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By マガジン9編集部 2019年7月24日
歯切れが悪い。全体のトーンは暗く、語り口は抑揚に乏しい。物語が進むほどに気分は滅入っていく。
深夜の東都新聞社に大量のファクスが届くところから物語は始まる。政府による大学新設計画。それは首相の特別案件であり、しかも大学の隠れた目的は軍事研究である疑いがある。このプロジェクトの現場責任者である高級官僚の神崎が、不正を世間に公表するため、匿名で新聞社に送ったのであった。
公僕としてのモラルよりも上司の指示を優先した自分を責めた上での決断だったが、彼は霞が関に並ぶ省庁の建物の屋上から身を投げる。
私は当初、この作品から、古くは『大統領の陰謀』、最近では『スポットライト 世紀のスクープ』や『記者たち 衝撃と畏怖の真実』といった映画が描く、権力からの圧力に屈しない新聞記者が真実を突き止めていくストーリーを期待していた。ニクソン大統領の指示による政敵への盗聴、カトリック教会の神父らの児童に対する性的虐待、そして政府が嘘で固めた大義をもって始めたイラク戦争……。これらの映画では、アメリカの正義漢たるジャーナリストたちが地を這うように取材を重ね、権威をふりかざす者の欺瞞を白日の下にさらすのである。
『新聞記者』に手に汗を握る小気味よいテンポはない。行きつ戻りつ。私たちが目にするのは、たとえば、内閣情報調査室のスタッフが、政府に批判的な人物のツイートに淡々と悪罵を書き込む姿である。
この国の民主主義は形だけでいいんだ――内閣情報調査室の現場トップの多田は、組織ぐるみの不正に異議を唱える部下の杉原にそう言って憚らず、それと同じ口調で子どもが生まれた杉原に祝いの言葉をかけながら、無表情で祝儀を渡す。不気味な口封じに抗するように杉原は職場から機密情報を持ち出し、それを受け取った日本人の父と韓国人の母をもつ新聞記者、吉岡エリカが一面でスクープする。
しかし、吉岡エリカはボブ・ウッドワードにはなれない。権力は複雑な搦手で個人の良心を押しつぶし、自由を奪っていくのである。
上述のアメリカ映画は、すでに真実が明かされた過去の事件を物語にしたものだ。一方、この映画は、いまこの国で起こっていることを現在進行形で追っているので、起承転結のストーリーが成り立たない。
歯切れが悪いのはそのせいだ。しかし、それこそがこの作品を高く評価する理由である。
(芳地隆之)
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