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映画『新聞記者』を新聞社・新聞記者はどう見たか
古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)
論座 2019年07月16日 より無料公開部分を転載。
新聞では毎週金曜日の夕刊に、その週末に封切る映画の記事をずらりと載せる。監督や俳優へのインタビューもあるが、中心となるのは記者や外部筆者による映画評だ。新聞によって大きな違いのある政治面や社会面と違って、映画評で取り上げる映画はだいたいどこの新聞も似通っている。
ところが6月28日(金)付の夕刊では異変が起きた。各紙は『凪待ち』(白石和彌監督)と『COLD WAR あの歌、2つの心』(パヴェウ・パブリコフスキ監督)をおおむね大きく取り上げたが、『新聞記者』(藤井道人監督)は新聞によって扱いにかなり違いが出た。この違いを探ってみると、新聞各紙の政治的立場を見事に反映していたことがわかった。
この映画は文字通り「新聞記者」が主人公の映画である。この題名を聞けば、映画担当であろうと新聞記者ならば必ず見なければと思うだろう。そのうえ、映画はこの2年ほど菅官房長官を追い詰める質問で話題の東京新聞・望月衣塑子記者が書いた『新聞記者』をもとにしたフィクション。総理主導の医療系大学院大学新設にまつわるスキャンダルを追う記者の吉岡(シム・ウンギョン)と内閣情報調査室(内調)に勤務する官僚の杉原(松坂桃李)を中心に描く。
不正入試を総理の指示と漏らした元局長の不倫リークや官邸べったりのジャーナリストのレイプ疑惑もみ消しなど、まさにこの数年安倍政権で起こっていることと似たような出来事が次々と現れる。アメリカ映画では『バイス』や『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のように最近の政治を描く作品は多いが、日本では極めて珍しい。
■「朝日」「毎日」と「読売」「日経」の違い
さてこの映画に「新聞記者」はどう反応したのか。簡単に言うと、6月28日付金曜夕刊で「朝日」「毎日」は大きく扱い、「読売」「日経」は小さく載せ、「産経」(朝刊)「東京」は全く触れなかった。映画評を書く欄は文化面であり、通常は会社の政治的方向とはあまり関係がないはず。そこで文章の細部を分析してみたい。
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『新聞記者』の評を掲載した6月28日(金)付の各紙=筆者提供
一番いい場所を用意したのは「朝日」。4つの大枠の映画評のうち、写真が一番大きくなる「プレミアシート」で扱った。書いたのは「朝日」OBの映画評論家・秋山登氏で、冒頭に日本の報道の自由がなくなっているデータを載せた後に「これは現代日本の政治やメディアにまつわる危機的状況を描いた映画である。日本映画久々の本格的社会派作品として珍重に値する」と始める。
「瑕瑾(かきん)がないわけではないが、藤井の冷静な演出、シム、松坂らの好演が補って余りある。/しかし、最も高く評価すべきはスタッフ、キャストの意欲と勇気と活力だろう。権力に屈しない気概だろう」とべた褒め。
「毎日」は大きな枠が4つあるが、「時代の目」という左上の「2番目」と言える場所を用意した。書くのは長年映画を担当し、現在は東京学芸部長でもある勝田友巳氏で「映画を取り巻く状況もジャーナリズムも様変わりし、映画人も気概を持ちにくくなっている。そんな中で果敢な挑戦である」と始める。「ただ、内調の描写を誇張する一方、報道機関の内実は描き込み不足。米韓の政治スリラーと比べてしまうと腰砕けの感はあるものの、これがきっかけになれば、映画界ももっと面白くなりそう」。「毎日」は演出の弱さを指摘しつつも、こういう映画を作ること自体にエールを送るという姿勢。ちなみに私の個人的な感想もこれに近い。
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