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想像を超える民意の「ノー」に安倍政権は青ざめている<上>
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/258874
2019/07/23 日刊ゲンダイ 強気を見せたが…(安倍首相)/(C)日刊ゲンダイ
参院選の投開票から一夜明け、22日自民党総裁として会見した安倍首相は「安定した政治基盤の上に、新しい令和時代の国造りを進めよとの力強い信任を頂いた」と強がったが、その表情に余裕はなかった。 会見の前に行われた自民党役員会でも神妙な面持ちだったという。安倍周辺は「米国のボルトン大統領補佐官が来日している。ホルムズ海峡の安全確保に向けた有志連合の件など、選挙後は難題山積」と解説したが、理由はそれだけじゃない。 参院選でなりふり構わぬ禁じ手を次から次へと繰り出したのにもかかわらず、結果は3年前からわずか1議席増。4選への求心力維持を念頭に狙った60議席にも届かず、想像を超える民意が安倍自民に「ノー」を突き付けたことを、安倍本人も自民党の幹部たちも分かっているから青ざめているのだろう。 禁じ手の中でもヒドかったのが韓国叩きだ。G20の議長として「自由で公正な貿易」を宣言した2日後、舌の根も乾かぬうちに、半導体材料の対韓輸出規制強化を発表。元徴用工訴訟問題などでギクシャクする韓国に打撃を与えるのが真の目的で、参院選公示直前というタイミングでの“報復”が、嫌韓の安倍シンパを喜ばせ、選挙での支持拡大に利用しようとしたのは想像に難くない。 ◇ ◇ ◇ 狙い通り、テレビはワイドショー中心に一斉に韓国バッシングを始め、識者も「約束を守らない国」「日韓請求権協定で済んだ話を蒸し返している」と解説して盛り上げたのだが、安倍政権は図に乗ってやりすぎた。河野外相が韓国の駐日大使を呼びつけて、話をさえぎる形で「極めて無礼でございます」とやった一件だ。 ノーネクタイでふんぞり返り、テレビカメラにあえて撮らせようとしたのか、報道陣の前で大使を糾弾。河野の方こそ礼儀知らずだ。それが映像で流れ、さすがに有権者も「正体見たり」と嫌気がさした。 韓国叩きで日本経済にとっていいことは何もない。日本企業は顧客である韓国の電機メーカーを失うことになる。その市場を狙って、既にロシアや中国がフッ化水素供給に手を挙げている。 政治評論家の森田実氏が言う。 「安倍首相は『日本のトランプ』になりたいんでしょう。偏狭なナショナリズムで極右を決起させ、国が二分されても構わないというやり方です。トランプ大統領がイランや中国を攻撃するのになぞらえ、韓国をやっつけることで人気取りを狙ったのですが、選挙結果を見る限り、そうした手法には一部の人しか共感しなくなっている。参院で3分の2議席を割り込み、悲願の改憲を発議できなくなったのですからね。ここまでやりたい放題でしたが、この先は逆風にさらされるでしょう。安倍首相にとって曲がり角の選挙になったのではないでしょうか」 自民党の役員会は暗かった(C)日刊ゲンダイ
さらに安倍が繰り出した禁じ手は、ロコツな争点隠しだ。「老後資金2000万円不足」問題に端を発した年金政策や消費増税、ホルムズ海峡の有志連合参加など争点の数々をことごとく先送り。「政治の安定」だけに固執した安倍の争点隠しに野党も対立軸を打ち出せず、一向に盛り上がらない選挙戦となった。 その結果が国政選挙で戦後2回目となる投票率50%割れだ。3年前の参院選から5・9ポイント減の48.8%に低迷したのは、安倍が必死に選挙を盛り上がらないように仕向けた“負の成果”である。 投票率が下がれば、組織力に勝る自民に有利――。安倍の禁じ手には、そんな圧勝パターンに持ち込む狙いもあったのだろうが、低投票率も相まって自民の比例票は3年前から約240万票もダウン。結局、獲得議席は改選66から9つも減らした57議席に終わった。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が指摘する。 「衆参予算委員会の開催拒否の野党の追及隠しを皮切りに、改元フィーバーに選挙直前のおもてなし外交など、安倍政権は今回の参院選そのものを隠すことに躍起で、有権者の関心も薄れるばかりでした。加えて6年半に及ぶ長期政権の弊害が次々露呈しても平気でゴマカし、のれんに腕押し。『嘘も百回』のヒドイ政治に有権者が辟易する“安倍疲れ”も、歴史的な低投票率の要因でしょう。それでも生活が一向に楽にならない政権批判票が野党に流れ、自民は単独過半数を失いました。何より改憲勢力3分の2割れは、改憲を目指す安倍政権への不信任に値します」 いくら安倍が「力強い信任を頂いた」とうそぶいても、自民は決して勝利していないのだ。 選挙区で最後に当確が出た宮城の野党統一候補(石垣のりこ氏)/(C)共同通信社
フタを開けてみれば4勝6敗。自民党が激戦区に指定し、安倍が2度も応援に入った選挙区での勝敗は大きく負け越した。そのうち、野党が候補を一本化した1人区は2勝6敗の惨敗。いずれも現職が新人に退けられ、閣僚経験者も吹き飛ばされる無残な結果となった。 新潟では「忖度」発言の塚田一郎前国交副大臣が4万票超の大差で完敗。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」をめぐる不祥事で逆風が吹き荒れる秋田でも負け、農業票離れが深刻な岩手と山形も落とした。「3月あたりから永田町で見かけなくなった」(与党関係者)と揶揄されるほど、地元に戻っていた滋賀の現職も敗北。最終盤まで当確が打てないほどのデッドヒートを繰り広げた宮城は、1万票差で競り負けた。 安倍は2017年都議選のラスト演説で聴衆の「安倍辞めろ」コールにブチ切れ、「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」とイキリ立った揚げ句に歴史的大敗。それ以降、国政選挙で演説日程を事前公表しないステルス遊説を始め、この参院選では徹底していた。 政治ジャーナリストの角谷浩一氏は言う。 「安倍首相が2度も遊説に入ったのは、それだけ情勢が厳しい選挙区だということではありますが、競り負けた結果を見ると、首相の応援が効果を発揮しなかったとも言える。札幌市に続き、大津市の街頭演説でも『安倍辞めろ』とヤジを飛ばした聴衆が警察官に排除される騒動もあった。安倍首相が気持ちよく遊説できるように支持者を大量動員し、その周りを固めるやり方に演出臭を嗅ぎ取り、反発した保守層の動きも選挙結果に少なからず影響したのではないか」 小ざかしいやり方がいつまでも通用するわけがないのだ。
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