朝鮮労働党委員長=韓国共同写真記者団撮影
そうした中で文政権は、安倍政権が驚くほどのスピードで北朝鮮との関係正常化に乗り出した。日本が拉致・核・ミサイル問題を抱える北朝鮮に対し、韓国は昨年の平昌五輪を機に猛烈な勢いで接近しました。韓国軍艦から自衛隊機へのレーダー照射もあり、安倍政権に、これは日本の安全保障に関わるという危惧が生まれたのだと思います。
それで日本が輸出管理強化に乗り出すと、韓国では経済侵略と受け止められ、日本製品の不買運動に野党も異を唱えられず、挙国一致になりつつある。北朝鮮がまた短距離ミサイルを撃ちだす中で、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)といった安全保障での協力への影響すら懸念される事態になっています。
■「統一ナショナリズム」への動き
――おっしゃるように応酬の原因は様々でしょう。ただ私には、冷戦下の朝鮮半島で分断国家として生まれた韓国で、近代国家としてまとまろうとするナショナリズムの模索が、なお続いていることが背景にあるように思えます。
韓国のナショナリズムは途上にあります。いま韓国で起きていることは、朝鮮半島を南北に分断するナショナリズムを克服し、統一ナショナリズムをつくろうという動きです。北朝鮮にも金日成主席を建国の父とするナショナリズムのストーリーがあるので、それと合致するかはまだわかりませんが……。
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今年は3・1独立運動から百年。3月1日、日本の植民地時代に独立運動家らが捕らえられていたソウルの西大門刑務所の跡で記念集会があった=朝日新聞社
韓国にとって、日本の植民地支配から解放された朝鮮半島の南側で建国した1948年は分断ナショナリズムの起点と言えます。では、北朝鮮に対する反共主義を超えた統一ナショナリズムの起点をどこに置くか。文大統領が考えるのは1919年です。
日本が朝鮮半島の大韓帝国を併合したのは1910年ですが、植民地支配への抵抗運動が1919年の3月1日にソウルから始まり、上海に臨時政府もできました。この3・1独立運動こそ国民国家を築くためのコリアの始まりだ、と文大統領は思うわけです。
戦後日本から見て、そんな韓国はとてもわかりづらい。北朝鮮という、韓国と全く別個で、しかも日本に脅威を与える国と一緒になることが理解できないのでしょう。そのギャップが互いの不信感を高めています。
■和解なき植民地支配
――日本にすれば南北接近が親日的な形で進めばいいのですが、文政権が南北接近の一方で示す日本への姿勢を見ると心配になります。1965年の日韓国交正常化の際に植民地支配当時の請求権問題は解決したはずなのに、なぜ慰安婦や徴用工だった方々への賠償問題が韓国で吹き出し、日本との関係を悪化させるのでしょう。
それは、日本の植民地支配について、1965年に根本的には和解していないからです。国交正常化をした日韓基本条約では、1910年の韓国併合に至る両国間の条約について無効と明記しましたが、いつ無効になったかの認識はくい違っています。
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1930年頃、日本の植民地支配の拠点だった朝鮮総督府。いまのソウルにあったが、日本敗戦による解放から50年を機に金泳三大統領の指示で撤去された=朝日新聞社
韓国併合条約について、日本側は、合法に結ばれたが、日本が敗戦を経て主権を回復したサンフランシスコ講和条約により「朝鮮の独立を承認」したことで無効になったと主張。韓国側は、日本が力を背景に韓国の主権を踏みにじって結んだ条約なので最初から無効だと主張して折り合わず、「もはや無効」という曖昧な表現で何とかまとめた経緯があります。
これは実は、非欧米世界で初の近代国家を樹立した戦前の日本をどうみるかに関わってきます。日本は戦争で道を誤ったという時、多くの見方は中国侵略を本格化させた満州事変からというものでしょう。司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」にあるように、明治維新から日清・日露戦争まではかなり肯定的に捉えられている。
ところが韓国側からすると、日本の砲艦外交は李氏朝鮮を不平等条約で開国させた明治初期から始まっていて、それが日清・日露戦争を通じて韓国併合を生み、統一ナショナリズムの起点である3・1独立運動へとつながっている。
しかも、韓国併合条約が当初から無効かどうかは植民地支配の評価につながります。日本側には鉄道や港湾をつくっていいこともしたという見方もあるでしょうが、韓国側にすれば、それこそ慰安婦や徴用工が生まれたとても苦しい時代だった。日本の敗戦後も朝鮮半島は分断国家になり、数百万人が死んだ朝鮮戦争の特需で日本は復興しました。
その日本との国交正常化で植民地支配について曖昧にされた我々は一体どういう存在なのかという葛藤が、韓国ではずっとくすぶっています。だから僕は、この問題はいつか出てくると思っていました。
■「冷戦終焉」へのギャップ
――その認識の違いは確かに深刻です。ただ、なぜいま出てくるのでしょう。
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今年大阪市で開かれたG20サミットの開始を待つ安倍首相(中央右)と文大統領(左半分の中央)。この場で握手はしたが、サミット期間中の日韓首脳会談はなかった=6月29日。代表撮影
文政権に、朝鮮半島でも冷戦がようやく終わろうとしているという認識があるからです。米ソが対峙した冷戦下でも、韓国と北朝鮮の間は「熱戦」でした。韓国は反共同盟に属し、軍事政権下で国交を回復した日本に関し、過去の植民地支配をどうみるかなんて話は凍結されてきました。
でも、欧州で冷戦が終わる頃から、韓国では民主化が進んでいきます。米朝対話も促して、分断から統一へと向かう最終ランナーが文政権という位置づけなんです。
逆に冷戦下でも全方位的な通商国家として発展した日本には、韓国のような熱戦という意識どころか、冷戦という感覚すら希薄だったんじゃないか。むしろ冷戦後に中国や北朝鮮への脅威認識が高まって、朝鮮半島で冷戦が終わるという感覚も希薄だと思います。だから、これまでの日韓合意をどんでん返しするような文政権に対し、中国だけでなく韓国まで日本を軽んじるのか、といういら立ちが生まれやすいのでしょう。
■対北朝鮮外交が突破口に?
――韓国が戦後に築いた日本との関係を顧みず、戦前を起点に「一つのコリア」を目指すなら、日韓関係の修復はとても厳しいものに思えます。どうすればいいのでしょう。
当面はGSOMIAが焦点です。 ・・・ログインして読む
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https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019072900010.html
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